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第06章 真実
第081話 セインの記憶(3)
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――――クーデターを起こす前にシトラル国王との密会を行った。
アトラス王国は豊かで平和な国ではあったが、武力に関してはあまり強いものではない。
いつ狙われてもおかしくない状態だった。
「弊国の軍事力で貴国を守ります」
「北方全土を支配する貴国が何故わざわざ同盟を結ぶのか」
「支配をするのは容易い。しかし、それでは貴国のような理想郷を作り上げることは叶わない。私は弊国を健全化させるべくシトラル陛下に知恵と力を貸していただきたい」
「はっはっはっ。我が国を支配するのは容易いか。そんな貴国をどう信用しろと?」
シトラル国王は威圧的に見据える。
「我が弟セインを預けます。セインは私と同等の力を持っており、必ず貴国のお役に立ちましょう」
「内通するかもしれない相手を側に置いておけと?」
リアムがそう提案しても、目の前のシトラル国王は頷こうとはしなかった。
「陛下。私の記憶を全て消します。そうすれば兄が私を使って裏で手を引くかもしれないなどという心配ごともなくなりましょう。どうか兄が王となった暁には弊国との同盟を」
「セイン、記憶を消せばお前は死んだものと同じ。そんなこと――」
驚いたリアムはセインの提案を止めた。
「いえ、私の本質は生き続けます。アトラス王国に忠誠を誓い、必ずお役に立ってみせます!」
「セイン……」
リアムは瞳を閉じた後、シトラル国王に向き直った。
「失礼しました。我らはダルスのような過ちは決して起こさない。ローンズの民を平和な国へと導きたい。どうか我らに力をお貸しください」
リアムとセインは頭を下げる。
「……弾圧されている国は反乱を起こしやすい。貴国との同盟によってその者たちがこちらに刃を向けてくる可能性が出るのでは? それについてはどのように考える」
「返還を行う予定です。また貴国への刃は必ず我等が阻止いたします」
「ならば、そなたが王になり沈静化させることが出来れば、その提案に賛同しよう」
「お約束いたします」
シトラル陛下と側近二名以外にはこの事実を知らせてはいけないことと、セイン王子の安全を保証することを条件に成立した。
同盟は互いの支援。
――――二人は父ダルスを討ち、侵略した国の返還を行った。
しかし、侵略は主にリアムが行ってきたため、素直に喜ぶ者は多くはない。新たな魔王が誕生しただけだと、未だに多くの国が脅え様子を窺っていた。
またダルスを支持していた者達との抗争も始まった。
この時セインは初めて多くの者に手をかけた。
震える手で剣を強く握りしめる。
そして命の重みを感じながら突き進んだ。
失った者達のためにも貫き通す。
自分の信じた正義のために――!!
――――反発する者達の沈静化に力を注いだ後、リアムとセインはアトラス王国へと向かった。
約束どおりシトラル国王はセインを受け入れる。
「兄さん、あとは宜しくね。俺もここで頑張るから」
「心配はしていない。俺はお前を信頼している」
「あはは。うん。俺も兄さんを信頼している」
最後の言葉を交わし、ベッドに横たわった。
リアムとローンズ王国の繁栄を願い、瞳を閉じる。
そしてセインは全ての記憶を失った――――。
記憶のかけらが全て揃い、真っ白な世界に色が加わる。
レイがゆっくりと瞳を開けると一筋の涙が溢れた。
大切な記憶を取り戻し、全てが繋がった。
横を向くとリアム国王がベッドの脇に置いた椅子に座ったまま眠っている。
懐かしいその姿に胸が詰まった。
「兄さん……」
何年ぶりかに口にした言葉が震える。
その声に導かれるようにリアム国王はゆっくりと瞳を開けた。
「セイン……」
視界が歪む中、リアム国王が傍に寄ってくるのが見え、思わず腕で自分の目を隠す。
合わせる顔がなかった。
「兄さん……ごめんなさい……俺……」
ベッドの端に重みを感じたが、レイ、もといセイン王子は顔を上げることが出来ずにいた。
「いや、問題ない。セインが無事に戻ってきてくれて私は嬉しい。お前のおかげでローンズはここまで大きくなれた。むしろ感謝している。お前にこんなことをさせてしまって申し訳なかった」
リアム国王の言葉に嘘はなかった。
傍若無人の独裁者だった父ダルスから母メーヴェルとセインをずっと守ってきた。
ダルスの信頼を得ていれば二人に危害が及ばない。
そう思い、ずっと忠実に従っていた。
しかしそうではないのだとセインに教わった。
自分の手で変えることが出来る。
だからダルスを討ち、国を立て直す気持ちになれた。
なのに母はクーデターの犠牲となり、セインは他国の捕虜となった。
一番守りたいものを守れていないのだ。
リアムはこの結果に疑問を抱き、ずっと悔やんでいた……。
「兄さん」
ゆっくりと体を起こしたセイン王子はリアム国王の背に頭をつけた。
「これは俺が言い出したことなんだから謝らないで。俺は兄さんのためなら喜んで何でもやる。だけど俺は戦争になりかねないことをしてしまった……」
セイン王子はベッドから降り、リアム国王の前で跪く。
「この度の件は申し訳ございませんでした」
「セイン、もういい。お前が早急に手を打ってくれたおかげで、最悪な事態は免れた。それにシトラル陛下から今後についての提案も来ている。これから先のことについて考えよう」
リアム国王は安心させるように微笑んだ。
「……はい」
アトラス王国は豊かで平和な国ではあったが、武力に関してはあまり強いものではない。
いつ狙われてもおかしくない状態だった。
「弊国の軍事力で貴国を守ります」
「北方全土を支配する貴国が何故わざわざ同盟を結ぶのか」
「支配をするのは容易い。しかし、それでは貴国のような理想郷を作り上げることは叶わない。私は弊国を健全化させるべくシトラル陛下に知恵と力を貸していただきたい」
「はっはっはっ。我が国を支配するのは容易いか。そんな貴国をどう信用しろと?」
シトラル国王は威圧的に見据える。
「我が弟セインを預けます。セインは私と同等の力を持っており、必ず貴国のお役に立ちましょう」
「内通するかもしれない相手を側に置いておけと?」
リアムがそう提案しても、目の前のシトラル国王は頷こうとはしなかった。
「陛下。私の記憶を全て消します。そうすれば兄が私を使って裏で手を引くかもしれないなどという心配ごともなくなりましょう。どうか兄が王となった暁には弊国との同盟を」
「セイン、記憶を消せばお前は死んだものと同じ。そんなこと――」
驚いたリアムはセインの提案を止めた。
「いえ、私の本質は生き続けます。アトラス王国に忠誠を誓い、必ずお役に立ってみせます!」
「セイン……」
リアムは瞳を閉じた後、シトラル国王に向き直った。
「失礼しました。我らはダルスのような過ちは決して起こさない。ローンズの民を平和な国へと導きたい。どうか我らに力をお貸しください」
リアムとセインは頭を下げる。
「……弾圧されている国は反乱を起こしやすい。貴国との同盟によってその者たちがこちらに刃を向けてくる可能性が出るのでは? それについてはどのように考える」
「返還を行う予定です。また貴国への刃は必ず我等が阻止いたします」
「ならば、そなたが王になり沈静化させることが出来れば、その提案に賛同しよう」
「お約束いたします」
シトラル陛下と側近二名以外にはこの事実を知らせてはいけないことと、セイン王子の安全を保証することを条件に成立した。
同盟は互いの支援。
――――二人は父ダルスを討ち、侵略した国の返還を行った。
しかし、侵略は主にリアムが行ってきたため、素直に喜ぶ者は多くはない。新たな魔王が誕生しただけだと、未だに多くの国が脅え様子を窺っていた。
またダルスを支持していた者達との抗争も始まった。
この時セインは初めて多くの者に手をかけた。
震える手で剣を強く握りしめる。
そして命の重みを感じながら突き進んだ。
失った者達のためにも貫き通す。
自分の信じた正義のために――!!
――――反発する者達の沈静化に力を注いだ後、リアムとセインはアトラス王国へと向かった。
約束どおりシトラル国王はセインを受け入れる。
「兄さん、あとは宜しくね。俺もここで頑張るから」
「心配はしていない。俺はお前を信頼している」
「あはは。うん。俺も兄さんを信頼している」
最後の言葉を交わし、ベッドに横たわった。
リアムとローンズ王国の繁栄を願い、瞳を閉じる。
そしてセインは全ての記憶を失った――――。
記憶のかけらが全て揃い、真っ白な世界に色が加わる。
レイがゆっくりと瞳を開けると一筋の涙が溢れた。
大切な記憶を取り戻し、全てが繋がった。
横を向くとリアム国王がベッドの脇に置いた椅子に座ったまま眠っている。
懐かしいその姿に胸が詰まった。
「兄さん……」
何年ぶりかに口にした言葉が震える。
その声に導かれるようにリアム国王はゆっくりと瞳を開けた。
「セイン……」
視界が歪む中、リアム国王が傍に寄ってくるのが見え、思わず腕で自分の目を隠す。
合わせる顔がなかった。
「兄さん……ごめんなさい……俺……」
ベッドの端に重みを感じたが、レイ、もといセイン王子は顔を上げることが出来ずにいた。
「いや、問題ない。セインが無事に戻ってきてくれて私は嬉しい。お前のおかげでローンズはここまで大きくなれた。むしろ感謝している。お前にこんなことをさせてしまって申し訳なかった」
リアム国王の言葉に嘘はなかった。
傍若無人の独裁者だった父ダルスから母メーヴェルとセインをずっと守ってきた。
ダルスの信頼を得ていれば二人に危害が及ばない。
そう思い、ずっと忠実に従っていた。
しかしそうではないのだとセインに教わった。
自分の手で変えることが出来る。
だからダルスを討ち、国を立て直す気持ちになれた。
なのに母はクーデターの犠牲となり、セインは他国の捕虜となった。
一番守りたいものを守れていないのだ。
リアムはこの結果に疑問を抱き、ずっと悔やんでいた……。
「兄さん」
ゆっくりと体を起こしたセイン王子はリアム国王の背に頭をつけた。
「これは俺が言い出したことなんだから謝らないで。俺は兄さんのためなら喜んで何でもやる。だけど俺は戦争になりかねないことをしてしまった……」
セイン王子はベッドから降り、リアム国王の前で跪く。
「この度の件は申し訳ございませんでした」
「セイン、もういい。お前が早急に手を打ってくれたおかげで、最悪な事態は免れた。それにシトラル陛下から今後についての提案も来ている。これから先のことについて考えよう」
リアム国王は安心させるように微笑んだ。
「……はい」
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