恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第08章 絶望

第100話 バフォールの襲撃

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「八時の方向より緊急避難信号です!!」

 アトラス城の見張りが慌てて上司に報告を行った。上司も同じように八時の方向へ目を向ける。暫くするともう一度遠くの方で小さな緑色の光が十回瞬いた。緊急避難信号だと確信し、返事のための信号弾を放つ。

「各部に緊急避難の要請! 戦闘配備! また情報部に伝令を!」

 上司は指示を行うともう一度望遠鏡で辺りを観察した。しかし、何処にも攻め入る軍勢も見当たらない。ただのイタズラということもあり得るが……。

「いったい何が……?」



 伝令はアランの耳にも届いた。

「エリー様はこちらへ。ジェルミア様は他の皆様と避難をお願いします」
「一体何が……?」

 エリー王女は青白い顔でアランを見上げる。

「分かりません。しかし、念のために指示に従いましょう」

 パーティーは中断され、避難所へ誘導が始まった。城内が慌ただしくなる。
 ジェルミア王子と別れたエリー王女は、アランと特別な避難場所へと向かう。その場所は隠し扉の奥深くに位置しており、一部の王族しか知らない場所だった。

「エリー様、こちらへ」

 中に入るとすでにシトラル国王が避難しており、エリー王女を迎え入れる。

「お父様っ!」

 エリー王女はシトラル国王のもとへ駆け寄り抱きついた。エリー王女の体は恐怖で震えている。それに気が付いたシトラル国王は優しく体をさすり、大丈夫だ。と声をかけた。

「アラン、ここは我々に任せ状況確認を」

 アランの父であるセロードが指示を出す。アランは王の側近二名にエリー王女を任せ、避難部屋から出て行った。

 使用人達が避難所へ走って行く慌ただしい城内を、アランは騎士団のいる場所へと急ぐ。
 
 その時だった。
 大きな爆発音が轟く。

 城全体が揺れ、窓がガタガタと揺れる。

「西側か」

 アランは近くの見張り台へと駆け上がる。
 息を切らし辿り着くと見張りの男に状況を確認した。

「敵の姿が見えないだと? でははぜ攻撃を受けている!?」

 アランは声を荒げた。

 確かに今いる見張り台では軍勢らしきものが見えない。
 町にも全く異変が見られなかった。

 しかし、西塔が破壊され、燃えている。どこかおかしい。何か見落としていないかと注意深く辺りを見渡す。

 その時、チラっと西の空が光った。
 それと同時にまた大きな破壊音。

「くそっ」

 アランはよろけながらも最初に光った場所を目を凝らして見た。

「何かいる……鳥? いや、人のようにも見える……暗くてよく見えない……。照明弾!」

 アランは近くにいた見張りから照明弾を受け取るとその鳥のような人に向けて撃った。

 ピカっと光が放たれた瞬間、息を飲んだ。

「あれは……ハーネイス様……!?」

 ハーネイスが着ていたパーティドレスと同じものを纏っている。

「しかし……翼が……いったい何なんだ……」

 考えている暇はない。
 相手は一人。
 ハーネイスらしき人物。

 照明弾のお陰で周りもハーネイスに気が付いたようだ。
 強い光にバフォールは目がくらむ。片手で瞳を押さえた。

 まぁ、いい。
 せいぜいこの間に準備をするがいい。

 バフォールは笑みを浮かべた。
 地上から感じる不安や恐怖。

 それはバフォールにとって、とても心地よい旋律に等しい。

「くっくっくっ……少し遊ぶか……」

 バフォールは視界が良好になると、辺りを見渡した。
 逃げ惑う人々の中に、敵意を向けている集団がいる。

「あそこを潰せば面白いだろうな」

 一気に破壊することもできるが、バフォールはそうはしなかった。

 先ほどのように破壊してしまえばあっという間に終わってしまうことが目に見えている。それでは面白くない。

 城壁内の庭らしき広場へ降り、これから始まる遊びを想像して笑みを深めた。

「動くな! その者、名を名乗れ! また目的と何とする!」

 そこで待ち構えていた騎士団の隊長、ビルボートが声を張り上げる。

「我が名はバフォール。エリー王女の命を貰いにきた」
「エリー様のだと!? まさか、お前が今まで……!?」

 少しずつ庭園に明かりが灯される。

「今まで……ああ……そのようだな。くっくっくっ……この女は強欲だ。ああ、面白い事実も持っているぞ?」

 すると、舞い降りた人物に光が当たり、はっきりと顔が見えた。

「ハ、ハーネイス様!!」

 ビルボートとそこにいた多くの騎士たちは目を見開く。

「な、なぜ、このようなことを!?」
「ああ、ハーネイスか……この器の名だったな。今はバフォールがこの身体をもらい受けた」

 バフォールはニヤニヤと笑う。
 対峙するビルボートはどういう意味なのかと考え、困惑する。

「理解などしなくてもよい。さあ、エリー王女とやらを差し出してもらおうか。それがこの女の願いだからな」

 バフォールはゆっくりとビルボートに近づいていく。騎士達は攻撃してよいものか悩んでいた。

「どうした? 攻撃しないのか? 私はお前たちの大切な姫を殺しにきたんだぞ」

 ほくそ笑むバフォールは手を前に掲げる。

「では、こちらから」

 ビルボートからすれすれのところで赤黒い光が迸(ほとばし)る。それは一瞬で、直ぐに爆発音と共に爆風が後ろから押し寄せた。その風でビルボートは一歩前へ押し出される。

「なっ……」

 慌てて振り返ると、後ろにいた数十名の騎士達は仰向けに倒れていた。皮膚がただれ、重度の火傷を負ったようだ。呻き声が聞こえるため、死んではいない。

「ああ、もちろん殺しはしない。苦しみの声が聞こえないからな」

 バフォールは嬉しそうに目を細めた。
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