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第13章 敵国
第160話 魅惑の王女
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誰かが優しく髪を撫でている。
まどろみの中、重い瞼をゆっくりと開けた。
(エリー……?)
長い髪が上から流れている。髪に触れるとサラサラと手から零れた。美しい髪はエリー王女と違(たが)わない。
(良かった……無事で……)
優しく笑みを浮かべるエリー王女の頬に手を伸ばした。滑らかな肌を優しく撫で、唇を引き寄せ触れる。
(会いたかった……)
未だに意識が朦朧とする中、胸に抱き寄せた。
柔らかなベッドとエリー王女に包まれ、セイン王子はもう一度夢の中へ誘(いざな)われそうだった。
(エリー……)
夢うつつのまま、温もりを感じるように髪を何度も梳く。心地よい穏やかな時間だった。
そこに異音のような扉を叩く音が頭に響く。
「お父様」
胸の中にいたエリー王女が慌てて体を起こした。
(お父様……? シトラル陛下?)
こんな姿を見せては悪印象だ。体に力を入れようと試みるが思うように動かない。
足音だけが近づいてくる。
「まだ薬が効いているようだな。セイン様、聞こえていますか? 手荒なことをして申し訳ない。あなたに危害を加えるつもりも敵になるつもりも全くないのだ。ただ我々には時間がない。この戦いから戻った後(のち)、ちゃんと話そう。エーデル、セイン様を頼んだぞ」
「はい、お父様」
(エーデル……? 戦い……? そうだ! デール城に着いてすぐ……!)
朦朧とした世界から現実の世界に意識を集中させる。
脳内がぐらぐらと揺れるのを感じたが、瞳を開けて目を凝らした。視界に入ったのはバルダス国王の後ろ姿で、その姿は直ぐに部屋から消えた。
「バルダス陛下……。ううっ……」
頭を振り、もう一度目を凝らす。部屋は薄暗かったが、高貴な人が住まうような豪華な部屋であることだけは分かる。
「気が付かれましたか?」
その声はエリー王女のものではない。彼女はセイン王子の方へ身を乗り出してきた。
金色の長い髪は流れるように伸び、暗い部屋でも分かるほど輝いていた。それは整った顔立ちとよく似合っており、まさに"美しい"という言葉が相応しい。そんな美しい女性が肌が透けるレース地のナイトドレスを身にまとい、肉感的な肢体を露にしている。しかも同じベッドの上で……。
状況が掴めず、眉間に皺を寄せたままその女性を見つめた。
「その様に見つめられては恥ずかしいですわ……」
決して恥ずかしそうにはせず、首を傾げて魅惑的に笑みを浮かべている。
「あなたは一体……」
「そうですわ! 申し遅れました。私はセイン様の妻となる、デール王国第三王女のエーデルでございます。宜しくお願いいたします」
エーデル王女が寝ているセイン王子の胸元に頬を寄せ、手を太ももに伸ばしてきた。
「ちょ、ちょっと待って! 妻ってどういうこと!? え? ちょ、ちょっとそこは……!」
「あんっ」
覆いかぶさってきたエーデル王女を無理やり横に押しのけ、立ち上がろうとする。しかし左の足首に違和感を感じ、そこに目を移すと、黒く冷たい足かせがはめられていた。
「何これ……。ちょ……これも何?」
首には金属で出来た首輪のようなものが付けられている。
「申し訳ございません。父がセイン様と話し合う時間がないとのことで、その様なものを付けたようです……。その首輪は魔力を封じるものと聞いております」
エーデル王女も起き上がり、セイン王子の首輪に愛おしげに触れた。
「魔力を!?」
セイン王子が手に魔力を込めようとするが、体から魔力が沸き上がらない。
「こんなものを作り上げていたのか……」
「はい。ですので、諦めてお待ちください。大丈夫です、直ぐにお戻りになりましょう。それまでセイン様にはご不便をおかけしてしまいますが、私が精一杯お世話させていただきます」
エーデル王女はなんてことはないと言うかのように微笑んでいる。
「……俺はエーデル様と結婚するつもりもないし、バルダス陛下が戻るまでここにいるつもりはない。今すぐここから出してほしい」
「ふふふ。私は以前から父に言われておりました。いずれセイン様の妻にすると。ですからそのために色々と学んだのですよ。まさか今日、それが叶うとは思っておりませんでしたが」
話が全く噛み合っていない。セイン王子は頭を抱えて一呼吸置いた。
「エーデル様……っ!?」
人差し指がセイン王子の唇を塞ぐ。
「もう一つ。ちゃんとお伝えしなければいけないことがございます。四月で私は十八となり、結婚出来る年齢になりました。婚姻前ではございますが、父からセイン様との子を儲けるようにと言われておりますので、安心して抱いていただいて構いません」
「安心って……。だから、俺は」
「ふふふ。私、とても楽しみです。話に聞くところ、とても気持ちが良いことなのですよね? 夢中になるくらいなのでしょう? 沢山しましょうね。上手くできるかわかりませんが、私も満足していただけるように頑張りますわ」
「いやいやいや、そうじゃなくて! ……はぁ」
全く話を聞こうとしないエーデル王女にセイン王子は肩を落として瞳を閉じた。
早くここを抜け出し、戦争を止めなければならない。何か良い手はないだろうか。
「セイン様って恥ずかしがり屋さんなのですね。ね、私を見て下さい」
顔を上げるとエーデル王女は着ていたナイトドレスの肩紐を下にずらした。
「ま、待って! ダメだって! ちょ、何を!!」
制止も聞かず、エーデル王女は白く透き通るような肌とふくよかな大きな胸をセイン王子の目の前で露にした。
「さ、セイン様……どうぞ、遠慮なさらずに私に触れてください……」
まどろみの中、重い瞼をゆっくりと開けた。
(エリー……?)
長い髪が上から流れている。髪に触れるとサラサラと手から零れた。美しい髪はエリー王女と違(たが)わない。
(良かった……無事で……)
優しく笑みを浮かべるエリー王女の頬に手を伸ばした。滑らかな肌を優しく撫で、唇を引き寄せ触れる。
(会いたかった……)
未だに意識が朦朧とする中、胸に抱き寄せた。
柔らかなベッドとエリー王女に包まれ、セイン王子はもう一度夢の中へ誘(いざな)われそうだった。
(エリー……)
夢うつつのまま、温もりを感じるように髪を何度も梳く。心地よい穏やかな時間だった。
そこに異音のような扉を叩く音が頭に響く。
「お父様」
胸の中にいたエリー王女が慌てて体を起こした。
(お父様……? シトラル陛下?)
こんな姿を見せては悪印象だ。体に力を入れようと試みるが思うように動かない。
足音だけが近づいてくる。
「まだ薬が効いているようだな。セイン様、聞こえていますか? 手荒なことをして申し訳ない。あなたに危害を加えるつもりも敵になるつもりも全くないのだ。ただ我々には時間がない。この戦いから戻った後(のち)、ちゃんと話そう。エーデル、セイン様を頼んだぞ」
「はい、お父様」
(エーデル……? 戦い……? そうだ! デール城に着いてすぐ……!)
朦朧とした世界から現実の世界に意識を集中させる。
脳内がぐらぐらと揺れるのを感じたが、瞳を開けて目を凝らした。視界に入ったのはバルダス国王の後ろ姿で、その姿は直ぐに部屋から消えた。
「バルダス陛下……。ううっ……」
頭を振り、もう一度目を凝らす。部屋は薄暗かったが、高貴な人が住まうような豪華な部屋であることだけは分かる。
「気が付かれましたか?」
その声はエリー王女のものではない。彼女はセイン王子の方へ身を乗り出してきた。
金色の長い髪は流れるように伸び、暗い部屋でも分かるほど輝いていた。それは整った顔立ちとよく似合っており、まさに"美しい"という言葉が相応しい。そんな美しい女性が肌が透けるレース地のナイトドレスを身にまとい、肉感的な肢体を露にしている。しかも同じベッドの上で……。
状況が掴めず、眉間に皺を寄せたままその女性を見つめた。
「その様に見つめられては恥ずかしいですわ……」
決して恥ずかしそうにはせず、首を傾げて魅惑的に笑みを浮かべている。
「あなたは一体……」
「そうですわ! 申し遅れました。私はセイン様の妻となる、デール王国第三王女のエーデルでございます。宜しくお願いいたします」
エーデル王女が寝ているセイン王子の胸元に頬を寄せ、手を太ももに伸ばしてきた。
「ちょ、ちょっと待って! 妻ってどういうこと!? え? ちょ、ちょっとそこは……!」
「あんっ」
覆いかぶさってきたエーデル王女を無理やり横に押しのけ、立ち上がろうとする。しかし左の足首に違和感を感じ、そこに目を移すと、黒く冷たい足かせがはめられていた。
「何これ……。ちょ……これも何?」
首には金属で出来た首輪のようなものが付けられている。
「申し訳ございません。父がセイン様と話し合う時間がないとのことで、その様なものを付けたようです……。その首輪は魔力を封じるものと聞いております」
エーデル王女も起き上がり、セイン王子の首輪に愛おしげに触れた。
「魔力を!?」
セイン王子が手に魔力を込めようとするが、体から魔力が沸き上がらない。
「こんなものを作り上げていたのか……」
「はい。ですので、諦めてお待ちください。大丈夫です、直ぐにお戻りになりましょう。それまでセイン様にはご不便をおかけしてしまいますが、私が精一杯お世話させていただきます」
エーデル王女はなんてことはないと言うかのように微笑んでいる。
「……俺はエーデル様と結婚するつもりもないし、バルダス陛下が戻るまでここにいるつもりはない。今すぐここから出してほしい」
「ふふふ。私は以前から父に言われておりました。いずれセイン様の妻にすると。ですからそのために色々と学んだのですよ。まさか今日、それが叶うとは思っておりませんでしたが」
話が全く噛み合っていない。セイン王子は頭を抱えて一呼吸置いた。
「エーデル様……っ!?」
人差し指がセイン王子の唇を塞ぐ。
「もう一つ。ちゃんとお伝えしなければいけないことがございます。四月で私は十八となり、結婚出来る年齢になりました。婚姻前ではございますが、父からセイン様との子を儲けるようにと言われておりますので、安心して抱いていただいて構いません」
「安心って……。だから、俺は」
「ふふふ。私、とても楽しみです。話に聞くところ、とても気持ちが良いことなのですよね? 夢中になるくらいなのでしょう? 沢山しましょうね。上手くできるかわかりませんが、私も満足していただけるように頑張りますわ」
「いやいやいや、そうじゃなくて! ……はぁ」
全く話を聞こうとしないエーデル王女にセイン王子は肩を落として瞳を閉じた。
早くここを抜け出し、戦争を止めなければならない。何か良い手はないだろうか。
「セイン様って恥ずかしがり屋さんなのですね。ね、私を見て下さい」
顔を上げるとエーデル王女は着ていたナイトドレスの肩紐を下にずらした。
「ま、待って! ダメだって! ちょ、何を!!」
制止も聞かず、エーデル王女は白く透き通るような肌とふくよかな大きな胸をセイン王子の目の前で露にした。
「さ、セイン様……どうぞ、遠慮なさらずに私に触れてください……」
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