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第07章 潜入捜査
第089話 使用人ギル
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ハーネイスに気に入られたレイは無事、使用人として働くことになった。
掃除用具を片手に、あのまま部屋に閉じ込められなくて良かったと安堵の息を漏らす。
「あっ! カーテンは開けないで!」
掃除をするためにカーテンを開けようとしたら、レイの教育係となったギルに止められた。
「え?」
「ハーネイス様は美容のため、太陽の光を浴びるのを嫌っていらっしゃるので……。本当は太陽を浴びた方が身体には良いんだけどね」
ギルは苦笑いを溢す。
「……わかりました」
ここまで徹底しているなんて、よほど美への執着が強いのだろう。
レイはカーテンを開けるのは諦めて、暗い屋敷内の掃除を始めた。
掃除をしながら屋敷内を把握していく。噂通り屋敷内には執事のダレン以外みな若い男性の使用人しかいなかった。そして、何故か使用人達に話しかけても反応が薄い。先に入った諜報員ですらそんな状態だった。しかし意識がない状態でもハーネイスの指示にはきちんと従っている。
「やっぱり……」
ハーネイスの部屋に充満していたのは洗脳するためのものだろう。
「ん? どうかした?」
「あー、毎日こんな暗いところにいたら、頭が痛くなりそうだなぁって……」
レイは辺りを見渡して苦笑いを作って見せた。
「じゃあ、これから庭の方も案内するよ。きっと気分も晴れると思うから」
そう優しく微笑むギルは柔らかい雰囲気の持ち主で、他の使用人とは違いちゃんと生気を感じる。
「あー、ギルさん。ここにいる人達って何か変ですよね? ギルさんは普通に見えますが……」
庭園にある池の淵に立つギルに後ろから尋ねてみる。
少し何か考えている様子であったが、困った顔をしながら振り返った。
「ギルでいいよ。敬語とかもいらないから。そっか、シリルもそう感じたんだね。俺も前から気になっていたけど、誰も聞く相手がいなくて。俺は半年前にここへ来たんだけど、既にみんなあんな感じで……。ちょっと……何て言うか……気味が悪い……」
ギルは申し訳なさそうに肩を竦めた。
「あー、でもダレンさんは普通だよね。ダレンさんってハーネイス様の部屋に行くことはあるの?」
「ダレンさん? どうだったかな……。ああ、部屋の入り口で使用人と話をしているところはよく見るかな」
レイの思ったとおりだった。
ダレンはあの魔法薬を浴びてはいない。
そしてギルは……。
「……ねぇ。シリル……」
「ん?」
そこにギルの重い声がかかる。顔を上げると、血色のない顔がレイを見据えていた。
「シリルも無理やりここに連れてこられたの?」
冷たい風が吹き、赤く色づいた葉が揺れ、レイの前髪も揺らす。
「……え? どういう意味?」
「いや、何でもない! ごめん、聞かなかったことにして。じゃ、そろそろ屋敷に戻ろうか」
レイの反応を見てギルが慌てた。今言ったことはなかったかのようにギルは優しい笑みを作る。
「ちょっと待って。シリルもって……まさかギルは無理やり連れてこれたの?」
レイは腕を掴み、背の高いギルを見上げるとギルは瞳を揺らしてから顔を反らした。
二人の間に沈黙が流れ、ざわざわと風の音が強く聞こえる。
「……ハーネイス様に気に入られたら、もうここから出られない」
「ここから出られない? 辞められないってこと? どういうこと? はっきり教えて欲しい。俺もずっとここで過ごすなら知るべきだよ」
レイはじっとギルを見つめた。
暫く間があったが、意を決したのかギルはレイを見下ろす。
「そうだよね、ごめん。これからここで過ごすのにこんなことを言ってしまって……。正直に話すよ。俺は……脅されてここに連れてこられた」
「脅された?」
「うん。俺は元々、ファラン教会の聖職者だったんだ。ハーネイス様は毎年礼拝にファラン教会を訪れているんだけど……」
「ハーネイス様に気に入られたんだね?」
レイが補足するとギルが頷いた。
「ハーネイス様より直々に、専属の神官として屋敷に来て導いてほしいって言われたんだけど、俺は修行の身だったから断ったんだ。そしたら教会への寄付を全て取り消すと言ってきて……。ファラン教会はほぼハーネイス様の寄付によって成り立っていたから、司教様は俺に行くようにって……」
「売られたようなものか……。そうまでして気に入った男を集めてるって……」
ハーネイスの部屋に充満していた魔法を思い出した。
思いのままに動かしたい。
そんな欲求を満たすものがあの洗脳する魔法薬なのだ。
ハーネイスが自分の欲求のためならどんな手段でも使うのだということがこれで分かった。
「ねぇ。ギルって、もしかして魔法が使える?」
ギルの奥からは僅かに魔力が溢れている。ハーネイスの部屋の魔法薬はそれほど強いものではないから、ギルが無自覚であっても魔力に対しての抵抗力で洗脳の魔法が効かなかったのだろう。
「え? うん、治癒魔法なら少し。よく分かったね」
「治療!? 凄い! 魔法が使えるだけでも凄いのに、治療魔法なんてほとんどいない。むしろアトラスにはいないと思っていたよ。もしかしてハーネイス様は最初からそのことを知っていた?」
「うん。司祭様が話しちゃったみたいで……」
「やっぱり……。ギルを連れてきた理由は容姿だけじゃなく、魔法が使えるからか……」
珍しいモノ、美しいモノを集め、側に置いておくなんて趣味が悪すぎる。
こんな死んだように生きるなんて……。
まだハーネイスの動向を探る必要があるため、すぐにギルや使用人を救出することは出来ないが、タイムリミットの一年後にはなんとかしたい。
レイはあることを思いついた。
「ギル、もしかしたら少しはマシな生活が出来るかもしれない。協力してくれる?」
「え……? う、うん……? どういうこと?」
↑ギル
↑シリル
掃除用具を片手に、あのまま部屋に閉じ込められなくて良かったと安堵の息を漏らす。
「あっ! カーテンは開けないで!」
掃除をするためにカーテンを開けようとしたら、レイの教育係となったギルに止められた。
「え?」
「ハーネイス様は美容のため、太陽の光を浴びるのを嫌っていらっしゃるので……。本当は太陽を浴びた方が身体には良いんだけどね」
ギルは苦笑いを溢す。
「……わかりました」
ここまで徹底しているなんて、よほど美への執着が強いのだろう。
レイはカーテンを開けるのは諦めて、暗い屋敷内の掃除を始めた。
掃除をしながら屋敷内を把握していく。噂通り屋敷内には執事のダレン以外みな若い男性の使用人しかいなかった。そして、何故か使用人達に話しかけても反応が薄い。先に入った諜報員ですらそんな状態だった。しかし意識がない状態でもハーネイスの指示にはきちんと従っている。
「やっぱり……」
ハーネイスの部屋に充満していたのは洗脳するためのものだろう。
「ん? どうかした?」
「あー、毎日こんな暗いところにいたら、頭が痛くなりそうだなぁって……」
レイは辺りを見渡して苦笑いを作って見せた。
「じゃあ、これから庭の方も案内するよ。きっと気分も晴れると思うから」
そう優しく微笑むギルは柔らかい雰囲気の持ち主で、他の使用人とは違いちゃんと生気を感じる。
「あー、ギルさん。ここにいる人達って何か変ですよね? ギルさんは普通に見えますが……」
庭園にある池の淵に立つギルに後ろから尋ねてみる。
少し何か考えている様子であったが、困った顔をしながら振り返った。
「ギルでいいよ。敬語とかもいらないから。そっか、シリルもそう感じたんだね。俺も前から気になっていたけど、誰も聞く相手がいなくて。俺は半年前にここへ来たんだけど、既にみんなあんな感じで……。ちょっと……何て言うか……気味が悪い……」
ギルは申し訳なさそうに肩を竦めた。
「あー、でもダレンさんは普通だよね。ダレンさんってハーネイス様の部屋に行くことはあるの?」
「ダレンさん? どうだったかな……。ああ、部屋の入り口で使用人と話をしているところはよく見るかな」
レイの思ったとおりだった。
ダレンはあの魔法薬を浴びてはいない。
そしてギルは……。
「……ねぇ。シリル……」
「ん?」
そこにギルの重い声がかかる。顔を上げると、血色のない顔がレイを見据えていた。
「シリルも無理やりここに連れてこられたの?」
冷たい風が吹き、赤く色づいた葉が揺れ、レイの前髪も揺らす。
「……え? どういう意味?」
「いや、何でもない! ごめん、聞かなかったことにして。じゃ、そろそろ屋敷に戻ろうか」
レイの反応を見てギルが慌てた。今言ったことはなかったかのようにギルは優しい笑みを作る。
「ちょっと待って。シリルもって……まさかギルは無理やり連れてこれたの?」
レイは腕を掴み、背の高いギルを見上げるとギルは瞳を揺らしてから顔を反らした。
二人の間に沈黙が流れ、ざわざわと風の音が強く聞こえる。
「……ハーネイス様に気に入られたら、もうここから出られない」
「ここから出られない? 辞められないってこと? どういうこと? はっきり教えて欲しい。俺もずっとここで過ごすなら知るべきだよ」
レイはじっとギルを見つめた。
暫く間があったが、意を決したのかギルはレイを見下ろす。
「そうだよね、ごめん。これからここで過ごすのにこんなことを言ってしまって……。正直に話すよ。俺は……脅されてここに連れてこられた」
「脅された?」
「うん。俺は元々、ファラン教会の聖職者だったんだ。ハーネイス様は毎年礼拝にファラン教会を訪れているんだけど……」
「ハーネイス様に気に入られたんだね?」
レイが補足するとギルが頷いた。
「ハーネイス様より直々に、専属の神官として屋敷に来て導いてほしいって言われたんだけど、俺は修行の身だったから断ったんだ。そしたら教会への寄付を全て取り消すと言ってきて……。ファラン教会はほぼハーネイス様の寄付によって成り立っていたから、司教様は俺に行くようにって……」
「売られたようなものか……。そうまでして気に入った男を集めてるって……」
ハーネイスの部屋に充満していた魔法を思い出した。
思いのままに動かしたい。
そんな欲求を満たすものがあの洗脳する魔法薬なのだ。
ハーネイスが自分の欲求のためならどんな手段でも使うのだということがこれで分かった。
「ねぇ。ギルって、もしかして魔法が使える?」
ギルの奥からは僅かに魔力が溢れている。ハーネイスの部屋の魔法薬はそれほど強いものではないから、ギルが無自覚であっても魔力に対しての抵抗力で洗脳の魔法が効かなかったのだろう。
「え? うん、治癒魔法なら少し。よく分かったね」
「治療!? 凄い! 魔法が使えるだけでも凄いのに、治療魔法なんてほとんどいない。むしろアトラスにはいないと思っていたよ。もしかしてハーネイス様は最初からそのことを知っていた?」
「うん。司祭様が話しちゃったみたいで……」
「やっぱり……。ギルを連れてきた理由は容姿だけじゃなく、魔法が使えるからか……」
珍しいモノ、美しいモノを集め、側に置いておくなんて趣味が悪すぎる。
こんな死んだように生きるなんて……。
まだハーネイスの動向を探る必要があるため、すぐにギルや使用人を救出することは出来ないが、タイムリミットの一年後にはなんとかしたい。
レイはあることを思いついた。
「ギル、もしかしたら少しはマシな生活が出来るかもしれない。協力してくれる?」
「え……? う、うん……? どういうこと?」
↑ギル
↑シリル
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