恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
164 / 235
第13章 敵国

第164話 兄妹

しおりを挟む
 固いゴツゴツとした石の床が見える。奥に視線を移すと鉄格子も見えた。その先は壁。通路であろうそこには、オレンジ色の灯りが右から漏れている。

 アランは重い体をゆっくりと起こした。
 足元にはアルバートが仰向けに転がされている。辺りを見回すと石の壁があるだけで窓はない。

「どこだここ……」

 天井を睨みながらアルバートがぽつりと呟いた。

「牢だな」
「……だよな」

 アルバートは起き上がり、鉄格子を指ではじいて三回音を鳴らした。耳を澄まし様子を探る。

「ここ、あんまり広くねえな。人の気配もしねえ。セインとギルは別のところにいるのかもな」

 二人は鉄格子を睨むように壁に寄りかかって座った。

 沈黙が続く。

 暫くすると扉が開く軋んだ音が聞こえてきた。コツコツと歩く二人の足音。灯りも合わせてゆっくりと近づいてくる。
 アランとアルバートはじっとその時を待った。

 灯りが自分たちを照らすように掲げられ、眩しさに顔をしかめる。そのため、鉄格子の前に立つ人物を確認することが出来なかった。

「君たちは何故こんな所にいるんだい? エリー様と一緒じゃないのかい?」

 優しい穏やかな声。その声は聞き覚えがあった。

「ジェルミア様」

 アランが立ち上がり鉄格子へと近づく。そこに立っていたのは紛れもなくジェルミア王子だった。

「君たちが連れて行かれるのをたまたま見てね……。何故こんなところにいるのか状況を教えてくれるかい? 戦争を止めに来たというには情報を得るのが早すぎる。は先制攻撃を仕掛けるつもりのようだから」

 アランは以前、ジェルミア王子から王族の中で不当な扱いを受けてきていたという過去を聞いたことがあった。そのため、ジェルミア王子を味方に付けられないかと考えた。

「我々をここから出していただけないでしょうか?」
「そうだね。手助けをしてあげてもいい。ただ、その前にここに来た理由を知りたい」

 アランとアルバートは顔を見合わせて頷く。ジェルミア王子とは一緒にいる機会も多く、人柄のよさは知っているつもりだ。それにエリー王女のことを想っていることも知っている。
 エリー王女誘拐からここにいるまでの経緯を説明した。

「一緒にいたあの二人はローンズの……。彼らは別のところへ連れて行かれたようだった。バルダス陛下あいつはリアム陛下を恐れているから、悪いようにはしないだろうけどね……」

 ジェルミア王子が何か考えている様子だったため、アランは静かに待った。数分は待っただろう。王子は重い口を開いた。

「アランくん、アルバートくん。君たちと取引きがしたい」



 ◇

 ジェルミア王子は地下牢から上がると側近のハイドにとある指示を出し、王族用の客室がある塔へ向かった。静寂に包まれている城内。階段を上っていると上から足音が近づいてきた。

「お兄様!」

 見上げると、妹であるエーデルが嬉しそうに駆け下りてくる。

「エーデル……? どうしてこんなところにいるんだい? それに、その恰好」

 ガウンから覗く胸元を見てジェルミア王子が顔をしかめた。

「ふふふ。どうしてだと思います? 私も遂にお父様からめいを頂いたのですわ」

 瞳を輝かせて意気揚々とするエーデル王女に、さらに眉間の皺を深める。

バルダス陛下あいつに客人の相手をしろって言われたのか?」
「な、なんですの! その言い方は陛下に対して! そんな風に仰るのなら私は何も言いません。では、おやすみなさい」

 顔を背けてエーデル王女が階段を降りようとしたため、ジェルミア王子は腕を掴んだ。

「エーデル。あいつが俺達やお母様に何をしたか知っているはず。俺もエーデルもいいように使われているだけなんだよ」
「お兄様だって、お父様のめいでエリー様のところにずっと行っていたじゃありませんか! 何故、私だけがダメなのでしょう? 私だって……私だって……ここから出たい!」

 瞳を潤ませ睨んでくるエーデル王女に、ジェルミア王子は手を離した。

「すまない……。俺にもっとエーデルを守れる力があれば……。俺が弱いばかりにエーデルの側にもいてあげられなかった」
「……そうですわ。もっと側にいてくだされば良かったのです。私はもっと一緒に過ごしたかったですのに! いつもいつもいつも、色々な女性のところへ行って、私のところには少しも来てくださらない。私のことなど興味なんてないのでしょう? なのにどうしてそのような酷いことを仰るのですか? 私がお父様の命を拒否できると思っておいでですか?」
「本当に申し訳ない。決して興味がないわけじゃないんだよ。ただ、俺が愚かだっただけなんだ。だけど俺は変わろうと思う。エーデルにも幸せになってもらいたい。だから……勝手だとは思うけど、俺に信じてついてきてほしいんだ」

 エーデル王女の表情は怒っているのに、瞳は揺れている。

「仰っている意味がわかりません。どういう意味ですの?」
「それはここでは話せない。エーデル。セイン様の部屋、知っているよね? 今、ここにいる客人はセイン様しかいらっしゃらないはずだから」

 優しく問いかけるもエーデル王女の口はへの字に曲がったままだ。

「私は……もう孤独には戻りたくありません。お姉様や他の王家の者たちにさげすまれるのには耐えられません!」

 エーデル王女の瞳から涙が溢れ、ジェルミア王子はそっと抱きしめる。

「わかっているよ。本当にすまない。これからは一人にしないから。約束する。だから、バルダス陛下あいつなんかの言うことを聞くのではなく、俺のことを信じてほしいんだ。これからそれを証明する」

 涙を優しく拭き取り、エーデル王女をしっかりと見据えた。

「俺に力を貸してほしい」
「お兄様……」

 真剣なジェルミア王子に対し、エーデル王女はどうするべきか悩んでいるように見えた。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...