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第11章 再会
第140話 作られた偶然
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エリー王女は毎日寝る前、レイに一日の報告をしている。
生徒である子供たちのこと。
友達のサラのこと。
同じ教員仲間やK地区に住む人たちのこと。
教育委員会との架け橋になってくれているリリュートのこと。
一年ほど前からK地区に顔を見せなくなったジェルミア王子のこと。
アランやアルバート、マーサのこと。
そして、もしレイがいてくれたらどう答えてくれるのかを想像した。
――――お疲れ様。今日も頑張ったね。
そう言ってもらえるように、一日一日を大切にしていた。
しかし、最近ではその言葉をレイの声で思い出そうとしても、靄がかかって聞こえにくくなっていく。
レイが亡くなってから二年も経っていないのに……まだ忘れたくないのに……。
そんな薄れ行く記憶に寂しさが募っていた時だった。
「はるばる遠いこの地によく来てくれた――――」
突然、愛しい温かな声が耳に優しく入り込む。
それはレイの声。
忘れかけていた記憶がぱちんと弾けるように、一気に呼び起こされた。
レイとの短くて深い記憶が涙と共に溢れ出てくる。
こんなところで泣いてはいけないと必死に堪えるも止められない。俯いたまま、声を押し殺しているとアランが肩を抱き寄せ廊下に連れ出してくれた。
「大丈夫か?」
エリー王女は首を振る。そこにギルが会議室を抜け出し駆け寄ってきた。
「……大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。あそこの部屋で休ませてもらおう」
少し離れた教室に入り、エリー王女を座らせるとギルが魔法をかける。
「エリー様、すみません。まさかこちらにいらっしゃるとは思っていなくて……。驚かれたんですよね、セイン様を見て……レイに似ているから……」
「レイに……似ている……? 私……レイの声を聞いて……」
エリー王女は顔を上げてギルを見ると、ギルは悲しそうに微笑んだ。
「セイン様です。セイン様はレイに凄く似ていらっしゃるんです。声も顔も……性格も。だからきっと、セイン様はアトラス王国へ行けないんです。皆さんが驚かれるから……」
「それほどまで……? アラン、アルバート。二人はセイン様をご覧になりましたか?」
ギルの魔法で落ち着いたエリー王女は、側に立つ二人に視線を移す。
「ああ。とても……似ていた」
「俺もレイがいるのかと思って動揺しちまった。こんなことあるんだな」
「私も初めてセイン様にお会いしたとき、凄く動揺しましたから。今でも時々あれ? って思うくらいですよ」
笑ってみせるギルに、エリー王女も笑みを返す。
「今回、教員としてお忍びで来ていたため、セイン様やリアム陛下にご挨拶をすることが出来ませんでした。ですが、こうしてお会いしたことですし、遅くなりましたが正式にご挨拶をしたいとお伝えいただけますか?」
「はい、もちろんです。お二人とも歓迎されることでしょう」
「ギル。公に出来ないため他の者には知らせないようにお願いできるか?」
アランが伝えると、ギルは表情を固くした。
「わかりました。そのように手配します。陛下もセイン様も夜はいらっしゃると思うので、早くて今夜になるかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「そちらの都合に合わせる」
「では、私がここに長くいてもおかしいですのでセイン様のところに戻ります。エリー様、失礼いたします。あ、アランさん。返事してなくてすみません。色々確認していて……」
「わかってる。こうして会えたし、また後でゆっくり話そう」
「はい」
ギルがお辞儀をして教室を出て行った。静かになった教室でエリー王女は顔を覆い隠す。
「エリーちゃん、どうした? まだ具合悪い?」
「いえ……。私……セイン様にお会いするのが怖くて、不安で……。声を聞いただけでおかしくなってしまったのに……」
「いや、ほら、突然だったし。知ってる状態で会えば、意外と違うな~って思ったりするもんじゃん? お会いするのはセイン様でレイじゃないからさ」
「……はい」
怖いという気持ちの奥に、会ってみたいという気持ちもあった。セイン様ではなく、レイに会いたいのだ。もう一度声が聞きたい。もっとレイを感じたかった。
レイではないのに……。
「(いた~~~!! エリー大丈夫?)」
ガラガラと勢いよく入ってきたのはサラだった。小さな声で気遣わしく寄り添ってくれる。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です。少し疲れが出ちゃったみたいで……」
「ごめんね、全然気がつかなくって。今日は先に宿に戻りな? 私が皆に伝えておくから、ね? まだ二週間くらいあるし。ほら、今日の夜は食事会もあるから疲れちゃうもん。アラン、アルバート、エリーをよろしくね」
「ですが、せっかくの交流会ですし」
「いや、言葉に甘えよう。少し頑張り過ぎたのかもしれない」
アランがサラの提案に同意し、先に帰ることにした。
まだ四時前。学校を出ると太陽は明るく輝いていた。
「丁度良かった。服などお会いするための準備をしよう」
「よぉ~し! めちゃめちゃ可愛く見えるやつ探そうぜ!」
エリー王女はアランとアルバートをじっと見つめ、首をかしげる。
「あの……なんだか、二人ともどこか嬉しそうに見えます。リアム陛下にお会いするからですか?」
「え? あ~、うんうん。それもあるけどよ、セイン様にも会ってみたかったからさ」
にこやかに話すアルバートを見て、以前の自分の気持ちを思い出した。
「……そうですね。私もずっとお会いしたいと思っていました……」
会うのはセイン様。
レイではない。
エリー王女は気持ちを切り替え、背筋を伸ばした。
生徒である子供たちのこと。
友達のサラのこと。
同じ教員仲間やK地区に住む人たちのこと。
教育委員会との架け橋になってくれているリリュートのこと。
一年ほど前からK地区に顔を見せなくなったジェルミア王子のこと。
アランやアルバート、マーサのこと。
そして、もしレイがいてくれたらどう答えてくれるのかを想像した。
――――お疲れ様。今日も頑張ったね。
そう言ってもらえるように、一日一日を大切にしていた。
しかし、最近ではその言葉をレイの声で思い出そうとしても、靄がかかって聞こえにくくなっていく。
レイが亡くなってから二年も経っていないのに……まだ忘れたくないのに……。
そんな薄れ行く記憶に寂しさが募っていた時だった。
「はるばる遠いこの地によく来てくれた――――」
突然、愛しい温かな声が耳に優しく入り込む。
それはレイの声。
忘れかけていた記憶がぱちんと弾けるように、一気に呼び起こされた。
レイとの短くて深い記憶が涙と共に溢れ出てくる。
こんなところで泣いてはいけないと必死に堪えるも止められない。俯いたまま、声を押し殺しているとアランが肩を抱き寄せ廊下に連れ出してくれた。
「大丈夫か?」
エリー王女は首を振る。そこにギルが会議室を抜け出し駆け寄ってきた。
「……大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。あそこの部屋で休ませてもらおう」
少し離れた教室に入り、エリー王女を座らせるとギルが魔法をかける。
「エリー様、すみません。まさかこちらにいらっしゃるとは思っていなくて……。驚かれたんですよね、セイン様を見て……レイに似ているから……」
「レイに……似ている……? 私……レイの声を聞いて……」
エリー王女は顔を上げてギルを見ると、ギルは悲しそうに微笑んだ。
「セイン様です。セイン様はレイに凄く似ていらっしゃるんです。声も顔も……性格も。だからきっと、セイン様はアトラス王国へ行けないんです。皆さんが驚かれるから……」
「それほどまで……? アラン、アルバート。二人はセイン様をご覧になりましたか?」
ギルの魔法で落ち着いたエリー王女は、側に立つ二人に視線を移す。
「ああ。とても……似ていた」
「俺もレイがいるのかと思って動揺しちまった。こんなことあるんだな」
「私も初めてセイン様にお会いしたとき、凄く動揺しましたから。今でも時々あれ? って思うくらいですよ」
笑ってみせるギルに、エリー王女も笑みを返す。
「今回、教員としてお忍びで来ていたため、セイン様やリアム陛下にご挨拶をすることが出来ませんでした。ですが、こうしてお会いしたことですし、遅くなりましたが正式にご挨拶をしたいとお伝えいただけますか?」
「はい、もちろんです。お二人とも歓迎されることでしょう」
「ギル。公に出来ないため他の者には知らせないようにお願いできるか?」
アランが伝えると、ギルは表情を固くした。
「わかりました。そのように手配します。陛下もセイン様も夜はいらっしゃると思うので、早くて今夜になるかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「そちらの都合に合わせる」
「では、私がここに長くいてもおかしいですのでセイン様のところに戻ります。エリー様、失礼いたします。あ、アランさん。返事してなくてすみません。色々確認していて……」
「わかってる。こうして会えたし、また後でゆっくり話そう」
「はい」
ギルがお辞儀をして教室を出て行った。静かになった教室でエリー王女は顔を覆い隠す。
「エリーちゃん、どうした? まだ具合悪い?」
「いえ……。私……セイン様にお会いするのが怖くて、不安で……。声を聞いただけでおかしくなってしまったのに……」
「いや、ほら、突然だったし。知ってる状態で会えば、意外と違うな~って思ったりするもんじゃん? お会いするのはセイン様でレイじゃないからさ」
「……はい」
怖いという気持ちの奥に、会ってみたいという気持ちもあった。セイン様ではなく、レイに会いたいのだ。もう一度声が聞きたい。もっとレイを感じたかった。
レイではないのに……。
「(いた~~~!! エリー大丈夫?)」
ガラガラと勢いよく入ってきたのはサラだった。小さな声で気遣わしく寄り添ってくれる。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です。少し疲れが出ちゃったみたいで……」
「ごめんね、全然気がつかなくって。今日は先に宿に戻りな? 私が皆に伝えておくから、ね? まだ二週間くらいあるし。ほら、今日の夜は食事会もあるから疲れちゃうもん。アラン、アルバート、エリーをよろしくね」
「ですが、せっかくの交流会ですし」
「いや、言葉に甘えよう。少し頑張り過ぎたのかもしれない」
アランがサラの提案に同意し、先に帰ることにした。
まだ四時前。学校を出ると太陽は明るく輝いていた。
「丁度良かった。服などお会いするための準備をしよう」
「よぉ~し! めちゃめちゃ可愛く見えるやつ探そうぜ!」
エリー王女はアランとアルバートをじっと見つめ、首をかしげる。
「あの……なんだか、二人ともどこか嬉しそうに見えます。リアム陛下にお会いするからですか?」
「え? あ~、うんうん。それもあるけどよ、セイン様にも会ってみたかったからさ」
にこやかに話すアルバートを見て、以前の自分の気持ちを思い出した。
「……そうですね。私もずっとお会いしたいと思っていました……」
会うのはセイン様。
レイではない。
エリー王女は気持ちを切り替え、背筋を伸ばした。
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