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第02章 初恋
第022話 誤解
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エリー王女はジェルミア王子がいなくなっても未だに表情を硬くしている。男の人と二人きりになるのは凄く怖いものなのだと、今レイと二人きりであることを忘れてそんな風に思っていた。
「エリー様、一人にしてごめん……」
目の前に立つレイは俯いており、表情は見えない。しかし強張った声から、この件について反省しているのだろうとエリー王女は思った。側近として非はあったが、エリー王女はそれを責めるつもりはない。助けに来てくれたこと、そして今傍にいてくれることがなにより嬉しかった。
「いえ……気にしないでください。ただ、少しこ――」
「エリー様はもうジェルミア様に惚れちゃったんだね……」
「……え?」
エリー王女は思ってもみないことを言われて驚いた。どこをどう見てそう思ったのだろうか。全く身に覚えがなさすぎて、どう答えていいのか分からない。
否定もせずに黙っているエリー王女の姿を見たレイは、それが間違いではないのだと確信した。思わず苦笑いが零れる。
「そっか……。でも、まだ決めないで欲しいんだ。二人しかお会いしていないし、もっとよく知ってから慎重に選んでほしい。それに……」
顔を上げ、怒っているような、悲しんでいるような瞳でエリー王女を真っすぐ見つめた。
「簡単にさせちゃダメだよ」
ツゲの木に囲まれた二人だけの空間は、鳥の声も聞こえないほど静かで、レイの声がエリー王女の胸に突き刺さる。
レイは怒っているのだ。確かにもっと必死に拒まなければいけなかった。もし、レイが来なかったらあのままジェルミア王子に口付けをされていたかもしれない。
「ごめんなさい……」
エリー王女は素直に謝った。王女としての自覚が足りないと呆れられてしまっただろうか。それとも嫌われてしまっただろうか。レイの気持ちが離れてしまったようで、ずしんと心が沈んだ。
それに、レイは誤解している。
「あ、あの……」
ジェルミア王子とはそういう関係ではない、と一言伝えるだけなのに、そんな風に思われたことがとても悲しくて喉の奥が詰まってしまった。エリー王女は胸を押さえ、潤んだ瞳で訴えるかのようにレイを見つめる。
「ははは、ね? ほら、隙だらけだよ?」
まるで誘っているのではないかという表情に、レイが笑いながら目元にそっと触れた。こんな表情をされたら誰でもエリー王女を好きになるだろう。
「もっと自分を大切にしてほしい」
「はい……」
レイとの距離が縮まり息を飲む。触れられたところが熱い。何故怒っているのに優しく触れるのだろう。悲しそうにも見えるレイの表情は、見ていると胸が苦しくなった。
今にも泣きそうなエリー王女に気が付き、レイは自分が行ったことを思い出す。よくよく考えれば自分もエリー王女にキスしそうになったではないか。偉そうなこと言える立場じゃないのだ。
「いや、俺もごめん。ちゃんと守ってあげられなくて。あー、違うか。実際には邪魔をしちゃったわけだもんね」
はははと苦笑いするレイの姿を見たエリー王女は、瞳からぽろっと涙を零した。慌てて涙を隠すように俯く。レイはその涙に気が付き、驚き戸惑った。
「エリー様……?」
「ち、違います」
エリー王女はレイに近付き、左手のジャケットの裾をきゅっと握りしめた。ちゃんと伝えなくては……。
「あの……私はジェルミア様を好いてはおりません。勿論、候補者の一人としては検討すべき方ではありますが、今の段階では恋などしておりません」
エリー王女はゆっくりと言葉を紡ぐように伝えた。静かな時が流れる。これで分かってくれたのだろうか。不安になっていると、頭上からレイの声が落ちてきた。
「あー、エリー様。ごめん。ジェルミア様の話しぶりでてっきりもう想い合う仲になったんだって、俺、勘違いしちゃった……」
レイはエリー王女の髪を耳にかけ、顔を覗き込んだ。すると上目遣いの潤んだ瞳が返ってくる。それは脅えた仔犬のようで、レイの心は揺さぶれた。
思わずエリー王女を背中から右手で引き寄せる。
「本当にごめん。俺が悪いのに怒ったりして……泣かないで……」
レイの胸の中にいるエリー王女は何が起きたのかと動揺した。顔に熱が集まり、胸が激しく脈打つ。男の人はこうも抱きしめてくるものなのだろうか。だけどジェルミア王子の時のような嫌な感じではなく、むしろ心地いい。今なら素直に自分の気持ちを伝えられるような気がした。
「私、ちゃんと自分を大切にします。あの……頼りない王女ですがこれからも側にいてくれますか?」
「うん、勿論だよ。ありがとう。今度はちゃんと守る。俺はずっとエリー様の側にいて守るから」
その答えに、エリー王女はやっと安心した。レイの胸に頬を寄せ、ぬくもりを味わうように瞳を閉じる。
レイもまた、失敗を犯した自分でも頼ってくれているのだと分かり安堵した。大人しく胸の中にいるエリー王女の頭部に、恋人がするように唇を寄せる。そこではたと固まった。
腕の中?
自分の今の状態に気が付き、さっと血の気が引く。
――――またやってしまった……。
レイはエリー王女から離れ、苦笑いを溢した。
「エリー様、一人にしてごめん……」
目の前に立つレイは俯いており、表情は見えない。しかし強張った声から、この件について反省しているのだろうとエリー王女は思った。側近として非はあったが、エリー王女はそれを責めるつもりはない。助けに来てくれたこと、そして今傍にいてくれることがなにより嬉しかった。
「いえ……気にしないでください。ただ、少しこ――」
「エリー様はもうジェルミア様に惚れちゃったんだね……」
「……え?」
エリー王女は思ってもみないことを言われて驚いた。どこをどう見てそう思ったのだろうか。全く身に覚えがなさすぎて、どう答えていいのか分からない。
否定もせずに黙っているエリー王女の姿を見たレイは、それが間違いではないのだと確信した。思わず苦笑いが零れる。
「そっか……。でも、まだ決めないで欲しいんだ。二人しかお会いしていないし、もっとよく知ってから慎重に選んでほしい。それに……」
顔を上げ、怒っているような、悲しんでいるような瞳でエリー王女を真っすぐ見つめた。
「簡単にさせちゃダメだよ」
ツゲの木に囲まれた二人だけの空間は、鳥の声も聞こえないほど静かで、レイの声がエリー王女の胸に突き刺さる。
レイは怒っているのだ。確かにもっと必死に拒まなければいけなかった。もし、レイが来なかったらあのままジェルミア王子に口付けをされていたかもしれない。
「ごめんなさい……」
エリー王女は素直に謝った。王女としての自覚が足りないと呆れられてしまっただろうか。それとも嫌われてしまっただろうか。レイの気持ちが離れてしまったようで、ずしんと心が沈んだ。
それに、レイは誤解している。
「あ、あの……」
ジェルミア王子とはそういう関係ではない、と一言伝えるだけなのに、そんな風に思われたことがとても悲しくて喉の奥が詰まってしまった。エリー王女は胸を押さえ、潤んだ瞳で訴えるかのようにレイを見つめる。
「ははは、ね? ほら、隙だらけだよ?」
まるで誘っているのではないかという表情に、レイが笑いながら目元にそっと触れた。こんな表情をされたら誰でもエリー王女を好きになるだろう。
「もっと自分を大切にしてほしい」
「はい……」
レイとの距離が縮まり息を飲む。触れられたところが熱い。何故怒っているのに優しく触れるのだろう。悲しそうにも見えるレイの表情は、見ていると胸が苦しくなった。
今にも泣きそうなエリー王女に気が付き、レイは自分が行ったことを思い出す。よくよく考えれば自分もエリー王女にキスしそうになったではないか。偉そうなこと言える立場じゃないのだ。
「いや、俺もごめん。ちゃんと守ってあげられなくて。あー、違うか。実際には邪魔をしちゃったわけだもんね」
はははと苦笑いするレイの姿を見たエリー王女は、瞳からぽろっと涙を零した。慌てて涙を隠すように俯く。レイはその涙に気が付き、驚き戸惑った。
「エリー様……?」
「ち、違います」
エリー王女はレイに近付き、左手のジャケットの裾をきゅっと握りしめた。ちゃんと伝えなくては……。
「あの……私はジェルミア様を好いてはおりません。勿論、候補者の一人としては検討すべき方ではありますが、今の段階では恋などしておりません」
エリー王女はゆっくりと言葉を紡ぐように伝えた。静かな時が流れる。これで分かってくれたのだろうか。不安になっていると、頭上からレイの声が落ちてきた。
「あー、エリー様。ごめん。ジェルミア様の話しぶりでてっきりもう想い合う仲になったんだって、俺、勘違いしちゃった……」
レイはエリー王女の髪を耳にかけ、顔を覗き込んだ。すると上目遣いの潤んだ瞳が返ってくる。それは脅えた仔犬のようで、レイの心は揺さぶれた。
思わずエリー王女を背中から右手で引き寄せる。
「本当にごめん。俺が悪いのに怒ったりして……泣かないで……」
レイの胸の中にいるエリー王女は何が起きたのかと動揺した。顔に熱が集まり、胸が激しく脈打つ。男の人はこうも抱きしめてくるものなのだろうか。だけどジェルミア王子の時のような嫌な感じではなく、むしろ心地いい。今なら素直に自分の気持ちを伝えられるような気がした。
「私、ちゃんと自分を大切にします。あの……頼りない王女ですがこれからも側にいてくれますか?」
「うん、勿論だよ。ありがとう。今度はちゃんと守る。俺はずっとエリー様の側にいて守るから」
その答えに、エリー王女はやっと安心した。レイの胸に頬を寄せ、ぬくもりを味わうように瞳を閉じる。
レイもまた、失敗を犯した自分でも頼ってくれているのだと分かり安堵した。大人しく胸の中にいるエリー王女の頭部に、恋人がするように唇を寄せる。そこではたと固まった。
腕の中?
自分の今の状態に気が付き、さっと血の気が引く。
――――またやってしまった……。
レイはエリー王女から離れ、苦笑いを溢した。
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