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第04章 禁じられた恋
第054話 嫉妬
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エリー王女はリアム国王の手を借り、緊張しながらもなんとか馬に跨った。乗ると思った以上に高さがあり、体が縮こまる。すぐにリアム国王が後ろに跨りエリー王女を支えた。
「心配ない。しっかりここを掴んでおけば落ちることはない。背筋を伸ばす方が安全だ」
「はい……」
レイ以外の男性とこれほど密着したのは初めてだった。嫌な気持ちになっていないだろうかと、思わずレイをちらりと見る。目が合うと、いつものようににこりと笑顔を返してくれた。
「エリー様、恐いのは最初だけですよ。走れば風を感じて心地よいはずです。リアム陛下に身を預けていれば問題ございません」
リアム国王とエリー王女の絵になる姿にレイの心中は穏やかではなかった。しかし平静を装い、エリー王女に声をかける。
そんな気持ちも知らず、笑顔のレイを見たエリー王女はほっとした。
◇
リアム国王を先頭にしアランとレイが並走し、後ろにハルが付く。四頭のみでの出発である。エリー王女のお世話のために今回はマーサも付いてきていた。マーサはアランの馬に乗せてもらっている。
道中は、ローンズ王国の民がリアム国王とエリー王女の仲睦まじい姿を笑顔で見送った。
町を抜け、草原に来ると少し駆け足で走りだす。レイの言ったとおり、風を感じとても心地が良い。
「疲れていないか」
「はい、大丈夫です」
時々、リアム国王が気遣いの声をかけてくれた。
リアム国王の近寄りがたい印象は、エリー王女の中ではすっかり打ち消されている。レイがリアム国王を好きであることと、リアム国王もレイに優しいということもあり、エリー王女は男性の中でレイの次に心を開いていた。
エリー王女が後ろを振り向くと、リアム国王は馬のひづめの音にかき消されぬようエリー王女の口元に耳を近づける。
「今日はどちらに向かわれるのですか?」
「この先の森を抜けた向こうの高原だ。きっと気に入る」
今度はリアム国王がエリー王女の耳元で答え、笑顔で会話をする。楽しそうな二人を後ろから見ていたレイは手綱をただ握り締めるしか出来なかった。
◇
森の奧へ進んで行くと簡素な小屋があり、その場所で二人の男が待っていた。ここはローンズ王国が管理する小屋で地質調査を行うために建てられた休憩所である。
「ここから歩いて行く」
馬を預け、側近三人は大きな荷物を背中に背負った。一緒に付いてきていたマーサもまた、エリー王女のための荷物を背負う。
「マーサさん、俺が持ちますよ」
歩きなれていないマーサは付いていくのがやっとだった。レイの好意に最初は遠慮したのだったが、付いていけなければ足手まといになると考え、言葉に甘えることにした。
あちこちと大きな岩が転がっており、とても道が悪い。マーサだけではなく、エリー王女にとっても辛い道だった。
「数日前の大雨の影響で悪路になってしまったようだ。申し訳ない」
リアム国王はエリー王女に手を差しのべる。レイもよく手を差しのべてくれたなとエリー王女はレイを思い出しながら手を取った。
足場を見極めながら一歩ずつ足を伸ばしていたが、踏んだ先の岩が不安定にぐらつきエリー王女は大きく傾いた。
「キャッ!」
声を上げた瞬間にリアム国王が握った手を引っ張り、エリー王女を大きな胸の中に納めた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です。気を付けます」
エリー王女はリアム国王に微笑むと直ぐに離れる。リアム国王もエリー王女に微笑むと手を繋ぎ直し、時々声をかけながら進んでいった。
「お二人はとても仲がよろしいみたいですね」
マーサが隣を歩くレイに声をかけた。
「はい、とても。今までで一番だと思います」
笑顔を作りマーサを見ると、マーサも微笑みを作る。
「そうですか。妬けますでしょう?」
「え?」
「いえ。私が妬いてしまうくらいお似合いだと思いまして」
マーサの笑顔の底にある真意を探りつつもレイは笑った。
「そうですね。マーサさんが嫉妬するくらいお似合いだと思います」
名前を置き換えて自分の気持ちをマーサに伝える。自分が嫉妬するくらい二人は似合っているのだ。
レイは先を歩く二人を見つめた。
嫉妬していることは、エリー王女に知られてはいけない。知られてしまえば、リアム国王含む次期国王候補者達と接する際にエリー王女はレイに気を遣うだろう。気を遣いながらでは候補者とは良い関係が築けず国王を選ぶことが難しくなる。それではアトラス王国の未来が危うくなってしまうのだ。
――――分かっている。
嫉妬なんてしてはならない。
これが自分の選んだ道なのだ。
だからレイは自分に言い聞かせた。
「マーサさんもお手を」
「……ありがとうございます」
レイは、マーサの手を取り一歩一歩足を踏みしめた。
------------------
※1枚目のイラストの色づけは雪華さんがしてくださいました。
※2枚目のイラストはみーこさんが描いてくださいました。
「心配ない。しっかりここを掴んでおけば落ちることはない。背筋を伸ばす方が安全だ」
「はい……」
レイ以外の男性とこれほど密着したのは初めてだった。嫌な気持ちになっていないだろうかと、思わずレイをちらりと見る。目が合うと、いつものようににこりと笑顔を返してくれた。
「エリー様、恐いのは最初だけですよ。走れば風を感じて心地よいはずです。リアム陛下に身を預けていれば問題ございません」
リアム国王とエリー王女の絵になる姿にレイの心中は穏やかではなかった。しかし平静を装い、エリー王女に声をかける。
そんな気持ちも知らず、笑顔のレイを見たエリー王女はほっとした。
◇
リアム国王を先頭にしアランとレイが並走し、後ろにハルが付く。四頭のみでの出発である。エリー王女のお世話のために今回はマーサも付いてきていた。マーサはアランの馬に乗せてもらっている。
道中は、ローンズ王国の民がリアム国王とエリー王女の仲睦まじい姿を笑顔で見送った。
町を抜け、草原に来ると少し駆け足で走りだす。レイの言ったとおり、風を感じとても心地が良い。
「疲れていないか」
「はい、大丈夫です」
時々、リアム国王が気遣いの声をかけてくれた。
リアム国王の近寄りがたい印象は、エリー王女の中ではすっかり打ち消されている。レイがリアム国王を好きであることと、リアム国王もレイに優しいということもあり、エリー王女は男性の中でレイの次に心を開いていた。
エリー王女が後ろを振り向くと、リアム国王は馬のひづめの音にかき消されぬようエリー王女の口元に耳を近づける。
「今日はどちらに向かわれるのですか?」
「この先の森を抜けた向こうの高原だ。きっと気に入る」
今度はリアム国王がエリー王女の耳元で答え、笑顔で会話をする。楽しそうな二人を後ろから見ていたレイは手綱をただ握り締めるしか出来なかった。
◇
森の奧へ進んで行くと簡素な小屋があり、その場所で二人の男が待っていた。ここはローンズ王国が管理する小屋で地質調査を行うために建てられた休憩所である。
「ここから歩いて行く」
馬を預け、側近三人は大きな荷物を背中に背負った。一緒に付いてきていたマーサもまた、エリー王女のための荷物を背負う。
「マーサさん、俺が持ちますよ」
歩きなれていないマーサは付いていくのがやっとだった。レイの好意に最初は遠慮したのだったが、付いていけなければ足手まといになると考え、言葉に甘えることにした。
あちこちと大きな岩が転がっており、とても道が悪い。マーサだけではなく、エリー王女にとっても辛い道だった。
「数日前の大雨の影響で悪路になってしまったようだ。申し訳ない」
リアム国王はエリー王女に手を差しのべる。レイもよく手を差しのべてくれたなとエリー王女はレイを思い出しながら手を取った。
足場を見極めながら一歩ずつ足を伸ばしていたが、踏んだ先の岩が不安定にぐらつきエリー王女は大きく傾いた。
「キャッ!」
声を上げた瞬間にリアム国王が握った手を引っ張り、エリー王女を大きな胸の中に納めた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です。気を付けます」
エリー王女はリアム国王に微笑むと直ぐに離れる。リアム国王もエリー王女に微笑むと手を繋ぎ直し、時々声をかけながら進んでいった。
「お二人はとても仲がよろしいみたいですね」
マーサが隣を歩くレイに声をかけた。
「はい、とても。今までで一番だと思います」
笑顔を作りマーサを見ると、マーサも微笑みを作る。
「そうですか。妬けますでしょう?」
「え?」
「いえ。私が妬いてしまうくらいお似合いだと思いまして」
マーサの笑顔の底にある真意を探りつつもレイは笑った。
「そうですね。マーサさんが嫉妬するくらいお似合いだと思います」
名前を置き換えて自分の気持ちをマーサに伝える。自分が嫉妬するくらい二人は似合っているのだ。
レイは先を歩く二人を見つめた。
嫉妬していることは、エリー王女に知られてはいけない。知られてしまえば、リアム国王含む次期国王候補者達と接する際にエリー王女はレイに気を遣うだろう。気を遣いながらでは候補者とは良い関係が築けず国王を選ぶことが難しくなる。それではアトラス王国の未来が危うくなってしまうのだ。
――――分かっている。
嫉妬なんてしてはならない。
これが自分の選んだ道なのだ。
だからレイは自分に言い聞かせた。
「マーサさんもお手を」
「……ありがとうございます」
レイは、マーサの手を取り一歩一歩足を踏みしめた。
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※1枚目のイラストの色づけは雪華さんがしてくださいました。
※2枚目のイラストはみーこさんが描いてくださいました。
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