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第07章 潜入捜査
第094話 背後の動き
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アランはエリー王女がジェルミア王子とダンスをしている間、不審人物がいないか周りを見渡していた。ジェルドからは調査中のリストを貰っており、その中にハーネイスの名前が上がっていることも知っていた。
ハーネイスの位置も常に把握していたアランは、その付近で二人組みの男が一定の距離をあけ側に付いていることに気がつく。違和感を覚えたアランは近くにいた使用人に調べるよう指示を出した。
見ていると、三人は一緒に帰るようだ。
使用人が受付の男を連れてきた。
「あちらはハーネイス様がお連れになった護衛の方で、背の低いお方がシリル・ベルリーナ様、そのお隣がギル・クラーク様と仰っておりました」
「ご苦労」
受付の男がお辞儀をして立ち去ると、アランは眉間にしわを寄せる。どちらの名前も聞いたことがない。
「アラン? どうしたのですか?」
いつの間にかエリー王女が戻ってきていた。
「いえ、何でもありません。ダンスはいかがでしたか?」
「とても緊張しておりましたが、ジェルミア様のお陰でなんとか踊ることができました」
「いえ、私は何も。エリー様がお上手なだけですよ」
そう二人で微笑み合っていた。アランの目から見ても二人は日に日に仲良くなっている。喜ばしいことのはずなのに、レイのことを思うと素直に喜べなかった。
「エリー様、お次のダンスのお相手をお願いできますか?」
「はい、喜んで」
ジェルミア王子とのダンスが終わってすぐにお誘いが入った。
エリー王女は笑みを浮かべ、またダンスホールの中心へと移動する。
「……ジェルミア様に決めてしまわれたのですか?」
男が手を取り、腰に手を当てると寂しそうな声色で聞いてきた。
「いえ、まだ誰も決めてはおりません」
エリー王女は心の中で溜め息をつく。
ジェルミア王子との関係が急速に広まっていったからだ。
先日、シトラル国王からジェルミア王子との婚姻を進めてはどうかと言われる始末。
ジェルミア王子と一緒にいるのはレイのためであるのに、レイがいない間にどんどん話が進んでいく。
エリー王女は不安を覚えていた。
ジェルミア王子との噂が大きくなっているこの状況を見たらレイはどう思うだろうか。
想像するだけで胸が張り裂けそうだった。
違うのだと。今でもレイだけを思っているのだと直ぐに伝えたかった。
ジェルミア王子は思っていたより悪い人ではない。聞き上手でもあるし、話し上手でもある。しかし、なんだか上手く乗せられてしまったような感覚もあるのだ。
このまま結婚まで進んでしまったら……。
「進捗状況はどうだい?」
エリー王女が踊っている姿を見つめながらジェルミア王子がアランに質問してきた。ジェルミア王子はエリー王女殺害未遂の事件の状況を毎日確認してくる。
「いえ、特には」
「そうか……」
エリー王女が狙われている今、結婚を急かす動きが出ている。特にジェルミア王子の仲が取り沙汰されるようになってからは特にだった。
アランは眉間にしわを寄せたまま、じっとエリー王女を見つめた。
一ヶ月前、アランはジェルミア王子からエリー王女とレイの関係を知っていることを打ち明けられた。そしてエリー様とレイとの関係が疑われないように協力したいと言われ、裏があるのではないかと訝しんだ。
しかしジェルミア王子は一定の距離を保ちながら、上手くエリー王女を支えている。
「エリー様に好きな方がいらっしゃるのに、何故ジェルミア様は脅すことを選ばず、協力者に回られたのでしょうか」
その数日後、アランはジェルミア王子の滞在する部屋を訪ね、直接確認することにした。
「好きだから側にいたいだけだよ。ふふふ、そんな答えじゃ怪しいかい?」
アランはソファーで寛ぐジェルミア王子を無言で見つめた。
「正直に言うよ。もちろんエリー様が好きなのは本当だよ。側にいればチャンスも生まれる。それに……この国のためを思うのなら、彼を選ぶのは現実的ではないよね。アランくんも気が付いているんじゃないかい?」
「……何をでしょうか」
ジェルミア王子は小さく溜め息を吐く。
「シトラル陛下はお若い。王位継承するのは、まぁ約二十年後位でしょう。その前に王位継承者をエリー様に決定するまでの期間、早くて五六年……いや、もっとかかるかもしれない。そこから直ぐに彼と婚姻を結ぶと宣言すれば、そのために王となったように思われてしまうため体裁が悪い。宣言するとなると二三年後が無難でしょう。七年以上……。果たして周りが待ってくれるでしょうか。陛下のお子はただ一人。血縁を切らすわけにはいかない。早急に多くの子を必要としているはずだからね。だからあんなに多くの見合いを毎日していた……でしょう?」
的を得ていた。そしてエリー王女の命が狙われていることから、出来るだけ早く決めるようにと政治的決定権のある委員会から急かされていた。
「……だからこそ僕が側にいるんだよ。周りから無理矢理婚姻を結ばせられる可能性は大いにある。しかし、エリー様が既に女性の悦びを知っていることが相手に知られたら問題だ。その点、僕ならもう知ってるし、それでも構わないと思っている。そして、エリー様もアランくんもそのことを理解している。この答えで十分じゃないかい?」
万が一そんな状況になったら、ジェルミア王子を選ぶだろう。デール王国との関係性も強くなるし、ジェルミア王子の考え方も悪くない。侍女であるアーニャを守ろうとする優しさも持ち合わせていた。
「それでも簡単には決められない。そういった顔をしているね。心配なら、アランくんがもっと僕のことを知ればいい」
ジェルミア王子はそう言って微笑んだ。
ハーネイスの位置も常に把握していたアランは、その付近で二人組みの男が一定の距離をあけ側に付いていることに気がつく。違和感を覚えたアランは近くにいた使用人に調べるよう指示を出した。
見ていると、三人は一緒に帰るようだ。
使用人が受付の男を連れてきた。
「あちらはハーネイス様がお連れになった護衛の方で、背の低いお方がシリル・ベルリーナ様、そのお隣がギル・クラーク様と仰っておりました」
「ご苦労」
受付の男がお辞儀をして立ち去ると、アランは眉間にしわを寄せる。どちらの名前も聞いたことがない。
「アラン? どうしたのですか?」
いつの間にかエリー王女が戻ってきていた。
「いえ、何でもありません。ダンスはいかがでしたか?」
「とても緊張しておりましたが、ジェルミア様のお陰でなんとか踊ることができました」
「いえ、私は何も。エリー様がお上手なだけですよ」
そう二人で微笑み合っていた。アランの目から見ても二人は日に日に仲良くなっている。喜ばしいことのはずなのに、レイのことを思うと素直に喜べなかった。
「エリー様、お次のダンスのお相手をお願いできますか?」
「はい、喜んで」
ジェルミア王子とのダンスが終わってすぐにお誘いが入った。
エリー王女は笑みを浮かべ、またダンスホールの中心へと移動する。
「……ジェルミア様に決めてしまわれたのですか?」
男が手を取り、腰に手を当てると寂しそうな声色で聞いてきた。
「いえ、まだ誰も決めてはおりません」
エリー王女は心の中で溜め息をつく。
ジェルミア王子との関係が急速に広まっていったからだ。
先日、シトラル国王からジェルミア王子との婚姻を進めてはどうかと言われる始末。
ジェルミア王子と一緒にいるのはレイのためであるのに、レイがいない間にどんどん話が進んでいく。
エリー王女は不安を覚えていた。
ジェルミア王子との噂が大きくなっているこの状況を見たらレイはどう思うだろうか。
想像するだけで胸が張り裂けそうだった。
違うのだと。今でもレイだけを思っているのだと直ぐに伝えたかった。
ジェルミア王子は思っていたより悪い人ではない。聞き上手でもあるし、話し上手でもある。しかし、なんだか上手く乗せられてしまったような感覚もあるのだ。
このまま結婚まで進んでしまったら……。
「進捗状況はどうだい?」
エリー王女が踊っている姿を見つめながらジェルミア王子がアランに質問してきた。ジェルミア王子はエリー王女殺害未遂の事件の状況を毎日確認してくる。
「いえ、特には」
「そうか……」
エリー王女が狙われている今、結婚を急かす動きが出ている。特にジェルミア王子の仲が取り沙汰されるようになってからは特にだった。
アランは眉間にしわを寄せたまま、じっとエリー王女を見つめた。
一ヶ月前、アランはジェルミア王子からエリー王女とレイの関係を知っていることを打ち明けられた。そしてエリー様とレイとの関係が疑われないように協力したいと言われ、裏があるのではないかと訝しんだ。
しかしジェルミア王子は一定の距離を保ちながら、上手くエリー王女を支えている。
「エリー様に好きな方がいらっしゃるのに、何故ジェルミア様は脅すことを選ばず、協力者に回られたのでしょうか」
その数日後、アランはジェルミア王子の滞在する部屋を訪ね、直接確認することにした。
「好きだから側にいたいだけだよ。ふふふ、そんな答えじゃ怪しいかい?」
アランはソファーで寛ぐジェルミア王子を無言で見つめた。
「正直に言うよ。もちろんエリー様が好きなのは本当だよ。側にいればチャンスも生まれる。それに……この国のためを思うのなら、彼を選ぶのは現実的ではないよね。アランくんも気が付いているんじゃないかい?」
「……何をでしょうか」
ジェルミア王子は小さく溜め息を吐く。
「シトラル陛下はお若い。王位継承するのは、まぁ約二十年後位でしょう。その前に王位継承者をエリー様に決定するまでの期間、早くて五六年……いや、もっとかかるかもしれない。そこから直ぐに彼と婚姻を結ぶと宣言すれば、そのために王となったように思われてしまうため体裁が悪い。宣言するとなると二三年後が無難でしょう。七年以上……。果たして周りが待ってくれるでしょうか。陛下のお子はただ一人。血縁を切らすわけにはいかない。早急に多くの子を必要としているはずだからね。だからあんなに多くの見合いを毎日していた……でしょう?」
的を得ていた。そしてエリー王女の命が狙われていることから、出来るだけ早く決めるようにと政治的決定権のある委員会から急かされていた。
「……だからこそ僕が側にいるんだよ。周りから無理矢理婚姻を結ばせられる可能性は大いにある。しかし、エリー様が既に女性の悦びを知っていることが相手に知られたら問題だ。その点、僕ならもう知ってるし、それでも構わないと思っている。そして、エリー様もアランくんもそのことを理解している。この答えで十分じゃないかい?」
万が一そんな状況になったら、ジェルミア王子を選ぶだろう。デール王国との関係性も強くなるし、ジェルミア王子の考え方も悪くない。侍女であるアーニャを守ろうとする優しさも持ち合わせていた。
「それでも簡単には決められない。そういった顔をしているね。心配なら、アランくんがもっと僕のことを知ればいい」
ジェルミア王子はそう言って微笑んだ。
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