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第07章 潜入捜査
第090話 余興
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「あー、そうだ。ギルってハーネイス様に夜呼ばれたりしてるの?」
「ううん。魔法をかけに呼ばれることはあるけどそういう行為はしてない。聖職者は行為を禁止しているって断ったから」
「それでハーネイス様、引き下がったの?」
「うん。そういえば"お前にはきかないのか"とか言ってたけど、何か関係あるのかな?」
断ったことで魔法薬が効いていないことが分かったのだろう。意識がある状態では嫌なのだろうか。そうであるなら自分もまたその行為を避けられるのかもしれない。
そう思ったレイは少しだけ希望を見出した。
◇
レイはその日のうちにハーネイスの護衛として仕えたいと志願した。
「ほぅ、お前はそれほど強いようには見えないが……?」
赤黒い液体をグラスの中で回し、ハーネイスは興味なさそうに答える。
「アトラスの騎士団、先鋭部隊に匹敵するくらいはあります」
ハーネイスの足元に跪いていたレイを見下ろすと、鼻で笑った。
「面白い。そこまで自信があるというのなら、力を証明してみせよ。そうだな……明日の夜、私が用意した者たちを倒すことができたら認めよう」
「ありがとうございます。もう一つ、ギルを補佐として付けても宜しいでしょうか。今後、二人でハーネイス様の身を守りたいと思っています」
ハーネイスは、国王や王女と同じように、いや、それ以上の護衛を探していた。王女にあって、自分にないものが酷く悔しい。しかし、強くて容姿が優れているものなどなかなかいなかった。
「わかった、期待しよう。もし簡単に負けるようなことがあれば、お前に相応の責任を取ってもらうぞ」
もしレイの強さが本当であればハーネイスの願望は満たされる。
ハーネイスは喉の奥でくつくつと笑った。
◇
ハーネイスの敷地の奥にひっそりと佇む石造りの建物。その中は闘技場のような作りになっていた。こんなものがあるのだから、もしかしたら普段からこういうことをしているのかもしれない。
翌晩、その建物の周りには多くの松明(たいまつ)や篝火が灯され、昼間のように明るくなっていた。
次々の観客が通され、多くの貴族たちで活気づいていている。
レイは幕の外側からそっと覗き、どんな人が招待されたのかと調べた。
「なんで……」
見れば全員女性だけで、レイは訝しげに眉をひそめる。
「あ、シリル。そろそろ準備しないと。剣はこれを使ってだって……これ本物だよ……。あとズボンはそのままで、上は……何も身につけるなって……」
「目で楽しませたいわけね……本当趣味悪いなぁ」
レイが一人ごちると、目の前のギルは自分が傷つけられたかのような悲痛な表情をしていた。
「ねえこんなこと……下手したら命だって危ない。本当に戦わなきゃだめなの?」
「うん、もちろん。ハーネイス様の意向を汲んでお客様を楽しませてあげなくちゃね。大丈夫、傷ついたらギルが治してくれるし」
レイはギルの肩を叩くと、上を脱ぎ捨てた。
「わっ、凄い筋肉。本当に強いのかもって思っちゃう……だけど……」
ギルは物珍しそうに、レイの腕を握りながらも不安そうな表情だ。
「あはは、弱くはないと思うよ。さ、行こうか」
中央に設けられた四角形の舞台に上がると歓声があがった。貴婦人達はレイを見てざわざわと色めき立っているようだ。秋だというのに熱気で熱い。
「さぁ、お集まりの皆様。今宵も楽しい余興を用意致しました。このシリル・ベルリーナが我が護衛として相応しいか試験を行います。五名の傭兵を一人で倒すことが出来れば専属の護衛として認め、負ければ皆様の目の前で慰み者となってもらいましょう」
会場からより一層歓喜の声が上がり、それとは反対にギルがさっと青ざめた。
「シリル! 知ってた?」
舞台の下からギルは慌てたように声をかけると、レイはちらりと視線を送るだけだった。
集中しているのだと察し、口をつぐんで後ろに下がる。
ここの人たちはおかしい。
一体人を何だと思っているのだろう。
ギルはこの施設に足を運んだことはない。執事のダレンから近づくなと言われていたからだった。
ざわめく声と怪しく揺らめく灯り。
ギルはこの異空間に恐怖を感じた。
それでもギルはレイの言う「マシな生活」に希望を感じていた。
閉鎖的な空間に、意思のない人の中にずっといたのだから当たり前だ。
この闇の深い世界では、レイが一筋の光のように輝いて見えた。
一人目の傭兵も舞台に立つと更に歓声が上がる。体が非常に大きく、肉付きがいい。スキンヘッドの男はニヤニヤと笑みを浮けべていた。恐らく余裕だと思っているのだろう。
執事のダレンが開始の合図となる鐘を鳴らすと傭兵は勢いよく襲いかかってきた。
動きが遅い。
レイにとってこの男の動きはあまりにも単純で、剣を振れば一撃で倒せるような相手だった。
これはハーネイスを喜ばすための余興だ。
レイは相手が避けられそうな攻撃をしかけ、演出をしてみせる。まるで舞いを舞うような動きに観客を大いに喜ばせた。
「凄い……」
ギルは両手をぐっと握り締め、聞こえてくる歓声にぞくぞくとした興奮を覚えた。
「ううん。魔法をかけに呼ばれることはあるけどそういう行為はしてない。聖職者は行為を禁止しているって断ったから」
「それでハーネイス様、引き下がったの?」
「うん。そういえば"お前にはきかないのか"とか言ってたけど、何か関係あるのかな?」
断ったことで魔法薬が効いていないことが分かったのだろう。意識がある状態では嫌なのだろうか。そうであるなら自分もまたその行為を避けられるのかもしれない。
そう思ったレイは少しだけ希望を見出した。
◇
レイはその日のうちにハーネイスの護衛として仕えたいと志願した。
「ほぅ、お前はそれほど強いようには見えないが……?」
赤黒い液体をグラスの中で回し、ハーネイスは興味なさそうに答える。
「アトラスの騎士団、先鋭部隊に匹敵するくらいはあります」
ハーネイスの足元に跪いていたレイを見下ろすと、鼻で笑った。
「面白い。そこまで自信があるというのなら、力を証明してみせよ。そうだな……明日の夜、私が用意した者たちを倒すことができたら認めよう」
「ありがとうございます。もう一つ、ギルを補佐として付けても宜しいでしょうか。今後、二人でハーネイス様の身を守りたいと思っています」
ハーネイスは、国王や王女と同じように、いや、それ以上の護衛を探していた。王女にあって、自分にないものが酷く悔しい。しかし、強くて容姿が優れているものなどなかなかいなかった。
「わかった、期待しよう。もし簡単に負けるようなことがあれば、お前に相応の責任を取ってもらうぞ」
もしレイの強さが本当であればハーネイスの願望は満たされる。
ハーネイスは喉の奥でくつくつと笑った。
◇
ハーネイスの敷地の奥にひっそりと佇む石造りの建物。その中は闘技場のような作りになっていた。こんなものがあるのだから、もしかしたら普段からこういうことをしているのかもしれない。
翌晩、その建物の周りには多くの松明(たいまつ)や篝火が灯され、昼間のように明るくなっていた。
次々の観客が通され、多くの貴族たちで活気づいていている。
レイは幕の外側からそっと覗き、どんな人が招待されたのかと調べた。
「なんで……」
見れば全員女性だけで、レイは訝しげに眉をひそめる。
「あ、シリル。そろそろ準備しないと。剣はこれを使ってだって……これ本物だよ……。あとズボンはそのままで、上は……何も身につけるなって……」
「目で楽しませたいわけね……本当趣味悪いなぁ」
レイが一人ごちると、目の前のギルは自分が傷つけられたかのような悲痛な表情をしていた。
「ねえこんなこと……下手したら命だって危ない。本当に戦わなきゃだめなの?」
「うん、もちろん。ハーネイス様の意向を汲んでお客様を楽しませてあげなくちゃね。大丈夫、傷ついたらギルが治してくれるし」
レイはギルの肩を叩くと、上を脱ぎ捨てた。
「わっ、凄い筋肉。本当に強いのかもって思っちゃう……だけど……」
ギルは物珍しそうに、レイの腕を握りながらも不安そうな表情だ。
「あはは、弱くはないと思うよ。さ、行こうか」
中央に設けられた四角形の舞台に上がると歓声があがった。貴婦人達はレイを見てざわざわと色めき立っているようだ。秋だというのに熱気で熱い。
「さぁ、お集まりの皆様。今宵も楽しい余興を用意致しました。このシリル・ベルリーナが我が護衛として相応しいか試験を行います。五名の傭兵を一人で倒すことが出来れば専属の護衛として認め、負ければ皆様の目の前で慰み者となってもらいましょう」
会場からより一層歓喜の声が上がり、それとは反対にギルがさっと青ざめた。
「シリル! 知ってた?」
舞台の下からギルは慌てたように声をかけると、レイはちらりと視線を送るだけだった。
集中しているのだと察し、口をつぐんで後ろに下がる。
ここの人たちはおかしい。
一体人を何だと思っているのだろう。
ギルはこの施設に足を運んだことはない。執事のダレンから近づくなと言われていたからだった。
ざわめく声と怪しく揺らめく灯り。
ギルはこの異空間に恐怖を感じた。
それでもギルはレイの言う「マシな生活」に希望を感じていた。
閉鎖的な空間に、意思のない人の中にずっといたのだから当たり前だ。
この闇の深い世界では、レイが一筋の光のように輝いて見えた。
一人目の傭兵も舞台に立つと更に歓声が上がる。体が非常に大きく、肉付きがいい。スキンヘッドの男はニヤニヤと笑みを浮けべていた。恐らく余裕だと思っているのだろう。
執事のダレンが開始の合図となる鐘を鳴らすと傭兵は勢いよく襲いかかってきた。
動きが遅い。
レイにとってこの男の動きはあまりにも単純で、剣を振れば一撃で倒せるような相手だった。
これはハーネイスを喜ばすための余興だ。
レイは相手が避けられそうな攻撃をしかけ、演出をしてみせる。まるで舞いを舞うような動きに観客を大いに喜ばせた。
「凄い……」
ギルは両手をぐっと握り締め、聞こえてくる歓声にぞくぞくとした興奮を覚えた。
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