26 / 235
第02章 初恋
第026話 友達
しおりを挟む
やっと落ち着きを取り戻し、エリー王女は顔を上げた。涙で濡れた頬をレイがハンカチで拭うと、エリー王女は頬を染めて微笑んだ。
「あの……でも、どうしてアランみたいに振る舞うのをやめたのですか?」
「んー……今日だけではあるんだけど……」
今日だけという言葉に、エリー王女の表情は曇る。
「昨夜ね、どうしたらエリー様が元気になるかってアランと話し合ったんだ。城下に下りた時のエリー様は楽しそうだったから、同じように振舞ったらどうかって案が出て……。だけど俺、以前と同じ態度に戻したらまた失礼なことをしてしまうんじゃないかって躊躇った」
困ったように笑うレイを見て「失礼だなんて……」と小さく声を溢した。それを聞いたレイは嬉しそうにエリー王女の頬を撫でる。
「ありがとう。でも、エリー様は王女で、俺は配下なんだ。あんな風に……っていうか、こんな風に抱きしめたり触れちゃダメなんだ。でも一番大事なことはエリー様が笑顔でいることで、これで元気になってくれるのであれば、そこは努力でカバーするしかないかなって。まぁ、早速こんなんだけど」
あははと笑うレイに対し、エリー王女は首を振る。
「嫌じゃないですから……」
エリー王女は考えた。どうにかしてレイを繋ぎ止めたい。今日だけではなく、これからもずっと親しくしてほしい。
「友人に……。あの、本当の友人になっていただけないでしょうか?」
「え? えっと……どういうこと?」
突然の提案にレイは驚いた。
「あの……この一ヶ月、ずっと誰も私のことなんて見ていない、なんて孤独なんだといじけて過ごしておりました。それは日に日にますばかり。私なりに何が原因で、どうすれば良いのか考えておりました」
「それが友人?」
エリー王女は少し恥ずかしそうに頷くと、期待を込めて見つめてくる。そんな瞳で見つめられたら嫌とは言えない。しかし……。
「あー……、じゃ、アランにも聞いてみよう」
さすがに自分の判断で決めることは出来ない。本当のなんて、なっていいものなのだろうか。
アランを呼び出し、レイはことの成り行きを説明した。眉間にしわをよせるアランにエリー王女は祈るような気持ちで見つめた。
「我々は配下であり、きちんと線引きをしなければなりません。王は絶対的な存在。エリー様もまたそうです。それを崩してしまっては均衡を保つことが出来なくなります」
膨らんでいたエリー王女の心は一気に萎む。
「しかし、私たちはエリー様の幸せを願っております。苦しいことや悲しいことがあれば遠慮なくお話ください。それが我々の務めですか――」
「あぁ! なるほど。エリー様、俺わかったよ! 確かに! 冷たいっていうか心の距離感? エリー様の周りはみんなこんな感じだもんね。なるほどなるほど」
レイが突然声を上げ、一人で納得しているとアランが訝しげに顔をしかめた。
「どういうことだ?」
「えっとね、エリー様ってさ、誰一人気楽に話してくれる人っていないでしょ? シトラル陛下は別として、他はいないんだよ。俺だって、記憶を失くしたときは孤独だった。だけどさ、俺には少しずつ心を開ける友達も仲間も出来た。それでやっと生きる意味ができたんだ」
レイは隣に立つエリー王女の手を取り、顔を覗き込むように笑顔を見せた。
「俺、なるよ。エリー様の友達に!」
「えっ」
エリー王女は驚き、頬を赤く染めた。レイは満足そうに微笑むと、今度はアランの方へ向き直る。
「アラン、この一ヶ月見てきたよね? エリー様がどのように過ごしてきたかを。アランだったら分かると思う。だって俺を救ってくれたのはアランだから」
真っ直ぐ見据えるレイに対し、アランは眉間にしわを寄せたまま黙った。
その傍でエリー王女はハラハラしながら二人を見つめていた。もしアランが良いと言えば、レイは本当に友人として接してくれるのだろうか。そうなったらどんなに嬉しいだろう。
「アラン。あの……確かにそういった身分の線引きも大切なのかもしれませんが、私はもっと二人と心を通わせたいです。そしたらきっと……もっと何か見えてくるものがあると思うのです」
ちょっと説得力に欠けるなとは思ったが、それでもエリー王女はアランに訴えるように見つめた。アランはメガネのブリッジをくいっと上げ、ゆっくりと息を吐いた。
「……そういうことでしたら、わかりました。ただし条件がございます。城内でも他の者が周りにおらず、公務の話以外はそのようにいたしましょう」
「え……宜しいのですか?」
エリー王女がおずおずと確認すると、アランがふっと笑った。
「二言はない。やるからにはきちんとやる。あと、友人だから様はつけないからな」
「やったー! さすがアラン! そうだね。よろしくね、エリー」
アランとレイの笑顔を交互に見て、やっと実感が沸いて来る。
「は、はい! あ、あの……お二人のお心遣いに感謝いたします!」
「あはは。なんかちょっと固いけどいいか」
エリー王女もレイも嬉しそうに笑っている。アランはその様子に安堵した。
「あの……でも、どうしてアランみたいに振る舞うのをやめたのですか?」
「んー……今日だけではあるんだけど……」
今日だけという言葉に、エリー王女の表情は曇る。
「昨夜ね、どうしたらエリー様が元気になるかってアランと話し合ったんだ。城下に下りた時のエリー様は楽しそうだったから、同じように振舞ったらどうかって案が出て……。だけど俺、以前と同じ態度に戻したらまた失礼なことをしてしまうんじゃないかって躊躇った」
困ったように笑うレイを見て「失礼だなんて……」と小さく声を溢した。それを聞いたレイは嬉しそうにエリー王女の頬を撫でる。
「ありがとう。でも、エリー様は王女で、俺は配下なんだ。あんな風に……っていうか、こんな風に抱きしめたり触れちゃダメなんだ。でも一番大事なことはエリー様が笑顔でいることで、これで元気になってくれるのであれば、そこは努力でカバーするしかないかなって。まぁ、早速こんなんだけど」
あははと笑うレイに対し、エリー王女は首を振る。
「嫌じゃないですから……」
エリー王女は考えた。どうにかしてレイを繋ぎ止めたい。今日だけではなく、これからもずっと親しくしてほしい。
「友人に……。あの、本当の友人になっていただけないでしょうか?」
「え? えっと……どういうこと?」
突然の提案にレイは驚いた。
「あの……この一ヶ月、ずっと誰も私のことなんて見ていない、なんて孤独なんだといじけて過ごしておりました。それは日に日にますばかり。私なりに何が原因で、どうすれば良いのか考えておりました」
「それが友人?」
エリー王女は少し恥ずかしそうに頷くと、期待を込めて見つめてくる。そんな瞳で見つめられたら嫌とは言えない。しかし……。
「あー……、じゃ、アランにも聞いてみよう」
さすがに自分の判断で決めることは出来ない。本当のなんて、なっていいものなのだろうか。
アランを呼び出し、レイはことの成り行きを説明した。眉間にしわをよせるアランにエリー王女は祈るような気持ちで見つめた。
「我々は配下であり、きちんと線引きをしなければなりません。王は絶対的な存在。エリー様もまたそうです。それを崩してしまっては均衡を保つことが出来なくなります」
膨らんでいたエリー王女の心は一気に萎む。
「しかし、私たちはエリー様の幸せを願っております。苦しいことや悲しいことがあれば遠慮なくお話ください。それが我々の務めですか――」
「あぁ! なるほど。エリー様、俺わかったよ! 確かに! 冷たいっていうか心の距離感? エリー様の周りはみんなこんな感じだもんね。なるほどなるほど」
レイが突然声を上げ、一人で納得しているとアランが訝しげに顔をしかめた。
「どういうことだ?」
「えっとね、エリー様ってさ、誰一人気楽に話してくれる人っていないでしょ? シトラル陛下は別として、他はいないんだよ。俺だって、記憶を失くしたときは孤独だった。だけどさ、俺には少しずつ心を開ける友達も仲間も出来た。それでやっと生きる意味ができたんだ」
レイは隣に立つエリー王女の手を取り、顔を覗き込むように笑顔を見せた。
「俺、なるよ。エリー様の友達に!」
「えっ」
エリー王女は驚き、頬を赤く染めた。レイは満足そうに微笑むと、今度はアランの方へ向き直る。
「アラン、この一ヶ月見てきたよね? エリー様がどのように過ごしてきたかを。アランだったら分かると思う。だって俺を救ってくれたのはアランだから」
真っ直ぐ見据えるレイに対し、アランは眉間にしわを寄せたまま黙った。
その傍でエリー王女はハラハラしながら二人を見つめていた。もしアランが良いと言えば、レイは本当に友人として接してくれるのだろうか。そうなったらどんなに嬉しいだろう。
「アラン。あの……確かにそういった身分の線引きも大切なのかもしれませんが、私はもっと二人と心を通わせたいです。そしたらきっと……もっと何か見えてくるものがあると思うのです」
ちょっと説得力に欠けるなとは思ったが、それでもエリー王女はアランに訴えるように見つめた。アランはメガネのブリッジをくいっと上げ、ゆっくりと息を吐いた。
「……そういうことでしたら、わかりました。ただし条件がございます。城内でも他の者が周りにおらず、公務の話以外はそのようにいたしましょう」
「え……宜しいのですか?」
エリー王女がおずおずと確認すると、アランがふっと笑った。
「二言はない。やるからにはきちんとやる。あと、友人だから様はつけないからな」
「やったー! さすがアラン! そうだね。よろしくね、エリー」
アランとレイの笑顔を交互に見て、やっと実感が沸いて来る。
「は、はい! あ、あの……お二人のお心遣いに感謝いたします!」
「あはは。なんかちょっと固いけどいいか」
エリー王女もレイも嬉しそうに笑っている。アランはその様子に安堵した。
0
人物紹介
大きいサイズで見る
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる