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第08章 絶望
第108話 決意
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アランと一緒に医者が次の診察のため病室から出て行き、セルダとギルが残った。
レイはギルの方へ視線を移す。
「ギル……、ありがとう。君がいて本当に良かった……」
声を絞り出すようにギルに声をかけた。
「ごめん、俺の魔力が足りないせいで全快にしてやれなくて。辛いだろ?」
自分の方が辛そうな表情をするギルに対し、レイは優しく微笑む。
「もっと胸を張って? 俺は凄く感謝しているから……ね?」
「うん……ありがとう」
「あら、レイはマーサからギルくんに乗り換えたの? そっちもいけるなら早く言いなさいよ」
ギルの後ろから興味深そうに見ていたセルダは、ニヤニヤとレイとギルを交互に見つめた。
「はは、セルダさんには素敵な奥さんがいるじゃないですか……。それより、ここにいるってことは何か研究で?」
「そうだったわ! さっきの結果をまとめなくっちゃ! レイ、回復したら部屋にきてね。試したいことが沢山あるのよ! ギルくんもね! 待ってるわよ!」
セルダは叫びながら嵐のように去っていった。
「えっと……なんだか凄い人だよね……?」
「あはは、少し変わってるけどいい人だよ」
魔法薬はほとんどセルダの手によって開発されている。このアトラス王国ではとても重要な人物だった。ただ、研究のことしか頭にないため、扱いにくいと言えば扱いにくい。
「魔法薬か……」
静かな病室でギルが小さく呟いた。
「ギルはこれからどうするの……?」
どこか遠くを見ているギルにレイが問う。
「うん……シリル、いや、レイが言っていたことをずっと考えていたんだ。信頼できる人の側に……っていう言葉……。だけど俺には……」
苦笑いをこぼすギルにレイは真剣な表情で見据えた。
「ねぅ……もし良ければ……ここに残らない? 騎士団の補佐や、王室医師としてだって迎えてもらえるはずだよ。あと……さっきいたセルダさんのところで魔法薬の研究を手伝ってくれると嬉しいんだけど……」
「研究の手伝い……?」
ギルはピクリと反応を示す。
「うん。補助魔法が使える人がほぼいないこの国では、ギルのような魔法使いは貴重なんだ。今のうちに魔法薬として補助系の魔法を残しておくことができれば今後の発展に大いなる貢献ができると思う」
「あまり自信はないけど、誰かの役に立つことはしたい。レイが信頼しているこの場所でなら、何か見つかるかもしれないな……」
「ここは良いところだよ。ギルの居場所になるはず。聖職者の道に戻ることもいいけど……でも、考えてみて」
ギルが「分かった」と返事をするとドアを叩く音が聞こえた。
二人が視線を扉に移すと、セロードが病室に入ってくる。
「あ、じゃあ俺行くよ。明日の朝すぐに来るから! そしたらまた回復魔法をかけるね。あ、すみません、私は失礼しますので」
「ああ、ギル様ですよね? 始めまして、シトラル陛下の第一側近のセロードです。この度はこの国を守ってくれてありがとうございます。貴方は救世主です」
「えっ!!? そ、そんな大それたものじゃありません。私なんかではなく、レイや前線で戦った騎士の皆様、それに封じ方を知ってらっしゃったアラン様のお陰です。救世主だなんて言わないでください。敬称も不要です。私は何も……。では……私はこれで……失礼します」
困り顔のギルは逃げるように病室から立ち去った。
「ふむ。あまり盛大に宴を開くとあの方は恐縮してしまいそうですね」
「うん、そうかも」
残ったセロードとレイ、もといセイン王子は顔を見合わせると、お互いに小さく微笑み合った。
しかしそれは束の間で、セロードがセイン王子のベッドの脇にある椅子に腰をかけると空気が重く変わる。
「セロードさん、わざわざ来てくれてありがとうございます……」
「いえ、そのままで。生死をさ迷ったと聞いております……。この度の件についてはシトラル国王も功労を称えておられました。ありがとうございます」
「いえ、ハーネイス様をお守りすることは出来ませんでした……」
セイン王子は経緯をすべて報告した。ハーネイスの屋敷にいる使用人たち、そしてギルのことも。
「分かりました。後のことは私にお任せください。使用人の保護とギル……くんのやりたいことが見つかるようこちらで支援致します」
「ありがとうございます。それでセロードさん……お願いがあります……」
レイはギルの方へ視線を移す。
「ギル……、ありがとう。君がいて本当に良かった……」
声を絞り出すようにギルに声をかけた。
「ごめん、俺の魔力が足りないせいで全快にしてやれなくて。辛いだろ?」
自分の方が辛そうな表情をするギルに対し、レイは優しく微笑む。
「もっと胸を張って? 俺は凄く感謝しているから……ね?」
「うん……ありがとう」
「あら、レイはマーサからギルくんに乗り換えたの? そっちもいけるなら早く言いなさいよ」
ギルの後ろから興味深そうに見ていたセルダは、ニヤニヤとレイとギルを交互に見つめた。
「はは、セルダさんには素敵な奥さんがいるじゃないですか……。それより、ここにいるってことは何か研究で?」
「そうだったわ! さっきの結果をまとめなくっちゃ! レイ、回復したら部屋にきてね。試したいことが沢山あるのよ! ギルくんもね! 待ってるわよ!」
セルダは叫びながら嵐のように去っていった。
「えっと……なんだか凄い人だよね……?」
「あはは、少し変わってるけどいい人だよ」
魔法薬はほとんどセルダの手によって開発されている。このアトラス王国ではとても重要な人物だった。ただ、研究のことしか頭にないため、扱いにくいと言えば扱いにくい。
「魔法薬か……」
静かな病室でギルが小さく呟いた。
「ギルはこれからどうするの……?」
どこか遠くを見ているギルにレイが問う。
「うん……シリル、いや、レイが言っていたことをずっと考えていたんだ。信頼できる人の側に……っていう言葉……。だけど俺には……」
苦笑いをこぼすギルにレイは真剣な表情で見据えた。
「ねぅ……もし良ければ……ここに残らない? 騎士団の補佐や、王室医師としてだって迎えてもらえるはずだよ。あと……さっきいたセルダさんのところで魔法薬の研究を手伝ってくれると嬉しいんだけど……」
「研究の手伝い……?」
ギルはピクリと反応を示す。
「うん。補助魔法が使える人がほぼいないこの国では、ギルのような魔法使いは貴重なんだ。今のうちに魔法薬として補助系の魔法を残しておくことができれば今後の発展に大いなる貢献ができると思う」
「あまり自信はないけど、誰かの役に立つことはしたい。レイが信頼しているこの場所でなら、何か見つかるかもしれないな……」
「ここは良いところだよ。ギルの居場所になるはず。聖職者の道に戻ることもいいけど……でも、考えてみて」
ギルが「分かった」と返事をするとドアを叩く音が聞こえた。
二人が視線を扉に移すと、セロードが病室に入ってくる。
「あ、じゃあ俺行くよ。明日の朝すぐに来るから! そしたらまた回復魔法をかけるね。あ、すみません、私は失礼しますので」
「ああ、ギル様ですよね? 始めまして、シトラル陛下の第一側近のセロードです。この度はこの国を守ってくれてありがとうございます。貴方は救世主です」
「えっ!!? そ、そんな大それたものじゃありません。私なんかではなく、レイや前線で戦った騎士の皆様、それに封じ方を知ってらっしゃったアラン様のお陰です。救世主だなんて言わないでください。敬称も不要です。私は何も……。では……私はこれで……失礼します」
困り顔のギルは逃げるように病室から立ち去った。
「ふむ。あまり盛大に宴を開くとあの方は恐縮してしまいそうですね」
「うん、そうかも」
残ったセロードとレイ、もといセイン王子は顔を見合わせると、お互いに小さく微笑み合った。
しかしそれは束の間で、セロードがセイン王子のベッドの脇にある椅子に腰をかけると空気が重く変わる。
「セロードさん、わざわざ来てくれてありがとうございます……」
「いえ、そのままで。生死をさ迷ったと聞いております……。この度の件についてはシトラル国王も功労を称えておられました。ありがとうございます」
「いえ、ハーネイス様をお守りすることは出来ませんでした……」
セイン王子は経緯をすべて報告した。ハーネイスの屋敷にいる使用人たち、そしてギルのことも。
「分かりました。後のことは私にお任せください。使用人の保護とギル……くんのやりたいことが見つかるようこちらで支援致します」
「ありがとうございます。それでセロードさん……お願いがあります……」
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