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第05章 偽装
第063話 帰路
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朝日が眩しく輝き出した頃、城へと続くアプローチの石畳に多くの影が落とされた。城の前には多くの荷馬車と両国の騎士が整列している。皆が重厚な扉を見つめ、時を待っていた。
白くて長い尾の鳥が一羽舞い上がり、甲高い鳴き声を上げた時だった。城の両扉がゆっくりと開かれ、一同はそれを合図にそれぞれの自国の敬礼を一斉に始めた。
リアム国王とエリー王女の登場である。
真新しい朝の光を浴びたエリー王女は、眩(まばゆ)い輝きを放つ。皆は自分の任務を忘れ、息を飲んだ。階段を下りる度にサラサラと揺れる髪。透き通った肌。大きな瞳は時々リアム国王を見つめる。
リアム国王も心なしか優しい表情をしていた。王女を気遣うように腕に添えられた真っ白な手に自分の手を重ねている。
その光景に誰もが目を奪われた。
エリー王女が乗る装飾が施された馬車の前まで来ると、リアム国王とエリー王女が向かい合う。
「この度は数々のご厚意に感謝いたします」
「いや、こちらこそ感謝している。エリー王女、何かあればいつでも頼るといい」
「ありがとうございます」
リアム国王が僅かに微笑むと、アランとレイに視線を移す。
「君たちのお陰で大変楽しく過ごすことができた。また剣を交えよう」
アランとレイが深くお辞儀をすると、リアム国王は騎士に出発の合図を送った。
帰りも襲撃に合う可能性が高い。リアム国王はローンズの先鋭部隊、騎士二十名も同行させた。
アプローチを進み、城門を出るとローンズ王国の国民達が手を振ってエリー王女を見送った。
エリー王女はローンズで過ごした楽しい思い出を胸に、アトラス王国へと向かう。
◇
最初の滞在所に着いたのは夕方だった。エリー王女は馬車での移動にすっかり疲れてはいたが、アトラス王国とローンズ王国の騎士達への配慮は忘れず一人一人に声をかけた。その中に訓練所で見たアリスというローンズの騎士がいることに気がつく。
「あ……。アリスですよね。この度は長旅に付き合ってくださいましてありがとうございます」
少しもやもやとした気持ちが沸き起こったが他の騎士達同様に笑顔で声をかけた。
「お仕えできて光栄です。リアム陛下の名にかけてエリー様を全力でお守りいたします」
輝くような笑顔でアリスが敬意を表してくれたことに、エリー王女は自分のつまらない嫉妬が恥ずかしく思えた。
アリスは何も悪くない。
エリー王女はもう一度アリスに微笑みかけた。
「エリー様、そろそろお部屋に」
アランに声をかけられ、エリー王女は案内された部屋へと入る。
「お疲れ様でした。食事はいつも通りお部屋に運ばせます。このままお部屋でゆっくりとお寛ぎください」
「レイ様」
アランとレイが部屋を出て行こうとするとマーサが呼び止めた。
「今日から少しずつ布石を打っていきたいと思いますので、レイ様と二人でエリー様のお食事の用意をしても宜しいでしょうか?」
「二人で? あー、そっか。ありがとうございます。こちらこそお願いします。エリー様、少しお待ち下さい。また戻って来ますので」
レイはエリー王女を安心させるかのように微笑んだ。
「はい。宜しくお願い致します」
エリー王女もまた、心配していないと言うように微笑んだ。
恋人のフリは全く気にならないわけではない。
自分の見えないところで二人が楽しそうにしているところを想像しては、それを掻き消した。
レイを守るには必要なこと。
エリー王女は強く自分に言い聞かせた。
白くて長い尾の鳥が一羽舞い上がり、甲高い鳴き声を上げた時だった。城の両扉がゆっくりと開かれ、一同はそれを合図にそれぞれの自国の敬礼を一斉に始めた。
リアム国王とエリー王女の登場である。
真新しい朝の光を浴びたエリー王女は、眩(まばゆ)い輝きを放つ。皆は自分の任務を忘れ、息を飲んだ。階段を下りる度にサラサラと揺れる髪。透き通った肌。大きな瞳は時々リアム国王を見つめる。
リアム国王も心なしか優しい表情をしていた。王女を気遣うように腕に添えられた真っ白な手に自分の手を重ねている。
その光景に誰もが目を奪われた。
エリー王女が乗る装飾が施された馬車の前まで来ると、リアム国王とエリー王女が向かい合う。
「この度は数々のご厚意に感謝いたします」
「いや、こちらこそ感謝している。エリー王女、何かあればいつでも頼るといい」
「ありがとうございます」
リアム国王が僅かに微笑むと、アランとレイに視線を移す。
「君たちのお陰で大変楽しく過ごすことができた。また剣を交えよう」
アランとレイが深くお辞儀をすると、リアム国王は騎士に出発の合図を送った。
帰りも襲撃に合う可能性が高い。リアム国王はローンズの先鋭部隊、騎士二十名も同行させた。
アプローチを進み、城門を出るとローンズ王国の国民達が手を振ってエリー王女を見送った。
エリー王女はローンズで過ごした楽しい思い出を胸に、アトラス王国へと向かう。
◇
最初の滞在所に着いたのは夕方だった。エリー王女は馬車での移動にすっかり疲れてはいたが、アトラス王国とローンズ王国の騎士達への配慮は忘れず一人一人に声をかけた。その中に訓練所で見たアリスというローンズの騎士がいることに気がつく。
「あ……。アリスですよね。この度は長旅に付き合ってくださいましてありがとうございます」
少しもやもやとした気持ちが沸き起こったが他の騎士達同様に笑顔で声をかけた。
「お仕えできて光栄です。リアム陛下の名にかけてエリー様を全力でお守りいたします」
輝くような笑顔でアリスが敬意を表してくれたことに、エリー王女は自分のつまらない嫉妬が恥ずかしく思えた。
アリスは何も悪くない。
エリー王女はもう一度アリスに微笑みかけた。
「エリー様、そろそろお部屋に」
アランに声をかけられ、エリー王女は案内された部屋へと入る。
「お疲れ様でした。食事はいつも通りお部屋に運ばせます。このままお部屋でゆっくりとお寛ぎください」
「レイ様」
アランとレイが部屋を出て行こうとするとマーサが呼び止めた。
「今日から少しずつ布石を打っていきたいと思いますので、レイ様と二人でエリー様のお食事の用意をしても宜しいでしょうか?」
「二人で? あー、そっか。ありがとうございます。こちらこそお願いします。エリー様、少しお待ち下さい。また戻って来ますので」
レイはエリー王女を安心させるかのように微笑んだ。
「はい。宜しくお願い致します」
エリー王女もまた、心配していないと言うように微笑んだ。
恋人のフリは全く気にならないわけではない。
自分の見えないところで二人が楽しそうにしているところを想像しては、それを掻き消した。
レイを守るには必要なこと。
エリー王女は強く自分に言い聞かせた。
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