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第03章 告白
第040話 夜明け
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ベッドの上で抱きしめると、疲れていたのかエリー王女は直ぐに眠りについた。緊張していた自分に苦笑いをこぼし、エリー王女の額に唇を寄せる。髪を撫で、寝顔をじっと見つめた。安心しているように穏やかに眠る姿に胸が締め付けられる。レイは眉根を寄せ、エリー王女の髪から手をぱっと離した。
これ以上罪を重ねてはいけない……。
エリー王女に背を向け、そっとベッドから抜け出した。小屋を出ると、入口の傍に置いてあったベンチに腰掛ける。レイの魔法でこの辺り一帯は霧で包まれており、木々のざわめきだけが聞こえた。
瞳を閉じ、顔を上げて壁に寄り掛かる。
ちゃんと然るべきところに戻らなければ……。
頭では分かっているのに拒む自分がいる。抑えられない気持ちと格闘を繰り返しながら、ゆっくりと時間が過ぎていった。
風の動きが変わり、はっと顔を上げ立ち上がる。
魔法を強め、意識を集中した。誰かがこちらに近づいて来ている。鞘に手を置き、暗い木々の奥を睨んだ。
追っ手……。
エリー王女から離れることは良くないが、ここで戦闘になるよりはいい。そう思ったレイは人の気配のする方へと歩みを進めた。
五分ほど行ったところでレイは七人の男たちを見つける。一人一人を洞察し、黒づくめの男に目を止めた。他の男たちより上質で綺麗なマントを纏い、目許はマスクを付けている。顔を隠す必要性があるのだろう。この男がリーダーである可能性が高い。ならこの男から……。
「うっ」
バチバチと放電するかのように男の体から火花が散り、膝から崩れ落ちた。ざわめきが起きる中、気絶する程度の雷力を順番に与えていく。防ぎようのない攻撃に男たちは糸が切れた操り人形のように倒れた。
レイの強さは圧倒的だった。
ゆっくりと木の影から出ると、小屋から持ってきたロープで近くにいる男から縛り上げていく。膝をつき、きつく手足を縛るその後ろで黒い影がゆらりと浮かび上がった。
鈍く光る剣が空を切り、ガギンっと金属が合わさる音が夜の森に響く。風の動きを感じたレイは、振り向きながら剣を抜き、黒づくめの男が降り下ろした剣を受け止めた。
黒づくめの男……。
「へぇ、そのマントは魔防具なんだ」
マスクの奥にある目が見開かれる。
「なかなか手に入らないものを持ってるなんて、権力者……ってことだよね?」
交わる剣と剣。間近にある瞳を覗き込み尋ねるが、男は何も言わず剣を押し出し、白刃の光を左右に散らす。リズムを刻むように何度も金属同士を打ち付け合う。思っていたよりも強い。手加減をして勝てる相手ではなかった。
「いくら魔防具でも効かないわけじゃない」
レイは剣に雷の魔力を込め、力一杯横に弧を描く。バチバチと無数の小さな龍が剣から解き放たれる。男は剣で抑えようと前に構えたが、体ごと後ろに吹き飛ばされた。
「くっ……」
すぐ後ろの木にぶつかり体は止まるが、レイの攻撃は止まらない。向かってくる鋭い剣を男はなんとか受け止める。
このままではまずい。男がそう思った時だった。
「降伏……した方がいいんじゃない?」
レイは男をやさしく諭す。男が舌打ちをし、マスクに触れたかと思うと下に何かを投げる素振りした。
突如、つんざくような高音と共に眩い光が辺り一面に広がった。全感覚を麻痺させる閃光弾。無音にも感じるような真っ白な世界にレイは放り出された――――。
◇
部屋の窓から朝日が差し込み、眩しさにゆっくりと目を開ける。ぼんやりとした世界から明瞭な世界へと移り変わり、愛しい人を見つけた。片肘を付き、優しい瞳で見つめていたレイと目が合い、胸がとくんとときめく。朝日を浴びて整った綺麗な顔があまりにも幻想的でまだ夢の中にいるようだった。
左手を伸ばし、レイの頬に触れて確かめてみる。
「おはよう……エリー」
エリー王女の左手にレイの右手が重なる。確かな感触。
「おはよう……ございます……」
「どうしたの? そんなに見つめて」
「……レイが傍にいてくれることが嬉しくて」
エリー王女が幸せそうに微笑むとレイはその微笑みに胸がきゅっと締め付けられた。溢れ出る気持ちが抑えられない。
レイはこれで最後にしようと覆いかぶさるように唇に触れる。
それだけでは止まらない。
どんどん深くなっていく口づけ。
時々漏れる甘い声に抑制力を奪われた。
一生懸命応えてくるエリー王女に愛しさが募る。
しかし、このままではまずいと思い唇を離した。潤んだ瞳がレイを見つめる。
言わなくては、これが最後だと。
そう思うがなかなか言葉が出ない。
「レイ……」
温かな色を湛えていたエリー王女に深い影が差し込んだ。
違う、こんな表情をさせたいわけじゃない。しかし言葉にならなかった。視線から逃れるように体を起こすと、エリー王女もゆっくりと起き上がる。
「あの……苦しめてしまい申し訳ございません。私の立場もレイの立場も理解しております。もう……触れ合うことを求めません……。ですが最後に……。あの……今だけは……王女という私を忘れ、エリーとして見てほしいのです」
レイの頬を両手で引き寄せ、もう一度口づけをする。せがむような口づけにレイは応えた。それは短いようで長く、長いようで短い時間だった。
外から聞こえてくる賑やかな声。
その声が二人を現実に引き戻す。
「エリー……、あー……えっと……」
唇を離したレイは気まずそうに口を開く。
「実は、もうアランたちが来ていて、外で待機しているんだ……。えっと、だから……」
「ぁ……」
無我夢中で求めていた自分が恥ずかしくなり、エリー王女は頬を真っ赤に染めた。レイもまた照れくさそうに笑うと二人で笑い合った。
大丈夫、きっと。
傍にいるだけで幸せだから……。
◇
エリー王女は朝食をとっている際に、自分たちを追ってきた七名についての報告を受ける。
六名は捕獲し、一名は逃亡。
そう、あの閃光弾を放った男はそのまま姿をくらませたのだ。
「怖い思いをさせてごめん。必ず首謀者を捉えるから」
不安そうな表情のエリー王女にレイが約束をする。
「はい……。ですが、あまり無理はなさらないでください。レイに何かあったら私……」
「ありがとう。だけどそれを言うなら俺の方だよ。エリーは俺が必ず守る」
いったい誰が何の目的でエリー王女を……。
レイは必ず首謀者を捕らえると心に誓った。
※黒ずくめの男
これ以上罪を重ねてはいけない……。
エリー王女に背を向け、そっとベッドから抜け出した。小屋を出ると、入口の傍に置いてあったベンチに腰掛ける。レイの魔法でこの辺り一帯は霧で包まれており、木々のざわめきだけが聞こえた。
瞳を閉じ、顔を上げて壁に寄り掛かる。
ちゃんと然るべきところに戻らなければ……。
頭では分かっているのに拒む自分がいる。抑えられない気持ちと格闘を繰り返しながら、ゆっくりと時間が過ぎていった。
風の動きが変わり、はっと顔を上げ立ち上がる。
魔法を強め、意識を集中した。誰かがこちらに近づいて来ている。鞘に手を置き、暗い木々の奥を睨んだ。
追っ手……。
エリー王女から離れることは良くないが、ここで戦闘になるよりはいい。そう思ったレイは人の気配のする方へと歩みを進めた。
五分ほど行ったところでレイは七人の男たちを見つける。一人一人を洞察し、黒づくめの男に目を止めた。他の男たちより上質で綺麗なマントを纏い、目許はマスクを付けている。顔を隠す必要性があるのだろう。この男がリーダーである可能性が高い。ならこの男から……。
「うっ」
バチバチと放電するかのように男の体から火花が散り、膝から崩れ落ちた。ざわめきが起きる中、気絶する程度の雷力を順番に与えていく。防ぎようのない攻撃に男たちは糸が切れた操り人形のように倒れた。
レイの強さは圧倒的だった。
ゆっくりと木の影から出ると、小屋から持ってきたロープで近くにいる男から縛り上げていく。膝をつき、きつく手足を縛るその後ろで黒い影がゆらりと浮かび上がった。
鈍く光る剣が空を切り、ガギンっと金属が合わさる音が夜の森に響く。風の動きを感じたレイは、振り向きながら剣を抜き、黒づくめの男が降り下ろした剣を受け止めた。
黒づくめの男……。
「へぇ、そのマントは魔防具なんだ」
マスクの奥にある目が見開かれる。
「なかなか手に入らないものを持ってるなんて、権力者……ってことだよね?」
交わる剣と剣。間近にある瞳を覗き込み尋ねるが、男は何も言わず剣を押し出し、白刃の光を左右に散らす。リズムを刻むように何度も金属同士を打ち付け合う。思っていたよりも強い。手加減をして勝てる相手ではなかった。
「いくら魔防具でも効かないわけじゃない」
レイは剣に雷の魔力を込め、力一杯横に弧を描く。バチバチと無数の小さな龍が剣から解き放たれる。男は剣で抑えようと前に構えたが、体ごと後ろに吹き飛ばされた。
「くっ……」
すぐ後ろの木にぶつかり体は止まるが、レイの攻撃は止まらない。向かってくる鋭い剣を男はなんとか受け止める。
このままではまずい。男がそう思った時だった。
「降伏……した方がいいんじゃない?」
レイは男をやさしく諭す。男が舌打ちをし、マスクに触れたかと思うと下に何かを投げる素振りした。
突如、つんざくような高音と共に眩い光が辺り一面に広がった。全感覚を麻痺させる閃光弾。無音にも感じるような真っ白な世界にレイは放り出された――――。
◇
部屋の窓から朝日が差し込み、眩しさにゆっくりと目を開ける。ぼんやりとした世界から明瞭な世界へと移り変わり、愛しい人を見つけた。片肘を付き、優しい瞳で見つめていたレイと目が合い、胸がとくんとときめく。朝日を浴びて整った綺麗な顔があまりにも幻想的でまだ夢の中にいるようだった。
左手を伸ばし、レイの頬に触れて確かめてみる。
「おはよう……エリー」
エリー王女の左手にレイの右手が重なる。確かな感触。
「おはよう……ございます……」
「どうしたの? そんなに見つめて」
「……レイが傍にいてくれることが嬉しくて」
エリー王女が幸せそうに微笑むとレイはその微笑みに胸がきゅっと締め付けられた。溢れ出る気持ちが抑えられない。
レイはこれで最後にしようと覆いかぶさるように唇に触れる。
それだけでは止まらない。
どんどん深くなっていく口づけ。
時々漏れる甘い声に抑制力を奪われた。
一生懸命応えてくるエリー王女に愛しさが募る。
しかし、このままではまずいと思い唇を離した。潤んだ瞳がレイを見つめる。
言わなくては、これが最後だと。
そう思うがなかなか言葉が出ない。
「レイ……」
温かな色を湛えていたエリー王女に深い影が差し込んだ。
違う、こんな表情をさせたいわけじゃない。しかし言葉にならなかった。視線から逃れるように体を起こすと、エリー王女もゆっくりと起き上がる。
「あの……苦しめてしまい申し訳ございません。私の立場もレイの立場も理解しております。もう……触れ合うことを求めません……。ですが最後に……。あの……今だけは……王女という私を忘れ、エリーとして見てほしいのです」
レイの頬を両手で引き寄せ、もう一度口づけをする。せがむような口づけにレイは応えた。それは短いようで長く、長いようで短い時間だった。
外から聞こえてくる賑やかな声。
その声が二人を現実に引き戻す。
「エリー……、あー……えっと……」
唇を離したレイは気まずそうに口を開く。
「実は、もうアランたちが来ていて、外で待機しているんだ……。えっと、だから……」
「ぁ……」
無我夢中で求めていた自分が恥ずかしくなり、エリー王女は頬を真っ赤に染めた。レイもまた照れくさそうに笑うと二人で笑い合った。
大丈夫、きっと。
傍にいるだけで幸せだから……。
◇
エリー王女は朝食をとっている際に、自分たちを追ってきた七名についての報告を受ける。
六名は捕獲し、一名は逃亡。
そう、あの閃光弾を放った男はそのまま姿をくらませたのだ。
「怖い思いをさせてごめん。必ず首謀者を捉えるから」
不安そうな表情のエリー王女にレイが約束をする。
「はい……。ですが、あまり無理はなさらないでください。レイに何かあったら私……」
「ありがとう。だけどそれを言うなら俺の方だよ。エリーは俺が必ず守る」
いったい誰が何の目的でエリー王女を……。
レイは必ず首謀者を捕らえると心に誓った。
※黒ずくめの男
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