恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
36 / 235
第03章 告白

第036話 求め合い

しおりを挟む
 優しく触れ合う唇がエリー王女の頭の中を真っ白にした。嬉しさからなのか胸が熱くなり一滴ひとしずくの涙が溢れる。

 唇が離れるとレイの左手がエリー王女の涙を優しく拭いた。ぼんやりと見えるレイの表情は苦痛に歪んでいる。それは自分の立場やレイの立場を思い出させるのに十分なものだった。

「レイ……」

 声の出し方を忘れたかのように、喉の奥からなんとか名前を口にする。レイは返事をする代わりに、頬にあった左手を後頭部へと回し、先程より強く、エリー王女の唇をんだ。エリー王女は思わずレイの服を掴む。

 レイも同じように好意を持ってくれていたのだと素直に感じた。
 柔らかな唇の感触は今まで抑えていた想いを受け入れてくれているようで、喜びで心が波打つ。

 身分など関係ない。
 今はただレイを感じていたい。

「ん……」

 エリー王女が呼吸をするため唇を薄く開けた瞬間、生暖かいものが口をこじ開けるようにゆっくりと侵入してきた。舌を絡みとるものが何であるのかが分かると、全身が甘く痺れた。

 言葉に出来ない想いを刻むように、それは口内でゆっくりと動く。

 優しくも強く求めてくるような口付けに、エリー王女も一生懸命に応えた。後ろに木がなければ立っていられないくらい身体は蕩け、絡み合うほど愛しさが募る。

 お互いの息づかいと自然と零れる自分の声がエリー王女の脳を麻痺させた。



 もうどうなってもいい。
 レイさえいてくれたら。



 本当にそう思った――――。



 どれくらい求め合っただろうか。名残惜しそうに唇が離れ、レイはエリー王女を抱き締めた。

「エリー……ごめん」

 耳元でレイの絞り出す声に胸が締め付けられる。謝ってなんて欲しくなかった。ずっと願っていたことが叶ったというのに、苦しすぎて泣きたくなる。

「レイと……このままずっと一緒にいたいです……」
「……うん」

 一方、エリー王女を抱きしめたレイの胸の中に残ったのは、喜びや幸せではなかった。

 それは後悔。

 自ら放った「後悔しても知らないから」という言葉が、今更になって自分に重くのし掛かってくる。

 欲望のままエリー王女を求めてしまったことは、側近として許されざる行為だ。本来であれば王女を守り、正しい道へと導いていかなくてはならない。

 だから好きだという想いを否定し続けてきた。

 分かっている。
 もう止められないほど好きだということを。

 湧水のように次から次へと湧き出てくるエリー王女への気持ちを抑えられなかった。

「……あ、あの……」

 もぞもぞと胸の中で動くエリー王女に気が付き、レイが腕を緩めるとエリー王女は息を大きく吸う。

「あはは、ごめん。力、入れすぎちゃった。大丈夫?」
「は、はい」

 頬を赤く染め、エリー王女は優しく微笑む。初めて会ったあの日から、焼きついて離れなかったエリー王女の笑顔がすぐ目の前にあった。自分だけを見つめる瞳に胸が躍り、自ずと笑顔になる。

「レイはやっぱり笑っていた方が素敵です」
「え?」

 躊躇しながらもエリー王女は驚くレイの頬に右手を添えた。

「私は……後悔しておりません。凄く……凄く嬉しかったです。たとえこの先一緒になれなくても、レイとこのようなことができ……あ……えっと、キスがしたかったとかそういう意味ではなく……その……」

 恥ずかしそうにしながらも一生懸命気持ちを伝えてくれるエリー王女に、愛しさが込み上げる。

「あはは。うん……俺も嬉しかったよ」

 指で柔らかな唇に触れながら首を傾げてみせると、エリー王女の体が小さく跳ねた。

「で、こういうこと……したかったの?」
「え? ぁ……あの……そういうことを伝えたかったわけではなく……」
「したくない?」
「いえっ……したくないわけでは……」
「んー、じゃあ、したい?」
「あの……」

 唇が触れるか触れないかの距離で囁く。

「ん?」
「……は、はい」

 熱い吐息と共に放たれた言葉に、レイは欲望のままに唇を寄せた。触れたいのは自分の方だ。エリー王女の全てが欲しい。しかし、求めても求めてもエリー王女を遠くに感じた。


 たとえこの先一緒になれなくても……。


 エリー王女の言葉がよみがえる。
 そう、腕の中にいるのはアトラス王国の第一王女。

 結ばれることは絶対にない遠い存在だから――――。




しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...