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第02章 初恋
第028話 料理
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「さて、みなさん。今日はよろしくお願いします。これから息子の結婚式で振る舞う、幸せのパンを焼きます」
おばちゃんはピンク色に染まったパン生地をバットに載せ、テーブルに置きながら説明を始める。二人一組で行うようで、エリー王女は先ほど声をかけてくれたおさげの女の子とペアを組んだ。
「生地はもう出来ているので、こうやってこのくらいの量をちぎったら、コロコロと転がして丸くしまーす」
エリー王女はおばちゃんの話を聞きながら、子供たちと一緒に真剣な表情でパン作りに取り組む。
「お姉ちゃん、もうちょっと小さくしないと! これと同じくらい」
「えっと……これくらいでしょうか?」
「うん! 良いと思う」
「ふふふ。教えて下さいましてありがとうございます」
女の子と笑いながら楽しそうにしているエリー王女を見て、レイも嬉しそうにその姿を見つめていた。
「レイ。俺らも早くとりかかるぞ」
「うん、そうだね。……よかった、エリー様が笑ってくれて」
レイは独り言のように呟くと、アランと一緒にカウンター内の厨房へと移動する。ここからならエリー王女の様子も見れるため安心だ。二人はエリー王女の様子を気にしつつ、慣れた手つきで料理を作り始めた。
◇
エリー王女は、わいわいと楽しく次々とパンの形を作っていく。作ったものをおばちゃんが奥の部屋にあるかまどで焼き上げると、部屋中にパンの良い香りが漂ってきた。
「わぁ、凄く美味しそうな香りがします! 私、お腹が空いてきてしまいました」
「私もお腹すいたぁー!」
仲良くなった女の子と微笑み合う。初めての料理も楽しかったし、何より子供たちとおしゃべりしながら自分で何かを作り上げることが本当に楽しかった。
「みんな、ありがとう。とっても美味しそうなパンができたよ。一旦お家に帰って、今度はパパママと広場に来てね」
「はーい!」
元気に帰っていく子供たちを見送った後、エリー王女は入口から厨房にいるアランとレイを見つめた。レイが笑い、アランは真面目な顔でそれを受ける。仲の良さそうな二人を見ていると、エリー王女からも自然と笑顔がこぼれた。
「今日は本当に助かったよ。ありがとう。結婚式、本当は料理は無しにして小さく終わらせようと思ったんだけどね。そうしたらレイちゃんがやろうよって」
声をかけられ、隣に立っていたおばちゃんを見上げる。おばちゃんもまた優しくアランとレイを見つめていた。
「レイちゃんがこの地区の担当だった頃、よく町のみんなの困ったことを聞いては助けてくれていたんだよ。最初はこの地区も他の地区と同じようにお互い関わりを持たない人たちばかりだったんだけど、レイちゃん伝いにどんどん輪が広がって今では町の全員が友達さ」
「みなさん、レイが好きなんですね」
自分の息子のように自慢するおばちゃんにエリー王女もなんだか誇らしい気持ちがした。
おばちゃんはにこっと笑うとエリー王女の背中をバンバンと叩いた。
「そうだよ! エリーちゃんだって大好きだろ? あんないい子はいないよ。それにエリーちゃん。元気になって良かったね。ずっと病気で外に出られなかったって聞いたよ? 今日は思いっきり楽しんでいってね! エリーちゃんも今日からみんなが友達だ!」
また背中を叩いてくれた。それは愛情をたっぷり背中に入れてくれたみたいで、エリー王女は胸と目頭が熱くなる。
「あ、ありがとうございます、おばさま。私、アランとレイを手伝ってきますね!」
涙をグッと堪え、満面の笑みを返す。しかし、おばちゃんの笑顔をみたらまた何かが込み上げてきたため、誤魔化すように顔を背け二人の元にかけていった。おばちゃんはその背中に向かって優しく微笑むと、奥の部屋へと入って行った。
「あ、エリー。パン作りどうだった? 楽しそうな声が聞こえてきたよ。ああぁ! アラン! それはまだ後だよ! こっちからだって!」
「問題ない。これはこの手順の方が効率的だ。あぁ、エリーはこの皿をあっちに並べて。この葉っぱを飾り付けて」
「え? あ、はい。やってみます」
アランやレイの指示に従ってあちこちと動き回るエリー王女は楽しくて仕方がなかった。今まで何も考えずにただ食事をしていただけだったが、こんな風に頑張って作ってくれていたのだ。そんな新しい発見がとても嬉しかった。
完成した料理を荷台に乗せ、三人で広場へと運ぶ。道中、同じように広場へ料理を運んでいる人たちと会い、笑顔を交わした。広場に近づくにつれて賑やかな声や音楽が聞こえてくる。それはまるでお祭りのようで、人々は浮き立っていた。
広場には白いクロスがかけられた沢山のテーブルが用意されており、街の人たちが寄せ合って作った料理が置かれている。それも次々と集まってきている。
「わー、もうだいぶ集まったね! これだけあれば十分だ。エリー、俺らもテーブルに並べよう」
「は、はい」
エリー王女は指示に従いながら、テーブルに乗った数々の料理を見渡す。一つ一つ心がこもった料理。お城で食べたどの料理よりも素晴らしいと感じた。
周りを見渡せば、笑い声があちこちから聞こえてくる。作られていない本当の笑顔が沢山あり、見栄も探り合いも何もない。
そこにはただ幸せを共有したいという思いで溢れている。
それは、自分がいた世界とは全く逆だった。
「お疲れ様。頑張ったね。ぼうっとしてどうしたの? 疲れちゃった?」
隣に立っていたレイが顔を覗き込む。エリー王女はぱっと視線を反らし、首を振った。
「いえ……」
エリー王女は、ここにいる人々の笑顔をもう一度眺めた。胸に詰まるものを感じ、そっと右手で押さえた。小さく息を吐き、レイを見つめて笑顔を作る。
「ここは皆さんの心がとても温かく……笑顔が眩しいですね……」
本当に眩しい。眩しすぎて戸惑うほどだった。
おばちゃんはピンク色に染まったパン生地をバットに載せ、テーブルに置きながら説明を始める。二人一組で行うようで、エリー王女は先ほど声をかけてくれたおさげの女の子とペアを組んだ。
「生地はもう出来ているので、こうやってこのくらいの量をちぎったら、コロコロと転がして丸くしまーす」
エリー王女はおばちゃんの話を聞きながら、子供たちと一緒に真剣な表情でパン作りに取り組む。
「お姉ちゃん、もうちょっと小さくしないと! これと同じくらい」
「えっと……これくらいでしょうか?」
「うん! 良いと思う」
「ふふふ。教えて下さいましてありがとうございます」
女の子と笑いながら楽しそうにしているエリー王女を見て、レイも嬉しそうにその姿を見つめていた。
「レイ。俺らも早くとりかかるぞ」
「うん、そうだね。……よかった、エリー様が笑ってくれて」
レイは独り言のように呟くと、アランと一緒にカウンター内の厨房へと移動する。ここからならエリー王女の様子も見れるため安心だ。二人はエリー王女の様子を気にしつつ、慣れた手つきで料理を作り始めた。
◇
エリー王女は、わいわいと楽しく次々とパンの形を作っていく。作ったものをおばちゃんが奥の部屋にあるかまどで焼き上げると、部屋中にパンの良い香りが漂ってきた。
「わぁ、凄く美味しそうな香りがします! 私、お腹が空いてきてしまいました」
「私もお腹すいたぁー!」
仲良くなった女の子と微笑み合う。初めての料理も楽しかったし、何より子供たちとおしゃべりしながら自分で何かを作り上げることが本当に楽しかった。
「みんな、ありがとう。とっても美味しそうなパンができたよ。一旦お家に帰って、今度はパパママと広場に来てね」
「はーい!」
元気に帰っていく子供たちを見送った後、エリー王女は入口から厨房にいるアランとレイを見つめた。レイが笑い、アランは真面目な顔でそれを受ける。仲の良さそうな二人を見ていると、エリー王女からも自然と笑顔がこぼれた。
「今日は本当に助かったよ。ありがとう。結婚式、本当は料理は無しにして小さく終わらせようと思ったんだけどね。そうしたらレイちゃんがやろうよって」
声をかけられ、隣に立っていたおばちゃんを見上げる。おばちゃんもまた優しくアランとレイを見つめていた。
「レイちゃんがこの地区の担当だった頃、よく町のみんなの困ったことを聞いては助けてくれていたんだよ。最初はこの地区も他の地区と同じようにお互い関わりを持たない人たちばかりだったんだけど、レイちゃん伝いにどんどん輪が広がって今では町の全員が友達さ」
「みなさん、レイが好きなんですね」
自分の息子のように自慢するおばちゃんにエリー王女もなんだか誇らしい気持ちがした。
おばちゃんはにこっと笑うとエリー王女の背中をバンバンと叩いた。
「そうだよ! エリーちゃんだって大好きだろ? あんないい子はいないよ。それにエリーちゃん。元気になって良かったね。ずっと病気で外に出られなかったって聞いたよ? 今日は思いっきり楽しんでいってね! エリーちゃんも今日からみんなが友達だ!」
また背中を叩いてくれた。それは愛情をたっぷり背中に入れてくれたみたいで、エリー王女は胸と目頭が熱くなる。
「あ、ありがとうございます、おばさま。私、アランとレイを手伝ってきますね!」
涙をグッと堪え、満面の笑みを返す。しかし、おばちゃんの笑顔をみたらまた何かが込み上げてきたため、誤魔化すように顔を背け二人の元にかけていった。おばちゃんはその背中に向かって優しく微笑むと、奥の部屋へと入って行った。
「あ、エリー。パン作りどうだった? 楽しそうな声が聞こえてきたよ。ああぁ! アラン! それはまだ後だよ! こっちからだって!」
「問題ない。これはこの手順の方が効率的だ。あぁ、エリーはこの皿をあっちに並べて。この葉っぱを飾り付けて」
「え? あ、はい。やってみます」
アランやレイの指示に従ってあちこちと動き回るエリー王女は楽しくて仕方がなかった。今まで何も考えずにただ食事をしていただけだったが、こんな風に頑張って作ってくれていたのだ。そんな新しい発見がとても嬉しかった。
完成した料理を荷台に乗せ、三人で広場へと運ぶ。道中、同じように広場へ料理を運んでいる人たちと会い、笑顔を交わした。広場に近づくにつれて賑やかな声や音楽が聞こえてくる。それはまるでお祭りのようで、人々は浮き立っていた。
広場には白いクロスがかけられた沢山のテーブルが用意されており、街の人たちが寄せ合って作った料理が置かれている。それも次々と集まってきている。
「わー、もうだいぶ集まったね! これだけあれば十分だ。エリー、俺らもテーブルに並べよう」
「は、はい」
エリー王女は指示に従いながら、テーブルに乗った数々の料理を見渡す。一つ一つ心がこもった料理。お城で食べたどの料理よりも素晴らしいと感じた。
周りを見渡せば、笑い声があちこちから聞こえてくる。作られていない本当の笑顔が沢山あり、見栄も探り合いも何もない。
そこにはただ幸せを共有したいという思いで溢れている。
それは、自分がいた世界とは全く逆だった。
「お疲れ様。頑張ったね。ぼうっとしてどうしたの? 疲れちゃった?」
隣に立っていたレイが顔を覗き込む。エリー王女はぱっと視線を反らし、首を振った。
「いえ……」
エリー王女は、ここにいる人々の笑顔をもう一度眺めた。胸に詰まるものを感じ、そっと右手で押さえた。小さく息を吐き、レイを見つめて笑顔を作る。
「ここは皆さんの心がとても温かく……笑顔が眩しいですね……」
本当に眩しい。眩しすぎて戸惑うほどだった。
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