65 / 235
第05章 偽装
第065話 経験と小さな一歩
しおりを挟む
一人取り残されたエリー王女は、寂しさを紛らわせるためにドレッサーの前に座り髪を整えた。髪は毛先から少しずつとマーサから教わっていたので、そのようにゆっくりと梳かす。この髪と同じように少しずつやれば、いずれ自分も王の器としての素養を得ることが出来るのだろうか。
鏡の中の自分はまだどこか不安そうに見つめてくる。
私はどこまでやれるのだろう……。
◇
暫くするとレイとマーサが帰ってきた。恋人であった様子など微塵も感じさせない二人に、エリー王女は安心していつものように二人を出迎える。
「ありがとう、レイ。マーサ」
「おまたせ。あ、ちょっとアランに先にご飯食べてくるように言ってくるね」
レイはそう言うと部屋を出て、すぐに戻ってきた。
「あの……一緒に食べないのですか?」
用意されているのは一人分の食事しかなく、エリー王女が寂しそうに尋ねる。
「うん、心配しなくても大丈夫だよ。俺はアランと交代で食べるから。エリー様は気にせず食事をして。あ、見られているのが嫌なら一旦部屋を出るよ」
「いえ、そうではなく……」
今までは一人での食事は当たり前だった。しかし、ローンズ王国では毎日五人で楽しく食事をしていたため、この状況に寂しさを感じていた。
「あの……。今度からは四人でお食事をすることはできませんか?」
誰かと食事をすることはとても美味しく感じる。出来ることなら今後はずっとそうしたいと思い、そう聞いた。しかしマーサは首を振る。
「エリー様、誠に申し訳ないのですが、私のような身分の者が同じテーブルを囲うことは禁じられております。ですが、アラン様やレイ様と三人であれば問題ないかと思います」
「そんな……。マーサだって一人での食事は寂しいのでは?」
マーサにも食事をする楽しさを味わってもらいたい。自分と同じように寂しい思いをさせたくない。そう思ってマーサに訴えた。
「エリー様のお心遣いだけで充分でございます」
やはりマーサは優しく微笑みつつも同意はしてはくれない。
マーサが頑固なことは昔から分かっていた。だからレイに助けを求めるように視線を送ってみたが、肩を竦めるだけだった。
「わかりました……」
エリー王女はそれ以上何も言うことはしなかった。
◇
食事の片付けを使用人にお願いしたマーサは、部屋に隣接されているお風呂の支度を始めた。レイはその様子を見ながら、マーサから説明を受けている。
自分もできるだけのことはしたい。
そう思い、レイが説明を受けている間もエリー王女はしっかりと耳を傾けていた。
「髪やお体も洗って差し上げるのですが……。エリー様、如何いたしますか? レイ様にも覚えて頂きますか?」
お風呂場の入口にいたエリー王女は突然マーサに声をかけられ驚いた。
「え? あ、あの……いえ、それは自分で覚えますので……。多分、それくらいは出来ます……」
顔を真っ赤に染めて入口に隠れながら答えるとレイが近付いてくる。見上げると、少し悪戯っぽく笑みを浮かべており、胸がきゅっとしまった。
「残念だな。一緒に入りたかったのに」
「あ……えっと、ごめんなさい」
「あはは。冗談だよ。ゆっくり入ってきてね。マーサさん、じゃあ俺はエリー様が上がるまでこちらで待機してますね」
「わかりました。ではエリー様、こちらへ」
レイがお風呂場から出て行くと、熱くなった頬を押さえた。
「エリー様、顔が赤いですが大丈夫ですか?」
「マーサがあんなことを言うからです……」
「……からかったつもりはなかったのですよ。失礼しました」
マーサは優しく微笑むとエリー王女が次に行う行動を待った。
エリー王女は不服そうな顔をしながらも、髪を束ね、服を脱ぎ始める。
そんな表情をしつつも、自分のことは自分でするということがとても楽しかった。今まではどんなに簡単なことでも全てマーサや侍女達が行っていた。後宮にいたときは何も疑問に思わなかったけれど、沢山の人々に触れエリー王女の世界は変わったのだ。
小さな一歩だけれど、エリー王女にとっては大きな一歩であった。
鏡の中の自分はまだどこか不安そうに見つめてくる。
私はどこまでやれるのだろう……。
◇
暫くするとレイとマーサが帰ってきた。恋人であった様子など微塵も感じさせない二人に、エリー王女は安心していつものように二人を出迎える。
「ありがとう、レイ。マーサ」
「おまたせ。あ、ちょっとアランに先にご飯食べてくるように言ってくるね」
レイはそう言うと部屋を出て、すぐに戻ってきた。
「あの……一緒に食べないのですか?」
用意されているのは一人分の食事しかなく、エリー王女が寂しそうに尋ねる。
「うん、心配しなくても大丈夫だよ。俺はアランと交代で食べるから。エリー様は気にせず食事をして。あ、見られているのが嫌なら一旦部屋を出るよ」
「いえ、そうではなく……」
今までは一人での食事は当たり前だった。しかし、ローンズ王国では毎日五人で楽しく食事をしていたため、この状況に寂しさを感じていた。
「あの……。今度からは四人でお食事をすることはできませんか?」
誰かと食事をすることはとても美味しく感じる。出来ることなら今後はずっとそうしたいと思い、そう聞いた。しかしマーサは首を振る。
「エリー様、誠に申し訳ないのですが、私のような身分の者が同じテーブルを囲うことは禁じられております。ですが、アラン様やレイ様と三人であれば問題ないかと思います」
「そんな……。マーサだって一人での食事は寂しいのでは?」
マーサにも食事をする楽しさを味わってもらいたい。自分と同じように寂しい思いをさせたくない。そう思ってマーサに訴えた。
「エリー様のお心遣いだけで充分でございます」
やはりマーサは優しく微笑みつつも同意はしてはくれない。
マーサが頑固なことは昔から分かっていた。だからレイに助けを求めるように視線を送ってみたが、肩を竦めるだけだった。
「わかりました……」
エリー王女はそれ以上何も言うことはしなかった。
◇
食事の片付けを使用人にお願いしたマーサは、部屋に隣接されているお風呂の支度を始めた。レイはその様子を見ながら、マーサから説明を受けている。
自分もできるだけのことはしたい。
そう思い、レイが説明を受けている間もエリー王女はしっかりと耳を傾けていた。
「髪やお体も洗って差し上げるのですが……。エリー様、如何いたしますか? レイ様にも覚えて頂きますか?」
お風呂場の入口にいたエリー王女は突然マーサに声をかけられ驚いた。
「え? あ、あの……いえ、それは自分で覚えますので……。多分、それくらいは出来ます……」
顔を真っ赤に染めて入口に隠れながら答えるとレイが近付いてくる。見上げると、少し悪戯っぽく笑みを浮かべており、胸がきゅっとしまった。
「残念だな。一緒に入りたかったのに」
「あ……えっと、ごめんなさい」
「あはは。冗談だよ。ゆっくり入ってきてね。マーサさん、じゃあ俺はエリー様が上がるまでこちらで待機してますね」
「わかりました。ではエリー様、こちらへ」
レイがお風呂場から出て行くと、熱くなった頬を押さえた。
「エリー様、顔が赤いですが大丈夫ですか?」
「マーサがあんなことを言うからです……」
「……からかったつもりはなかったのですよ。失礼しました」
マーサは優しく微笑むとエリー王女が次に行う行動を待った。
エリー王女は不服そうな顔をしながらも、髪を束ね、服を脱ぎ始める。
そんな表情をしつつも、自分のことは自分でするということがとても楽しかった。今まではどんなに簡単なことでも全てマーサや侍女達が行っていた。後宮にいたときは何も疑問に思わなかったけれど、沢山の人々に触れエリー王女の世界は変わったのだ。
小さな一歩だけれど、エリー王女にとっては大きな一歩であった。
0
人物紹介
大きいサイズで見る
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる