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第03章 告白
第049話 わがまま
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訓練を終えたアランがエリー王女の元に戻った。
「お疲れ」
「エリー様のご様子は?」
「あまり体調が良くないようだ。今日はもう部屋で休まれた方がいいかもしれない」
アランとビルボートが引き継ぎを行っている間、エリー王女はどこを見ているのか分からない視線で遠くを見ていた。それを見たアランは納得するように頷く。
「分かった。ありがとう」
◇
リアム国王と挨拶を交わすエリー王女はいつもと変わらぬ様子ではあったが、二人きりになると心を閉ざしたかのように表情を硬くした。
広い客室に戻り、アランが室内をくまなく調べている間もエリー王女はドアの前に立ち、じっと動かない。室内の確認を終えたアランが眉間にしわを寄せながらエリー王女に近づく。
「どこか悪いところがあるのなら医者をお呼び致しますが」
「いえ、結構です……」
エリー王女の素っ気ない態度に疑問を感じた。無理をしてでも笑顔を作るエリー王女が、今は視線すら合わせようとはしない。
マーサであれば何かわかるかもしれないと思ったアランは、心配ではあったが退室することに決めた。
「そうですか……。では、何かあればお呼び下さい」
お辞儀をし、部屋を出ていこうとするとエリー王女の尖った声色に呼びとめられる。
「レイが戻り次第、部屋に来るよう伝えてください」
「……わかりました。では直ぐに呼びつけます」
「……いえ。片付けのお手伝いをされているのですから、戻り次第で構いません」
何に怒っているのだろうか。エリー王女から発せられる空気は重く冷たかった。
以前と同じように、レイにならエリー王女は気持ちを打ち明けてくれるのかもしれない。
そう思ったアランは改めてお辞儀をし部屋を出た。
◇
ドアを叩く音が暗い廊下に鳴り響く。
普段であればエリー王女は眠っている時間だ。
レイは久しぶりに会ったローンズの騎士たちと随分と話し込んでしまい、遅くなってしまったのだ。
一応様子を確認するために、レイは鍵を開け静かに室内へと入る。
カーテンが開いており、月の光が室内を僅かに照らしていた。その窓際に人影が見える。
「エリー……起きていたんだね。遅くなってごめん」
「鍵をかけてこちらへ」
聞いたことのないエリー王女の冷たい声に戸惑いながら、レイはドアに鍵をかけてエリー王女の傍へと近づいた。するとエリー王女は突然レイの胸の中に飛び込み、腰に腕を回した。
「……どうしたの? 何かあった?」
驚きながらもレイは優しく声をかけ、エリー王女の肩を抱き、頭を撫でる。
「レイ……」
「ん?」
レイの腰に巻きついていたエリー王女の腕に力がこもる。
言いにくいことなのか、なかなか声が出てこないエリー王女をレイはゆっくりと待った。
「レイが……」
「うん」
今にも消えそうな声が胸の中から聞こえてくる。
「とても楽しそうでした……。それを見ていたら、少し寂しくなってしまいました……」
胸の中のエリー王女は僅かに震えていた。
「あー……そっか。そうだよね……」
レイはエリー王女の言葉を聞いて、友達がいないことについて嘆いていたことを思い出す。それなのに和気藹々としているのを遠くから眺めていたらそれは寂しく感じるだろうと思った。
「寂しい思いをさせてごめん。配慮が足りなかったよ。許してくれる?」
しかし、エリー王女は胸の中で小さく首を振る。
「ダメ? どうしたら許してくれる?」
「……どうしたら……ですか……」
エリー王女はレイの体からゆっくり顔を離しじっと見つめてきた。悲しみに満ちた瞳が揺れている。
「うん。何でも言って?」
レイはエリー王女のためなら何でもしてあげようと思った。悲しい顔なんてさせたくない。エリー王女の頬を伝う滴をそっと指で掬い、愛しい人の名前を呼んだ。
いや、それと同時だったのかもしれない。
レイの唇が柔らかな唇に塞がれた。
それは短くて一瞬の出来事だった。
首に手を回して引き寄せられた体が僅かに離れる。
――――ずっと私だけを見てください。
エリー王女はなんとか声を絞り出し、想いを告げた。
しかしそれだけでは足りず、すがるようにレイの唇をもう一度塞ぐ。
自分だけ見てほしいなどとなんというわがままを言っているのだろうか。そうは思いつつもエリー王女はもう歯止めが利かなくなっていた。
この想いに応えてほしい。
しかしレイはエリー王女の頬を撫でると、そのまま唇を離してしまった。
じわりとエリー王女の瞳に膜が張る。
揺れる瞳で見つめるとレイは優しく微笑んだ。
「心配しないで。俺はエリーだけを見ているよ」
「違います……そうではないのです……」
それは側近として? そんな言葉が欲しいのではない。
エリー王女は首を振った。
「……私は、レイに愛されたいのです」
悲しくて辛くて切なくて、もうどうしようもなかった。何よりもレイの愛だけが欲しい。
「もし……私が結婚しても側にいて愛してほしいのです。ずっと私だけを見て……誰のものにもならないで……」
込み上げる想いが強すぎたのか一滴の涙がまたぽろりと落ちた。それをレイが優しく指で拭う。レイの瞳はどこか困っているように見えた。
「お疲れ」
「エリー様のご様子は?」
「あまり体調が良くないようだ。今日はもう部屋で休まれた方がいいかもしれない」
アランとビルボートが引き継ぎを行っている間、エリー王女はどこを見ているのか分からない視線で遠くを見ていた。それを見たアランは納得するように頷く。
「分かった。ありがとう」
◇
リアム国王と挨拶を交わすエリー王女はいつもと変わらぬ様子ではあったが、二人きりになると心を閉ざしたかのように表情を硬くした。
広い客室に戻り、アランが室内をくまなく調べている間もエリー王女はドアの前に立ち、じっと動かない。室内の確認を終えたアランが眉間にしわを寄せながらエリー王女に近づく。
「どこか悪いところがあるのなら医者をお呼び致しますが」
「いえ、結構です……」
エリー王女の素っ気ない態度に疑問を感じた。無理をしてでも笑顔を作るエリー王女が、今は視線すら合わせようとはしない。
マーサであれば何かわかるかもしれないと思ったアランは、心配ではあったが退室することに決めた。
「そうですか……。では、何かあればお呼び下さい」
お辞儀をし、部屋を出ていこうとするとエリー王女の尖った声色に呼びとめられる。
「レイが戻り次第、部屋に来るよう伝えてください」
「……わかりました。では直ぐに呼びつけます」
「……いえ。片付けのお手伝いをされているのですから、戻り次第で構いません」
何に怒っているのだろうか。エリー王女から発せられる空気は重く冷たかった。
以前と同じように、レイにならエリー王女は気持ちを打ち明けてくれるのかもしれない。
そう思ったアランは改めてお辞儀をし部屋を出た。
◇
ドアを叩く音が暗い廊下に鳴り響く。
普段であればエリー王女は眠っている時間だ。
レイは久しぶりに会ったローンズの騎士たちと随分と話し込んでしまい、遅くなってしまったのだ。
一応様子を確認するために、レイは鍵を開け静かに室内へと入る。
カーテンが開いており、月の光が室内を僅かに照らしていた。その窓際に人影が見える。
「エリー……起きていたんだね。遅くなってごめん」
「鍵をかけてこちらへ」
聞いたことのないエリー王女の冷たい声に戸惑いながら、レイはドアに鍵をかけてエリー王女の傍へと近づいた。するとエリー王女は突然レイの胸の中に飛び込み、腰に腕を回した。
「……どうしたの? 何かあった?」
驚きながらもレイは優しく声をかけ、エリー王女の肩を抱き、頭を撫でる。
「レイ……」
「ん?」
レイの腰に巻きついていたエリー王女の腕に力がこもる。
言いにくいことなのか、なかなか声が出てこないエリー王女をレイはゆっくりと待った。
「レイが……」
「うん」
今にも消えそうな声が胸の中から聞こえてくる。
「とても楽しそうでした……。それを見ていたら、少し寂しくなってしまいました……」
胸の中のエリー王女は僅かに震えていた。
「あー……そっか。そうだよね……」
レイはエリー王女の言葉を聞いて、友達がいないことについて嘆いていたことを思い出す。それなのに和気藹々としているのを遠くから眺めていたらそれは寂しく感じるだろうと思った。
「寂しい思いをさせてごめん。配慮が足りなかったよ。許してくれる?」
しかし、エリー王女は胸の中で小さく首を振る。
「ダメ? どうしたら許してくれる?」
「……どうしたら……ですか……」
エリー王女はレイの体からゆっくり顔を離しじっと見つめてきた。悲しみに満ちた瞳が揺れている。
「うん。何でも言って?」
レイはエリー王女のためなら何でもしてあげようと思った。悲しい顔なんてさせたくない。エリー王女の頬を伝う滴をそっと指で掬い、愛しい人の名前を呼んだ。
いや、それと同時だったのかもしれない。
レイの唇が柔らかな唇に塞がれた。
それは短くて一瞬の出来事だった。
首に手を回して引き寄せられた体が僅かに離れる。
――――ずっと私だけを見てください。
エリー王女はなんとか声を絞り出し、想いを告げた。
しかしそれだけでは足りず、すがるようにレイの唇をもう一度塞ぐ。
自分だけ見てほしいなどとなんというわがままを言っているのだろうか。そうは思いつつもエリー王女はもう歯止めが利かなくなっていた。
この想いに応えてほしい。
しかしレイはエリー王女の頬を撫でると、そのまま唇を離してしまった。
じわりとエリー王女の瞳に膜が張る。
揺れる瞳で見つめるとレイは優しく微笑んだ。
「心配しないで。俺はエリーだけを見ているよ」
「違います……そうではないのです……」
それは側近として? そんな言葉が欲しいのではない。
エリー王女は首を振った。
「……私は、レイに愛されたいのです」
悲しくて辛くて切なくて、もうどうしようもなかった。何よりもレイの愛だけが欲しい。
「もし……私が結婚しても側にいて愛してほしいのです。ずっと私だけを見て……誰のものにもならないで……」
込み上げる想いが強すぎたのか一滴の涙がまたぽろりと落ちた。それをレイが優しく指で拭う。レイの瞳はどこか困っているように見えた。
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