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第13章 敵国
第163話 見知った二人
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アリスが扉の前に立ち、扉を叩いた。
「すみません」
直ぐに扉が僅かに開かれ、兵士が訝しげに視線を送る。
「どうした?」
「赤い髪は気に入らないみたいで……。他の方と交代を希望されています」
兵士がアリスの髪をちらりと見てから扉を大きく開いた。その瞬間、バチバチと雷のような光が迸(ほとばし)る。小さなうめき声と共に二人の兵士が一気に倒れた。
「……えっと、二人は大丈夫なのでしょうか……?」
後ろから恐る恐るギルが近寄り、覗き込む。
「大丈夫よ。気絶しているだけ。扉を押さえてて。私が二人を中に入れるから」
アリスは素早く二人を拘束し、兵士から奪った剣ベルトと剣を装着した。ドレスと全く不釣り合いである。
「ギルもこれ付けて」
「いえ、私は人を傷つけることはできません。それに上手くやれば戦わずにすむと思います」
「どういうこと?」
ギルがアリスに手をかざすと柔らかい風が吹き抜けた。
「何の魔法?」
「気配を消す魔法です。あとはこの二人のどちらかに自白魔法をかけましょう。そしたらまた魔法で眠らせれば良いと思います」
「へ~。あんたの魔法、かなり便利ね。セイン様が側に置いておきたくなる気持ちも分かるわ……。今回はアランやアルバートさんも一緒にいてこうなったわけだし、ギルだけの責任じゃないわね。さっきは責めてごめん」
「え? いえっ、私にもっと力があればあの部屋全体の魔法を解除できたかもしれませんし……」
慌てて否定し落ち込むギルにアリスが背中を叩く。
「自信持ちなさいよ。それに私なんかに敬語を使う必要なんてないわ。ギルの方が身分は上なわけだし。……あっ。私が敬語使うべき……ですね。失礼しました」
突然態度を一変し、頭を下げるアリスにギルが慌てた。
「えっ! いいですよ!! さっきの話し方の方がアリスさんらしくて好きです。あ、じゃあオレも普通に話すからアリスもさっきみたいに話してよ。それでどう?」
「す、好き? ま、まぁ、それでいいなら私はいいわよ。じゃ、とりあえずちゃっちゃとやっちゃいましょう! ほら、起きなさい!」
直ぐにギルから顔を反らしたアリスは、兵士を叩き起こす。
「……ん……んんん……。な、なんだ!?」
拘束されている兵士二人は自分たちの状況に慌てた。
「ローンズから来た他三名の居場所を教えてください」
ギルが自白魔法をかけ、質問する。
「そんなこと教えるっ……ここを出て右側の通路をまっすぐ進み、階段を上ったらまた右側の通路を進む。付き合った先の左にある部屋にセイン様がいらっしゃいます。今はエーデル様と過ごされております」
「エーデル様……この国の第三王女ね……」
アリスに影が落ちる。
ギルに女性をあてがうくらいだ。セイン王子にもそういった女性がいてもおかしくはなかった。しかし、王女を使うのはどういうことだろうか。
アリスの心配をよそに、ギルは質問を続ける。
「他の二人の場所は?」
「彼らはアトラスの人間だったため、地下牢にいます」
「地下牢!?」
ギルが驚きの声を上げてアリスを見た。
「……まずはセイン様をお助けしてから二人を助けましょう。大丈夫、生きていればなんとかなるわ」
「そうだね……。生きていれば……」
曇った顔のギルにアリスが背中を叩く。
「ほら、しっかりしなさいよ! 今は私たちしか動けないんだから!」
「そうだね。うん」
ギルは小さく何度か頷くと、兵士に睡眠魔法をかけた。
◇
――数時間前。
暗い室内から外を眺める男が一人。デール王国の第二王子、ジェルミアである。
「陛下を討つなら今が好機かと」
後ろに立つ側近のハイドが密やかに声をかけた。
「いや、まだ準備不足だ。討った後の立ち上げが一番難しい……。もう少し……もう少し時間があれば……」
ジェルミア王子は鋭い視線を向けたまま、腰に下げた剣をぎゅっと握りしめる。
アランの提案で、エリー王女と共に政治や経済について学んだジェルミア王子は、アトラス王国の王都の暮らしを肌で感じた。自国と比べ、国民それぞれが自立し経済を支えている。笑顔に満ちてる国は、ジェルミア王子の心を掴んだ。
これが本来あるべき姿ではないか?
デール王国は良い国とは言えない。上流階級は贅沢な暮らしをしていたが、民衆は貧しく、奴隷のように働かされている。それが間違っているのではないかと感じ、近隣国を見て回った。シロルディア王国もローンズ王国も国民は穏やかに暮らしている。かつて自国と同じようであったローンズ王国がどのように平和な国へと変わったのか?
ジェルミア王子はローンズ王国について調べ、学び、そして決意した。
かつてリアム国王がしたように反旗を翻そう!
国に帰ったジェルミア王子は同士を探した。
デール王国の情勢を疑問に感じている者も少なからずはいる。しかし、今の生活を壊したくない者の方が多かった。まだ仲間が少なすぎる。
「戦争に負ければ、反旗を翻すどころではないが……」
落ち着かないこの状況にジェルミア王子はハイドと共に部屋を出た。城内を歩いていると客人と思える四人を見つけた。
「こんな時に? しかもあの二人……」
見覚えのある二人はアランとアルバートだった。気になったジェルミア王子はこっそり後をつけ、見守ることにした。
四人が部屋に入った後、暫くしてから多くの兵士が部屋に入っていく。物々しい雰囲気だ。しかし物音もせず、直ぐに担架に乗せられた四人が次々に出てくる。
「おそらく、あの部屋で睡眠魔法薬を使ったのでしょう。バルダス陛下は睡眠魔法薬がお好きですから……」
ハイドが耳打ちをする。
「そうか……。二手に分かれるようだな」
アランとアルバートは、他の二人とは違う方向へ向かうようだ。アランには世話になった義理がある。状況を確認するために後を付けることにした。
※ハイド
「すみません」
直ぐに扉が僅かに開かれ、兵士が訝しげに視線を送る。
「どうした?」
「赤い髪は気に入らないみたいで……。他の方と交代を希望されています」
兵士がアリスの髪をちらりと見てから扉を大きく開いた。その瞬間、バチバチと雷のような光が迸(ほとばし)る。小さなうめき声と共に二人の兵士が一気に倒れた。
「……えっと、二人は大丈夫なのでしょうか……?」
後ろから恐る恐るギルが近寄り、覗き込む。
「大丈夫よ。気絶しているだけ。扉を押さえてて。私が二人を中に入れるから」
アリスは素早く二人を拘束し、兵士から奪った剣ベルトと剣を装着した。ドレスと全く不釣り合いである。
「ギルもこれ付けて」
「いえ、私は人を傷つけることはできません。それに上手くやれば戦わずにすむと思います」
「どういうこと?」
ギルがアリスに手をかざすと柔らかい風が吹き抜けた。
「何の魔法?」
「気配を消す魔法です。あとはこの二人のどちらかに自白魔法をかけましょう。そしたらまた魔法で眠らせれば良いと思います」
「へ~。あんたの魔法、かなり便利ね。セイン様が側に置いておきたくなる気持ちも分かるわ……。今回はアランやアルバートさんも一緒にいてこうなったわけだし、ギルだけの責任じゃないわね。さっきは責めてごめん」
「え? いえっ、私にもっと力があればあの部屋全体の魔法を解除できたかもしれませんし……」
慌てて否定し落ち込むギルにアリスが背中を叩く。
「自信持ちなさいよ。それに私なんかに敬語を使う必要なんてないわ。ギルの方が身分は上なわけだし。……あっ。私が敬語使うべき……ですね。失礼しました」
突然態度を一変し、頭を下げるアリスにギルが慌てた。
「えっ! いいですよ!! さっきの話し方の方がアリスさんらしくて好きです。あ、じゃあオレも普通に話すからアリスもさっきみたいに話してよ。それでどう?」
「す、好き? ま、まぁ、それでいいなら私はいいわよ。じゃ、とりあえずちゃっちゃとやっちゃいましょう! ほら、起きなさい!」
直ぐにギルから顔を反らしたアリスは、兵士を叩き起こす。
「……ん……んんん……。な、なんだ!?」
拘束されている兵士二人は自分たちの状況に慌てた。
「ローンズから来た他三名の居場所を教えてください」
ギルが自白魔法をかけ、質問する。
「そんなこと教えるっ……ここを出て右側の通路をまっすぐ進み、階段を上ったらまた右側の通路を進む。付き合った先の左にある部屋にセイン様がいらっしゃいます。今はエーデル様と過ごされております」
「エーデル様……この国の第三王女ね……」
アリスに影が落ちる。
ギルに女性をあてがうくらいだ。セイン王子にもそういった女性がいてもおかしくはなかった。しかし、王女を使うのはどういうことだろうか。
アリスの心配をよそに、ギルは質問を続ける。
「他の二人の場所は?」
「彼らはアトラスの人間だったため、地下牢にいます」
「地下牢!?」
ギルが驚きの声を上げてアリスを見た。
「……まずはセイン様をお助けしてから二人を助けましょう。大丈夫、生きていればなんとかなるわ」
「そうだね……。生きていれば……」
曇った顔のギルにアリスが背中を叩く。
「ほら、しっかりしなさいよ! 今は私たちしか動けないんだから!」
「そうだね。うん」
ギルは小さく何度か頷くと、兵士に睡眠魔法をかけた。
◇
――数時間前。
暗い室内から外を眺める男が一人。デール王国の第二王子、ジェルミアである。
「陛下を討つなら今が好機かと」
後ろに立つ側近のハイドが密やかに声をかけた。
「いや、まだ準備不足だ。討った後の立ち上げが一番難しい……。もう少し……もう少し時間があれば……」
ジェルミア王子は鋭い視線を向けたまま、腰に下げた剣をぎゅっと握りしめる。
アランの提案で、エリー王女と共に政治や経済について学んだジェルミア王子は、アトラス王国の王都の暮らしを肌で感じた。自国と比べ、国民それぞれが自立し経済を支えている。笑顔に満ちてる国は、ジェルミア王子の心を掴んだ。
これが本来あるべき姿ではないか?
デール王国は良い国とは言えない。上流階級は贅沢な暮らしをしていたが、民衆は貧しく、奴隷のように働かされている。それが間違っているのではないかと感じ、近隣国を見て回った。シロルディア王国もローンズ王国も国民は穏やかに暮らしている。かつて自国と同じようであったローンズ王国がどのように平和な国へと変わったのか?
ジェルミア王子はローンズ王国について調べ、学び、そして決意した。
かつてリアム国王がしたように反旗を翻そう!
国に帰ったジェルミア王子は同士を探した。
デール王国の情勢を疑問に感じている者も少なからずはいる。しかし、今の生活を壊したくない者の方が多かった。まだ仲間が少なすぎる。
「戦争に負ければ、反旗を翻すどころではないが……」
落ち着かないこの状況にジェルミア王子はハイドと共に部屋を出た。城内を歩いていると客人と思える四人を見つけた。
「こんな時に? しかもあの二人……」
見覚えのある二人はアランとアルバートだった。気になったジェルミア王子はこっそり後をつけ、見守ることにした。
四人が部屋に入った後、暫くしてから多くの兵士が部屋に入っていく。物々しい雰囲気だ。しかし物音もせず、直ぐに担架に乗せられた四人が次々に出てくる。
「おそらく、あの部屋で睡眠魔法薬を使ったのでしょう。バルダス陛下は睡眠魔法薬がお好きですから……」
ハイドが耳打ちをする。
「そうか……。二手に分かれるようだな」
アランとアルバートは、他の二人とは違う方向へ向かうようだ。アランには世話になった義理がある。状況を確認するために後を付けることにした。
※ハイド
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