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第06章 真実
第084話 困惑
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「今日もお疲れ様。アランから聞いたよ、毎日凄く頑張っているって」
エリー王女の私室に来たレイは、いつもと同じように笑顔を見せた。
「本を沢山読んで知識はあるつもりでいましたが、まだまだ未熟であると感じております。しかし、どのように国が動いているのかを知るのは楽しいです」
エリー王女は胸の高鳴りを知られないように、そっと視線を反らし書類をまとめながら答える。
「よかった。無理していないかな~っていつもエリー様のこと考えていたから」
エリー王女は朝日が昇るようにじんわりと顔に熱が集まるのを感じた。
「わ、私も……いつもレイを思っておりました……」
レイの顔を見たらまた抱き付いてしまいそうで、レイに背中を向け本棚に今日使った本を片付け始める。
「エリー様、耳が真っ赤」
レイが耳許で囁きくすくす笑った。
エリー王女は熟した林檎のように赤く染まった頬を両手で隠す。
「あの……レイ……そういうことを言われると余計……。どうしましょう、このような顔は見せられないです……あ……」
後ろからふわりと抱き締められ首にレイの顔が埋まる。
「好きだよ……」
その言葉に胸がきゅっと締め付けられた。胸の内側からレイへの想いが溢れ出る。
腰に巻かれた手にエリー王女は自分の手を重ねた。
大きな手。
ずっとこの腕の中にいたい。
「レイ……私もです……」
体をずらし振り返ればレイの顔が直ぐ側にあった。
自然と引き寄せられ、触れる柔らかな唇。
ローンズ王国でこれが最後だとレイに言われ、口付けを交わしてから一ヶ月。
王となるまでは我慢するべきだとエリー王女は理解していた。
「ん……」
しかし、そんなやりとりはなかったかのように激しく求められ、少し疑問に感じながらもエリー王女は応じる。
「お風呂……行こうか」
そう囁かれればエリー王女は頷くことしか出来なかった。
◇
アーニャはエリー王女の私室の前で悩んでいた。
何もあるわけがないのに、何故か胸騒ぎがする。
エリー王女の嬉しそうな笑顔とそれを受け止めるレイの腕。
「少し様子を確認するだけだから……」
ドアに耳を当て聞き耳を立てる。
中からは何も音がしない。
意を決してそっとドアの鍵を開けると、カチャリという音が大きく響いて聞こえた。
ドクドクと自分の心臓までも大きく聞こえる。
扉を開け、中の様子を伺ったがやはり何も聞こえてこない。今の時間はお風呂に入っているのだろう。アーニャは万が一レイと鉢合わせしたときの口実として持ってきた新しいオイルをぎゅっと握りしめた。
大丈夫。
アーニャはそっと部屋の中に入り辺りを見渡した。
リビングには誰もいない。
脱衣場に足を向ける。
補佐といっても一緒に入るわけではないとマーサは言っていた。
レイがいるならそこである。
ゆっくりと足を進め、脱衣場の扉が開いているのが見えた。
浴室の中からはエリー王女の声も聞こえる。
泣いている?
不思議な声に誘われるようにアーニャは脱衣場に足を踏み入れた。
そこで体が強張った。
足元には二人の衣服が置いてある。
奥にある曇りガラスに目を向ければ、重なる二つの肌色の影が見えた。
愛を交し合う二人の声。
アーニャの頬にかっと熱が集まった。
「嘘……」
何をしているのか分かったアーニャは、後退りして素早くその場から逃げ出した。
無我夢中で走り続け、気が付けば薄暗い庭園にいた。
息が切れ、涙で視界が歪む。
空を見上げれば曇って何も見えない。
アーニャはその場にへたり込んだ。
「どうして……」
先程の場面が何度も繰り返し頭の中に映る。
エリー王女がレイを好きなことは予想していた。
しかしあんなことまでしているとは思っていなかった。
エリー様の命令?
マーサさんが言っていた"エリー様が最優先"とはこういうことなのだろうか?
それでも全く理解が出来なかった。
どんな理由があるにせよ、マーサさんへの裏切りには代わりない。
「マーサさん……」
アーニャの心の中は悲しみと怒りが入り交じっていた。
どうして良いか分からない。
アーニャは踞り、堪えきれない涙を溢し続けた。
「アーニャちゃん、どうしたの?」
突然頭上から声をかけられアーニャの体はビクッと跳ねる。
声でジェルミア王子だとすぐに分かった。
しかし、こんな顔を見せるわけにもいかず顔を上げることが出来ない。
「すみません……お気になさらず……」
「……もしかして泣いているの? 大丈夫?」
ジェルミア王子は横に座り、何も聞かずただ優しく背中を擦る。
「ジェルミア様……」
「いいよ。泣きたいだけ僕の胸で泣いて。おいで」
その優しさに、アーニャは顔を上げ胸に飛び込んだ。
エリー王女の私室に来たレイは、いつもと同じように笑顔を見せた。
「本を沢山読んで知識はあるつもりでいましたが、まだまだ未熟であると感じております。しかし、どのように国が動いているのかを知るのは楽しいです」
エリー王女は胸の高鳴りを知られないように、そっと視線を反らし書類をまとめながら答える。
「よかった。無理していないかな~っていつもエリー様のこと考えていたから」
エリー王女は朝日が昇るようにじんわりと顔に熱が集まるのを感じた。
「わ、私も……いつもレイを思っておりました……」
レイの顔を見たらまた抱き付いてしまいそうで、レイに背中を向け本棚に今日使った本を片付け始める。
「エリー様、耳が真っ赤」
レイが耳許で囁きくすくす笑った。
エリー王女は熟した林檎のように赤く染まった頬を両手で隠す。
「あの……レイ……そういうことを言われると余計……。どうしましょう、このような顔は見せられないです……あ……」
後ろからふわりと抱き締められ首にレイの顔が埋まる。
「好きだよ……」
その言葉に胸がきゅっと締め付けられた。胸の内側からレイへの想いが溢れ出る。
腰に巻かれた手にエリー王女は自分の手を重ねた。
大きな手。
ずっとこの腕の中にいたい。
「レイ……私もです……」
体をずらし振り返ればレイの顔が直ぐ側にあった。
自然と引き寄せられ、触れる柔らかな唇。
ローンズ王国でこれが最後だとレイに言われ、口付けを交わしてから一ヶ月。
王となるまでは我慢するべきだとエリー王女は理解していた。
「ん……」
しかし、そんなやりとりはなかったかのように激しく求められ、少し疑問に感じながらもエリー王女は応じる。
「お風呂……行こうか」
そう囁かれればエリー王女は頷くことしか出来なかった。
◇
アーニャはエリー王女の私室の前で悩んでいた。
何もあるわけがないのに、何故か胸騒ぎがする。
エリー王女の嬉しそうな笑顔とそれを受け止めるレイの腕。
「少し様子を確認するだけだから……」
ドアに耳を当て聞き耳を立てる。
中からは何も音がしない。
意を決してそっとドアの鍵を開けると、カチャリという音が大きく響いて聞こえた。
ドクドクと自分の心臓までも大きく聞こえる。
扉を開け、中の様子を伺ったがやはり何も聞こえてこない。今の時間はお風呂に入っているのだろう。アーニャは万が一レイと鉢合わせしたときの口実として持ってきた新しいオイルをぎゅっと握りしめた。
大丈夫。
アーニャはそっと部屋の中に入り辺りを見渡した。
リビングには誰もいない。
脱衣場に足を向ける。
補佐といっても一緒に入るわけではないとマーサは言っていた。
レイがいるならそこである。
ゆっくりと足を進め、脱衣場の扉が開いているのが見えた。
浴室の中からはエリー王女の声も聞こえる。
泣いている?
不思議な声に誘われるようにアーニャは脱衣場に足を踏み入れた。
そこで体が強張った。
足元には二人の衣服が置いてある。
奥にある曇りガラスに目を向ければ、重なる二つの肌色の影が見えた。
愛を交し合う二人の声。
アーニャの頬にかっと熱が集まった。
「嘘……」
何をしているのか分かったアーニャは、後退りして素早くその場から逃げ出した。
無我夢中で走り続け、気が付けば薄暗い庭園にいた。
息が切れ、涙で視界が歪む。
空を見上げれば曇って何も見えない。
アーニャはその場にへたり込んだ。
「どうして……」
先程の場面が何度も繰り返し頭の中に映る。
エリー王女がレイを好きなことは予想していた。
しかしあんなことまでしているとは思っていなかった。
エリー様の命令?
マーサさんが言っていた"エリー様が最優先"とはこういうことなのだろうか?
それでも全く理解が出来なかった。
どんな理由があるにせよ、マーサさんへの裏切りには代わりない。
「マーサさん……」
アーニャの心の中は悲しみと怒りが入り交じっていた。
どうして良いか分からない。
アーニャは踞り、堪えきれない涙を溢し続けた。
「アーニャちゃん、どうしたの?」
突然頭上から声をかけられアーニャの体はビクッと跳ねる。
声でジェルミア王子だとすぐに分かった。
しかし、こんな顔を見せるわけにもいかず顔を上げることが出来ない。
「すみません……お気になさらず……」
「……もしかして泣いているの? 大丈夫?」
ジェルミア王子は横に座り、何も聞かずただ優しく背中を擦る。
「ジェルミア様……」
「いいよ。泣きたいだけ僕の胸で泣いて。おいで」
その優しさに、アーニャは顔を上げ胸に飛び込んだ。
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