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第09章 責務
第118話 不意
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アランから見て、エリー王女はリリュートに心を開いているように見えた。
エリー王女とリリュートはK地区の修繕工事計画以外にも何度か仕事を共にしていること。
他の者より年が近いこともあり、仕事の相談なども気楽に出来ることも関係しているのだろう。
そのことは悪いことではない。しかし、アランは複雑な心境だった。
エリー王女がリリュートについてどう感じているのかを知りたかったアランは、側近室にマーサを呼んだ。
「リリュート様ですか? いえ、話題にされたことはございません。部屋に戻っても仕事ばかりしておりますので……」
「そうですか……。他に目を向けるのは良いことですが、無理をしていなければ良いのですが……」
アランは息を吐き、自分の執務机に置いてあるローンズ城のスノードームを見つめた。
「それは、レイ様のスノードームですね」
「え? ああ、はい……。これだけは手元に残しました。あいつ、これをよく見ていたから……」
執務机の前に立つマーサは、スノードームからアランに視線を戻し何かを察したように微笑みを浮かべる。
「エリー様もです。毎日レイ様とお揃いで買った、アトラス城のスノードームを手に取り眺めていらっしゃいます。お心は今でもレイ様の元にあるようです」
アランはスノードームをじっと見つめた。
「勝手ではありますが、俺はまだあいつを思っていて欲しいって思っているんです……」
降り積もった雪は、ローンズ城を白く染めている。
静かに佇んでいる姿は、そこだけ時間が止まっているかのように見えた。
「はい……」
◇
第二側近となったアルバートは、研修期間を終えて何度もエリー王女の側に仕えている。
「リリュート、今仕事が終ったのですか?」
アトラス城内で行われていた会議に参加していたリリュートを見つけたエリー王女は、パタパタと駆け寄った。
いつも無表情で人を寄せ付けないリリュートではあるが、エリー王女が声をかけると小さく笑みを浮かべる。その笑顔はアルバートから見て、とても好意的に感じた。
「はい、エリー様」
「今から食事をするのですが宜しければ一緒にいかがでしょうか?」
エリー王女もまた、リリュートを特別な扱いをしているようだった。会う度に声をかけ、時間が許す限り二人でいる。たとえ内容が仕事の話であっても、エリー王女は自ら声をかけるのはリリュート位だったからだ。
リリュートがエリー王女に惚れているのは一目瞭然である。
二人っきりになれば、もう少し腹を割って話せるだろう。
アルバートは食事を終えた後、紅茶を用意をし、二人っきりにさせた。
◇
二人は暖炉の前のソファーに並んで座り、紅茶を飲みながら今まで読んだ本について語り合っていた。パチパチと木が弾く音とリリュートの優しい声が心地よく響く。
「テラーの書をエリー様もお読みだったのですね。私もテラーのように一人の女性を守り抜きたいと思ったものです」
「はい。恋人を想う彼の姿に何度も涙しました」
二人が同じ趣味だということを先程知ったばかり。いつも静かなリリュートもお酒のせいもあって少しだけ饒舌だった。
時間を忘れ、二人は色々な物語について語り合う。
エリー王女は仕事以外では楽しいと感じることはなかったが、久しぶりに肩の力を抜いて楽しむことが出来ていた。
「申し訳ございません。つい話し込んでしまいました」
「ふふふ。リリュートが楽しそうに話しているのは見ていても楽しいです」
そもそもリリュートは他の人とは違い、お世辞や自分を売り込むようなことはしない。一緒にいるのは心地よかった。
「エリー様……」
笑顔で見つめていたら、リリュートの瞳が少し熱を帯びたように見えた。穏やかだった空気が湿り気を帯び、リリュートの声もどこか違う。
この状態は良くない気がすると感じながらも、暖炉の火に照されたリリュートの瞳から目が離せなくなってしまった。
「あの……リリュート……?」
リリュートの右手がエリー王女の頬に触れる。
「……リアム陛下とジェルミア王子、どちらかをお選びになる予定なのでしょうか」
垂れ下がった瞳を更に下げながら、静かに尋ねてきた。
「いえ……。私はまだ誰とも結婚するつもりはございません。今は政治に注力したいと思っております」
「……では、まだ私にもチャンスはあるということでしょうか」
真剣な眼差しを向けられ、エリー王女は目を反らすことが出来ずにいた。
「あの……それはわかりません……まだ、その……」
エリー王女の中にはまだレイがいた。しかし、いずれは国のためにも結婚し、子供を産まなければならない。
いつかは選ばなくてはならないのだ。
頭では分かってはいたがまだその気にはなれない。
アランからも暫くは考えなくてもいいと言ってくれていたため最近はそのことを忘れて過ごしていた。
なんて答えて良いのか考えていると不意に視界が狭くなり、影が落ちる。
そして唇に柔らかいものが触れた。
エリー王女とリリュートはK地区の修繕工事計画以外にも何度か仕事を共にしていること。
他の者より年が近いこともあり、仕事の相談なども気楽に出来ることも関係しているのだろう。
そのことは悪いことではない。しかし、アランは複雑な心境だった。
エリー王女がリリュートについてどう感じているのかを知りたかったアランは、側近室にマーサを呼んだ。
「リリュート様ですか? いえ、話題にされたことはございません。部屋に戻っても仕事ばかりしておりますので……」
「そうですか……。他に目を向けるのは良いことですが、無理をしていなければ良いのですが……」
アランは息を吐き、自分の執務机に置いてあるローンズ城のスノードームを見つめた。
「それは、レイ様のスノードームですね」
「え? ああ、はい……。これだけは手元に残しました。あいつ、これをよく見ていたから……」
執務机の前に立つマーサは、スノードームからアランに視線を戻し何かを察したように微笑みを浮かべる。
「エリー様もです。毎日レイ様とお揃いで買った、アトラス城のスノードームを手に取り眺めていらっしゃいます。お心は今でもレイ様の元にあるようです」
アランはスノードームをじっと見つめた。
「勝手ではありますが、俺はまだあいつを思っていて欲しいって思っているんです……」
降り積もった雪は、ローンズ城を白く染めている。
静かに佇んでいる姿は、そこだけ時間が止まっているかのように見えた。
「はい……」
◇
第二側近となったアルバートは、研修期間を終えて何度もエリー王女の側に仕えている。
「リリュート、今仕事が終ったのですか?」
アトラス城内で行われていた会議に参加していたリリュートを見つけたエリー王女は、パタパタと駆け寄った。
いつも無表情で人を寄せ付けないリリュートではあるが、エリー王女が声をかけると小さく笑みを浮かべる。その笑顔はアルバートから見て、とても好意的に感じた。
「はい、エリー様」
「今から食事をするのですが宜しければ一緒にいかがでしょうか?」
エリー王女もまた、リリュートを特別な扱いをしているようだった。会う度に声をかけ、時間が許す限り二人でいる。たとえ内容が仕事の話であっても、エリー王女は自ら声をかけるのはリリュート位だったからだ。
リリュートがエリー王女に惚れているのは一目瞭然である。
二人っきりになれば、もう少し腹を割って話せるだろう。
アルバートは食事を終えた後、紅茶を用意をし、二人っきりにさせた。
◇
二人は暖炉の前のソファーに並んで座り、紅茶を飲みながら今まで読んだ本について語り合っていた。パチパチと木が弾く音とリリュートの優しい声が心地よく響く。
「テラーの書をエリー様もお読みだったのですね。私もテラーのように一人の女性を守り抜きたいと思ったものです」
「はい。恋人を想う彼の姿に何度も涙しました」
二人が同じ趣味だということを先程知ったばかり。いつも静かなリリュートもお酒のせいもあって少しだけ饒舌だった。
時間を忘れ、二人は色々な物語について語り合う。
エリー王女は仕事以外では楽しいと感じることはなかったが、久しぶりに肩の力を抜いて楽しむことが出来ていた。
「申し訳ございません。つい話し込んでしまいました」
「ふふふ。リリュートが楽しそうに話しているのは見ていても楽しいです」
そもそもリリュートは他の人とは違い、お世辞や自分を売り込むようなことはしない。一緒にいるのは心地よかった。
「エリー様……」
笑顔で見つめていたら、リリュートの瞳が少し熱を帯びたように見えた。穏やかだった空気が湿り気を帯び、リリュートの声もどこか違う。
この状態は良くない気がすると感じながらも、暖炉の火に照されたリリュートの瞳から目が離せなくなってしまった。
「あの……リリュート……?」
リリュートの右手がエリー王女の頬に触れる。
「……リアム陛下とジェルミア王子、どちらかをお選びになる予定なのでしょうか」
垂れ下がった瞳を更に下げながら、静かに尋ねてきた。
「いえ……。私はまだ誰とも結婚するつもりはございません。今は政治に注力したいと思っております」
「……では、まだ私にもチャンスはあるということでしょうか」
真剣な眼差しを向けられ、エリー王女は目を反らすことが出来ずにいた。
「あの……それはわかりません……まだ、その……」
エリー王女の中にはまだレイがいた。しかし、いずれは国のためにも結婚し、子供を産まなければならない。
いつかは選ばなくてはならないのだ。
頭では分かってはいたがまだその気にはなれない。
アランからも暫くは考えなくてもいいと言ってくれていたため最近はそのことを忘れて過ごしていた。
なんて答えて良いのか考えていると不意に視界が狭くなり、影が落ちる。
そして唇に柔らかいものが触れた。
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