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第07章 潜入捜査
第099話 アトラス城へ
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暗くてよく見えない。
しかしギルにはそれが何であるか分かった。手のひらに伝わるべっとりとしたもの……。
「う、嘘……」
ギルはレイを横にずらし、這うように抜け出た。震える手ですぐ近くに落ちているランタンを拾い、レイの背中を照らす。
「わぁっ! あぁっ、ど、どうしよう! そ、そうだ、回復を!」
真っ赤に染まる背中。
初めて見る大量の血は、ギルから冷静さを失わせた。
背中に添えた手は震え、魔法が発動しない。それは、気が動転しているため、上手く集中することができないことが原因だった。
「落ち着け……落ち着け……ああ、なんでこんな時まで俺は役立たずなんだ!」
それでも投げ出すわけにもいかないと、ギルは目を閉じゆっくりと呼吸を繰り返す。
「大丈夫……大丈夫……ゆっくりやれば間に合う……」
多少ではあるが落ち着きを取り戻したギルは、もう一度背中の傷に集中した。
暫くするとレイの呼吸の音が変わった。
それに気がついたギルは傷跡を確認する。
「よ、良かった……。傷跡もないし、体温……は、通常通り……もう大丈夫……」
ギルは肩の力をふっと抜いた。
「そうだ……確かめなくちゃ……」
ここ旧ファラン教会は悪魔を封じ込めていたため、立ち入り禁止だったのだろう。そうであればそれを封じる何かがあるのかもしれない。
冷静さを取り戻したギルは、レイの意識が戻るまで祭壇を調べることにした。
慎重に祭壇を上り、ランタンで辺りを照らす。すると、祭壇飾りの台座でギルは不思議な箱を見つけた。
どこもかしこも朽ち果てているこの場所では、この真新しい箱は不自然である。
「何だろう……?」
震える指でそっとつついてみるが何も反応がない。ギルは怯えながらも何度も指先でつついた。
「変わった材質みたい……」
躊躇いがちに手に取る。ギルには、これが悪魔を封印していた物だとは分からない。
「ん……んん……」
僅かにレイがうめき声をあげる。それを敏感に感じ取ったギルは、手に持っていた箱をポケットにしまい、レイの元へ駆け出した。
「ああ、シリル! 良かった……気がついたんだね」
レイは直ぐに起き上がり辺りを見回す。
「……ハ、ハーネイス様は!? あの悪魔はどこ!!?」
「それなら飛んでどこかに行っちゃったけど……えっ! ちょっ、どこ行くの!? 」
レイは何も言わず教会の外へと走り出した。
ギルも慌てて追いかける。
「まさか、アトラス城へ向かうの!? あそこには国内最強の騎士団がいるじゃないか! シリルが行かなくたって!」
「エリーが危ないんだ! ギルはこのままファラン教会に戻って! 俺は行く!」
森の中を走りながら会話を続ける。
「……お、俺も行く! シリルは俺の恩人だ。ここで見捨てたら神へ顔向けが出来ない。足手まといになるかもしれないけど連れて行って!」
さっきはシリルに守ってもらっていなければ自分は死んでいたのだ。
今度は自分が守りたい。
ギルはそんな風に考え、レイにお願いをした。
「足手まといなんかじゃないよ。さっきだってギルがいなかったら危なかったし。回復してくれたんでしょ? 恩人なのはギルの方だよ。本当にありがとう」
「それは、シリルが守ってくれたから! 俺は……シリルの役に立ちたい」
「……うん。ありがとう。じゃあ、今、速力向上魔法をお願いしてもいい?」
「ああ、そうか! そうだよ! そういうのもあったんだった」
ギルは納得したように頷き、横を走るレイに目掛けて魔法を放った。
「……」
しかし魔法はレイには当たらない。
「あああ! ご、ごめん。シリル! いったん! 一旦止まって!! 魔法が当たらない!!」
「そっか、ごめん」
レイが立ち止まると、息を切らしたギルは首を横に振る。
心の中でギルは不甲斐ない自分を責めながら魔法をかけた。
「大丈夫、気にしないで」
「うん」
レイはこんな状況でも笑っていた。
◇
ファラン教会に辿り着くとレイは止めていた馬車から馬を外す。それをみたギルはまたも慌てた。
「あ、待ってシリル! ごめん! 俺……馬に乗れない……」
どこまでも足を引っ張っている自分が情けない。
そんな風にギルが盛大に落ち込むと、レイは安心させるように笑った。
「大丈夫、一緒に乗ろう。その方が魔法使えて便利だし。ギルこっちに。俺の手に足をかけて。そう、そのまま乗って」
言われたように馬に跨がると、後ろからシリルが跨がってきた。
「馬にも速力向上魔法を。馬が疲れたら回復してあげて。あー、あと少し低い体勢に」
ギルの方が背が高いため前がよく見えなかったからだ。シリルは御者には屋敷に戻るように伝え、直ぐに馬を走らせた。
「わわわわっ!!」
馬は思った以上の速度で、ギルは馬の首にしっかりとしがみついた。バランスが悪くて今にも落ちてしまいそうだ。
「ごめん、ギル。暫く我慢して。腰は押さえているから」
「う、うん」
ギルは恐ろしくて、早く着くことを願った。
馬は風を切り、疾走する。
暫くするとレイはアトラスの方角を見定め、緑色の炎が出る魔法を十回連続で放った。
「え!? なに? 何をしたの?」
進行方向先の夜空に光る明かりを見つめながらギルが不安げに声を上げる。
「これは、城へ緊急避難命令の信号だよ。気がついてくれればいいけど……」
「……何でそんなこと知ってるの?」
あれだけの強さを持っていながら騎士にならず使用人になったこと。
貴族の振る舞いに慣れていること。
魔法を使えること。
疑問は多い。
それにシリルはエリー様のことを敬称をつけずに呼び捨てにしていた……。
「シリルは……シリルはいったい何者なの?」
ギルは馬にしがみつきながら、レイの方に顔を向けた。
しかしギルにはそれが何であるか分かった。手のひらに伝わるべっとりとしたもの……。
「う、嘘……」
ギルはレイを横にずらし、這うように抜け出た。震える手ですぐ近くに落ちているランタンを拾い、レイの背中を照らす。
「わぁっ! あぁっ、ど、どうしよう! そ、そうだ、回復を!」
真っ赤に染まる背中。
初めて見る大量の血は、ギルから冷静さを失わせた。
背中に添えた手は震え、魔法が発動しない。それは、気が動転しているため、上手く集中することができないことが原因だった。
「落ち着け……落ち着け……ああ、なんでこんな時まで俺は役立たずなんだ!」
それでも投げ出すわけにもいかないと、ギルは目を閉じゆっくりと呼吸を繰り返す。
「大丈夫……大丈夫……ゆっくりやれば間に合う……」
多少ではあるが落ち着きを取り戻したギルは、もう一度背中の傷に集中した。
暫くするとレイの呼吸の音が変わった。
それに気がついたギルは傷跡を確認する。
「よ、良かった……。傷跡もないし、体温……は、通常通り……もう大丈夫……」
ギルは肩の力をふっと抜いた。
「そうだ……確かめなくちゃ……」
ここ旧ファラン教会は悪魔を封じ込めていたため、立ち入り禁止だったのだろう。そうであればそれを封じる何かがあるのかもしれない。
冷静さを取り戻したギルは、レイの意識が戻るまで祭壇を調べることにした。
慎重に祭壇を上り、ランタンで辺りを照らす。すると、祭壇飾りの台座でギルは不思議な箱を見つけた。
どこもかしこも朽ち果てているこの場所では、この真新しい箱は不自然である。
「何だろう……?」
震える指でそっとつついてみるが何も反応がない。ギルは怯えながらも何度も指先でつついた。
「変わった材質みたい……」
躊躇いがちに手に取る。ギルには、これが悪魔を封印していた物だとは分からない。
「ん……んん……」
僅かにレイがうめき声をあげる。それを敏感に感じ取ったギルは、手に持っていた箱をポケットにしまい、レイの元へ駆け出した。
「ああ、シリル! 良かった……気がついたんだね」
レイは直ぐに起き上がり辺りを見回す。
「……ハ、ハーネイス様は!? あの悪魔はどこ!!?」
「それなら飛んでどこかに行っちゃったけど……えっ! ちょっ、どこ行くの!? 」
レイは何も言わず教会の外へと走り出した。
ギルも慌てて追いかける。
「まさか、アトラス城へ向かうの!? あそこには国内最強の騎士団がいるじゃないか! シリルが行かなくたって!」
「エリーが危ないんだ! ギルはこのままファラン教会に戻って! 俺は行く!」
森の中を走りながら会話を続ける。
「……お、俺も行く! シリルは俺の恩人だ。ここで見捨てたら神へ顔向けが出来ない。足手まといになるかもしれないけど連れて行って!」
さっきはシリルに守ってもらっていなければ自分は死んでいたのだ。
今度は自分が守りたい。
ギルはそんな風に考え、レイにお願いをした。
「足手まといなんかじゃないよ。さっきだってギルがいなかったら危なかったし。回復してくれたんでしょ? 恩人なのはギルの方だよ。本当にありがとう」
「それは、シリルが守ってくれたから! 俺は……シリルの役に立ちたい」
「……うん。ありがとう。じゃあ、今、速力向上魔法をお願いしてもいい?」
「ああ、そうか! そうだよ! そういうのもあったんだった」
ギルは納得したように頷き、横を走るレイに目掛けて魔法を放った。
「……」
しかし魔法はレイには当たらない。
「あああ! ご、ごめん。シリル! いったん! 一旦止まって!! 魔法が当たらない!!」
「そっか、ごめん」
レイが立ち止まると、息を切らしたギルは首を横に振る。
心の中でギルは不甲斐ない自分を責めながら魔法をかけた。
「大丈夫、気にしないで」
「うん」
レイはこんな状況でも笑っていた。
◇
ファラン教会に辿り着くとレイは止めていた馬車から馬を外す。それをみたギルはまたも慌てた。
「あ、待ってシリル! ごめん! 俺……馬に乗れない……」
どこまでも足を引っ張っている自分が情けない。
そんな風にギルが盛大に落ち込むと、レイは安心させるように笑った。
「大丈夫、一緒に乗ろう。その方が魔法使えて便利だし。ギルこっちに。俺の手に足をかけて。そう、そのまま乗って」
言われたように馬に跨がると、後ろからシリルが跨がってきた。
「馬にも速力向上魔法を。馬が疲れたら回復してあげて。あー、あと少し低い体勢に」
ギルの方が背が高いため前がよく見えなかったからだ。シリルは御者には屋敷に戻るように伝え、直ぐに馬を走らせた。
「わわわわっ!!」
馬は思った以上の速度で、ギルは馬の首にしっかりとしがみついた。バランスが悪くて今にも落ちてしまいそうだ。
「ごめん、ギル。暫く我慢して。腰は押さえているから」
「う、うん」
ギルは恐ろしくて、早く着くことを願った。
馬は風を切り、疾走する。
暫くするとレイはアトラスの方角を見定め、緑色の炎が出る魔法を十回連続で放った。
「え!? なに? 何をしたの?」
進行方向先の夜空に光る明かりを見つめながらギルが不安げに声を上げる。
「これは、城へ緊急避難命令の信号だよ。気がついてくれればいいけど……」
「……何でそんなこと知ってるの?」
あれだけの強さを持っていながら騎士にならず使用人になったこと。
貴族の振る舞いに慣れていること。
魔法を使えること。
疑問は多い。
それにシリルはエリー様のことを敬称をつけずに呼び捨てにしていた……。
「シリルは……シリルはいったい何者なの?」
ギルは馬にしがみつきながら、レイの方に顔を向けた。
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