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第01章 出逢い
第009話 決意
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ドームを購入後、エリー王女は色々な店で気に入った物を次から次へと購入していく。レイに助けてもらいながら、少しずつお店の人と話せるようにもなり、楽しくなってついつい買いすぎてしまった。
「あ、あの……。もしかして、私、買いすぎでしょうか……?」
レイの手荷物が両手になった時、エリー王女は脅えたような目でレイを見た。
「あはは、大丈夫だよ。お金が回れば経済も良くなるから、エリーは気にしないで」
「それに、買ったものは全て寄付しますのでご安心ください」
にこにこと笑顔でレイが返すと、エリー王女は安心したのだが、続けざまにアランが放つ言葉に固まった。
エリー王女は、買った物をじっと凝視している。不思議に思ったレイがエリー王女の顔を覗き込むと、あまりにも落胆した表情をしていたため慌てた。
「あ、アラン! 気に入ったものがあったら、もって帰っても良いんだよね? ね?」
レイはジェスチャーと表情で、エリー王女が落胆していることを伝える。
「ああ、必要なものがあればそのままお持ちいただいても構いません」
それを察して、アランがそう伝えるとエリー王女は顔を上げ、少しだけ瞳を輝かせた。
もともと自分が気に入った物ばかりを買っていたので、どれも手元に置いておきたい。しかし「寄付」ということは誰かのためになるんだと、自分に言い聞かせて納得させた。
「では、こちらのドームだけ貰っても宜しいでしょうか?」
「勿論。俺もこれは大事にするよ」
それは、レイと最初に買ったドーム。それを伝えると、レイが嬉しそうに笑う。その笑顔を見たエリー王女は、ほんの少しだけ胸がトクンと高鳴り、頬を染めた。
買い物を終え、しばらく町の様子を見て回っていた時だった。人通りの多い道、その奥から悲鳴が聞こえる。
「泥棒!」
声と悲鳴が進行方向から徐々に大きくなってきた。
「エリー様、こちらへ」
レイがエリー王女を庇うように道の隅に移動し、アランは前から走ってきた犯人の前に立ちはだかる。
「邪魔だ、どけ!」
アランは向かってきた男を体術で素早く捕らえた。それはあまりにも一瞬。街の人達も口を開けて驚いた。
エリー王女は一部始終見ていたが、あまりにも華麗で何が起きたのか全く分からなかった。
犯人を捕らえたアランは、兵に受け渡しを行うために一度城に戻ることになった。そのため、エリー王女とレイは二人で、街角の噴水広場で待つことにした。
エリー王女は、噴水の縁に座りながら行き交う人々を見るのを楽しむ。また、レイとのおしゃべりもとても楽しくて、なんて素敵な日なのだろうと、エリー王女は笑みがたえなかった。
しかし、それを中断せざるを得なくなることもしばしば。
何故なら、二人でいると男性から次から次へと一緒に遊びに行かないかという誘いが入ったためである。
「あーごめん。私たち付き合ってるから二人でいたいの」
にこにことそう答えるレイを見て、男達はそそくさと立ち去る。少し意味がわからなかったが、エリー王女はレイの対応に感心した。
「あの……。男性は女性がいると声をおかけになるんですね。それが礼儀みたいなものなのでしょうか?」
「はははは。違うよ。誰にでもっていうわけじゃないよ。エリー様が可愛いから! じゃない?」
レイは隣に座るエリー王女の顔を覗きこみ、微笑んだ。
エリー王女は胸がドキっと高鳴り、頬を赤く染める。レイは女性ではあったが、その笑顔に何故かドキドキとしてしまう。
「レイの方が可愛いじゃないですか」
そんな自分に戸惑いつつも、その言葉が嬉しかった。自分の気持ちを隠すように、照れながらエリー王女が微笑み返す。
その笑顔はとても愛らしく、レイもまたドキっとした。
「エリー様、ダメだよそんな顔をしたら。可愛いすぎっ!」
レイがエリー王女の鼻先を優しく摘まむ。
「んんっ」
エリー王女が顔を歪めた瞬間、レイの頭をアランが小突いた。
「お前はエリー様に何をしているんだ……」
レイが振り返ると怒ったアランが立っていた。
「あ、アラン、良いところにきた! エリー様が可愛いすぎて困っていたところだったんだ。よーし! 今日の最後の場所にそろそろ行こう!」
アランにも自分のことを可愛いと伝えるので、エリー王女はますます顔を赤くした。
「はい、エリー様」
レイが立ち上がり、その手を差し伸べると、エリー王女はその手を掴んだ。その手は相変わらず温かい。エリー王女は、レイとなら普段通りの自分でいられた。
着いた先は高台で、城下の町並みが一望できる場所だった。日の光を浴びた街はキラキラと耀き、エリー王女はその町並みに息を飲む。
静かな時が流れ、アランとレイは黙って後ろから見守った。エリー王女は今何を思い、何を考えるのか。後ろ姿からは分からない。
徐々に金色に染まっていく美しい街並みを、それに負けず劣らない輝く瞳でエリー王女は見つめる。そして、風の音を聞くかのように瞳を閉じた。
暫く景色を眺めていたエリー王女が振り向き、二人を交互に見つめ呟く。
「アラン、レイ……。今日はありがとうございました。二人が見せたかったものの意味が分かりました。ここはお父様やお母様、代々の王家の方々が守ってきた大切な国。沢山の笑顔がここにはありました。ここが私の守るべき国。全ては私の選択で変わってしまいます。これがどれだけ重要なことなのか……」
赤く輝く太陽がエリー王女を照らす。
「私は全力でこの国を守ります。アラン、レイ。私に付いてきていただけますか」
「はっ。我が全てをかけ王女殿下にお仕えいたします」
二人は同時にエリー王女の前にひざまづき誓いを立てた。
「あ、あの……。もしかして、私、買いすぎでしょうか……?」
レイの手荷物が両手になった時、エリー王女は脅えたような目でレイを見た。
「あはは、大丈夫だよ。お金が回れば経済も良くなるから、エリーは気にしないで」
「それに、買ったものは全て寄付しますのでご安心ください」
にこにこと笑顔でレイが返すと、エリー王女は安心したのだが、続けざまにアランが放つ言葉に固まった。
エリー王女は、買った物をじっと凝視している。不思議に思ったレイがエリー王女の顔を覗き込むと、あまりにも落胆した表情をしていたため慌てた。
「あ、アラン! 気に入ったものがあったら、もって帰っても良いんだよね? ね?」
レイはジェスチャーと表情で、エリー王女が落胆していることを伝える。
「ああ、必要なものがあればそのままお持ちいただいても構いません」
それを察して、アランがそう伝えるとエリー王女は顔を上げ、少しだけ瞳を輝かせた。
もともと自分が気に入った物ばかりを買っていたので、どれも手元に置いておきたい。しかし「寄付」ということは誰かのためになるんだと、自分に言い聞かせて納得させた。
「では、こちらのドームだけ貰っても宜しいでしょうか?」
「勿論。俺もこれは大事にするよ」
それは、レイと最初に買ったドーム。それを伝えると、レイが嬉しそうに笑う。その笑顔を見たエリー王女は、ほんの少しだけ胸がトクンと高鳴り、頬を染めた。
買い物を終え、しばらく町の様子を見て回っていた時だった。人通りの多い道、その奥から悲鳴が聞こえる。
「泥棒!」
声と悲鳴が進行方向から徐々に大きくなってきた。
「エリー様、こちらへ」
レイがエリー王女を庇うように道の隅に移動し、アランは前から走ってきた犯人の前に立ちはだかる。
「邪魔だ、どけ!」
アランは向かってきた男を体術で素早く捕らえた。それはあまりにも一瞬。街の人達も口を開けて驚いた。
エリー王女は一部始終見ていたが、あまりにも華麗で何が起きたのか全く分からなかった。
犯人を捕らえたアランは、兵に受け渡しを行うために一度城に戻ることになった。そのため、エリー王女とレイは二人で、街角の噴水広場で待つことにした。
エリー王女は、噴水の縁に座りながら行き交う人々を見るのを楽しむ。また、レイとのおしゃべりもとても楽しくて、なんて素敵な日なのだろうと、エリー王女は笑みがたえなかった。
しかし、それを中断せざるを得なくなることもしばしば。
何故なら、二人でいると男性から次から次へと一緒に遊びに行かないかという誘いが入ったためである。
「あーごめん。私たち付き合ってるから二人でいたいの」
にこにことそう答えるレイを見て、男達はそそくさと立ち去る。少し意味がわからなかったが、エリー王女はレイの対応に感心した。
「あの……。男性は女性がいると声をおかけになるんですね。それが礼儀みたいなものなのでしょうか?」
「はははは。違うよ。誰にでもっていうわけじゃないよ。エリー様が可愛いから! じゃない?」
レイは隣に座るエリー王女の顔を覗きこみ、微笑んだ。
エリー王女は胸がドキっと高鳴り、頬を赤く染める。レイは女性ではあったが、その笑顔に何故かドキドキとしてしまう。
「レイの方が可愛いじゃないですか」
そんな自分に戸惑いつつも、その言葉が嬉しかった。自分の気持ちを隠すように、照れながらエリー王女が微笑み返す。
その笑顔はとても愛らしく、レイもまたドキっとした。
「エリー様、ダメだよそんな顔をしたら。可愛いすぎっ!」
レイがエリー王女の鼻先を優しく摘まむ。
「んんっ」
エリー王女が顔を歪めた瞬間、レイの頭をアランが小突いた。
「お前はエリー様に何をしているんだ……」
レイが振り返ると怒ったアランが立っていた。
「あ、アラン、良いところにきた! エリー様が可愛いすぎて困っていたところだったんだ。よーし! 今日の最後の場所にそろそろ行こう!」
アランにも自分のことを可愛いと伝えるので、エリー王女はますます顔を赤くした。
「はい、エリー様」
レイが立ち上がり、その手を差し伸べると、エリー王女はその手を掴んだ。その手は相変わらず温かい。エリー王女は、レイとなら普段通りの自分でいられた。
着いた先は高台で、城下の町並みが一望できる場所だった。日の光を浴びた街はキラキラと耀き、エリー王女はその町並みに息を飲む。
静かな時が流れ、アランとレイは黙って後ろから見守った。エリー王女は今何を思い、何を考えるのか。後ろ姿からは分からない。
徐々に金色に染まっていく美しい街並みを、それに負けず劣らない輝く瞳でエリー王女は見つめる。そして、風の音を聞くかのように瞳を閉じた。
暫く景色を眺めていたエリー王女が振り向き、二人を交互に見つめ呟く。
「アラン、レイ……。今日はありがとうございました。二人が見せたかったものの意味が分かりました。ここはお父様やお母様、代々の王家の方々が守ってきた大切な国。沢山の笑顔がここにはありました。ここが私の守るべき国。全ては私の選択で変わってしまいます。これがどれだけ重要なことなのか……」
赤く輝く太陽がエリー王女を照らす。
「私は全力でこの国を守ります。アラン、レイ。私に付いてきていただけますか」
「はっ。我が全てをかけ王女殿下にお仕えいたします」
二人は同時にエリー王女の前にひざまづき誓いを立てた。
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