恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第12章 二度目の恋

第152話 凶報

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 教壇を運び終えたアランとアルバートが倉庫へと戻る途中、一人の教師に声をかけられた。

「あれ? エリーさんとサラさんと一緒じゃなかったのですか? じゃあ、どこに行ったのかなぁ~?」
「倉庫にいるはずですが?」

 アランの眉間にシワが寄る。

「いえ、さっきお昼ご飯の用意が出来たので呼びに行ったのですが、誰もいなくて――」

 話を聞くや否や二人は何も言わずに走り出した。
 嫌な予感に変な汗が噴き出してくる。

 倉庫に辿りつき、中に入ると誰もいなかった。
 仕分けたままで置かれた備品。
 開け放たれた入り口に僅かに開いている窓。

 アランが鼻をすんと鳴らした。

「この香り……」

 僅かに甘い香りがする。匂いの元を探すように辺りを見渡すと壁際に音玉が転がっていた。

「アラン!」

 アルバートが外から呼びつける。
 倉庫裏へ急いで駆けつけると、アルバートがしゃがみこんで藪の根元を見ていた。

「この辺り、人が通った後がある。恐らく三、四人」
「それほど時間は経っていない。俺が追いかけるからアルバートはリアム陛下に協力要請を!」

 アランが走り出すのと同時にアルバートが踵を返す。



 枝、土、草の状態を確認しながら藪を掻き分ける。

 急げ……急げ……。

 気持ちだけが急く。
 殺害目的であればその場で行うはずだが、そうではない。
 大丈夫だ。必ず見つける。
 落ち着いて行動するんだ。

 自分の吐く息がやけに耳に付いた。
 もしもエリー王女の身に何かあったら……。
 最悪な想像を振り払うかのように道を塞ぐ枝を切り払った。




 ◇

 幸いにもリアム国王が城内におり、すぐに謁見することが出来た。

「ハル、今すぐにバーミアに捜索の指示を。またアトラスへこの書簡を送るように」

 アルバートが報告するとリアム国王が直ぐに動きだす。
 側近であるハルが書簡を受け取り、素早く部屋から出て行く。

「ご協力、ありがとうございます」
「いや、我が国にとっても王女は大切な方だ。全力で捜索させてもらう」

 悲痛の表情のアルバートにリアム国王は冷静に応えた。

「学校にわざわざ潜入し、子供ではなく教師を狙ったこと。またアランとアルバートを遠ざけていることから犯行は計画的だと感じる。エリー王女、及びもう一人の女性に狙いを定めていたのかもしれない」
「俺たちが離れなければ……」

 アルバートの拳に力が入る。

「もしも……アランの追跡が上手くいかなかった場合は、セインと共にデール王国へと向かってもらいたい」
「デールに? それは何故でしょうか?」

 リアム国王は眉間にシワをぐっと寄せてアルバートを見据えた。

「デール王国では今、不穏な動きがある。バルダス陛下がアトラスへの侵略を目論んでいる可能性が高い」
「え!?」
「以前、バルダス陛下から打診があった。アトラスとの同盟を破棄し、デール王国と同盟を結んで欲しいと……。お酒の席で冗談のように言っていたが、バルダス陛下はシトラル陛下のことをあまり良く思っていないことは確かだ。また、兵力を強化しているという話も耳にしている。もしも侵略するつもりであれば、エリー王女を人質に取ることで有利に事が運ぶ」
「……わかりました。確かめに行きたいと思います」
「杞憂であることを願おう。セインは今、シロルディア王国に繋がる橋の建設現場にいる。合流し、そのまま向かうといいだろう。馬など必要なものは準備させる」
「何から何までありがとうございます」

 アルバートはリアム国王に深く礼をした。



 ◇

 ローンズ城より西へ馬で五時間ほど行った先に、ハールンという街があった。この街を横には大きな川があり、その向こう側はシロルディア王国が広がる。
 シロルディアは農業が盛んな国だが、物資の調達を行うためにはかなり迂回する必要があった。そのため、橋の建設を行い輸入経路を確保しようとしていた。

 その橋が間もなく完成を迎えられそうなところまできている。

「とても良い橋になりましたね」

 セイン王子が橋の建設を担当している責任者に声をかけた。

「セイン様! わざわざお越しいただきありがとうございます。お陰さまでこのような立派な橋を架けることができます」
「この橋ができればシロルディアの皆さんと交流が盛んになり、お互いの経済が潤うことでしょう。では、今後の作業工程について伺いたいのですが」

 人々の笑顔を見ているとセイン王子も自ずと笑顔になった。
 橋の説明を聞いていると二頭の馬の蹄の音が近づいてくる。

「あれは……アランさんとアルバートさんです」

 ギルがセイン王子に伝えた。
 セイン王子は話を中断し、向かってくる馬に目を向ける。

「なんで……」

 馬に乗っているのが二人だけだということに気が付き、急ぎ駆け寄った。

「アラン! なんで二人だけ!? エリーはどうしたの?」

 アランとアルバートの表情が暗い。
 不安が膨らむ。

「すみません、こちらへ……」

 アランはセイン王子とギルを人気《ひとけ》のないところへ連れて行き状況を説明した。

「どういう……」

 セイン王子の身体に、全身から血を抜かれたように悪寒が走る。
 心臓も喉も視界も全てが小さくなったような感覚で息苦しい。

「なんで……。なんでちゃんと見ていなかったんだよ!」

 アランに詰め寄った。

「すまない……」

 アランとアルバートに当たったところでどうにもならないとは分かっていたが、右の拳が震える。

「セイン様! お二人を責めている場合じゃないです! 今は早くデールへ向かうべきです!」

 ギルの声に少し冷静さを取り戻した。
 セイン王子はアランを睨んだまま黙り込んだが、くるりと向きを変えギルに指示を出す。

「今からデール王国へ向かう! 責任者に急用の旨を伝えよ」
「は!」

 ギルは建設の責任者に急ぎ伝えに行き、セイン王子は自分の馬に跨がり待った。
 エリー王女の安否を考えるだけで手が震える。

 セイン王子は瞳を閉じ、呼吸を整えた。

「……アラン……ごめん。とにかくエリーを早く救出しよう」



 今はギルの言うとおり責めている場合ではない。
 協力し合って早くエリー王女を見つけることが最優先である。

「セイン様! 急ぎデール王国へ向かうならこちらの橋を使用してはどうかと言っておりました。中央にまだ隙間がありますが馬であれば飛び越えられるようです」

 ギルも馬に跨がりセイン王子に伝える。

「よし! 行くぞ!」

 セイン王子の掛け声と共に四人はそれぞれの馬を蹴り、走らせた。



 目指すはデール王国――――。




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