恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
136 / 235
第11章 再会

第136話 重なる人物

しおりを挟む


 客室に通されたギルは手に汗を握ったまま、使用人が淹れる紅茶をじっと見つめていた。

「緊張してる? あ、良かったら飲んで?」

 セイン王子は人懐っこい笑顔をギルに向け、紅茶を勧める。笑顔も声もレイに似ていて、胸が苦しい。

「あ、ありがとうございます」

 促されるまま震える手でカップを掴み、紅茶に口をつけた。

「突然連れてこられたらそりゃ緊張しちゃうよね。ごめんね。ギルとゆっくり話がしたくなっただけなんだ」
「……私も……セイン様に会いたいと思っていたので」
「俺に? 何か用件が?」
「あ、いえ……そうではなく……」

 用件……。
 考えてみれば会ってどうするつもりだったのか考えていなかった。

 ギルはなんて答えていいか分からず視線を落とす。

「んー、亡くなった彼と関係があるのかな? セルダ室長が推薦するのもその彼が関係しているみたいだし」

 セイン王子が眉を下げて気遣いを見せたため、ギルは頭を下げた。

「さっきセルダ室長が言っていたことですが、私はセイン様が側近をお探しだというお話は先程初めて耳に致しまして……。ですので……あの……失礼ながら私にはそのような大それたことは……」
「うん、そうかなーと思っていたよ。んー、でも何故セルダ室長がギルを推薦したのかが知りたいかな。何か意図があるんじゃないかって。ねえ、嫌じゃなければ亡くなった彼について教えてくれる?」

 ギルもセルダ室長が何故側近に推薦したのか分からなかったため、セイン王子の質問に考えるように頷く。

「はい……。私は聖職者として教会におりましたが、教会からある人の元に行くようにと言われました。その場所は閉ざされた世界で夢も希望もありませんでした。そんな時、彼に会ったんです。名前は、レイ」
「レイ……。ギルが俺を見て呼んだ名前だよね」
「はい、すみません……。とても……似ているんです。セイン様はレイに……とても……」

 名前を出すと目頭が熱くなるのを感じ、ギルは慌てハンカチを取り出した。

「レイは力になるって言ってくれて……私に希望をくれました。そして命懸けで二度も命を……救ってくれました……それなのに………………すみません……ちょっと……」

 次から次へと涙が溢れ、言葉に出来ない。

「いいよ、無理しないで。思い出させてごめん」
「いえ……すみません……私が…………」

 セイン王子に会いたかった理由。
 それはレイにもう一度会って伝えたかったことがあったから……。

「レイ……ごめん……。あの時、無理をしてでもレイを完全に回復さえしていたら……。レイに何一つお返しが出来なくて……本当にごめん……」

 セイン王子をレイに見立て謝るギルに、セイン王子はただ黙って聞いていた。

「ギル……ありがとう。ギルのせいだとは思っていないし、お返しも欲しいとは思っていないよ。ギルもそれは分かっているでしょ。ね?」

 顔を上げるとセイン王子は微笑みを浮かべている。それはとても優しい笑みだった。

「セイン様……ありがとうございます……」
「ううん。きっと……セルダ室長はレイに似ている俺なら、ギルの足枷が取れると考えたんだろうな……」
「そんな……! もしそんな理由なら本当、失礼にも程がありますよね! 大変申し訳ございません!!」

 ギルは慌てて頭を深く下げた。

「あはは。これは単に俺の予想だから気にしないで。それより、ギルはなんでアトラス城に正式に仕えないの? 聖職者に戻るとか?」
「いえ……私は育ててくれた人が聖職者でしたので、そのまま聖職者の道を選びました。しかし、そこは自分を必要としていませんでした。ですので、そこに戻ることは出来ません。アトラス城では皆さんとても良くしてくださいます。しかし、どこか虚無感があるのです」

 ギルの答えにセイン王子は難しい顔をして真っ直ぐ見据える。

「ギルの魔法には希少価値がある。誰もが側に置いておきたいと思うだろう。大金を出す者やギルを攫う者もいるかもしれない。悪用するためにギルの魔法を欲する人も出てくると思う。だから、早めに信頼のおける人の側に仕えた方がいい」
「レイも……レイも同じ事を言っていました……」
「あー……そう? レイとは顔だけじゃなく性格も似てるってことなのかな? なんか面白いね」

 あははとおどけてみせるセイン王子は、身分の高い王子という感じが全くしない。懐かしくて、暖かくて、とても安心することが出来る不思議な人だった。

 もし、この力を必要としてくれるなら……。
 もし、側にいてもいいと言ってくれるのなら……。

 ギルの心が急に騒ぎ出した。

「あ、あの……側近というとやはり強くないといけないものでしょうか……」
「んー、強さは大丈夫。ギルだったら補助してくれるだけで十分だと思う。むしろ俺がギルを守ってあげるから。なんてね……え? 何?」

 またギルの瞳から涙が溢れてきた。



 どうしてこうまで似ているのか……。



「セイン様、もしも……。お側に置いていただけるのであれば是非お願いしたいです。この国のことなど一生懸命覚えます。魔法ももっと覚えます。私はセイン様にお仕えしたいです」
「ギル……」

 ギルがソファーから下り、跪くと深く頭を下げるとセイン王子は戸惑いの声を上げた。




しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...