恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第03章 告白

第043話 手合わせ

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 演習場を訪れたエリー王女は、半球形のガラス張り天井を見上げた。魔法薬を使用しての照明が煌々と演習場を照らしている。広い敷地と天候や夜も関係なく訓練が行える施設に驚いた。さすが軍事国家と言われるだけのことはある。

 エリー王女は今、側面の高い位置に設置された観覧席に座っていた。先ほどまで訓練を行っていた騎士達も少し離れた場所で演習場にいるリアム国王とレイを見ている。彼らは期待と興奮でざわめき立っていた。

「あの……アラン。あれは本物の剣でしょうか?」
「はい。心配しなくても大丈夫ですよ、死ぬようなことはないので」

 隣に座るアランがさらりと答える。それは大丈夫とは言えないことだった。怪我をする前提で行うなんて聞いていない。エリー王女は全身が凍り付くように固まった。

 そんなエリー王女の気持ちとは裏腹に、レイの胸は躍るように感情の熱が高まっていた。世界一と呼ばれる者と剣を交えることが出来るのだ。興奮しないわけがない。 

「手合わせは五分間。始めの一分はレイくんが攻撃をし、私は防御に徹する。次の一分は攻防を交代。それを二セット行い、最後の一分は自由に反撃し合う。それで問題ないか?」
「はい。よろしくお願い致します」

 リアム国王とレイが剣を抜き、構える。
 エリー王女の心配をよそに審判が笛が鳴り響くとレイの攻撃が始まった。

 一刀目は必ず止められる。ならばとレイは地を蹴り、力いっぱい剣を振る。
 金属がぶつかり高らかに音を響かせた。
 まるで硬い岩にぶつけた様な大きな衝撃を感じる。

「くっ」

 手の痺れを感じながらもレイは次の攻撃に移る。
 左右上下、余すとこなく素早く攻撃を繰り返したが、まるで剣筋を読まれているかのように攻撃が防がれた。そう簡単にはいかないとは思っていたが……。

 腰を落とし、下段から切りかかると見せかけ背後に回り込む。リアム国王の背中が見えた。

――――いける!

 気合を発しながら剣を振るものの、ぶつかったのはリアム国王の剣。しかし、受け止めたのはリアム国王の体すれすれ。あともう一歩踏み込みが早ければ!

「良い筋だ。では私の番だな」

 丁度交代の笛が鳴り、リアム国王は直ぐさま反撃を開始する。重い剣技が繰り返され、レイは一打一打受けるのに必死だ。

 エリー王女は今にも当たってしまいそうな攻撃に、恐怖を感じ手が震える。それを抑えるようにぐっと手に力を入れた。

「やはりリアム陛下は凄いですね」
「レイさんも陛下の攻撃をよくかわしていらっしゃいます。一分持たない者も多いですから」
 
 アランがエリー王女の隣にいるハルと言葉を交わす。しかしそれすらもエリー王女の耳には届いていなかった。見ているのも恐ろしいのに、目を反らすことも出来ない。

「あっ」

 かわし切れずにレイの頬から血が滲みでると、エリー王女は思わず声を漏らした。

「なかなかだ。公式の試合ではない。次は魔法を使っていい」
「はい」

 リアム国王は攻撃をしながらレイに話しかけるとレイはにこりと笑う。
 三回目の笛が鳴った。

 レイが一歩下がり横に振ると剣が青白い光に包まれた。



 その剣を振り上げリアム国王に飛びかかる。頭上から降りてきた剣をリアム国王が受け止めた瞬間、強い光と共に地響きが広がった。

 観覧席の特殊防護ガラスがビリビリと音を鳴らしながら揺れる。

「あ、あの……アラン……今のは?」
「レイが剣に魔法を加え攻撃したのでそれを受けるためにリアム陛下も剣に魔法を加えたようです」
「……陛下も魔法が?」
「はい、使えます」

 遠くにいる騎士達もざわざわと賛美の声を上げている。確かに凄いが、次はリアム国王も同じように魔法を使って攻撃をするということではないだろうか。体中の血液が冷水のように冷え、頭はくらくらとしてきた。

 離れた場所に退避したリアム国王に対し、レイは剣を振り稲妻を放つ。
 稲妻は地を這い、真っ直ぐ突き進む。それは龍が襲い掛かっているようにも見えた。

 普通の人であれば致命傷を負わせるような攻撃であったがリアム国王はそれを難なくかわす。その後もレイは剣技と魔法を駆使して攻撃を行うがやはりリアム国王はどこか余裕が感じられた。

 そして四度目の笛が鳴る。

「では、私も」

 リアム国王も遠く離れた場所から魔法を放つと、炎の竜巻が巻き上がりレイを襲う。
 それに対しレイは水柱を立ち上げ、防いでみせた。

 魔法と魔法のぶつかり合いは、他の者からしてみればまるで見世物を見ているようだった。二人の戦いを見て誰もが興奮している。

 しかしエリー王女は違った。
 ハルの説明では五分間の手合せと聞いていたが、こんなに長い五分は今まで感じたことがない。一刻も早くこの戦いを終わらせてほしかった。

「アラン……本当に大丈夫なのでしょうか……」
「大丈夫です。魔法攻撃は魔法を使えるもの同士であればダメージは大きくなりません」

 アランの言葉を聞いても全く慰めにならなかった。

 五回目の笛が鳴り、お互いが攻撃し合う時にはエリー王女は俯いて顔を覆っていた。
 もう見ていられない。

「エリー様、お加減が悪くなられたのですか」

 気遣うアランの声が降ってくる。顔を上げれば、周りの騎士達もエリー王女の様子に気が付いたのか、ちらちらと視線が集まってきた。これでは皆が集中して観れなくなってしまう。そう思ったエリー王女は笑顔を作った。

「いえ、あまりにも痛そうなので思わず目を背けてしまっただけです。皆さんが日頃このように体を張って頑張って下さっているのだと思うと――――」

 その時、大きな爆発音が轟き粉塵が大きく立ち込めた。そのため二人の姿が見えなくなり、エリー王女が思わず立ち上がった。粉塵の中で光が見え隠れしており、まだ戦いは続いていることがわかる。無事であることは分かったが、安心はできない。エリー王女は何も出来ずただ立ち尽くしていると、最後の笛が鳴った。

 どよめき立つ中、アランも立ち上がり隣で目を凝らしている。
 無事なのだろうか。エリー王女は胸の前で組んだ手をぎゅっと握りしめた。

 ふっと一瞬で視界が晴れ、そこから現れたレイは服こそボロボロではあったが元気そうに笑っている。

 よかった……。

 エリー王女はほっと胸を撫でおろし、涙をぐっとこらえた。
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