恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
7 / 235
第01章 出逢い

第007話 ドドドン酒場

しおりを挟む
 秘密の通路から出た先は、とある酒場の地下倉庫だった。

 ここ『ドドドン酒場』は国営で、情報収集用に作られた場所である。昼間はカフェ。夜は酒場へと変わり、他の店に比べると非常に安い。そのため、二十四時間常に賑わいをみせていた。人の出入りが常に多いため、城からの行き来、店の出入りも容易に行うことが出来ることが利点の一つだった。

 魔法薬で灯されたランプが倉庫内全体を照らし、棚にはたくさんのお酒や食糧が置かれていることが良く見える。上の階からはガヤガヤとした声が小さく耳に入ってきた。エリー王女は興味深そうに倉庫内を見渡しながらもアランの後ろをついて歩く。レイのお陰で新しい場所に着いても、少しも怖くなかった。

 倉庫内の奥にある簡素な木の扉にたどり着いたアランは、コンコンと二回扉を叩く。しかし、奥から何も反応がない。もう一度叩いてみたが変化は見られなかった。

「失礼します」

 アランは仕方がなく、そのまま扉を開けて中に入った。そこには大柄のいかつい男が険しい顔で書類に何かを書いているところだった。集中しているのか、三人が入ってきても全く気がつかない。アランは大きくため息をつき、机の前に立つ。

「ジェルド、エリー様が参られました」

 ジェルドと呼ばれた男は顔をバッと上げ、アランの顔を見て、壁に掛かる時計を確認した後、体を横に傾けてアランの背後を見た。強面の顔があからさまにしまった! という表情に変わった。

 エリー王女はジェルドと視線が交わると小さく肩を揺らすが、背筋を伸ばして微笑みを作った。

 慌てたジェルドはガタガタと机と椅子を鳴らしながら、エリー王女の前にかけより跪く。

「本来であればお出迎えするべきでしたのに申し訳ございません。こんなむさ苦しいところにご足労いただき誠にありがとうございます」
「構いません。国のために一生懸命働いているのならば、それは喜ぶべきことです。面をお上げください」

 ジェルドが面を上げても、父親と同じくらいの年齢だったため、エリー王女はそれほど動揺することはなかった。そんな自分にほっと胸を撫で下ろす。

「話は聞いていると思うが今日は忍びで来た。街の様子はどうだ」

 アランがジェルドに話しかけながら手を差し伸べ立たせる。

「最近も特に変わった様子はなく、平和だね。今回の朝市もいい店が出揃っていたよ。ん? おい、そこにいるのはレイか!? はっはっはっはっは! いつの間に女になったんだ? いや~前から可愛い顔をしているとは思ったけどまさか女になるとはな!」

 笑いながらレイに近づき背中をバンバン叩いた。

「いてて。女の俺もいけてるでしょ?」
「どうせあいつに変なもん飲まされたんだろう? あんまりあいつに付き合ってるといつか死ぬぜ~」
「ははは。大丈夫大丈夫! セルダさんだって国のために頑張ってるんだ。俺にできることがあればやるだけだよ」
「相変わらずお国への忠誠心が強いね~。しっかし、その身体いいね~。こりゃ~色々と役に立ちそうだな。なぁ、今晩俺とどうだ?」

 ジェルドがレイの体を舐めるように見た後、ニヤリと笑う。

「お、おい! エリー様の前で何を言っているんだ!」
「ん~、今日の夜はエリー様のお披露目パーティがあるし、この体でいられるのもそんなに長くないんだ。悪いけど今日は他をあたってくれる?」
「お、お前は何で普通に返している……」

 アランが嫌悪を露にしながらアタフタしている。それを見たレイとジェルドが顔を見合わせ、噴き出した。

「アラン、お前何想像しているんだ? 仕事だよ仕事。調査のな。女だからこそ出来る仕事もあるんだよ」

 ジェルドは笑いながらアランに言うと、アランはハッと気付き、顔を赤くする。そんな様子を見てジェルドは満足そうだ。

「相変わらず面白れえな。俺はレイに手をだすほど飢えてねぇよ」
「……っ。お前らわざとだろ!」
「まあまあ、アラン。俺はそんなアランが好きだけどね」
「俺はお前らが嫌いだ」

 楽しそうに笑い合う三人。それを横で見ていたエリー王女は、アランが何故怒っているのか良く分からず首をかしげていた。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...