恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第04章 禁じられた恋

第057話 疑惑

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「失礼致します」

 マーサは鍵を開けてエリー王女の部屋へ入った。広いリビングを見渡してもエリー王女の姿は見当たらない。

「エリー様?」

 もう眠ってしまったのだろうか。エリー王女の名前を呼びながら右奥にある寝室へと向かった。ベッドを覗き込んでみたがそこにも姿がない。

「何処にいらっしゃるのかしら……」

 手をぎゅっと握りしめ、もう一度リビングに戻る。すると、先ほど見えなかった応接用のソファーからドレスの裾が見えた。

「エリー様!」

 何かあったのではないかと、慌てて傍へ駆け寄る。ソファーにはエリー王女が横たわり瞳を閉じていた。跪き、意識を確認する。

「……良かった」

 ただ寝ているということがわかり、マーサはほっと胸を撫で下ろした。

「エリー様、このような場所で眠ってはお体を壊してしまいますよ」

 何度も声をかけ、ゆすってみたものの全く起きる気配がない。

「困りましたね……」

 誰かにベッドまで運んでもらうしかない。と、その時思い浮かべたのはレイの顔だった。マーサは、僅かに顔をしかめた。

「……いえ、むしろ丁度良いかもしれません」

 マーサはすっと立ち上がり、レイがいる隣の部屋へと向かった。



――――初めて後宮を出た日の夜、花火を見終えたエリー王女はレイと二人で部屋に戻ってきた。その時のエリー王女は、頬を薔薇色に染め、輝く瞳を更に潤ませていた。レイを見送った後は、大きな溜め息を何度も溢していた。

 その姿は、まるで恋をしているかのよう。

 そこからマーサは、注意深くエリー王女に関わる全てのことを調べ始めた。出会う貴族や王族はもちろん、アランやレイのことも。
 そして、エリー王女が好きな相手はレイなのではないかと思うようになった。まさかとは思ったが、そのように見れば見るほど確信に変わっていく。

 報われない恋。

 マーサは、いずれは諦めるだろうとそれについて何も言わなかった。

 しかし日に日にエリー王女の心は荒(すさ)んでいった。レイを追う瞳は悲しみを帯びている。諦めるどころか思いは募る一方に見えた。
 レイは当然ながら一定の距離を置いている。だからこそエリー王女の心は行き場をなくし、じっと動かなくなってしまったのだろう。

 エリー王女の心を癒すべく、マーサは色々な方法を試みた。けれども、エリー王女の心は奥底に沈んだままだった。

 マーサが途方にくれた時、それを打開したのはレイであった。女性となり、友人となると言ってくれたとエリー王女は嬉しそうにマーサに話した。光を取り戻した久しぶりの笑顔。マーサの胸の中がきゅっと痛んだ。

 エリー王女にとってレイは本当に特別なのだ。
 このままでいいはずはない。

 マーサは日々頭を悩ませた。

 その後もエリー王女とレイの観察を続け、ある日違和感を感じるようになった。それは、襲撃事件が起きた後の二人の様子。僅かではあるが、二人が絡ませる視線が違った。

 そして今朝の出来事。
 前日の深夜レイが訪れているのは分かっている。
 疑惑は深まるばかりだった。

 それはあってはならないこと――――。



 マーサは大きなため息をつき、扉を叩いた。

「あ、マーサさん。どうしたんですか?」

 少し乱れたシャツ姿のレイが出てくる。可愛らしい顔に似合わず鍛えられた体が見えた。見た目からして女性を惹き付ける。

 アラン派とレイ派があるくらい二人は城内で噂の的だった。だからこそ、二人の背後を調べるのは容易であった。二人とも女性関係は浮いた話はなく、男性からの支持も厚い。

 噂で聞く二人には非がなかった。

 さらにレイは、アランと違って分かりやすい優しさを持っていた。レイの太陽のような暖かい笑顔は、寂しさを和らげるだろう。
 レイは女性から見て、理想の男性なのだ。

 だからと言ってエリー王女にとって相応しい相手ではない。

「お寛ぎのところ申し訳ございません。お手伝いをお願いしたいのですが」
「もちろん良いですよ」

 柔らかく笑みを浮かべ快く承諾するレイに礼を述べ、マーサはエリー王女のところへ案内した。

「申し訳ございませんがエリー様をベッドまで運んでいただけますか」
「ああ、エリー様、こんなところで寝てしまわれたのですね。わかりました」

 エリー王女を愛おしそうに見つめ、優しく抱きかかえる。寝室のベッドまで運び寝かせると、レイは直ぐにエリー王女から離れた。

「では私はこれで」
「レイ様」

 レイが立ち去ろうとするとマーサが呼び止める。

「お着替えも手伝っていただけないでしょうか」
「え? それはあまり宜しくないような気がしますが……」

 訝しげにレイが顔をしかめると、マーサはレイの前に立った。すっと指を上げ、レイの胸元を指す。

「エリー様のここに赤い跡がございました。そのようなことが出来るのであれば問題ないかと」

 マーサはレイを見上げて微笑んだ。


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