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第10章 未熟
第125話 真実の裏側
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アルバートが側近室でトレーニングをしていると、アランが帰って来た。
「おー、おっかえり~。あれ? エリー様、どうしたんすか?」
アランの横には何故かエリー王女が立っている。深刻な表情の二人を見て、アルバートは何かあったのかと慌ててシャツを羽織った。
「急にすまない。ちょっといいか? エリー、こっちに」
「はい」
聞き捨てならない呼び方に、アルバートは目を見開く。
「え? 何? やっぱりそういうことなん? ちょ、は? いや、それはやべーって!」
エリー王女とアランが予想していた通りの関係だと思ったアルバートは一人で勝手に焦りだした。
「そういうことって何だ? まだ何も話してないだろう。とにかく座って聞いて欲しい」
「お、おぅ。そうだな……」
三人が応接用の椅子に座ると、アランは眉間にシワを寄せながら口を開いた。
「すまない。俺だけではもう限界だ。アルバートは恋愛は得意らしいから頼ろうと思う」
「アルバートが……? それは心強いですが……」
エリー王女は不安そうに隣に座るアランを見上げると、アランは大丈夫だと言うように頷く。
「いや、何? いくら得意でもそれは俺でもどーにも出来ねえっつーか……。もちろん好きになったもんはしょーがねーし、止めらんねー気持ちも分かるよ? でも、エリー様はさ……王女なわけで……」
「アルバートは気がついていたのですか?」
「いや、ちょっとそうかなぁーと思っていただけで、まさか本当だったとは……」
「そうでしたか……。昨夜、アランに言われてリリュートやジェルミア様と向き合ってみたのですが……」
エリー王女はアランをチラリと見て、アランに昨日言われたことやリリュートとジェルミア王子と何をしたのか正直に話した。
「あー……、なんちゅーか、お二方は積極的で……アランも辛い立場だな……」
「いや、俺なんかは大したことはない。ただアイツを思うとなちょっとな……」
アルバートは予想していなかったアランの返事に首を捻る。
「……ん? アイツって誰だ? 何で第三者が出てくる?」
アランもまた眉間にシワを寄せて首を捻った。
「……アルバートはエリーが誰を好きなのか分かってるんじゃないのか?」
「いや、今ので自信なくなった。誰なん?」
アランはちらりとエリー王女を見てから、眼鏡のブリッジを上げた。
「レイだ。二人は関係もあった」
「そっちか!! てっきりアランとエリー様が付き合ってんのかと思ったぜ、ははは。いや、笑い事じゃねーな。どっちにしても良くはないもんな……あ、ってことはマーサさんとの話は? カモフラージュ? まぁいいや、とりあえず詳しく教えてくれ。そのアランのエリー様に対する呼び方も気になるし」
「ああ」
アランは二人に関することを簡潔に伝えると、アルバートは何かを考えるように押し黙った。
「……あー、知らなかったとはいえ、二人っきりにする作戦は間違っていたわけだ!」
アルバートは頭をかきながら椅子から降り、エリー王女の前で跪く。
「エリー様、辛い思いをさせて申し訳ございませんでした」
「あの……頭を上げて下さい。アルバートは側近として正しいことをしてくださったのです。責務を全うできない私の心に問題があるだけですから……。それと……」
エリー王女は席を立ち、潤んだ瞳でアルバートの手を取った。
「アルバートも誰もいないときは友人として接して頂けますか。私はアルバートとも心を通わせたいです」
「え……あ、はい……、じゃなくて、おぅ……」
「ありがとうございます」
アルバートは近距離で微笑むエリー王女を見て、目を見開き仄かに頬を染める。
「ぐわぁぁぁぁぁ!! この破壊力やべー! これは誰でも落ちるっしょ! ちょ、エリー様、じゃなくてエリーちゃん。まずは興味のない男との接し方を覚えよう! そこ、めっちゃ大事だから!」
慌てて立ち上がり、エリー王女から距離を取ったアルバートは胸を押さえた。
「あと、国王選びはとりあえず保留! こんな状態で無理に探したって見つかんねーからな。まだ十八歳だし、一年くらいはのらりくらりと交わしていこう! 俺が伝授してやっから!」
アルバートはエリー王女に手を差し出し、立ち上がらせる。
「宜しいのですか? あの……周りから煩く言われているのでは?」
「ま、そこは俺とアランでなんとかするし、エリーちゃんは公務に専念したらいい。あと……アラン」
手を差し出すとアランはその手を取り立ち上がった。
「話してくれてありがとな」
「いや、もっと早く言うべきだった」
「そうだぜー! 隠し事はもうなしだ! よし! みんなで顔上げて楽しんでいこー!」
満面の笑みで元気付けようとするアルバートに釣られ、エリー王女とアランも笑みを作った。
◇
しぶきが飛び、床に叩きつける多くの水がぶつかる音が響く。
頭からシャワーを被るアルバートの表情は固かった。
先程した会話が蘇る――――。
「な、なるほど……。このことを知っているのは他にもいるん?」
「親父とマーサさん、それとアーニャとジェルミア様……」
「な、なんか凄いメンバーだな……」
「ああ、しかし信頼していい」
――――あの場では言わなかったが、アルバートはこの会話に引っ掛かりを感じていた。
それは、レイの死についてだった。
アランは"先入観"で疑うことがなかったのだろう。
現在分かっていることは、レイは一度回復したのに、容態が急変して亡くなったこと。その際、側にいたのはセロードのみで、セロードはエリー様とレイの関係を知っていた。
もう一つ。
レイは側近であるにも関わらず亡くなる前に二回ほど別の任務に就いていた。
そこに持ち上がる疑問。
セロードはシトラル国王の第一側近であり、もしこの事実を国王へ報告していたとしたらどう動くだろうか。通常であれば処刑だろう。公に処刑すれば事実は露見されるため、エリー王女にとって、この国にとってマイナスなイメージが生まれる。
もし処刑するなら……。
アルバートの頭に、一つの結論が思い浮かぶ。
――――レイは、シトラル国王に抹消された――――
「おー、おっかえり~。あれ? エリー様、どうしたんすか?」
アランの横には何故かエリー王女が立っている。深刻な表情の二人を見て、アルバートは何かあったのかと慌ててシャツを羽織った。
「急にすまない。ちょっといいか? エリー、こっちに」
「はい」
聞き捨てならない呼び方に、アルバートは目を見開く。
「え? 何? やっぱりそういうことなん? ちょ、は? いや、それはやべーって!」
エリー王女とアランが予想していた通りの関係だと思ったアルバートは一人で勝手に焦りだした。
「そういうことって何だ? まだ何も話してないだろう。とにかく座って聞いて欲しい」
「お、おぅ。そうだな……」
三人が応接用の椅子に座ると、アランは眉間にシワを寄せながら口を開いた。
「すまない。俺だけではもう限界だ。アルバートは恋愛は得意らしいから頼ろうと思う」
「アルバートが……? それは心強いですが……」
エリー王女は不安そうに隣に座るアランを見上げると、アランは大丈夫だと言うように頷く。
「いや、何? いくら得意でもそれは俺でもどーにも出来ねえっつーか……。もちろん好きになったもんはしょーがねーし、止めらんねー気持ちも分かるよ? でも、エリー様はさ……王女なわけで……」
「アルバートは気がついていたのですか?」
「いや、ちょっとそうかなぁーと思っていただけで、まさか本当だったとは……」
「そうでしたか……。昨夜、アランに言われてリリュートやジェルミア様と向き合ってみたのですが……」
エリー王女はアランをチラリと見て、アランに昨日言われたことやリリュートとジェルミア王子と何をしたのか正直に話した。
「あー……、なんちゅーか、お二方は積極的で……アランも辛い立場だな……」
「いや、俺なんかは大したことはない。ただアイツを思うとなちょっとな……」
アルバートは予想していなかったアランの返事に首を捻る。
「……ん? アイツって誰だ? 何で第三者が出てくる?」
アランもまた眉間にシワを寄せて首を捻った。
「……アルバートはエリーが誰を好きなのか分かってるんじゃないのか?」
「いや、今ので自信なくなった。誰なん?」
アランはちらりとエリー王女を見てから、眼鏡のブリッジを上げた。
「レイだ。二人は関係もあった」
「そっちか!! てっきりアランとエリー様が付き合ってんのかと思ったぜ、ははは。いや、笑い事じゃねーな。どっちにしても良くはないもんな……あ、ってことはマーサさんとの話は? カモフラージュ? まぁいいや、とりあえず詳しく教えてくれ。そのアランのエリー様に対する呼び方も気になるし」
「ああ」
アランは二人に関することを簡潔に伝えると、アルバートは何かを考えるように押し黙った。
「……あー、知らなかったとはいえ、二人っきりにする作戦は間違っていたわけだ!」
アルバートは頭をかきながら椅子から降り、エリー王女の前で跪く。
「エリー様、辛い思いをさせて申し訳ございませんでした」
「あの……頭を上げて下さい。アルバートは側近として正しいことをしてくださったのです。責務を全うできない私の心に問題があるだけですから……。それと……」
エリー王女は席を立ち、潤んだ瞳でアルバートの手を取った。
「アルバートも誰もいないときは友人として接して頂けますか。私はアルバートとも心を通わせたいです」
「え……あ、はい……、じゃなくて、おぅ……」
「ありがとうございます」
アルバートは近距離で微笑むエリー王女を見て、目を見開き仄かに頬を染める。
「ぐわぁぁぁぁぁ!! この破壊力やべー! これは誰でも落ちるっしょ! ちょ、エリー様、じゃなくてエリーちゃん。まずは興味のない男との接し方を覚えよう! そこ、めっちゃ大事だから!」
慌てて立ち上がり、エリー王女から距離を取ったアルバートは胸を押さえた。
「あと、国王選びはとりあえず保留! こんな状態で無理に探したって見つかんねーからな。まだ十八歳だし、一年くらいはのらりくらりと交わしていこう! 俺が伝授してやっから!」
アルバートはエリー王女に手を差し出し、立ち上がらせる。
「宜しいのですか? あの……周りから煩く言われているのでは?」
「ま、そこは俺とアランでなんとかするし、エリーちゃんは公務に専念したらいい。あと……アラン」
手を差し出すとアランはその手を取り立ち上がった。
「話してくれてありがとな」
「いや、もっと早く言うべきだった」
「そうだぜー! 隠し事はもうなしだ! よし! みんなで顔上げて楽しんでいこー!」
満面の笑みで元気付けようとするアルバートに釣られ、エリー王女とアランも笑みを作った。
◇
しぶきが飛び、床に叩きつける多くの水がぶつかる音が響く。
頭からシャワーを被るアルバートの表情は固かった。
先程した会話が蘇る――――。
「な、なるほど……。このことを知っているのは他にもいるん?」
「親父とマーサさん、それとアーニャとジェルミア様……」
「な、なんか凄いメンバーだな……」
「ああ、しかし信頼していい」
――――あの場では言わなかったが、アルバートはこの会話に引っ掛かりを感じていた。
それは、レイの死についてだった。
アランは"先入観"で疑うことがなかったのだろう。
現在分かっていることは、レイは一度回復したのに、容態が急変して亡くなったこと。その際、側にいたのはセロードのみで、セロードはエリー様とレイの関係を知っていた。
もう一つ。
レイは側近であるにも関わらず亡くなる前に二回ほど別の任務に就いていた。
そこに持ち上がる疑問。
セロードはシトラル国王の第一側近であり、もしこの事実を国王へ報告していたとしたらどう動くだろうか。通常であれば処刑だろう。公に処刑すれば事実は露見されるため、エリー王女にとって、この国にとってマイナスなイメージが生まれる。
もし処刑するなら……。
アルバートの頭に、一つの結論が思い浮かぶ。
――――レイは、シトラル国王に抹消された――――
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