恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第04章 禁じられた恋

第061話 意志

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 しばらくの間、エリー王女はレイの胸の中で顔をうずめていた。暖かさと心地よい心音でエリー王女はやっと落ち着きを取り戻す。それでも、レイから離れたくなくて動かずにいた。その時、リアム国王の言葉がぎり、エリー王女はもぞもぞと顔あげる。

「レイ……」
「ん……?」
「もしも……もしもレイが貴族であれば……レイと一緒になれますか?」

 真っ赤な瞳に涙でぐしょぐしょになった頬。レイは優しく髪を撫で、困ったように笑った。

「アトラス王国の貴族であれば可能性はあるけど、他国の場合は難しいかな」
「そう……ですか……」

 レイの答えに対しエリー王女は険しい表情をしたまま黙っていた。

「どうしたの?」
「あの……。ではもし、私が王となった場合は一緒になれる可能性はございますか?」
「……え? 王に?」
「はい……」

 エリー王女はリアム国王から聞いた話をレイにした。

「動機が不純ではございますが、私……レイと一緒になれるのであれば王になりたいです……」
「エリー……。確かにエリーが女王として君臨したら、王配の一人にはなれるかもだけど……」

 少しは喜んでくれると思っていたが、レイの表情は曇ったままだった。

「嫌ですか?」
「ううん、違うんだ。エリーと一緒になりたいし、その気持ちも嬉しい。だけどまだ決まったわけじゃない。王になることが出来ないかもしれない。もしなれたとしても、王配にはなれないかもしれない。そういう不安が期待してはだめだと心を抑えているだけなんだ。でも、本当に嬉しいよ! エリーが俺のために色々考えてくれて」
「レイ……」

 明るく振る舞うレイに、胸がズキンと痛んだ。あんなに明るかったレイが自分のせいで苦しんでいる。どうしたら笑顔になってもらえるのだろう。エリー王女は瞳を揺らしながらレイをじっと見つめた。

「ごめんね。俺がこんな顔をしてたらエリーも笑えないよね。大丈夫。どんなことがあってもずっと傍にいるから。だから笑って。ね?」

 レイはいつもの笑みを浮かべた。
 それは優しくて温かな笑顔。
 エリー王女の頬を撫で、元気付けようとしてくれていた。

 その笑顔につられて、エリー王女はぎこちなさはあるものの笑顔を作った。
 
 結局、笑顔にしてもらったのはエリー王女の方だった。

 レイに何もしてあげられていない。
 エリー王女の胸の中にはもやもやとしたものが広がっていた。

「うん、エリーは笑っている方がかわいいよ。よしっ! じゃあ俺、そろそろ行くね。あんまり長くいると……ね……」

 すっと立ち上がるレイの姿に思わず腕を掴んだ。

「ま……待ってください……あの……そう! マーサと一緒に……三人で過ごすのはどうでしょうか? 恋人……になったわけですし、不自然ではないですよね?」

 少しでも一緒にいたくて、そんなことを口走ってしまう。レイは少し驚いた様子だったが、優しく微笑んでくれた。

「そうだね……ありがとう」

 全く一緒にいられないわけじゃない……。





「……エリー様」

 マーサはレイに呼ばれて部屋にくると、直ぐにエリー王女の傍へと寄った。目元に触れ、僅かに乱れた髪を直す。涙のあとを見て、マーサは気遣わしげに微笑む。

「私がこちらの部屋におります。エリー様はこの奥のお部屋でレイ様とゆっくりお過ごしください。そうすれば誰も疑うことはないと思いますから」
「マーサ……私……」

 マーサはゆっくりと首を振り、エリー王女の言葉を止めた。

「私は何も知りませんし、何も聞きません。そして、ここで起きることも何もわかりません。ですので、悲しむのは止めましょう」
「マーサ……」

 胸に飛び込んできたエリー王女を抱きしめ、背中を優しく撫でる。マーサは少し悲しそうに微笑むと視線をレイに移した。

「レイ様にご相談がございます。あってはならないことではございますが、先日の襲撃事件の時ように、私がお側にお仕えすることが出来ないこともあるかもしれません。そこで、今後のためにエリー様の身の回りのことも覚えていただけないでしょうか? そうすれば一緒にいる理由も増えますから」
「……ありがとうございます。そうですね。よろしくお願いします」

 レイはマーサに深く頭を下げる。

「あ……あの……」

 二人の話を聞いていたエリー王女はマーサから顔を離し、ソファーから立ち上がった。手を組み、きゅっと握り締めると、顔を上げる。

「私にも教えてください」

 自分で何も出来ないものが王になれるだろうか。
 何もかも用意されたものをそのまま受け入れ従うだけ。

 後宮にいたこと。
 結婚のこと。
 どこに行って何をするのか。
 着る服さえ決められている。

 ただ言われるがままに動いているだけ。
 自分はただその場にいるだけの意思のない人形と同じ。

 守られているだけではダメなのだ。
 レイを守れるような人になりたい。


――――変わりたい。


 エリー王女の中で何かが動き出した。 

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