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第12章 二度目の恋
第145話 隠された真実
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エリー王女はここ数日、いつも以上に明るく元気に振る舞っている。何も言わないが、毎日ギルからの手紙を待っているに違いなかった。しかしあれから数日経った今も、ギルからの手紙はエリー王女のもとに届いていない。
それは協力してくれたハルも上手くことを運べていないということだとアランは思った。
「なぁ、言おうぜ」
エリー王女は教員として子供たちに授業をしており、廊下は今、アランとアルバートしかいない。
「何度も言っただろ? (陛下が)決められたことを破るわけにはいかない」
「そうかもしんねーけど……。今この国にいる時しかチャンスはねえんだよ。大体、当事者が何にも知らないのがおかしいんだろ」
「(エリーに)真実を伝えたところで何も変わらないし苦しめるだけだ。(セイン様に)国のためだと言われてしまっては、これ以上打つ手はない」
アランはアルバートの考えには反対だった。
あのままセイン王子と恋に落ち、上手くいけば問題なかったのに……。
「苦しむかもしんねーけど、得られるものは大きいかもしれない。(エリーちゃんは)真実を知るべきだろ。それに俺たちが知ってることは(陛下は)知らないわけだし、そこは色々と誤魔化してなんとかなるだろ?」
「そこまで踏み込んではだめだ。これ以上は俺たちのエゴでしかない。前を向いて歩いているのに後ろを振り返らせるつもりか? ……どうした?」
急に黙ったアルバートの視線を辿り、アランが振り返るとすぐ後ろにエリー王女が立っていた。すっと血の気が引くのを感じる。
「授業中です。私語はやめていただけますか」
「ああ、悪かった。静かにする」
話を聞かれたわけじゃないと、アランは小さく息を吐いた。
「それと、後ほど私に隠している真実というものを教えていただきますので」
エリー王女は威圧的に言葉を残し、また教室に戻っていった。
「ばれちまったな」
振り返るとニヤニヤと笑っているアルバートがいる。
「……お前、わざと仕向けたな」
◇
夕方、授業を終えたエリー王女はサラを見つけ、声をかけた。
「あの……ごめんなさい、サラ。実は友人と会うので、今日は他の人と過ごしてもらっても良いでしょうか?」
授業中に聞いたアランとアルバートの話を詳しく聞くためだった。
「こっちに知り合いいたんだ。もちろん大丈夫よ。皆と遊ぶから気にしないで」
サラが笑顔で承諾してくれて、ほっとする。
明るく物怖じしない性格からか、サラはローンズ王国でも直ぐに周囲と打ち解けていた。エリー王女が心配しなくても、楽しく過ごすだろう。
サラと別れるとエリー王女から笑顔が消えた。
アルバートからあの時間に聞き耳を立てられそうであれば立てて欲しいと言われ、エリー王女は子供たちに課題を用意して全て聞いていた。
何を隠しているのかは全く見当も付かないが、自分のために動いてくれていたことはよく分かった。
しかしそれは信用されていないということ。
悲しくもあり、腹立たしさもあった。
お父様が隠したいと思っている真実とは?
アランは知るべきではないと考え、アルバートは知るべきだと言う。
セイン様に会う前であれば知ることを選ばなかったかもしれない。
だけど今は違う。
レイを好きだと言ってからセイン様の態度が変わったこと。
セイン様と仲良くすることが国のためにならないという意味。
それらのことが隠された真実の中にある気がした。
私は真実を知りたい……。
◇
宿に戻ったエリー王女はアランたちの部屋に向かった。
アランの表情が硬い。
エリー王女がベッドに腰掛けると、向かい側のベッドにアランが座り、周囲を警戒するようにアルバートが壁際に立った。
「では、お話頂けますか?」
「わかった。落ち着いてよく聞いて欲しい……」
アランが覚悟を決めるように、一呼吸おいた。
「アトラスとローンズの同盟が結ばれた際、ローンズより宝を献上したという話は覚えているか?」
「勿論、覚えております」
「その宝というのはリアム陛下の弟であるセイン様だ」
唐突な話にエリー王女は首をかしげた。
「セイン様が? セイン様がアトラスにいたということでしょうか?」
「ああ。私事を挟まずアトラスに貢献できるようセイン様としての記憶を消し、信頼の証として差し出された人質。それがレイだったんだ」
「……え?」
思ってもみなかった名前が出てきて心臓がどくんと大きく鳴った。両手で口を覆い、アランが言った内容を整理する。
「……先日お会いしたのは……どなたですか?」
「セイン様ご本人だ」
「あの……今、セイン様とレイが同一人物であると仰ってるのですよね?」
「ああ、そう言った」
「セイン様は生きていて……あれ? レイは……亡くなって……?」
話してるうちにばくばくと胸が鳴り響いていた。
「レイは生きている」
アランの言葉がゆっくりと体に染み渡る。
生きている……。
生きている……。
何度も心の中で呟くと視界がじんわりと滲みだす。
「生きている……本当に? それは本当のことですか? だってあの時……」
「本当だ。レイはセイン様として生きてる」
「レイが……レイが生きている…………ああ……」
ついにエリー王女は両手で顔を覆い、涙を流した。
それが本当ならばレイに会いたい……。
もう一度会って確かめたい……。
レイがいることを実感したい……。
――――エリー様、ごめん。俺とはもう会わない方がいい。俺がいると彼を忘れられないだろうし、俺は彼の代わりになれないから……。
――――これはエリー様のためでもあるし、両国にとって大事なことでもあるんだ。だから俺とは会わなかったことにしてほしい。
セイン王子の言葉が過ぎる。
会わないほうがいいという理由とは?
それに……。
「あ、あの……何故、レイはセイン様に戻られたのでしょうか……?」
それは協力してくれたハルも上手くことを運べていないということだとアランは思った。
「なぁ、言おうぜ」
エリー王女は教員として子供たちに授業をしており、廊下は今、アランとアルバートしかいない。
「何度も言っただろ? (陛下が)決められたことを破るわけにはいかない」
「そうかもしんねーけど……。今この国にいる時しかチャンスはねえんだよ。大体、当事者が何にも知らないのがおかしいんだろ」
「(エリーに)真実を伝えたところで何も変わらないし苦しめるだけだ。(セイン様に)国のためだと言われてしまっては、これ以上打つ手はない」
アランはアルバートの考えには反対だった。
あのままセイン王子と恋に落ち、上手くいけば問題なかったのに……。
「苦しむかもしんねーけど、得られるものは大きいかもしれない。(エリーちゃんは)真実を知るべきだろ。それに俺たちが知ってることは(陛下は)知らないわけだし、そこは色々と誤魔化してなんとかなるだろ?」
「そこまで踏み込んではだめだ。これ以上は俺たちのエゴでしかない。前を向いて歩いているのに後ろを振り返らせるつもりか? ……どうした?」
急に黙ったアルバートの視線を辿り、アランが振り返るとすぐ後ろにエリー王女が立っていた。すっと血の気が引くのを感じる。
「授業中です。私語はやめていただけますか」
「ああ、悪かった。静かにする」
話を聞かれたわけじゃないと、アランは小さく息を吐いた。
「それと、後ほど私に隠している真実というものを教えていただきますので」
エリー王女は威圧的に言葉を残し、また教室に戻っていった。
「ばれちまったな」
振り返るとニヤニヤと笑っているアルバートがいる。
「……お前、わざと仕向けたな」
◇
夕方、授業を終えたエリー王女はサラを見つけ、声をかけた。
「あの……ごめんなさい、サラ。実は友人と会うので、今日は他の人と過ごしてもらっても良いでしょうか?」
授業中に聞いたアランとアルバートの話を詳しく聞くためだった。
「こっちに知り合いいたんだ。もちろん大丈夫よ。皆と遊ぶから気にしないで」
サラが笑顔で承諾してくれて、ほっとする。
明るく物怖じしない性格からか、サラはローンズ王国でも直ぐに周囲と打ち解けていた。エリー王女が心配しなくても、楽しく過ごすだろう。
サラと別れるとエリー王女から笑顔が消えた。
アルバートからあの時間に聞き耳を立てられそうであれば立てて欲しいと言われ、エリー王女は子供たちに課題を用意して全て聞いていた。
何を隠しているのかは全く見当も付かないが、自分のために動いてくれていたことはよく分かった。
しかしそれは信用されていないということ。
悲しくもあり、腹立たしさもあった。
お父様が隠したいと思っている真実とは?
アランは知るべきではないと考え、アルバートは知るべきだと言う。
セイン様に会う前であれば知ることを選ばなかったかもしれない。
だけど今は違う。
レイを好きだと言ってからセイン様の態度が変わったこと。
セイン様と仲良くすることが国のためにならないという意味。
それらのことが隠された真実の中にある気がした。
私は真実を知りたい……。
◇
宿に戻ったエリー王女はアランたちの部屋に向かった。
アランの表情が硬い。
エリー王女がベッドに腰掛けると、向かい側のベッドにアランが座り、周囲を警戒するようにアルバートが壁際に立った。
「では、お話頂けますか?」
「わかった。落ち着いてよく聞いて欲しい……」
アランが覚悟を決めるように、一呼吸おいた。
「アトラスとローンズの同盟が結ばれた際、ローンズより宝を献上したという話は覚えているか?」
「勿論、覚えております」
「その宝というのはリアム陛下の弟であるセイン様だ」
唐突な話にエリー王女は首をかしげた。
「セイン様が? セイン様がアトラスにいたということでしょうか?」
「ああ。私事を挟まずアトラスに貢献できるようセイン様としての記憶を消し、信頼の証として差し出された人質。それがレイだったんだ」
「……え?」
思ってもみなかった名前が出てきて心臓がどくんと大きく鳴った。両手で口を覆い、アランが言った内容を整理する。
「……先日お会いしたのは……どなたですか?」
「セイン様ご本人だ」
「あの……今、セイン様とレイが同一人物であると仰ってるのですよね?」
「ああ、そう言った」
「セイン様は生きていて……あれ? レイは……亡くなって……?」
話してるうちにばくばくと胸が鳴り響いていた。
「レイは生きている」
アランの言葉がゆっくりと体に染み渡る。
生きている……。
生きている……。
何度も心の中で呟くと視界がじんわりと滲みだす。
「生きている……本当に? それは本当のことですか? だってあの時……」
「本当だ。レイはセイン様として生きてる」
「レイが……レイが生きている…………ああ……」
ついにエリー王女は両手で顔を覆い、涙を流した。
それが本当ならばレイに会いたい……。
もう一度会って確かめたい……。
レイがいることを実感したい……。
――――エリー様、ごめん。俺とはもう会わない方がいい。俺がいると彼を忘れられないだろうし、俺は彼の代わりになれないから……。
――――これはエリー様のためでもあるし、両国にとって大事なことでもあるんだ。だから俺とは会わなかったことにしてほしい。
セイン王子の言葉が過ぎる。
会わないほうがいいという理由とは?
それに……。
「あ、あの……何故、レイはセイン様に戻られたのでしょうか……?」
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