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第02章 初恋
第025話 態度
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翌朝、エリー王女の私室にやってきたのはレイだった。
「おはようございます。早速ですが、本日お会いする方について説明させていただきます」
レイはソファーに座るエリー王女の横に立ち、いつものように淡々と業務をこなす。決して目を合わそうとしないレイに、エリー王女の胸の奥がチリチリと痛む。それでもレイに嫌われたくないため、書類に目を通しながら真剣に耳を傾けた。
「――以上で予定されていたお相手全員との接見が終了いたします。ですので、明日は一日自由にお過ごしください。何かしたいことはございますか」
「自由に……」
エリー王女にすっと影が落ちる。一緒に過ごしてくれる友人もいないエリー王女は、自由にと言われても何も思いつかなかった。
いや、あるにはある。出来ることなら前のようにレイと一緒に出かけたい。そうは思ったが、それを口に出すことは出来なかった。だから仕方なく一人でも出来ることを考えた。
「……では、久しぶりに部屋で本でも読もうかと思います」
エリー王女は笑顔を作り顔を上げると一瞬だけレイと視線が交った。しかし、すぐに視線を逸らされ、エリー王女の胸はズキンと痛みが走る。相変わらず自分を見ようとはしてくれない。
エリー王女もまたレイを視界から外した。
◇
休暇当日。
朝早く目覚めたエリー王女は窓辺の長椅子に横たわり、暗がりから太陽の光がじんわりと広がっていく様子をぼんやりと眺めていた。
静かな朝の風景を眺めていると、世界から一人取り残されたように感じられ、自然と涙が零れ落ちる。
ドアを叩く音が聞こえ、いつものようにマーサが部屋に入ってくる気配がした。エリー王女は体を起こすことなく、近づく足音に耳を傾ける。傍で立ち止まる気配。そして……。
「エリー様」
耳元で懐かしい声が聞こえ、驚いて体を起こし振り返った。
「レイ……」
そこにいたのは女性の姿をしたレイだった。
「……泣いていたの?」
レイは長椅子に座っていたエリー王女の足元に跪き、手を伸ばしてきた。びくっと体が震える。レイの手が涙を拭うように頬を撫で、また涙がじんわりと浮かんだ。
久しぶりにレイを見たような気がした。女性だからではない。レイと視線を交わらせたのは一ヶ月も前のことだ。
「いえ……。あの、今日は……どうしたのですか?」
エリー王女は震える声で訊ねた。
「あー、うん。もし良かったら、今日は城下へ遊びに行かないかなって思ったんだ。ほら、前みたいに三人で。良かったらどうかな?」
「城下へ……? 前のようにとは、友人としてでしょうか……?」
エリー王女の瞳が大きく揺れた。どうして急に? という疑問は沸いたが、自ずと期待感で胸が高鳴りだす。
「いや、あの、友人じゃなく配下としてでもいいんだ。エリー様の気分が晴れるんならなんだって……」
「あの……レイはいいのですか? 王女らしくなってほしいのでしょ? それに、私と仲良くしたくないのでは? だって、ずっと冷たい態度でしたから……」
溜まっていた想いが矢継ぎ早に出てしまう。それでも今自分を見てくれていることが嬉しくて、食い入るようにレイを見つめた。
レイはというと、まさかそんな風に捉えられているとは思っておらず、とても驚いた。確かに思い返せば冷たく感じる態度だったのかもしれない。レイはエリー王女の手を取った。
「違うよ、エリー様! 俺は仲良くしたいと思っている! そう思っているんだけど……んー……ほら! 俺って何故かエリー様の側にいると……こんな風に触れたくなっちゃうんだ」
繋いだ手を見せてレイは苦笑いをこぼす。
「これくらいならまだいいけど……ああ、いや……うん。それで、アランみたいになれば大丈夫かなと思って頑張ってやっていただけなんだ。だから仲良くしたくないわけじゃないし……。いや、むしろ仲良く出来なくて俺は寂しかったよ」
「寂しかった……? 本当に?」
それを聞いたエリー王女は胸が熱くなり、目から涙が溢れた。嫌われていたわけじゃい。それが分かっただけで心にかかる霧が晴れた気がした。
泣きたくないのにどうしても止めることが出来なくて声をだして泣き崩れた。
「ええ!?」
突然の出来事に慌てたレイは、エリー王女の隣に座り抱き締める。それが嬉しくてエリー王女も抱きしめ返した。
「私も……凄く寂しかったです……」
レイの胸の中は暖かく、背中をさする優しい手によって今まで溜まっていた気持ちがどんどん溢れるように涙が零れる。寂しかったと何度も伝え、そのたびにレイは謝った。責めるつもりはなかったが、言葉が止まらない。それでもレイは優しく抱きしめ、傍にいてくれた。
「おはようございます。早速ですが、本日お会いする方について説明させていただきます」
レイはソファーに座るエリー王女の横に立ち、いつものように淡々と業務をこなす。決して目を合わそうとしないレイに、エリー王女の胸の奥がチリチリと痛む。それでもレイに嫌われたくないため、書類に目を通しながら真剣に耳を傾けた。
「――以上で予定されていたお相手全員との接見が終了いたします。ですので、明日は一日自由にお過ごしください。何かしたいことはございますか」
「自由に……」
エリー王女にすっと影が落ちる。一緒に過ごしてくれる友人もいないエリー王女は、自由にと言われても何も思いつかなかった。
いや、あるにはある。出来ることなら前のようにレイと一緒に出かけたい。そうは思ったが、それを口に出すことは出来なかった。だから仕方なく一人でも出来ることを考えた。
「……では、久しぶりに部屋で本でも読もうかと思います」
エリー王女は笑顔を作り顔を上げると一瞬だけレイと視線が交った。しかし、すぐに視線を逸らされ、エリー王女の胸はズキンと痛みが走る。相変わらず自分を見ようとはしてくれない。
エリー王女もまたレイを視界から外した。
◇
休暇当日。
朝早く目覚めたエリー王女は窓辺の長椅子に横たわり、暗がりから太陽の光がじんわりと広がっていく様子をぼんやりと眺めていた。
静かな朝の風景を眺めていると、世界から一人取り残されたように感じられ、自然と涙が零れ落ちる。
ドアを叩く音が聞こえ、いつものようにマーサが部屋に入ってくる気配がした。エリー王女は体を起こすことなく、近づく足音に耳を傾ける。傍で立ち止まる気配。そして……。
「エリー様」
耳元で懐かしい声が聞こえ、驚いて体を起こし振り返った。
「レイ……」
そこにいたのは女性の姿をしたレイだった。
「……泣いていたの?」
レイは長椅子に座っていたエリー王女の足元に跪き、手を伸ばしてきた。びくっと体が震える。レイの手が涙を拭うように頬を撫で、また涙がじんわりと浮かんだ。
久しぶりにレイを見たような気がした。女性だからではない。レイと視線を交わらせたのは一ヶ月も前のことだ。
「いえ……。あの、今日は……どうしたのですか?」
エリー王女は震える声で訊ねた。
「あー、うん。もし良かったら、今日は城下へ遊びに行かないかなって思ったんだ。ほら、前みたいに三人で。良かったらどうかな?」
「城下へ……? 前のようにとは、友人としてでしょうか……?」
エリー王女の瞳が大きく揺れた。どうして急に? という疑問は沸いたが、自ずと期待感で胸が高鳴りだす。
「いや、あの、友人じゃなく配下としてでもいいんだ。エリー様の気分が晴れるんならなんだって……」
「あの……レイはいいのですか? 王女らしくなってほしいのでしょ? それに、私と仲良くしたくないのでは? だって、ずっと冷たい態度でしたから……」
溜まっていた想いが矢継ぎ早に出てしまう。それでも今自分を見てくれていることが嬉しくて、食い入るようにレイを見つめた。
レイはというと、まさかそんな風に捉えられているとは思っておらず、とても驚いた。確かに思い返せば冷たく感じる態度だったのかもしれない。レイはエリー王女の手を取った。
「違うよ、エリー様! 俺は仲良くしたいと思っている! そう思っているんだけど……んー……ほら! 俺って何故かエリー様の側にいると……こんな風に触れたくなっちゃうんだ」
繋いだ手を見せてレイは苦笑いをこぼす。
「これくらいならまだいいけど……ああ、いや……うん。それで、アランみたいになれば大丈夫かなと思って頑張ってやっていただけなんだ。だから仲良くしたくないわけじゃないし……。いや、むしろ仲良く出来なくて俺は寂しかったよ」
「寂しかった……? 本当に?」
それを聞いたエリー王女は胸が熱くなり、目から涙が溢れた。嫌われていたわけじゃい。それが分かっただけで心にかかる霧が晴れた気がした。
泣きたくないのにどうしても止めることが出来なくて声をだして泣き崩れた。
「ええ!?」
突然の出来事に慌てたレイは、エリー王女の隣に座り抱き締める。それが嬉しくてエリー王女も抱きしめ返した。
「私も……凄く寂しかったです……」
レイの胸の中は暖かく、背中をさする優しい手によって今まで溜まっていた気持ちがどんどん溢れるように涙が零れる。寂しかったと何度も伝え、そのたびにレイは謝った。責めるつもりはなかったが、言葉が止まらない。それでもレイは優しく抱きしめ、傍にいてくれた。
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