恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第08章 絶望

第109話 最後の願い

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――――深夜。
 会場内にはまだ多くの来賓が残っている。

 そんな騒がしい会場を抜け出し、エリー王女は薄暗い城内の廊下を走っていた。
 普段であればアランはそれを止めたであろう。しかし、アランもまた急いでいた。

 はぁはぁと大きな息を吐きながら、エリー王女はひたすら真っ直ぐ突き進む。
 二人の足音が大きく響き、すれ違う使用人たちは何があったのかと首を傾げた。



 エリー王女が目的のドアを勢いよく開くとそこには、セロードが一人ベッドの側で立っている。

 走ってきたせいなのか心臓が大きな音をたてて鳴り響く。
 息遣いも荒く呼吸を上手くすることが出来ない。

 胸に手を当てたまま、エリー王女はゆっくりとベッドに近づいた。

「……はぁ、はぁ、はぁ……レイ……?」

 呼吸を整え、エリー王女はレイの頬に触れる。
 顔色が悪い。

「レイ……レイ?」

 エリー王女は震える声でレイに何度も声をかけた。
 しかしレイは全く反応を示さない。



「エリー様……。レイは……先ほど息を引き取りました……」







 セロードの答えに沈黙が流れる。



「う、嘘です……そのようなことがあるわけございません……。だって……ほら、温かいですよ……?」

 ベッドに腰掛け、両手で愛しげにレイの頬を挟む。
 そんなことがあるわけがない。
 レイはただ眠っているだけ。

「……親父……あれからいったい何があったんだ? 俺が部屋から出た時は回復していた……。医者ももう大丈夫だと……」

 アランの声は震えていた。

「レイと話をしていた時、容体が急に悪化した。医者を呼んだが……到着する頃にはもう……」
「違います……レイは死んでなどおりません。ずっと側にいると約束をしてくれました……。ですので、そんなはずはありません」
「申し訳ございませんが……」
「違うと言っております!! レイは……レイは……嫌……嫌です!! レイ……レイ……起きてください……。そして私の名前を呼んで? 私を抱きしめて……お願い……一人にしないで」

 零れ落ちる涙が次々とレイの体の上に落ちた。
 力の抜けた体。
 呼吸は……ない。

「嘘……違っ……違います……そんなはず……」

 ……うっ……ううっ……

「嫌……嫌よ、嫌ああああああああああああ!!! レイっレイっ、ずっと側にいてくれると言っていたのにっ!! レイがいてくれたからっ……レイが側にいると思っていたから私っ……うして……どうして……お願い……レイ……ううっ……あああああああ!!!」

 レイに覆いかぶさるようにして泣き崩れた。
 エリー王女の鳴き声が響き渡る中、セロードとアランはひたすら涙を堪えていた。



 時は経ち、エリー王女の鳴き声がすすり泣きに変わった頃。
 扉を叩く音が聞こえ、二人の使用人が入ってきた。

「セロード様、準備が整いました」
「ご苦労。エリー様……申し訳ございませんが、レイを移動させます……」

 セロードがエリー王女に声をかけると、腫れた顔を上げる。

「どこへ移動させるのですか……?」
「レイの希望で、北の魔法研究所へ移動させます。亡くなる前にレイが私に願ったことですので……」
「待って!! 嫌ですっ!! レイは何処にも連れて行きません!!」

 エリー王女はレイにしがみついた。
 セロードがアランに合図を送ると、アランはエリー王女をレイから離そうと肩に手を置いた。

「エリー様こちらへ……」
「待って!! アラン、離して!! 離しなさいっ!! 嫌です!! 連れて行かないで!!!」

 アランもどうしていいか分からなかった。
 友人として、家族としてエリー王女のように泣き叫びたかった。

 しかしやるべきことは、側近としてエリー王女を支えることであり、泣くわけにはいかない。

 セロードの命令に従い、嫌がるエリー王女を無理やりレイから離した。

「どうして!? セロードもアランも家族なのでしょう!? 研究所なんて!!!」
「レイは!! 昔から魔法の研究に力を入れておりました。ですので、死んでもなお何かに役に立ちたかったのだと思います。……レイの気持ちを汲んで頂けないでしょうかっ……お願いします……」

 セロードは顔を歪め、少しだけ声を荒上げてエリー王女に訴えた。
 その声に驚いたエリー王女は、床に座り込む。



 レイの気持ち……。
 レイの願い……。



「……レイっ……うっ……ううっ……」 



 真っ黒な闇に放り込まれたエリー王女は、静かに涙を流し続けた。




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