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第11章 再会
第139話 意図
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エリー王女がローンズの町を観光している頃、ギルは一通の手紙を読んでいた。
「アランさんが……」
ギルは手紙を握り締め、ハルの元に向かう。
「お忙しいところ恐れ入ります。アトラスに住む友人が王都に来ているらしく、数時間ほどお暇を頂いても良いでしょうか?」
側近としての振る舞いを確認すると、ハルは笑みを浮かべる。
「セイン様が良いと仰れば構いませんよ。それに陛下はアトラスに住む者を大切にするべきであるとのお考えです。その友人を大切にしてください」
「ありがとうございます。同じ側近となり、少し話をしてみたかったので良かったです」
ギルがほっとしたように笑顔を見せたが、ハルは顔をしかめた。
「側近? ギルの友人とはどなたなのですか?」
「アランさんです」
「……手紙、今持っていますか? 見せていただいても?」
ギルは首をかしげながらハルに手紙を渡す。書いてあるのは『一般人としてローンズ王国に来た。良かったら会いたい』という短い文である。ハルは手紙を読んで何か考え込んでいた。
「側近同士会うのは良くないことでしょうか? もちろん内部的な話はするつもりはありませんが……」
「いえ……問題ありませんよ。ですが、少し時間をもらっていいですか? セイン様にも、他の誰にもまだ伝えないでおいてください」
「はい、勿論です。では、宜しくお願いします」
ギルは手紙を受け取り部屋を出た。
一人になったハルは、アランの手紙の真意について考え込む。
側近であるアランさんがローンズに一人で来たのか、それとも……。
ハルはすぐに入国手続きのリストを確認した。そこにはアランの名前と名字は違えどエリーとアルバートという名前が記されている。
ギルに手紙を送ればセイン様や陛下に伝わることは容易に想像できるはず。ということは、遠回しにエリー王女が入国したことを知らせたかったということになる。
何故?
知れば挨拶を行うことが礼儀。
城に呼んで欲しいということだろうか……。
しかし、シトラル国王はセイン様と会わせたくないはず。そのため恐らくではあるが、エリー王女がローンズ王国を訪れていることは隠すようにと言われているだろう。にも関わらず、接触を図ってきた。
ギルに手紙を送ることは王との約束を破る恐れのある危険な行為。
そうまでしてエリー王女の存在を知らせたい理由は?
セイン様のことを何かしら知っている、あるいは探っているのであれば……。
「アランさんの意図は私の都合のいいように勝手に解釈させてもらいましょう」
ハルは僅かに口角を上げた。
◇
ローンズ王国の学校は比較的裕福な家庭の子供だけが通っている。
校舎はアトラス王国と同盟を組んでから建てられた建物のため、比較的新しい。
勉強会二日目は授業を見学し、どのような取組みを行っているかを教えてもらった。授業が終わると、三十名ほどの教員たちが今後の教育について意見を交し合う。誰もが真剣だった。
そんな中、一人の女性が慌てて部屋に入ってくる。一斉にその女性に視線が注がれた。
「あ、い、今……っ。あの……っ」
「先生、どうしました? 落ち着いてください」
年老いた校長が女性に優しく声をかける。
「いえっ……はい。……い、今、セイン様がお見えになりまして、アトラスの皆様に挨拶をしたいと……っ!」
部屋が一瞬でざわついた。
エリー王女もまた驚き、部屋の隅に立っていたアランとアルバートに視線を送る。エリー王女は身分が皆にばれてしまうのではないかと気にしているのだろう。アランはすぐエリー王女の側に行き、耳元で声をかける。
「大丈夫です。お会いしたことはありませんし、ギルは察してくれると思います……」
「はい……」
青い顔のままエリー王女は前を向き、顔を見られないように俯いた。
アランとアルバートは互いに視線を交わすことはしなかったが、同じことを考えているのが分かっていた。
自分達の意図が伝わっている、と。
シトラル国王とリアム国王が交わした約束の中に、セイン王子がアトラス王国を訪問することは禁止されていたが、エリー王女と会ってはいけないとは書かれていなかった。
ただし、今回は挨拶はせず教員としての仕事を全うせよ。一緒に来ている教員に正体がばれないように気を付けよ。というものが加わっている。
そのため、エリー王女から接触することは出来ない。
ならば会いに来てもらうしかなかった。
それも偶然に。
偶然であれば約束を破ることにはならない。
リアム国王がセイン王子とエリー王女を会わせたくないのであれば、普通にギルから返事が来るだけであり、二人で会って終わりである。
エリー王女やアラン、アルバートはセイン王子について何も知らないということになっているし、セイン王子もエリー王女の記憶はない。知らない者同士が会うのであれば、しがらみが何もないため、仲良くなったとしても問題はないはず。
そして今、その作られた偶然の出会いが起きるのだ。
皆が固唾を飲む中、扉が開いた。
薄い茶色の髪に、青緑色の瞳。
髪型も服装も違ってはいたが、アランには紛れもなくレイであると分かった。
胸に熱いものが込み上げてきて、ぐっとこらえる。
ギルが先に言葉を発する。
「突然の訪問で申し訳ありません。セイン様からアトラスの教員の皆さんに挨拶をさせて頂きたく、少しだけお時間を頂戴いたします。では、セイン様……」
「はるばる遠いこの地によく来てくれた――――」
セイン王子の声を聞き、俯いていたエリー王女の肩が震えた。
「アランさんが……」
ギルは手紙を握り締め、ハルの元に向かう。
「お忙しいところ恐れ入ります。アトラスに住む友人が王都に来ているらしく、数時間ほどお暇を頂いても良いでしょうか?」
側近としての振る舞いを確認すると、ハルは笑みを浮かべる。
「セイン様が良いと仰れば構いませんよ。それに陛下はアトラスに住む者を大切にするべきであるとのお考えです。その友人を大切にしてください」
「ありがとうございます。同じ側近となり、少し話をしてみたかったので良かったです」
ギルがほっとしたように笑顔を見せたが、ハルは顔をしかめた。
「側近? ギルの友人とはどなたなのですか?」
「アランさんです」
「……手紙、今持っていますか? 見せていただいても?」
ギルは首をかしげながらハルに手紙を渡す。書いてあるのは『一般人としてローンズ王国に来た。良かったら会いたい』という短い文である。ハルは手紙を読んで何か考え込んでいた。
「側近同士会うのは良くないことでしょうか? もちろん内部的な話はするつもりはありませんが……」
「いえ……問題ありませんよ。ですが、少し時間をもらっていいですか? セイン様にも、他の誰にもまだ伝えないでおいてください」
「はい、勿論です。では、宜しくお願いします」
ギルは手紙を受け取り部屋を出た。
一人になったハルは、アランの手紙の真意について考え込む。
側近であるアランさんがローンズに一人で来たのか、それとも……。
ハルはすぐに入国手続きのリストを確認した。そこにはアランの名前と名字は違えどエリーとアルバートという名前が記されている。
ギルに手紙を送ればセイン様や陛下に伝わることは容易に想像できるはず。ということは、遠回しにエリー王女が入国したことを知らせたかったということになる。
何故?
知れば挨拶を行うことが礼儀。
城に呼んで欲しいということだろうか……。
しかし、シトラル国王はセイン様と会わせたくないはず。そのため恐らくではあるが、エリー王女がローンズ王国を訪れていることは隠すようにと言われているだろう。にも関わらず、接触を図ってきた。
ギルに手紙を送ることは王との約束を破る恐れのある危険な行為。
そうまでしてエリー王女の存在を知らせたい理由は?
セイン様のことを何かしら知っている、あるいは探っているのであれば……。
「アランさんの意図は私の都合のいいように勝手に解釈させてもらいましょう」
ハルは僅かに口角を上げた。
◇
ローンズ王国の学校は比較的裕福な家庭の子供だけが通っている。
校舎はアトラス王国と同盟を組んでから建てられた建物のため、比較的新しい。
勉強会二日目は授業を見学し、どのような取組みを行っているかを教えてもらった。授業が終わると、三十名ほどの教員たちが今後の教育について意見を交し合う。誰もが真剣だった。
そんな中、一人の女性が慌てて部屋に入ってくる。一斉にその女性に視線が注がれた。
「あ、い、今……っ。あの……っ」
「先生、どうしました? 落ち着いてください」
年老いた校長が女性に優しく声をかける。
「いえっ……はい。……い、今、セイン様がお見えになりまして、アトラスの皆様に挨拶をしたいと……っ!」
部屋が一瞬でざわついた。
エリー王女もまた驚き、部屋の隅に立っていたアランとアルバートに視線を送る。エリー王女は身分が皆にばれてしまうのではないかと気にしているのだろう。アランはすぐエリー王女の側に行き、耳元で声をかける。
「大丈夫です。お会いしたことはありませんし、ギルは察してくれると思います……」
「はい……」
青い顔のままエリー王女は前を向き、顔を見られないように俯いた。
アランとアルバートは互いに視線を交わすことはしなかったが、同じことを考えているのが分かっていた。
自分達の意図が伝わっている、と。
シトラル国王とリアム国王が交わした約束の中に、セイン王子がアトラス王国を訪問することは禁止されていたが、エリー王女と会ってはいけないとは書かれていなかった。
ただし、今回は挨拶はせず教員としての仕事を全うせよ。一緒に来ている教員に正体がばれないように気を付けよ。というものが加わっている。
そのため、エリー王女から接触することは出来ない。
ならば会いに来てもらうしかなかった。
それも偶然に。
偶然であれば約束を破ることにはならない。
リアム国王がセイン王子とエリー王女を会わせたくないのであれば、普通にギルから返事が来るだけであり、二人で会って終わりである。
エリー王女やアラン、アルバートはセイン王子について何も知らないということになっているし、セイン王子もエリー王女の記憶はない。知らない者同士が会うのであれば、しがらみが何もないため、仲良くなったとしても問題はないはず。
そして今、その作られた偶然の出会いが起きるのだ。
皆が固唾を飲む中、扉が開いた。
薄い茶色の髪に、青緑色の瞳。
髪型も服装も違ってはいたが、アランには紛れもなくレイであると分かった。
胸に熱いものが込み上げてきて、ぐっとこらえる。
ギルが先に言葉を発する。
「突然の訪問で申し訳ありません。セイン様からアトラスの教員の皆さんに挨拶をさせて頂きたく、少しだけお時間を頂戴いたします。では、セイン様……」
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セイン王子の声を聞き、俯いていたエリー王女の肩が震えた。
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