42 / 235
第03章 告白
第042話 セイン王子
しおりを挟む
◇
食堂の大きなテーブルには紺と真っ白なクロスがかかり、薄紫や白などでまとめられた上品な色合いの花々が彩りを添えている。リアム国王とエリー王女が入室すると、部屋の隅に置かれたピアノから独奏曲がゆったりと流れ始めた。
騒がしいパーティーとは違う落ち着いた雰囲気に、エリー王女は少し驚いた。
「今日は疲れているだろうから、少人数での食事にした。我々五人でゆっくりとしよう思うのだが」
「え? あの……五人とは……?」
リアム国王にエスコートをしてもらっていたエリー王女は驚き、リアム国王を見上げた。
「私とエリー王女の側近だ。問題ないか?」
「は、はい。もちろん私は構いません。御厚意大変嬉しく思います」
エリー王女が笑みを溢すと、リアム国王も一瞬だけ嬉しそうな笑みを見せる。
その様子を見ていた一番後方にいるレイは、思わず視線を反らした。大丈夫……。レイは小さく呼吸を整え、いつも通りの顔を作る。
エリー王女の隣にはアランが座り、正面にはリアム国王の側近であるハルが座った。レイはハルの隣に座り、エリー王女に笑顔を向ける。エリー王女もまた小さく笑顔を返した。
全員が席につくと、次から次へと豪華な食事が運ばれてくる。食欲をそそる香りに緊張していたエリー王女も急にお腹が空いてきた。
上座に座るリアム国王が煌くシャンパングラスを掲げたため、エリー王女も平然を装いそれに倣った。乾杯の挨拶を交わし、グラスを口につけると、果実の芳醇な香りが口の中に広がる。
「美味しい……」
「盛大なパーティーにせず申し訳ない」
話しかけられたエリー王女は慌ててグラスを置いた。
「いえ、リアム陛下が仰る通りこの方が私にとって気を楽に過ごせます。ですので、リアム陛下のお気遣いに大変嬉しく思っておりました。ありがとうございます。あ。そういえば、セイン様のご容態はいかがでしょうか」
エリー王女はリアム国王の弟であるセイン王子のことを思い出し尋ねた。本来であれば一緒に食事をしていただろう。
「セインは相変わらず眠ったままだ。色々と手は尽くしているが……。年も王女と近いので元気であればセインも候補の一人に入れてもらいたかったんだが」
「たしか二十歳になられたと」
「あぁ、確かレイくんと同じだったな。セインは武芸に優れていたんだ。もしこの場にいたらきっと君たちと手合せを願ってきたかもしれないな」
いつもとは違う優しそうな表情でレイを見ていたので、エリー王女はきっとセイン王子とレイを重ねているのだろうと思った。会った頃とは違うリアム国王の柔らかな雰囲気に自然と肩の力が抜ける。
「リアム陛下は世界一の剣の使い手と聞き及んでおります。やはりセイン様の稽古はリアム陛下がつけておられたのでしょうか」
「そうだな。いつも相手をさせられていたよ。そのまま続けていたら私を超えていたかもしれない。あぁ、そうだ。もし宜しければ王女の側近達と手合せをしても良いだろうか?」
リアム国王がアランとレイに目を向けると二人は驚き目を見開いた。レイがアランの方を見たため、エリー王女もアランにどうするべきか探るように視線を送るとアランが頷き返す。
「リアム陛下。ご提案ありがとうございます。こちらからも是非お願い致します」
エリー王女が代わりに返事をすると、アランとレイはその場で深く頭を下げた。
リアム国王は満足そうに笑みを浮かべている。
最初は恐ろしい人だと思っていたが、側近にまで気遣いをするリアム国王にエリー王女は好感を持った。
「そういえば、アランくんは先の戦いで魔法薬を使用したと聞いたが、使い勝手はどうだ?」
「実践に使用したのは初めてでしたが、効果的に相手を仕留めることができました。また、相手の魔法を消滅させる魔法薬はかなりの効果を発揮しておりました。ただ、ビンを使用しておりますので素早さには欠けてしまいます」
アランが答えるとリアム国王が興味を示す。
「消滅させることに成功したのか。それは是非とも見てみたい。やはりそちらの開発部門は優秀なようだ。手合せの際はそれも見せていただこう」
魔法薬はアトラス王国とローンズ王国で共同開発している。元々ローンズ王国で使用していたものだったが、共同で行うことによって更なる発展を狙っていた。その点についてもリアム国王は寛大なのかもしれない。普通であれば他国に重要な情報など渡さないはずだからだ。
リアム国王が王になってからは悪評もなく、アランやレイも憧れているような話もしていた。やはり悪い人ではないのかもしれない。
そしてリアム国王に優しい表情をさせるセイン王子もまたきっと良い人に違いない。
そう思ったら早くリアム国王とセイン王子が一緒にいる姿を見たいと思った。
「リアム陛下。訓練を行う前に一度セイン様のお見舞いをしてもよろしいでしょうか?」
「いや、申し訳ない。うつる病気である可能性もあるため、一部の人間しか部屋にいれていないのだ。お気持ち感謝する」
「そうでしたか……。早く良くなることをお祈りしております」
エリー王女は心中を察して伝えると、リアム国王は優しく笑みを返す。その笑顔にエリー王女はどこかひっかかりを感じたが、それが何なのかは分からなかった。
※リアム国王の側近 ハル
食堂の大きなテーブルには紺と真っ白なクロスがかかり、薄紫や白などでまとめられた上品な色合いの花々が彩りを添えている。リアム国王とエリー王女が入室すると、部屋の隅に置かれたピアノから独奏曲がゆったりと流れ始めた。
騒がしいパーティーとは違う落ち着いた雰囲気に、エリー王女は少し驚いた。
「今日は疲れているだろうから、少人数での食事にした。我々五人でゆっくりとしよう思うのだが」
「え? あの……五人とは……?」
リアム国王にエスコートをしてもらっていたエリー王女は驚き、リアム国王を見上げた。
「私とエリー王女の側近だ。問題ないか?」
「は、はい。もちろん私は構いません。御厚意大変嬉しく思います」
エリー王女が笑みを溢すと、リアム国王も一瞬だけ嬉しそうな笑みを見せる。
その様子を見ていた一番後方にいるレイは、思わず視線を反らした。大丈夫……。レイは小さく呼吸を整え、いつも通りの顔を作る。
エリー王女の隣にはアランが座り、正面にはリアム国王の側近であるハルが座った。レイはハルの隣に座り、エリー王女に笑顔を向ける。エリー王女もまた小さく笑顔を返した。
全員が席につくと、次から次へと豪華な食事が運ばれてくる。食欲をそそる香りに緊張していたエリー王女も急にお腹が空いてきた。
上座に座るリアム国王が煌くシャンパングラスを掲げたため、エリー王女も平然を装いそれに倣った。乾杯の挨拶を交わし、グラスを口につけると、果実の芳醇な香りが口の中に広がる。
「美味しい……」
「盛大なパーティーにせず申し訳ない」
話しかけられたエリー王女は慌ててグラスを置いた。
「いえ、リアム陛下が仰る通りこの方が私にとって気を楽に過ごせます。ですので、リアム陛下のお気遣いに大変嬉しく思っておりました。ありがとうございます。あ。そういえば、セイン様のご容態はいかがでしょうか」
エリー王女はリアム国王の弟であるセイン王子のことを思い出し尋ねた。本来であれば一緒に食事をしていただろう。
「セインは相変わらず眠ったままだ。色々と手は尽くしているが……。年も王女と近いので元気であればセインも候補の一人に入れてもらいたかったんだが」
「たしか二十歳になられたと」
「あぁ、確かレイくんと同じだったな。セインは武芸に優れていたんだ。もしこの場にいたらきっと君たちと手合せを願ってきたかもしれないな」
いつもとは違う優しそうな表情でレイを見ていたので、エリー王女はきっとセイン王子とレイを重ねているのだろうと思った。会った頃とは違うリアム国王の柔らかな雰囲気に自然と肩の力が抜ける。
「リアム陛下は世界一の剣の使い手と聞き及んでおります。やはりセイン様の稽古はリアム陛下がつけておられたのでしょうか」
「そうだな。いつも相手をさせられていたよ。そのまま続けていたら私を超えていたかもしれない。あぁ、そうだ。もし宜しければ王女の側近達と手合せをしても良いだろうか?」
リアム国王がアランとレイに目を向けると二人は驚き目を見開いた。レイがアランの方を見たため、エリー王女もアランにどうするべきか探るように視線を送るとアランが頷き返す。
「リアム陛下。ご提案ありがとうございます。こちらからも是非お願い致します」
エリー王女が代わりに返事をすると、アランとレイはその場で深く頭を下げた。
リアム国王は満足そうに笑みを浮かべている。
最初は恐ろしい人だと思っていたが、側近にまで気遣いをするリアム国王にエリー王女は好感を持った。
「そういえば、アランくんは先の戦いで魔法薬を使用したと聞いたが、使い勝手はどうだ?」
「実践に使用したのは初めてでしたが、効果的に相手を仕留めることができました。また、相手の魔法を消滅させる魔法薬はかなりの効果を発揮しておりました。ただ、ビンを使用しておりますので素早さには欠けてしまいます」
アランが答えるとリアム国王が興味を示す。
「消滅させることに成功したのか。それは是非とも見てみたい。やはりそちらの開発部門は優秀なようだ。手合せの際はそれも見せていただこう」
魔法薬はアトラス王国とローンズ王国で共同開発している。元々ローンズ王国で使用していたものだったが、共同で行うことによって更なる発展を狙っていた。その点についてもリアム国王は寛大なのかもしれない。普通であれば他国に重要な情報など渡さないはずだからだ。
リアム国王が王になってからは悪評もなく、アランやレイも憧れているような話もしていた。やはり悪い人ではないのかもしれない。
そしてリアム国王に優しい表情をさせるセイン王子もまたきっと良い人に違いない。
そう思ったら早くリアム国王とセイン王子が一緒にいる姿を見たいと思った。
「リアム陛下。訓練を行う前に一度セイン様のお見舞いをしてもよろしいでしょうか?」
「いや、申し訳ない。うつる病気である可能性もあるため、一部の人間しか部屋にいれていないのだ。お気持ち感謝する」
「そうでしたか……。早く良くなることをお祈りしております」
エリー王女は心中を察して伝えると、リアム国王は優しく笑みを返す。その笑顔にエリー王女はどこかひっかかりを感じたが、それが何なのかは分からなかった。
※リアム国王の側近 ハル
0
人物紹介
大きいサイズで見る
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる