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第02章 初恋
第020話 企て
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庭園にはツゲの木を綺麗に刈り取って作られた迷路がある。上から見れば一つの芸術作品のように美しい模様が描かれていた。ジェルミア王子はこの場所の存在を知っており、側近とある企てをしていたのだ。
そんなこととも知らず、エリー王女はジェルミア王子に抱き寄せられたままゆっくりと歩く。あくまでもエスコートという名目であったものの、このようにべったりとくっついて歩くのはエリー王女にとって落ち着かなかった。後ろにレイがいると思うと尚更だった。
「あの……私、一人で歩けますので……」
そう伝えてみたが「気にする必要はありませんよ」という言葉が返ってくるだけで離れようとはしてくれない。とにかく城に着いてしまえば離れられるのだと思い、ただ前だけを向いて歩いた。
城は見えるがまだまだ距離がある。恨めしそうにじっとその城を見ながら歩いていると、ふっと視界に入る景色が変わった。青々しいツゲの木に囲まれている。ジェルミア王子はエリー王女の腰を抱いたまま、ツゲの木の迷路の奥へとどんどん突き進んでいるのだ。
「あ、あの……」
「ここは前から入ってみたいと思っていたのですよ」
驚いたエリー王女は、ジェルミア王子に声かけると横から楽しそうな声が降ってきた。
しかし、何か違和感を感じる。何故このように急いで進むのか。それも同意も得ずにこんなところに入るのはおかしいのではないか。ジェルミア王子の行動が理解できず、レイに助けを求めようと振り返った。
「え?」
落とした石のように心臓が跳ねる。
振り返ってもツゲの木が見えるだけで誰もいない。レイもジェルミア王子の側近も。それを認識すると瞳が揺れ、どくどくと鼓動が早くなった。
「お、お待ちください! あの……レイが……いえ、一人になるなと言われておりますので――――」
「ごめんね。どうしてもエリー様と二人きりになりたかったから」
少し大きな声で訴えかけると、ジェルミア王子が立ち止まり熱い視線で見つめてくる。腰に回した手がさらにぐっと引き寄せられ、抱き寄せられた。あまりにも密着した状態のため、その距離と瞳に困惑する。
怖い……。
この距離に耐えられずエリー王女は俯いた。
「そういう男に免疫がない反応がすごく新鮮で愛らしい。ずっと後宮にいたから仕方ないことかもしれないけど。俺が色々と教えてあげよう。そしてもっとエリー様を教えてほしい」
左手でエリー王女の頬に触れ、甘い言葉を耳元で囁いてくる。触れられた場所から凍りつくかのようにぞくぞくした。このままではいけないと思ったエリー王女は、ジェルミア王子の胸を僅かに押した。
「あの……もう少し離れて頂けないでしょうか……」
そんな小さな抵抗が効くわけもなく、ジェルミア王子の腰にまわす手に力が加わっただけだった。
「大丈夫、恥ずかしがることはないよ。お互いを知ればもっと好きになるから。俺は愛のある婚姻を結びたいと思っているしね。もっと知るために今夜エリー様のお部屋にお伺いしても?」
「え?」
驚いて顔を上げると、思っていた以上に近い位置に顔があり、息を飲む。その瞬間、昨夜のレイを思い出した。だけどあの時と違う。
――――嫌!
エリー王女にはただ嫌悪感しかなかった。心の中で叫び、今度は力を込めて逃げようとするがびくともしない。
「心配しないで。すぐに俺のことしか考えられなくなるから、俺に身を委ねて」
ジェルミア王子がそう微笑むとエリー王女の唇に近づいた――――。
そんなこととも知らず、エリー王女はジェルミア王子に抱き寄せられたままゆっくりと歩く。あくまでもエスコートという名目であったものの、このようにべったりとくっついて歩くのはエリー王女にとって落ち着かなかった。後ろにレイがいると思うと尚更だった。
「あの……私、一人で歩けますので……」
そう伝えてみたが「気にする必要はありませんよ」という言葉が返ってくるだけで離れようとはしてくれない。とにかく城に着いてしまえば離れられるのだと思い、ただ前だけを向いて歩いた。
城は見えるがまだまだ距離がある。恨めしそうにじっとその城を見ながら歩いていると、ふっと視界に入る景色が変わった。青々しいツゲの木に囲まれている。ジェルミア王子はエリー王女の腰を抱いたまま、ツゲの木の迷路の奥へとどんどん突き進んでいるのだ。
「あ、あの……」
「ここは前から入ってみたいと思っていたのですよ」
驚いたエリー王女は、ジェルミア王子に声かけると横から楽しそうな声が降ってきた。
しかし、何か違和感を感じる。何故このように急いで進むのか。それも同意も得ずにこんなところに入るのはおかしいのではないか。ジェルミア王子の行動が理解できず、レイに助けを求めようと振り返った。
「え?」
落とした石のように心臓が跳ねる。
振り返ってもツゲの木が見えるだけで誰もいない。レイもジェルミア王子の側近も。それを認識すると瞳が揺れ、どくどくと鼓動が早くなった。
「お、お待ちください! あの……レイが……いえ、一人になるなと言われておりますので――――」
「ごめんね。どうしてもエリー様と二人きりになりたかったから」
少し大きな声で訴えかけると、ジェルミア王子が立ち止まり熱い視線で見つめてくる。腰に回した手がさらにぐっと引き寄せられ、抱き寄せられた。あまりにも密着した状態のため、その距離と瞳に困惑する。
怖い……。
この距離に耐えられずエリー王女は俯いた。
「そういう男に免疫がない反応がすごく新鮮で愛らしい。ずっと後宮にいたから仕方ないことかもしれないけど。俺が色々と教えてあげよう。そしてもっとエリー様を教えてほしい」
左手でエリー王女の頬に触れ、甘い言葉を耳元で囁いてくる。触れられた場所から凍りつくかのようにぞくぞくした。このままではいけないと思ったエリー王女は、ジェルミア王子の胸を僅かに押した。
「あの……もう少し離れて頂けないでしょうか……」
そんな小さな抵抗が効くわけもなく、ジェルミア王子の腰にまわす手に力が加わっただけだった。
「大丈夫、恥ずかしがることはないよ。お互いを知ればもっと好きになるから。俺は愛のある婚姻を結びたいと思っているしね。もっと知るために今夜エリー様のお部屋にお伺いしても?」
「え?」
驚いて顔を上げると、思っていた以上に近い位置に顔があり、息を飲む。その瞬間、昨夜のレイを思い出した。だけどあの時と違う。
――――嫌!
エリー王女にはただ嫌悪感しかなかった。心の中で叫び、今度は力を込めて逃げようとするがびくともしない。
「心配しないで。すぐに俺のことしか考えられなくなるから、俺に身を委ねて」
ジェルミア王子がそう微笑むとエリー王女の唇に近づいた――――。
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