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第13章 敵国
第166話 決起
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扉の前にいたのは、赤いドレスを着た女と長身の男。エーデル王女は眉を顰め、ジェルミア王子の影に隠れた。
「驚かせて申し訳ございません。ローンズ王国のアリスと申します」
「アリス? どうしてここに? ああ、ギル、良かった無事で! アリスが助けてくれたの? ありがとう」
セイン王子が声を弾ませ、足枷を引きずりながら二人を迎える。
アリスの手を取り感謝を伝えると、ギルを抱きしめた。
その様子を見たエーデル王女は首を傾げる。
「お兄様……あの方達は?」
「配下だろうね」
「配下?」
エーデル王女の瞳が大きく開かれた。
自分よりも身分の低い者に対する態度ではない。
「面白いだろう? 身分の低い者は人とは思わぬ我が国とは大きな違いだ。弾圧で人を率いるのではなく、忠義と敬意で人を率いているのだ」
「それがお兄様の目指す国……」
アリスがセイン王子の足かせと首輪を魔法で焼き切り、ギルが回復を施していた。ずっと険しい顔をしていたセイン王子に笑みが浮かんでいる。
「配下とあのように笑うことが出来るのですね……」
「ああ……そうだね」
こんな風に笑い合える人たちがいること自体が不思議だった。エーデル王女には誰一人としてそんな人間はいない。兄のジェルミア王子ともだ。
じっと見つめていたからか、セイン王子がエーデル王女に視線を合わせてきた。嬉しそうに微笑み、こちらに向かってくる。頬に熱が集まり、胸の鼓動が早まった。
「エーデル様。ジェルミア様を連れてきてくれてありがとう。えっと、あの件はちょっとできないけどジェルミア様のお力にはなろうと思うから、それで許してくれますか?」
誰かに微笑まれるのも、お礼を言われるのも初めてだった。
エーデルは温かな胸を押さえて、ぼうっとセイン王子を見つめる。
「エーデル様?」
「え? あっ……はい。よろしくお願いいたします……」
「良かった、ありがとう。では、ジェルミア様。早速ですが直ぐ行動に移しましょう」
セイン王子はすぐに視線を外し、四人でこれからのことについて話し合い始めた。エーデル王女は一歩下がり静かに見守る。
今まで"国のために"などと考えたことはない。
誰かのために心配し、誰かのために喜ぶ。
それがたとえ身分が違ったとしても……。
セイン王子の笑顔が眩しくて、自分のことだけを考えていたことに恥ずかしくなった。それと同時に、ジェルミア王子がやろうとしていることの意味を少しだけ理解できたような気がした。
自分のようにみじめな思いをしている人がこの国には多いのだろう。その苦しみは自分が一番良く分かっている。
「いえ、知らないだけで私よりも辛い思いをしている人が多いのかもしれません……」
窓の外を眺めると多くのかがり火があちこちで揺れていた。
◇
アランとアルバートはギルの魔法とジェルミア王子の案内で難なく救出することが出来た。その間、アリスは隠していた自分の制服に着替え、奪われた武器はジェルミア王子の側近ハイドが持ってきた。
セイン王子が捕まっていた客室には、この度の決起に賛同する仲間も集っている。
「私はこれよりバルダスと兄カルディアを討つ。眠りについている今ならば容易に終わらせることができ、被害は最小限ですむだろう」
ジェルミア王子は夜襲を仕掛けるつもりだ。
「我々がカルディア王子を討ちます」
そう申し出たのはアランだった。アトラス王国への反乱分子は自分達の手で下したいのだろう。
「分かった。お願いしよう」
「じゃあ、アリスはアランたちに付いてあげて。ギルと俺はジェルミア様に付くから」
セイン王子の申し出にジェルミア王子は驚く。
「セイン様が手を下す理由がございません。明日の演説にお顔を貸していただければ充分です」
「いえ、俺はこの戦争を全力で止めたいと思っていますし、この国が平和になることを願っています。ですので、協力をさせていただきたい」
力強いセイン王子の視線に、ジェルミア王子の心が揺さぶられた。
さっき会ったばかりの自分にこれほどまでに信頼をよせる理由は分からない。しかし、手を貸して貰えるのは願ってもないことだった。姿勢を正し、セイン王子と向き合う。
「ありがとう。では、お願いします」
◇
カルディア王子の私室へ向かうのはアラン、アルバート、アリスの三名のみ。暗殺の任務はそれぞれやったことがあり、特別なことではない。アリスを含むこの三名なら問題なく解決できるだろうと数名での遂行となる。
ギルの魔法のおかげで気配を消したまま闇夜に紛れることができ、難なく辿り着いた。
見張りは二名。
アリスが床に手を置くと、地を這うように雷が波を打った。あっという間に兵士の足元から電流が流れ、意識を失わせた。倒れる寸前にアランとアルバートが兵士を支え、音もなく横たえさせる。
アランが兵士から鍵を奪い、そっと扉を開けた。
耳をそばだて、物音がしないことを確認すると、三人は目を交わしてからゆっくり中へと入る。カルディア王子の部屋は広いリビングといくつかのカーテンで仕切られた場所があった。恐らくそのどれかが寝室へと繋がるのだろう。
寝室を探すためアランが先頭を切り、アルバートとアリスが後ろに続く。警戒をするようにいくつかの仕切りへ入り、三つ目の仕切りを潜った時だった。大きなベッドが置いてあり、中央が僅かに膨らんでいる。
カルディア王子を見つけた。
アランは躊躇いもなく剣を振りかざした……!
「驚かせて申し訳ございません。ローンズ王国のアリスと申します」
「アリス? どうしてここに? ああ、ギル、良かった無事で! アリスが助けてくれたの? ありがとう」
セイン王子が声を弾ませ、足枷を引きずりながら二人を迎える。
アリスの手を取り感謝を伝えると、ギルを抱きしめた。
その様子を見たエーデル王女は首を傾げる。
「お兄様……あの方達は?」
「配下だろうね」
「配下?」
エーデル王女の瞳が大きく開かれた。
自分よりも身分の低い者に対する態度ではない。
「面白いだろう? 身分の低い者は人とは思わぬ我が国とは大きな違いだ。弾圧で人を率いるのではなく、忠義と敬意で人を率いているのだ」
「それがお兄様の目指す国……」
アリスがセイン王子の足かせと首輪を魔法で焼き切り、ギルが回復を施していた。ずっと険しい顔をしていたセイン王子に笑みが浮かんでいる。
「配下とあのように笑うことが出来るのですね……」
「ああ……そうだね」
こんな風に笑い合える人たちがいること自体が不思議だった。エーデル王女には誰一人としてそんな人間はいない。兄のジェルミア王子ともだ。
じっと見つめていたからか、セイン王子がエーデル王女に視線を合わせてきた。嬉しそうに微笑み、こちらに向かってくる。頬に熱が集まり、胸の鼓動が早まった。
「エーデル様。ジェルミア様を連れてきてくれてありがとう。えっと、あの件はちょっとできないけどジェルミア様のお力にはなろうと思うから、それで許してくれますか?」
誰かに微笑まれるのも、お礼を言われるのも初めてだった。
エーデルは温かな胸を押さえて、ぼうっとセイン王子を見つめる。
「エーデル様?」
「え? あっ……はい。よろしくお願いいたします……」
「良かった、ありがとう。では、ジェルミア様。早速ですが直ぐ行動に移しましょう」
セイン王子はすぐに視線を外し、四人でこれからのことについて話し合い始めた。エーデル王女は一歩下がり静かに見守る。
今まで"国のために"などと考えたことはない。
誰かのために心配し、誰かのために喜ぶ。
それがたとえ身分が違ったとしても……。
セイン王子の笑顔が眩しくて、自分のことだけを考えていたことに恥ずかしくなった。それと同時に、ジェルミア王子がやろうとしていることの意味を少しだけ理解できたような気がした。
自分のようにみじめな思いをしている人がこの国には多いのだろう。その苦しみは自分が一番良く分かっている。
「いえ、知らないだけで私よりも辛い思いをしている人が多いのかもしれません……」
窓の外を眺めると多くのかがり火があちこちで揺れていた。
◇
アランとアルバートはギルの魔法とジェルミア王子の案内で難なく救出することが出来た。その間、アリスは隠していた自分の制服に着替え、奪われた武器はジェルミア王子の側近ハイドが持ってきた。
セイン王子が捕まっていた客室には、この度の決起に賛同する仲間も集っている。
「私はこれよりバルダスと兄カルディアを討つ。眠りについている今ならば容易に終わらせることができ、被害は最小限ですむだろう」
ジェルミア王子は夜襲を仕掛けるつもりだ。
「我々がカルディア王子を討ちます」
そう申し出たのはアランだった。アトラス王国への反乱分子は自分達の手で下したいのだろう。
「分かった。お願いしよう」
「じゃあ、アリスはアランたちに付いてあげて。ギルと俺はジェルミア様に付くから」
セイン王子の申し出にジェルミア王子は驚く。
「セイン様が手を下す理由がございません。明日の演説にお顔を貸していただければ充分です」
「いえ、俺はこの戦争を全力で止めたいと思っていますし、この国が平和になることを願っています。ですので、協力をさせていただきたい」
力強いセイン王子の視線に、ジェルミア王子の心が揺さぶられた。
さっき会ったばかりの自分にこれほどまでに信頼をよせる理由は分からない。しかし、手を貸して貰えるのは願ってもないことだった。姿勢を正し、セイン王子と向き合う。
「ありがとう。では、お願いします」
◇
カルディア王子の私室へ向かうのはアラン、アルバート、アリスの三名のみ。暗殺の任務はそれぞれやったことがあり、特別なことではない。アリスを含むこの三名なら問題なく解決できるだろうと数名での遂行となる。
ギルの魔法のおかげで気配を消したまま闇夜に紛れることができ、難なく辿り着いた。
見張りは二名。
アリスが床に手を置くと、地を這うように雷が波を打った。あっという間に兵士の足元から電流が流れ、意識を失わせた。倒れる寸前にアランとアルバートが兵士を支え、音もなく横たえさせる。
アランが兵士から鍵を奪い、そっと扉を開けた。
耳をそばだて、物音がしないことを確認すると、三人は目を交わしてからゆっくり中へと入る。カルディア王子の部屋は広いリビングといくつかのカーテンで仕切られた場所があった。恐らくそのどれかが寝室へと繋がるのだろう。
寝室を探すためアランが先頭を切り、アルバートとアリスが後ろに続く。警戒をするようにいくつかの仕切りへ入り、三つ目の仕切りを潜った時だった。大きなベッドが置いてあり、中央が僅かに膨らんでいる。
カルディア王子を見つけた。
アランは躊躇いもなく剣を振りかざした……!
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