63 / 235
第05章 偽装
第063話 帰路
しおりを挟む
朝日が眩しく輝き出した頃、城へと続くアプローチの石畳に多くの影が落とされた。城の前には多くの荷馬車と両国の騎士が整列している。皆が重厚な扉を見つめ、時を待っていた。
白くて長い尾の鳥が一羽舞い上がり、甲高い鳴き声を上げた時だった。城の両扉がゆっくりと開かれ、一同はそれを合図にそれぞれの自国の敬礼を一斉に始めた。
リアム国王とエリー王女の登場である。
真新しい朝の光を浴びたエリー王女は、眩(まばゆ)い輝きを放つ。皆は自分の任務を忘れ、息を飲んだ。階段を下りる度にサラサラと揺れる髪。透き通った肌。大きな瞳は時々リアム国王を見つめる。
リアム国王も心なしか優しい表情をしていた。王女を気遣うように腕に添えられた真っ白な手に自分の手を重ねている。
その光景に誰もが目を奪われた。
エリー王女が乗る装飾が施された馬車の前まで来ると、リアム国王とエリー王女が向かい合う。
「この度は数々のご厚意に感謝いたします」
「いや、こちらこそ感謝している。エリー王女、何かあればいつでも頼るといい」
「ありがとうございます」
リアム国王が僅かに微笑むと、アランとレイに視線を移す。
「君たちのお陰で大変楽しく過ごすことができた。また剣を交えよう」
アランとレイが深くお辞儀をすると、リアム国王は騎士に出発の合図を送った。
帰りも襲撃に合う可能性が高い。リアム国王はローンズの先鋭部隊、騎士二十名も同行させた。
アプローチを進み、城門を出るとローンズ王国の国民達が手を振ってエリー王女を見送った。
エリー王女はローンズで過ごした楽しい思い出を胸に、アトラス王国へと向かう。
◇
最初の滞在所に着いたのは夕方だった。エリー王女は馬車での移動にすっかり疲れてはいたが、アトラス王国とローンズ王国の騎士達への配慮は忘れず一人一人に声をかけた。その中に訓練所で見たアリスというローンズの騎士がいることに気がつく。
「あ……。アリスですよね。この度は長旅に付き合ってくださいましてありがとうございます」
少しもやもやとした気持ちが沸き起こったが他の騎士達同様に笑顔で声をかけた。
「お仕えできて光栄です。リアム陛下の名にかけてエリー様を全力でお守りいたします」
輝くような笑顔でアリスが敬意を表してくれたことに、エリー王女は自分のつまらない嫉妬が恥ずかしく思えた。
アリスは何も悪くない。
エリー王女はもう一度アリスに微笑みかけた。
「エリー様、そろそろお部屋に」
アランに声をかけられ、エリー王女は案内された部屋へと入る。
「お疲れ様でした。食事はいつも通りお部屋に運ばせます。このままお部屋でゆっくりとお寛ぎください」
「レイ様」
アランとレイが部屋を出て行こうとするとマーサが呼び止めた。
「今日から少しずつ布石を打っていきたいと思いますので、レイ様と二人でエリー様のお食事の用意をしても宜しいでしょうか?」
「二人で? あー、そっか。ありがとうございます。こちらこそお願いします。エリー様、少しお待ち下さい。また戻って来ますので」
レイはエリー王女を安心させるかのように微笑んだ。
「はい。宜しくお願い致します」
エリー王女もまた、心配していないと言うように微笑んだ。
恋人のフリは全く気にならないわけではない。
自分の見えないところで二人が楽しそうにしているところを想像しては、それを掻き消した。
レイを守るには必要なこと。
エリー王女は強く自分に言い聞かせた。
白くて長い尾の鳥が一羽舞い上がり、甲高い鳴き声を上げた時だった。城の両扉がゆっくりと開かれ、一同はそれを合図にそれぞれの自国の敬礼を一斉に始めた。
リアム国王とエリー王女の登場である。
真新しい朝の光を浴びたエリー王女は、眩(まばゆ)い輝きを放つ。皆は自分の任務を忘れ、息を飲んだ。階段を下りる度にサラサラと揺れる髪。透き通った肌。大きな瞳は時々リアム国王を見つめる。
リアム国王も心なしか優しい表情をしていた。王女を気遣うように腕に添えられた真っ白な手に自分の手を重ねている。
その光景に誰もが目を奪われた。
エリー王女が乗る装飾が施された馬車の前まで来ると、リアム国王とエリー王女が向かい合う。
「この度は数々のご厚意に感謝いたします」
「いや、こちらこそ感謝している。エリー王女、何かあればいつでも頼るといい」
「ありがとうございます」
リアム国王が僅かに微笑むと、アランとレイに視線を移す。
「君たちのお陰で大変楽しく過ごすことができた。また剣を交えよう」
アランとレイが深くお辞儀をすると、リアム国王は騎士に出発の合図を送った。
帰りも襲撃に合う可能性が高い。リアム国王はローンズの先鋭部隊、騎士二十名も同行させた。
アプローチを進み、城門を出るとローンズ王国の国民達が手を振ってエリー王女を見送った。
エリー王女はローンズで過ごした楽しい思い出を胸に、アトラス王国へと向かう。
◇
最初の滞在所に着いたのは夕方だった。エリー王女は馬車での移動にすっかり疲れてはいたが、アトラス王国とローンズ王国の騎士達への配慮は忘れず一人一人に声をかけた。その中に訓練所で見たアリスというローンズの騎士がいることに気がつく。
「あ……。アリスですよね。この度は長旅に付き合ってくださいましてありがとうございます」
少しもやもやとした気持ちが沸き起こったが他の騎士達同様に笑顔で声をかけた。
「お仕えできて光栄です。リアム陛下の名にかけてエリー様を全力でお守りいたします」
輝くような笑顔でアリスが敬意を表してくれたことに、エリー王女は自分のつまらない嫉妬が恥ずかしく思えた。
アリスは何も悪くない。
エリー王女はもう一度アリスに微笑みかけた。
「エリー様、そろそろお部屋に」
アランに声をかけられ、エリー王女は案内された部屋へと入る。
「お疲れ様でした。食事はいつも通りお部屋に運ばせます。このままお部屋でゆっくりとお寛ぎください」
「レイ様」
アランとレイが部屋を出て行こうとするとマーサが呼び止めた。
「今日から少しずつ布石を打っていきたいと思いますので、レイ様と二人でエリー様のお食事の用意をしても宜しいでしょうか?」
「二人で? あー、そっか。ありがとうございます。こちらこそお願いします。エリー様、少しお待ち下さい。また戻って来ますので」
レイはエリー王女を安心させるかのように微笑んだ。
「はい。宜しくお願い致します」
エリー王女もまた、心配していないと言うように微笑んだ。
恋人のフリは全く気にならないわけではない。
自分の見えないところで二人が楽しそうにしているところを想像しては、それを掻き消した。
レイを守るには必要なこと。
エリー王女は強く自分に言い聞かせた。
0
人物紹介
大きいサイズで見る
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる