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第02章 初恋
第024話 孤独
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一ヶ月が経ち、夏も真っ盛りな暑い夜。レイとアランはいつものように一日の報告書をまとめていた。
「どの人もみんなエリー様を気に入ってるね……」
あれから毎日休みなく、エリー王女は数多くの男性と見合いを重ねた。ベッドの上に座り、アランの書いた報告書を読みながらレイが呟く。
「あぁ、あの容姿と控え目な雰囲気からだろう。再度会いたいという内容の手紙が毎日のように届いている」
アランは自分の机で報告書を読みながら答えた。レイは横目で机の脇に置いてある手紙の山を見て、うんざりしたようにベッドに倒れ込む。
「ねぇ。結局、委員会がふるいにかけてそこから選ぶんでしょ? 意味あるの? エリー様、ずっと辛そう……」
「公平にやっています。のアピールだろ。それにエリー様が気に入れば一発逆転ってのもあるわけだから、意味はある。エリー様だって数人の中から選ぶよりはいいだろ」
レイはエリー王女の様子を思い浮かべ、大きなため息を吐いた。
「……ずっとエリー様の笑顔、見てないな」
レイがぽつりと呟く。
そんなレイを見て、アランは"レイも元気ないだろ"と言おうと思ったが止めた。
元気がなくなったのは、ジェルミア王子がエリー王女に迫った日の夜からだ。守れなかったことに対し、強い責任を感じたのだろう。翌日からレイの態度が急変した。
馴れ馴れしくエリー様、エリー様と言っていたレイが側近らしく、程よい距離を保つようになったのだ。
そこまでは何も問題ない。
しかし、レイの明るさや元気までもが一緒に失われていたのだ。アランもまた大きなため息を吐く。
「休みがある。エリー様の気分転換になることでも考えよう」
エリー王女も確かに元気がなかった。アランは二人が元気になればいいと思い、そう提案した。
◇
隣の部屋では小さな灯りがベッドを僅かに照らし、その上でエリー王女が踞っていた。その脇に置いてある大きな縦長の壺から、魔法薬で作られた冷たい風が流れている。
快適な部屋であるのにもかかわらず寝苦しい。
レイが突然態度を変えたあの日からずっと、眠れない日々が続いていた。毎日行われる見合い。確かにそれも辛かったが、エリー王女の胸を占めているのはレイだった。
普通の配下と同じようなレイの態度に、エリー王女は寂しさを感じた。最初のように気楽に話して欲しい。そう思いながらも伝えられなかった。
伝えられないのなら、原因を取り除けばいい。
簡単に触れさせてしまう自分にレイは怒ってしまったのだろう。ジェルミア王子に対してレイが言った「相手を思うならちゃんと節度を守れ」というような言葉は、本当は自分に対して言ったのだ。自分はレイの立場も考えず、何度も体を預けた。これが原因だと考えるのが一番しっくりくる。
そう考えたエリー王女は、王女としてどう振舞うべきかだけを考え毎日を過ごした。
しかし、何日経ってもレイの態度は変わらなかった。
そしてレイへの寂しさが募っていくのと比例して、エリー王女はどんどん孤独を感じていった。
何故なら父親である国王以外は全て自分より身分が下である。
誰もが皆、エリー王女に対してうやうやしい態度で接していた。良いことばかりを並び立て、顔色ばかりをうかがう人たちばかり。誰もが王女として接し、エリーとして接してはくれない。
心なんて見えない。
みんな同じ顔。
誰も自分なんて見ていない。
王族や貴族に会えば会うほどエリー王女は孤独を感じていったのだ。
国王選びに関しても、エリー王女に対して恋をしている者も多くいたが、エリー王女にとっては偽りにしかみえなかった。王座を狙うために仮面をかぶった人たち。そんな相手に、恋をする気持ちになれるはずもない。
背後にある王座だけを見ている目。その目から逃れたかった。
本当に自分で王となるものを見つけないといけないのだろうか。みんな同じならばいっそのことシトラル国王が決めた相手と結婚した方がいいのではとさえ思っていた。
誰だっていい。
孤独を感じるようになってから、エリー王女の心は荒んでいった。後宮に戻りたい。最近ではそればかり考えていた。
外の世界に憧れ、夢を見て、希望があった。しかし、今はそれがない。楽しい未来なんてないのだ。
最初が楽しすぎたのかもしれない。親しげに話すレイは、友人のように接してくれた。街で買い物をし、花火を見て、優しく包んでくれた。王女としてではなく、自分を見てくれているように感じられたのだ。
こんなことなら初めから他の人と同じように接してくれれば良かったのに。知らなければ比べることはなかった。
自分に友人が欲しいのだと思い、マーサに普通の友人として接してほしいとお願いをしてみたことがある。しかし、マーサはそれを受け入れてはくれなかった。
レイへの想いが恋なのか、それとも友人のように接してくれた喜びだったのかはエリー王女には分からない。しかし、レイの態度に傷ついているということは確かだった。
「レイ……」
そして今日もまた悲しみにくれながら瞳を閉じた。
「どの人もみんなエリー様を気に入ってるね……」
あれから毎日休みなく、エリー王女は数多くの男性と見合いを重ねた。ベッドの上に座り、アランの書いた報告書を読みながらレイが呟く。
「あぁ、あの容姿と控え目な雰囲気からだろう。再度会いたいという内容の手紙が毎日のように届いている」
アランは自分の机で報告書を読みながら答えた。レイは横目で机の脇に置いてある手紙の山を見て、うんざりしたようにベッドに倒れ込む。
「ねぇ。結局、委員会がふるいにかけてそこから選ぶんでしょ? 意味あるの? エリー様、ずっと辛そう……」
「公平にやっています。のアピールだろ。それにエリー様が気に入れば一発逆転ってのもあるわけだから、意味はある。エリー様だって数人の中から選ぶよりはいいだろ」
レイはエリー王女の様子を思い浮かべ、大きなため息を吐いた。
「……ずっとエリー様の笑顔、見てないな」
レイがぽつりと呟く。
そんなレイを見て、アランは"レイも元気ないだろ"と言おうと思ったが止めた。
元気がなくなったのは、ジェルミア王子がエリー王女に迫った日の夜からだ。守れなかったことに対し、強い責任を感じたのだろう。翌日からレイの態度が急変した。
馴れ馴れしくエリー様、エリー様と言っていたレイが側近らしく、程よい距離を保つようになったのだ。
そこまでは何も問題ない。
しかし、レイの明るさや元気までもが一緒に失われていたのだ。アランもまた大きなため息を吐く。
「休みがある。エリー様の気分転換になることでも考えよう」
エリー王女も確かに元気がなかった。アランは二人が元気になればいいと思い、そう提案した。
◇
隣の部屋では小さな灯りがベッドを僅かに照らし、その上でエリー王女が踞っていた。その脇に置いてある大きな縦長の壺から、魔法薬で作られた冷たい風が流れている。
快適な部屋であるのにもかかわらず寝苦しい。
レイが突然態度を変えたあの日からずっと、眠れない日々が続いていた。毎日行われる見合い。確かにそれも辛かったが、エリー王女の胸を占めているのはレイだった。
普通の配下と同じようなレイの態度に、エリー王女は寂しさを感じた。最初のように気楽に話して欲しい。そう思いながらも伝えられなかった。
伝えられないのなら、原因を取り除けばいい。
簡単に触れさせてしまう自分にレイは怒ってしまったのだろう。ジェルミア王子に対してレイが言った「相手を思うならちゃんと節度を守れ」というような言葉は、本当は自分に対して言ったのだ。自分はレイの立場も考えず、何度も体を預けた。これが原因だと考えるのが一番しっくりくる。
そう考えたエリー王女は、王女としてどう振舞うべきかだけを考え毎日を過ごした。
しかし、何日経ってもレイの態度は変わらなかった。
そしてレイへの寂しさが募っていくのと比例して、エリー王女はどんどん孤独を感じていった。
何故なら父親である国王以外は全て自分より身分が下である。
誰もが皆、エリー王女に対してうやうやしい態度で接していた。良いことばかりを並び立て、顔色ばかりをうかがう人たちばかり。誰もが王女として接し、エリーとして接してはくれない。
心なんて見えない。
みんな同じ顔。
誰も自分なんて見ていない。
王族や貴族に会えば会うほどエリー王女は孤独を感じていったのだ。
国王選びに関しても、エリー王女に対して恋をしている者も多くいたが、エリー王女にとっては偽りにしかみえなかった。王座を狙うために仮面をかぶった人たち。そんな相手に、恋をする気持ちになれるはずもない。
背後にある王座だけを見ている目。その目から逃れたかった。
本当に自分で王となるものを見つけないといけないのだろうか。みんな同じならばいっそのことシトラル国王が決めた相手と結婚した方がいいのではとさえ思っていた。
誰だっていい。
孤独を感じるようになってから、エリー王女の心は荒んでいった。後宮に戻りたい。最近ではそればかり考えていた。
外の世界に憧れ、夢を見て、希望があった。しかし、今はそれがない。楽しい未来なんてないのだ。
最初が楽しすぎたのかもしれない。親しげに話すレイは、友人のように接してくれた。街で買い物をし、花火を見て、優しく包んでくれた。王女としてではなく、自分を見てくれているように感じられたのだ。
こんなことなら初めから他の人と同じように接してくれれば良かったのに。知らなければ比べることはなかった。
自分に友人が欲しいのだと思い、マーサに普通の友人として接してほしいとお願いをしてみたことがある。しかし、マーサはそれを受け入れてはくれなかった。
レイへの想いが恋なのか、それとも友人のように接してくれた喜びだったのかはエリー王女には分からない。しかし、レイの態度に傷ついているということは確かだった。
「レイ……」
そして今日もまた悲しみにくれながら瞳を閉じた。
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