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第03章 告白
第042話 セイン王子
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◇
食堂の大きなテーブルには紺と真っ白なクロスがかかり、薄紫や白などでまとめられた上品な色合いの花々が彩りを添えている。リアム国王とエリー王女が入室すると、部屋の隅に置かれたピアノから独奏曲がゆったりと流れ始めた。
騒がしいパーティーとは違う落ち着いた雰囲気に、エリー王女は少し驚いた。
「今日は疲れているだろうから、少人数での食事にした。我々五人でゆっくりとしよう思うのだが」
「え? あの……五人とは……?」
リアム国王にエスコートをしてもらっていたエリー王女は驚き、リアム国王を見上げた。
「私とエリー王女の側近だ。問題ないか?」
「は、はい。もちろん私は構いません。御厚意大変嬉しく思います」
エリー王女が笑みを溢すと、リアム国王も一瞬だけ嬉しそうな笑みを見せる。
その様子を見ていた一番後方にいるレイは、思わず視線を反らした。大丈夫……。レイは小さく呼吸を整え、いつも通りの顔を作る。
エリー王女の隣にはアランが座り、正面にはリアム国王の側近であるハルが座った。レイはハルの隣に座り、エリー王女に笑顔を向ける。エリー王女もまた小さく笑顔を返した。
全員が席につくと、次から次へと豪華な食事が運ばれてくる。食欲をそそる香りに緊張していたエリー王女も急にお腹が空いてきた。
上座に座るリアム国王が煌くシャンパングラスを掲げたため、エリー王女も平然を装いそれに倣った。乾杯の挨拶を交わし、グラスを口につけると、果実の芳醇な香りが口の中に広がる。
「美味しい……」
「盛大なパーティーにせず申し訳ない」
話しかけられたエリー王女は慌ててグラスを置いた。
「いえ、リアム陛下が仰る通りこの方が私にとって気を楽に過ごせます。ですので、リアム陛下のお気遣いに大変嬉しく思っておりました。ありがとうございます。あ。そういえば、セイン様のご容態はいかがでしょうか」
エリー王女はリアム国王の弟であるセイン王子のことを思い出し尋ねた。本来であれば一緒に食事をしていただろう。
「セインは相変わらず眠ったままだ。色々と手は尽くしているが……。年も王女と近いので元気であればセインも候補の一人に入れてもらいたかったんだが」
「たしか二十歳になられたと」
「あぁ、確かレイくんと同じだったな。セインは武芸に優れていたんだ。もしこの場にいたらきっと君たちと手合せを願ってきたかもしれないな」
いつもとは違う優しそうな表情でレイを見ていたので、エリー王女はきっとセイン王子とレイを重ねているのだろうと思った。会った頃とは違うリアム国王の柔らかな雰囲気に自然と肩の力が抜ける。
「リアム陛下は世界一の剣の使い手と聞き及んでおります。やはりセイン様の稽古はリアム陛下がつけておられたのでしょうか」
「そうだな。いつも相手をさせられていたよ。そのまま続けていたら私を超えていたかもしれない。あぁ、そうだ。もし宜しければ王女の側近達と手合せをしても良いだろうか?」
リアム国王がアランとレイに目を向けると二人は驚き目を見開いた。レイがアランの方を見たため、エリー王女もアランにどうするべきか探るように視線を送るとアランが頷き返す。
「リアム陛下。ご提案ありがとうございます。こちらからも是非お願い致します」
エリー王女が代わりに返事をすると、アランとレイはその場で深く頭を下げた。
リアム国王は満足そうに笑みを浮かべている。
最初は恐ろしい人だと思っていたが、側近にまで気遣いをするリアム国王にエリー王女は好感を持った。
「そういえば、アランくんは先の戦いで魔法薬を使用したと聞いたが、使い勝手はどうだ?」
「実践に使用したのは初めてでしたが、効果的に相手を仕留めることができました。また、相手の魔法を消滅させる魔法薬はかなりの効果を発揮しておりました。ただ、ビンを使用しておりますので素早さには欠けてしまいます」
アランが答えるとリアム国王が興味を示す。
「消滅させることに成功したのか。それは是非とも見てみたい。やはりそちらの開発部門は優秀なようだ。手合せの際はそれも見せていただこう」
魔法薬はアトラス王国とローンズ王国で共同開発している。元々ローンズ王国で使用していたものだったが、共同で行うことによって更なる発展を狙っていた。その点についてもリアム国王は寛大なのかもしれない。普通であれば他国に重要な情報など渡さないはずだからだ。
リアム国王が王になってからは悪評もなく、アランやレイも憧れているような話もしていた。やはり悪い人ではないのかもしれない。
そしてリアム国王に優しい表情をさせるセイン王子もまたきっと良い人に違いない。
そう思ったら早くリアム国王とセイン王子が一緒にいる姿を見たいと思った。
「リアム陛下。訓練を行う前に一度セイン様のお見舞いをしてもよろしいでしょうか?」
「いや、申し訳ない。うつる病気である可能性もあるため、一部の人間しか部屋にいれていないのだ。お気持ち感謝する」
「そうでしたか……。早く良くなることをお祈りしております」
エリー王女は心中を察して伝えると、リアム国王は優しく笑みを返す。その笑顔にエリー王女はどこかひっかかりを感じたが、それが何なのかは分からなかった。
※リアム国王の側近 ハル
食堂の大きなテーブルには紺と真っ白なクロスがかかり、薄紫や白などでまとめられた上品な色合いの花々が彩りを添えている。リアム国王とエリー王女が入室すると、部屋の隅に置かれたピアノから独奏曲がゆったりと流れ始めた。
騒がしいパーティーとは違う落ち着いた雰囲気に、エリー王女は少し驚いた。
「今日は疲れているだろうから、少人数での食事にした。我々五人でゆっくりとしよう思うのだが」
「え? あの……五人とは……?」
リアム国王にエスコートをしてもらっていたエリー王女は驚き、リアム国王を見上げた。
「私とエリー王女の側近だ。問題ないか?」
「は、はい。もちろん私は構いません。御厚意大変嬉しく思います」
エリー王女が笑みを溢すと、リアム国王も一瞬だけ嬉しそうな笑みを見せる。
その様子を見ていた一番後方にいるレイは、思わず視線を反らした。大丈夫……。レイは小さく呼吸を整え、いつも通りの顔を作る。
エリー王女の隣にはアランが座り、正面にはリアム国王の側近であるハルが座った。レイはハルの隣に座り、エリー王女に笑顔を向ける。エリー王女もまた小さく笑顔を返した。
全員が席につくと、次から次へと豪華な食事が運ばれてくる。食欲をそそる香りに緊張していたエリー王女も急にお腹が空いてきた。
上座に座るリアム国王が煌くシャンパングラスを掲げたため、エリー王女も平然を装いそれに倣った。乾杯の挨拶を交わし、グラスを口につけると、果実の芳醇な香りが口の中に広がる。
「美味しい……」
「盛大なパーティーにせず申し訳ない」
話しかけられたエリー王女は慌ててグラスを置いた。
「いえ、リアム陛下が仰る通りこの方が私にとって気を楽に過ごせます。ですので、リアム陛下のお気遣いに大変嬉しく思っておりました。ありがとうございます。あ。そういえば、セイン様のご容態はいかがでしょうか」
エリー王女はリアム国王の弟であるセイン王子のことを思い出し尋ねた。本来であれば一緒に食事をしていただろう。
「セインは相変わらず眠ったままだ。色々と手は尽くしているが……。年も王女と近いので元気であればセインも候補の一人に入れてもらいたかったんだが」
「たしか二十歳になられたと」
「あぁ、確かレイくんと同じだったな。セインは武芸に優れていたんだ。もしこの場にいたらきっと君たちと手合せを願ってきたかもしれないな」
いつもとは違う優しそうな表情でレイを見ていたので、エリー王女はきっとセイン王子とレイを重ねているのだろうと思った。会った頃とは違うリアム国王の柔らかな雰囲気に自然と肩の力が抜ける。
「リアム陛下は世界一の剣の使い手と聞き及んでおります。やはりセイン様の稽古はリアム陛下がつけておられたのでしょうか」
「そうだな。いつも相手をさせられていたよ。そのまま続けていたら私を超えていたかもしれない。あぁ、そうだ。もし宜しければ王女の側近達と手合せをしても良いだろうか?」
リアム国王がアランとレイに目を向けると二人は驚き目を見開いた。レイがアランの方を見たため、エリー王女もアランにどうするべきか探るように視線を送るとアランが頷き返す。
「リアム陛下。ご提案ありがとうございます。こちらからも是非お願い致します」
エリー王女が代わりに返事をすると、アランとレイはその場で深く頭を下げた。
リアム国王は満足そうに笑みを浮かべている。
最初は恐ろしい人だと思っていたが、側近にまで気遣いをするリアム国王にエリー王女は好感を持った。
「そういえば、アランくんは先の戦いで魔法薬を使用したと聞いたが、使い勝手はどうだ?」
「実践に使用したのは初めてでしたが、効果的に相手を仕留めることができました。また、相手の魔法を消滅させる魔法薬はかなりの効果を発揮しておりました。ただ、ビンを使用しておりますので素早さには欠けてしまいます」
アランが答えるとリアム国王が興味を示す。
「消滅させることに成功したのか。それは是非とも見てみたい。やはりそちらの開発部門は優秀なようだ。手合せの際はそれも見せていただこう」
魔法薬はアトラス王国とローンズ王国で共同開発している。元々ローンズ王国で使用していたものだったが、共同で行うことによって更なる発展を狙っていた。その点についてもリアム国王は寛大なのかもしれない。普通であれば他国に重要な情報など渡さないはずだからだ。
リアム国王が王になってからは悪評もなく、アランやレイも憧れているような話もしていた。やはり悪い人ではないのかもしれない。
そしてリアム国王に優しい表情をさせるセイン王子もまたきっと良い人に違いない。
そう思ったら早くリアム国王とセイン王子が一緒にいる姿を見たいと思った。
「リアム陛下。訓練を行う前に一度セイン様のお見舞いをしてもよろしいでしょうか?」
「いや、申し訳ない。うつる病気である可能性もあるため、一部の人間しか部屋にいれていないのだ。お気持ち感謝する」
「そうでしたか……。早く良くなることをお祈りしております」
エリー王女は心中を察して伝えると、リアム国王は優しく笑みを返す。その笑顔にエリー王女はどこかひっかかりを感じたが、それが何なのかは分からなかった。
※リアム国王の側近 ハル
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