恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第08章 絶望

第103話 合流

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 サイラスに寄り添う男はレイだった。

「アラン。それに隊長と先輩。一旦引きます。援護!!!」

 レイが手を上げ叫ぶと、後方から多くの矢が飛んできた。

「サイラス様、今のうちに一旦引きます。いいですね」

 有無を言わせない鋭い視線に、サイラスは頷く。
 低い姿勢のまま後方に下がり、対ゴースト用の武器を装備した騎士達と入れ替わった。

 レイたち五人は後方に設けられたバリケード内に入る。

「レイ! いいタイミングで戻ってきたな。ってか、どうしたその服……背中がむき出しになってるじゃないか。着替えは?」

 浄化魔法で血などの汚れは消すことは出来たが、服は元に戻すことは出来ない。さすがに背中だけ見えているのは見た目も悪いが、防御率も下がる。

「うん、頼んである。あの悪魔バフォールだけど――――」

 レイは簡潔にハーネイスの悪魔との契約について説明する。それに対し、アランも状況を報告した。

「対ゴースト用でも少し効果あるかもしれないけど、それだけでは難しそうだね」

 レイがチラリと戦っている様子を窺う。
 バフォールは今もまだ余裕な笑みを浮かべていた。

「悪魔に対抗する手は知ってる?」
「あるにはあるが、洗礼を受けた多くの聖職者か、魔力のある聖職者がいれば恐らく……。今呼びに行ってもらっているが足りるかは分からない……」
「魔力のある聖職者!?」

 レイは瞳を輝かせた。

「ギル! こっちに来て!」

 後ろの方に申し訳なさそうに立つギルを呼ぶ。

「え? あ、うん……」

 ギルはこの場の空気に圧倒されながら、レイの側に来た。周りの視線が痛い。

「アラン、隊長。こちらファラン教会の聖職者なんだ。それに魔力もある」
「おお、あのファランの! それはそれは! 初めまして、騎士団隊長のビルボートです」
「エリー王女第一側近のアランです」

 ギルは差し出された手を慌てて握り、握手を交わす。



「お初にお目にかかります。ファラン教会の……元聖職者になります。洗礼の効果は聖職者を辞めても失われません。ただ……誠に申し訳ないのですが、私は悪魔との戦い方を知りません」
「問題ありません。やり方は文献に載っていました。魔力があるというのであれば、一人でもいけるかもしれません。お力を貸しては頂けないでしょうか」

 自信は全くない。
 しかし、ギルは自分に出来ることがあるのならば手助けしたいと思った。そのために来たのだから。

「もちろんです。何をしたらよろしいでしょうか」
「先ずは私と一緒に書庫へ」
「分かりました」

 ギルの力強い返事にアランは一礼し、ビルボートに視線を移す。

「ビルボート、時間稼ぎを頼む」
「ああ、任せておけ」

 アランはギルを連れて城内へと戻って行った。

「隊長、次は俺も出ます。先制攻撃は俺が行いますので、アル先輩と援護をお願いしたいです」
「あいつ、魔法は効かないみたいだ。無理はしない方がいい」

 ビルボートの心配をよそにレイは笑顔を見せる。

「はい、無理はしません。ただ時間稼ぎに魔法を使うのは有効かと思います」
「わかった。じゃ、二人で援護に回ろう。いいな、アル」
「おう!」

 二人の心強い言葉にレイは小さく一礼し、側で手当てを受けているサイラスの前で跪く。

「サイラス様、申し訳ございません。ここは私たちにお任せ願います。ただ、ハーネイス様のお命は――」
「任せた。悪魔に身を投じた母に情けは必要ない。君らの命を優先してほしい」
「……ありがとうございます」

 ハーネイスを傷付けずに戦うのは難しい。全力で戦わなければこちらの身が危険だった。刺し違えてもハーネイスを止めなければならない。
 サイラスの強い言葉にレイは深く頭を下げた。



 レイ、ビルボート、アルバートの三人は次の戦闘を行うため、装備を整え近くで待機をする。

「退避!!!」

 頃合いを見て、ビルボートが叫ぶ。
 そのタイミングで戦っていた騎士達が後ろへ下がり、レイが飛び出した。

 剣に魔力を込め、上から斬りかかる。
 バフォールはそれを防御するため剣を構えた。
 剣と剣がぶつかる。
 と思ったその瞬間、バフォールの剣をすり抜けて肩に傷を付けた。

「くっ……」

 バフォールはぐらついた体を起こし、素早く体勢を整える。

「やるな、人間。私の剣より強い魔力をその剣に込めたのか……。やっと骨のあるやつが出てきた」

 嬉しそうに目を細めながら、バフォールは手からもう一度剣を作り出した。
 魔法は効かないが、打ち消し合うことは出来る。

「次は無効化は出来ないぞ。さて、どう戦う?」

 強い魔力が剣に注がれるのを感じた。
 魔法で作られた剣と剣に魔力を注いだのでは、魔力の差は大きく開いてしまう。
 バフォールが言うように同じ技は使えない。

「なら次の手だ!」

 レイからもう一度攻撃をしかけた。
 薙ぎ払うと今度は剣と剣がぶつかった。

 その瞬間にレイは稲妻を剣から放つ。
 バフォールの体が青い稲妻に包まれた。
 間髪を入れず剣で流線を描く。

「ぐっ」

 傷は浅そうではあるが、手応えを感じた。

「なるほど、面白い。ならばこちらからもいくぞ」

 バフォールは赤黒い炎の球をレイに向かっていくつも撃つ。
 レイはそれを防ぐために、同じ大きさの赤い炎の球をぶつけた。

 炎と炎が交わると一段と大きな炎に変わる。

 レイは大地に手を置き、土を巻き上げ、炎を覆い隠した。

 今度は風を鋭い刃に変えて飛ばす。
 一緒に風に乗ってバフォールの後ろに回り込んだ。

 すかさずバフォールも剣で防ぎ、レイごと弾き飛ばした。
 ザザザザと、土を削るように体が擦れる。

「次は俺だ!!」

 体制を崩したレイを守るようにビルボートとアルバートが戦闘に加わった。
 レイの体勢が整うとまた交代し、それを何度も繰り返す。

 致命傷は負わせられないものの、時間稼ぎは出来ている。

「気に入らないな。希望などお前たちには不要だ!」

 バフォールからは笑みが消えていた。
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