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第13章 敵国
第164話 兄妹
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固いゴツゴツとした石の床が見える。奥に視線を移すと鉄格子も見えた。その先は壁。通路であろうそこには、オレンジ色の灯りが右から漏れている。
アランは重い体をゆっくりと起こした。
足元にはアルバートが仰向けに転がされている。辺りを見回すと石の壁があるだけで窓はない。
「どこだここ……」
天井を睨みながらアルバートがぽつりと呟いた。
「牢だな」
「……だよな」
アルバートは起き上がり、鉄格子を指ではじいて三回音を鳴らした。耳を澄まし様子を探る。
「ここ、あんまり広くねえな。人の気配もしねえ。セインとギルは別のところにいるのかもな」
二人は鉄格子を睨むように壁に寄りかかって座った。
沈黙が続く。
暫くすると扉が開く軋んだ音が聞こえてきた。コツコツと歩く二人の足音。灯りも合わせてゆっくりと近づいてくる。
アランとアルバートはじっとその時を待った。
灯りが自分たちを照らすように掲げられ、眩しさに顔をしかめる。そのため、鉄格子の前に立つ人物を確認することが出来なかった。
「君たちは何故こんな所にいるんだい? エリー様と一緒じゃないのかい?」
優しい穏やかな声。その声は聞き覚えがあった。
「ジェルミア様」
アランが立ち上がり鉄格子へと近づく。そこに立っていたのは紛れもなくジェルミア王子だった。
「君たちが連れて行かれるのをたまたま見てね……。何故こんなところにいるのか状況を教えてくれるかい? 戦争を止めに来たというには情報を得るのが早すぎる。あいつらは先制攻撃を仕掛けるつもりのようだから」
アランは以前、ジェルミア王子から王族の中で不当な扱いを受けてきていたという過去を聞いたことがあった。そのため、ジェルミア王子を味方に付けられないかと考えた。
「我々をここから出していただけないでしょうか?」
「そうだね。手助けをしてあげてもいい。ただ、その前にここに来た理由を知りたい」
アランとアルバートは顔を見合わせて頷く。ジェルミア王子とは一緒にいる機会も多く、人柄のよさは知っているつもりだ。それにエリー王女のことを想っていることも知っている。
エリー王女誘拐からここにいるまでの経緯を説明した。
「一緒にいたあの二人はローンズの……。彼らは別のところへ連れて行かれたようだった。バルダス陛下はリアム陛下を恐れているから、悪いようにはしないだろうけどね……」
ジェルミア王子が何か考えている様子だったため、アランは静かに待った。数分は待っただろう。王子は重い口を開いた。
「アランくん、アルバートくん。君たちと取引きがしたい」
◇
ジェルミア王子は地下牢から上がると側近のハイドにとある指示を出し、王族用の客室がある塔へ向かった。静寂に包まれている城内。階段を上っていると上から足音が近づいてきた。
「お兄様!」
見上げると、妹であるエーデルが嬉しそうに駆け下りてくる。
「エーデル……? どうしてこんなところにいるんだい? それに、その恰好」
ガウンから覗く胸元を見てジェルミア王子が顔をしかめた。
「ふふふ。どうしてだと思います? 私も遂にお父様から命を頂いたのですわ」
瞳を輝かせて意気揚々とするエーデル王女に、さらに眉間の皺を深める。
「バルダス陛下に客人の相手をしろって言われたのか?」
「な、なんですの! その言い方は陛下に対して! そんな風に仰るのなら私は何も言いません。では、おやすみなさい」
顔を背けてエーデル王女が階段を降りようとしたため、ジェルミア王子は腕を掴んだ。
「エーデル。あいつが俺達やお母様に何をしたか知っているはず。俺もエーデルもいいように使われているだけなんだよ」
「お兄様だって、お父様の命でエリー様のところにずっと行っていたじゃありませんか! 何故、私だけがダメなのでしょう? 私だって……私だって……ここから出たい!」
瞳を潤ませ睨んでくるエーデル王女に、ジェルミア王子は手を離した。
「すまない……。俺にもっとエーデルを守れる力があれば……。俺が弱いばかりにエーデルの側にもいてあげられなかった」
「……そうですわ。もっと側にいてくだされば良かったのです。私はもっと一緒に過ごしたかったですのに! いつもいつもいつも、色々な女性のところへ行って、私のところには少しも来てくださらない。私のことなど興味なんてないのでしょう? なのにどうしてそのような酷いことを仰るのですか? 私がお父様の命を拒否できると思っておいでですか?」
「本当に申し訳ない。決して興味がないわけじゃないんだよ。ただ、俺が愚かだっただけなんだ。だけど俺は変わろうと思う。エーデルにも幸せになってもらいたい。だから……勝手だとは思うけど、俺に信じてついてきてほしいんだ」
エーデル王女の表情は怒っているのに、瞳は揺れている。
「仰っている意味がわかりません。どういう意味ですの?」
「それはここでは話せない。エーデル。セイン様の部屋、知っているよね? 今、ここにいる客人はセイン様しかいらっしゃらないはずだから」
優しく問いかけるもエーデル王女の口はへの字に曲がったままだ。
「私は……もう孤独には戻りたくありません。お姉様や他の王家の者たちに蔑まれるのには耐えられません!」
エーデル王女の瞳から涙が溢れ、ジェルミア王子はそっと抱きしめる。
「わかっているよ。本当にすまない。これからは一人にしないから。約束する。だから、バルダス陛下なんかの言うことを聞くのではなく、俺のことを信じてほしいんだ。これからそれを証明する」
涙を優しく拭き取り、エーデル王女をしっかりと見据えた。
「俺に力を貸してほしい」
「お兄様……」
真剣なジェルミア王子に対し、エーデル王女はどうするべきか悩んでいるように見えた。
アランは重い体をゆっくりと起こした。
足元にはアルバートが仰向けに転がされている。辺りを見回すと石の壁があるだけで窓はない。
「どこだここ……」
天井を睨みながらアルバートがぽつりと呟いた。
「牢だな」
「……だよな」
アルバートは起き上がり、鉄格子を指ではじいて三回音を鳴らした。耳を澄まし様子を探る。
「ここ、あんまり広くねえな。人の気配もしねえ。セインとギルは別のところにいるのかもな」
二人は鉄格子を睨むように壁に寄りかかって座った。
沈黙が続く。
暫くすると扉が開く軋んだ音が聞こえてきた。コツコツと歩く二人の足音。灯りも合わせてゆっくりと近づいてくる。
アランとアルバートはじっとその時を待った。
灯りが自分たちを照らすように掲げられ、眩しさに顔をしかめる。そのため、鉄格子の前に立つ人物を確認することが出来なかった。
「君たちは何故こんな所にいるんだい? エリー様と一緒じゃないのかい?」
優しい穏やかな声。その声は聞き覚えがあった。
「ジェルミア様」
アランが立ち上がり鉄格子へと近づく。そこに立っていたのは紛れもなくジェルミア王子だった。
「君たちが連れて行かれるのをたまたま見てね……。何故こんなところにいるのか状況を教えてくれるかい? 戦争を止めに来たというには情報を得るのが早すぎる。あいつらは先制攻撃を仕掛けるつもりのようだから」
アランは以前、ジェルミア王子から王族の中で不当な扱いを受けてきていたという過去を聞いたことがあった。そのため、ジェルミア王子を味方に付けられないかと考えた。
「我々をここから出していただけないでしょうか?」
「そうだね。手助けをしてあげてもいい。ただ、その前にここに来た理由を知りたい」
アランとアルバートは顔を見合わせて頷く。ジェルミア王子とは一緒にいる機会も多く、人柄のよさは知っているつもりだ。それにエリー王女のことを想っていることも知っている。
エリー王女誘拐からここにいるまでの経緯を説明した。
「一緒にいたあの二人はローンズの……。彼らは別のところへ連れて行かれたようだった。バルダス陛下はリアム陛下を恐れているから、悪いようにはしないだろうけどね……」
ジェルミア王子が何か考えている様子だったため、アランは静かに待った。数分は待っただろう。王子は重い口を開いた。
「アランくん、アルバートくん。君たちと取引きがしたい」
◇
ジェルミア王子は地下牢から上がると側近のハイドにとある指示を出し、王族用の客室がある塔へ向かった。静寂に包まれている城内。階段を上っていると上から足音が近づいてきた。
「お兄様!」
見上げると、妹であるエーデルが嬉しそうに駆け下りてくる。
「エーデル……? どうしてこんなところにいるんだい? それに、その恰好」
ガウンから覗く胸元を見てジェルミア王子が顔をしかめた。
「ふふふ。どうしてだと思います? 私も遂にお父様から命を頂いたのですわ」
瞳を輝かせて意気揚々とするエーデル王女に、さらに眉間の皺を深める。
「バルダス陛下に客人の相手をしろって言われたのか?」
「な、なんですの! その言い方は陛下に対して! そんな風に仰るのなら私は何も言いません。では、おやすみなさい」
顔を背けてエーデル王女が階段を降りようとしたため、ジェルミア王子は腕を掴んだ。
「エーデル。あいつが俺達やお母様に何をしたか知っているはず。俺もエーデルもいいように使われているだけなんだよ」
「お兄様だって、お父様の命でエリー様のところにずっと行っていたじゃありませんか! 何故、私だけがダメなのでしょう? 私だって……私だって……ここから出たい!」
瞳を潤ませ睨んでくるエーデル王女に、ジェルミア王子は手を離した。
「すまない……。俺にもっとエーデルを守れる力があれば……。俺が弱いばかりにエーデルの側にもいてあげられなかった」
「……そうですわ。もっと側にいてくだされば良かったのです。私はもっと一緒に過ごしたかったですのに! いつもいつもいつも、色々な女性のところへ行って、私のところには少しも来てくださらない。私のことなど興味なんてないのでしょう? なのにどうしてそのような酷いことを仰るのですか? 私がお父様の命を拒否できると思っておいでですか?」
「本当に申し訳ない。決して興味がないわけじゃないんだよ。ただ、俺が愚かだっただけなんだ。だけど俺は変わろうと思う。エーデルにも幸せになってもらいたい。だから……勝手だとは思うけど、俺に信じてついてきてほしいんだ」
エーデル王女の表情は怒っているのに、瞳は揺れている。
「仰っている意味がわかりません。どういう意味ですの?」
「それはここでは話せない。エーデル。セイン様の部屋、知っているよね? 今、ここにいる客人はセイン様しかいらっしゃらないはずだから」
優しく問いかけるもエーデル王女の口はへの字に曲がったままだ。
「私は……もう孤独には戻りたくありません。お姉様や他の王家の者たちに蔑まれるのには耐えられません!」
エーデル王女の瞳から涙が溢れ、ジェルミア王子はそっと抱きしめる。
「わかっているよ。本当にすまない。これからは一人にしないから。約束する。だから、バルダス陛下なんかの言うことを聞くのではなく、俺のことを信じてほしいんだ。これからそれを証明する」
涙を優しく拭き取り、エーデル王女をしっかりと見据えた。
「俺に力を貸してほしい」
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真剣なジェルミア王子に対し、エーデル王女はどうするべきか悩んでいるように見えた。
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