恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第03章 告白

第034話 願い

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 八日目の滞在所でエリー王女は本物の笑顔を見せた。

「ああ、マーサ! ここはなんて素晴らしいところなのでしょう!」

 森林に囲まれた湖畔は鏡のように景色を映す。その湖畔に突き出るような形で滞在所は立っていた。そこから見る景色もまたとても素晴らしいだろう。美しい鳥のさえずりがエリー王女の耳と心をくすぐる。

「ここはとても涼しいですし、何よりこの美しい景色……。このようなところにマーサと来ることができて嬉しいです! さ、早く中へ!」

 マーサの手を取ると、エリー王女は嬉しそうに滞在所の中へと駆けていった。慌ててアランとレイはその後に続く。はしゃぐエリー王女の姿に、三人はほっと胸をなでおろした。

 エリー王女にあてがわれた部屋のバルコニーからは湖が広がっているのが見える。ソファを用意してもらい、着いてからずっとそこで景色を眺めていた。それこそ夜空に大きな満月が昇るまでずっと。湖にキラキラと月光が反射する。昼間とは違う幻想的な景色にはさらに心を奪われた。

 こんな素敵な場所をレイと歩けたらどんなに素晴らしいだろう。

 想像しただけで胸が躍る。レイと二人で歩くことは出来ないかもしれないが、外に出て湖のほとりを歩いてみたい。そんな風に思っていた。しかしエリー王女はそれを口に出すことはしなかった。

「エリー様、もしお外に出たいのであればアラン様をお呼び致しましょうか?」
「え? あ、あの……どうして分かったのですか?」

 マーサに言われて、心臓が跳ねた。そんなに分かりやすい態度だったのだろうか。エリー王女は顔を赤く染めた。

「いえ、とても景色を気に入っていらっしゃったようでしたので。では、お呼びして参ります」
「ですが、皆さんお疲れなのにそのようなことを言っても良いのでしょうか?」
「きっと喜んでお供してくださると思いますよ」

 マーサは、有無を言わせぬ笑顔で部屋をあとにした。残されたエリー王女の胸はトクトクと高鳴り始める。立ち上がり、バルコニーから部屋に入ると急いで鏡を覗き込んだ。





「お休みのところ恐れ入ります」
「どうしました?」

 マーサは隣の部屋へ行き、アランに用件を伝える。

「そうですか。我々にまで気遣われては、気も休まらないでしょうに……」
「エリー様はお優しい方ですので」

 アランが険しい表情を見せると、マーサはふわりと微笑んだ。それに同意するようにアランは頷く。

「レイ!」

 ベッドの上で寛いでいたレイはアランに呼ばれて入口へとやって来た。

「話は聞いていただろ? エリー様のお供はレイに任せる。魔法薬は持ってきてるか?」
「あー、ごめん。今回は使わないと思って持ってきていないんだ」
「いや、あの薬はあまり使わない方がいいからな……。まぁ、女じゃなくても、俺が行くよりレイの方が適任だろう。少しでもエリー様が元気になるように頼んだぞ」
「……うん」

 レイは歯切れの悪い返事を残し、身支度を整えるとエリー王女を迎えに一人出て行った。



 ◇

 湖に反射する闇を照らす月明かり。
 世界は青白く輝く。
 その美しい世界に、愛しい人の背中が映る。

 柔らかなレイの髪が歩くたびにふわふわと揺れ、エリー王女の心もまた夢心地にふわふわと揺れる。

 レイはいつもより言葉数が少なかったが、エリー王女はそれに気がつかないくらい緊張していた。見たかった景色にも目もくれず、先を歩くレイの背中だけを見つめて歩く。レイと一緒にいれるだけで幸せだった。

 湖を囲うように整備された道を二人でゆっくりと歩く。それはとても静かな時間だった。

「エリー様、こちら足元をお気をつけ下さい」

 振り返ったレイと目が合う。それだけでエリー王女の心臓は張り裂けそうだった。心を見透かされそうで、咄嗟に視線を反らす。

「どうされました? 少しお疲れならあそこのベンチでお休みになられますか?」
「あ、はい……」

 緊張した心を落ち着かせるためベンチに腰かけると傍に立つレイが話しかけてきた。

「エリー様、この八日間とても頑張っていましたね。みんな、エリー様の暖かいお言葉に感激しておりましたよ」

 見上げるとレイは優しく微笑んでいた。月の光がレイを幻想的に映し出す。その姿に息を飲み、瞳をただ見つめた。

 エリー王女からの反応がなかったため、レイは首を傾げる。

「本当ですよ? でももっと私たちに甘えて頂けるともっと嬉しいのですが」

 優しい笑みに胸が締め付けられ、涙がじんわりの浮かび上がる。好きすぎて気持ちが溢れ出しそうだ。

「では、あの……。今だけいつものレイになっていただけないでしょうか……」

 レイが少し驚いた表情をしてから少し悩んでいる様子をみせる。

「いや、んー……。うーん……」
「ダメ……でしょうか……?」

 おずおずと窺うように上目遣いで見つめると、レイは困ったように笑った。

「うん、まぁ、エリー様がそういうのなら……。俺もその方が楽しいし」

 いたずらっぽくニコッと笑い、手を差し出す。

「じゃあ、デートしようか」

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