恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第03章 告白

第044話 少しの距離

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「ハルさん、すみません」

 アランが話しかけるとハルが立ち上がった。

「エリー様の体調が優れないようなので今日は部屋で休ませていただこうと思います」
「えっ! アラン、私は大丈夫です。リアム陛下からのご好意ですので、最後まで見届けます」

 アランの提案にエリー王女は驚いた。

「では、レイさんが戻られましたら、温室でゆっくりと寛いでいただくのはいかがでしょうか。それならば、アランさんはそのまま陛下と予定通りお手合せしていただくことも出来ますし」
「いえ、皆様がお時間を空けてくださったのに――――」
「問題ございません。是非、温室も見ていただきたいのでご遠慮なさらずに。とても気に入ってくださると思います」

 エリー王女の言葉をハルが笑顔で遮る。

 無理をしてここにいては、かえって気を遣わせてしまうだろう。
 そう思ったエリー王女はハルの言葉に甘えることにした。

 レイが胸を弾ませて戻ってくるとアランはレイの耳もとで何かを伝えた。レイが頷くとアランはエリー王女に向き直る。

「それではエリー様、私はリアム陛下のところへ行って参ります」

 アランはエリー王女に一礼をし、素早く立ち去った。

「エリー様、では我々も参りましょう」
「いえ、レイ。少しだけご挨拶をさせてください」

 エリー王女は少し離れた場所に座っていたローンズ王国の騎士たちの元へと歩を進める。
 それに気が付いた騎士団隊長であるバーミアが立ち上ると、それに合わせて全員が立ち上がりエリー王女を見つめる。

「今宵は急な来訪を快く受け入れて下さいまして、ありがとうございます。今後ともローンズ王国と良い関係でいられるよう、よろしくお願いいたします」

 訓練している時間をもらったのであれば礼はしなくてはならない。そう思ったエリー王女は騎士団に対しても丁寧に対応をすることにしたのだ。
 エリー王女が微笑むとあまりにも愛らしい姿に騎士達は見とれ頬を赤らめたが、慌てて敬礼をした。こんな丁寧な対応をする王族は初めてだ。この時から皆がエリー王女を好意的に見るようになったのは言うまでもない。



 ◇

 演習場から漏れる明かりで外は足元が良く見えるほど明るかった。
 エリー王女は前を歩くレイの後姿を心配そうな表情で見つめる。レイの制服はボロボロで所々血が滲んでいた。

「あの……温室より手当ての方を先になさってください」

 レイの腕を掴んで歩みを止めた。振り返ったレイはいつものようににこりと笑う。

「ありがとう。でも大丈夫だよ。俺はエリー様の体調の方が心配だよ。本当に大丈夫?」
「あの……いえ、私の体調は悪くはございません。あれはただ……レイが心配で見ていられなかっただけです……」

 エリー王女は顔を赤らめ俯いた。

 そんな理由だったとは思っておらす、レイは驚くとともに喜びがじわじわと湧いてくる。心配してもらえることがこんなに嬉しいとは思ってもいなかった。レイは困ったようにエリー王女を見つめる。

「そっか……。あー……うん。心配をしてくれてありがとう。俺、もっと強くなるように励むよ」
「あ! 違います! レイが弱いからとかではなく、大切に思う方が少しでも痛い思いをするのが嫌なだけです! レイは凄く強くてとても格好良かったです!」



 エリー王女の気持ちはわかっていた。
 それなのに顔を上げ必死に弁明する姿が愛らしい。

 そんな姿を見せられたら触れたくなってしまうのに……。

 差し出したくなる手をぐっと握りしめ、その想いを抑え込んだ。

「……ありがとう。でも大丈夫だよ。あー、それより温室! ここの温室は本当に凄いんだよ!」

 自分の気持ちを誤魔化すようにレイは明るく声をかける。エリー王女はまだ何か言いたそうではあったが、レイは気付かぬふりをして歩みを進めた。

 温室は演習場のすぐ隣にあるため、すぐに到着した。
 三階建てほどの高さのある四角い建物で、演習場ほどではないがとても大きな建物だった。

「レイはここに来たことがあるのですか?」
「うん。毎年合同訓練で演習場には来ていたからね。少しは知っているよ」

 レイはエリー王女の問いに答えながら扉を開けた。するとすぐまた扉があった。

「厳重なのですね」
「逃げないようにしているからね」
「……逃げる?」
「あ、そうだ。ねえ、少し目を閉じてて。俺が連れて行ってあげるから。いいよって言うまで絶対目を開けちゃダメだよ?」

 エリー王女の手を取りながら顔を覗き込む。

 久しぶりに触れ合う手と手。二人だけの空間。
 お互い胸が高鳴るのは必然だった。

「は、はい……」

 言われるまま目をぎゅっと瞑るエリー王女はあまりにも無防備で、レイは少し心配になる。他の人の前でもこんな風に言われたら目を閉じたりするのだろうか。それとも自分が特別だからか……。

 安心しきっている様子のエリー王女を、レイは優しく見つめた。

 エリー王女の手を引き、ゆっくりと前へ進む。程良く歩いたところで立ち止まった。ここなら全体が見渡せるだろう。

「目を開けても良いよ」

 レイの言葉に恐る恐る目をゆっくりと開ける。
 そこに飛び込んできた光景はエリー王女の心を一瞬で奪った。
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