6 / 235
第01章 出逢い
第006話 手と手
しおりを挟む
アランはクロークの中に入り、服をかき分けて奥の壁に手を置いた。暗くて狭いため、ゆっくりとしゃがみ、手探りで下部にある溝に手を入れる。力を入れて上に持ち上げると、大人一人が屈んで通れる位の穴が開いた。
クロークの前では、エリー王女が不思議そうに沢山の服を見つめていた。この中に消えたアランは一体何をしているのだろうか? そう思っていると、クロークの中から服をかき分けてアランが顔を出した。突然現れたため、エリー王女は一歩後ずさる。
「狭いのでお手を」
アランが手を差し伸べると、少し間が空いたものの、エリー王女は俯きながらもゆっくりと手を置いた。
もしかしたら手を取ってくれないのでは、と思っていたアランはほっとして小さく息を吐く。ゆっくりと手を引き、エリー王女が通りやすいように道を作りながら、奥へと誘導した。
エリー王女は、アランの背中を見つめながら、早く広い場所に出たいと思っていた。それは早くこの手を離したかったからだ。それでも何も言わず、導かれるまま進んで行く。すると奥に明かりが見えてきた。
「少し段差がございます」
足元に注意しながら踏み入れたそこは、小さな石で積み重ねられた小部屋だった。
辺りを見渡しながら、エリー王女はそっと手を引いてアランから離れた。不自然に思われたかもしれないが、これ以上繋いでいることは出来なかった。
後ろから来たレイもランタンを持っていたので、小部屋の全体が良く見渡せた。入ってきた扉の正面に、木製の扉が見える。しかし、それ以外は何もない。簡素で、あまり素敵な場所ではないことは確かだ。
レイがクローク側の扉を閉める。その音がなんだか不気味で、エリー王女の背中がぞくぞくとした。これから恐ろしい場所に連れて行かれるのではないかと思えるような音だった。
「エリー様大丈夫?」
「は、はい。問題ありません」
心配したレイが声をかけたが、エリー王女は平気なふりをして笑顔を作る。しかし、レイに心を見透かされそうだったため、視線はすぐに逸らした。
そんな時、アランが木製の扉を押し開けると、ひんやりとした冷たい風が突き抜けた。エリー王女は、はっとして扉の奥を見る。そこは真っ暗で薄気味悪い。
本当にこんなところに入らなければいけないのかと、エリー王女は身を固めた。
「ここはとても暗く、中は入り組んでいますので我々から離れないようお願いします」
アランは当たり前のように、その中へと消えた。エリー王女の足は、付いていかなければと思うが、重くて上手く動かない。それでもその一歩を踏み出し、恐る恐るその暗い空間へと身を投じた。
「ここはアトラス城から外に抜けるための秘密の通路です。城内にはいくつかの出入口がございますが、一部の人間だけしか知りません。また、迷うように作られていますのでお一人では決して入らないようにお願いします。なお……」
アランの長い説明が続くが、全く頭に入ってこない。それくらい、この通路は怖くて早く帰りたくて仕方がなかった。
吹き抜ける風の音。
どこからか聞こえる水滴が落ちる音。
自分たちの歩く足音が通路に響く。
先の見えない闇に伸びる影。
夏だというのにここは肌寒い。
エリー王女の手は震えていた。しかし、そのことに気がつかれてはダメだと思ったエリー王女は、両手を胸の前でしっかりと握りしめる。
「エリー様。はい」
後ろを歩いていたレイが、隣にきて手を差し出した。
「足元暗いし、危ないからどーぞ」
エリー王女は、差し出された手を見た後、顔を上げた。目が合うと、レイはにこっと笑みを浮かべ、「ん?」首を傾ける。
その笑顔を見た瞬間、暗かったこの場所が明るくなったように感じた。
そうだった。エリー王女は、レイが今、女性になっていたことを思い出した。相手が女性であれば、アランの時のように緊張しないかもしれない。このまま一人で歩くよりはずっといいと思ったエリー王女は、レイの手を見つめながら小さく頭を傾けた。
「……あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
エリー王女がそっと手を置くと、レイがきゅっと握りしめてきた。ドキっとしてレイを見ると、そこには優しい笑顔があった。その温かい手とレイの笑顔で、先ほどまでの怖さがすっと消えた。暗かったはずの通路が、違う場所に感じるくらいの変化だった。
心に余裕ができたエリー王女は、レイのことが気になり、歩きながら横目でレイの方を盗み見る。しかしレイに気付かれ、目が合うとまたにこっと微笑まれた。それにつられてエリー王女も微笑む。
「あの……本当はちょっと怖かったのです。でも、レイのおかげでとても落ち着きました」
自分の気持ちを隠していたことが、なんだか悪いことのような気がしてそう伝えた。エリー王女のその話を聞いたレイは、笑顔で「うん」と言っただけで、それ以上のことは何も言わない。
エリー王女には、それがレイの優しさなのだと感じた。彼女(レイ)となら一緒にやっていけるかもしれない。レイの手のぬくもりを感じながら、前を向いて歩いた。
クロークの前では、エリー王女が不思議そうに沢山の服を見つめていた。この中に消えたアランは一体何をしているのだろうか? そう思っていると、クロークの中から服をかき分けてアランが顔を出した。突然現れたため、エリー王女は一歩後ずさる。
「狭いのでお手を」
アランが手を差し伸べると、少し間が空いたものの、エリー王女は俯きながらもゆっくりと手を置いた。
もしかしたら手を取ってくれないのでは、と思っていたアランはほっとして小さく息を吐く。ゆっくりと手を引き、エリー王女が通りやすいように道を作りながら、奥へと誘導した。
エリー王女は、アランの背中を見つめながら、早く広い場所に出たいと思っていた。それは早くこの手を離したかったからだ。それでも何も言わず、導かれるまま進んで行く。すると奥に明かりが見えてきた。
「少し段差がございます」
足元に注意しながら踏み入れたそこは、小さな石で積み重ねられた小部屋だった。
辺りを見渡しながら、エリー王女はそっと手を引いてアランから離れた。不自然に思われたかもしれないが、これ以上繋いでいることは出来なかった。
後ろから来たレイもランタンを持っていたので、小部屋の全体が良く見渡せた。入ってきた扉の正面に、木製の扉が見える。しかし、それ以外は何もない。簡素で、あまり素敵な場所ではないことは確かだ。
レイがクローク側の扉を閉める。その音がなんだか不気味で、エリー王女の背中がぞくぞくとした。これから恐ろしい場所に連れて行かれるのではないかと思えるような音だった。
「エリー様大丈夫?」
「は、はい。問題ありません」
心配したレイが声をかけたが、エリー王女は平気なふりをして笑顔を作る。しかし、レイに心を見透かされそうだったため、視線はすぐに逸らした。
そんな時、アランが木製の扉を押し開けると、ひんやりとした冷たい風が突き抜けた。エリー王女は、はっとして扉の奥を見る。そこは真っ暗で薄気味悪い。
本当にこんなところに入らなければいけないのかと、エリー王女は身を固めた。
「ここはとても暗く、中は入り組んでいますので我々から離れないようお願いします」
アランは当たり前のように、その中へと消えた。エリー王女の足は、付いていかなければと思うが、重くて上手く動かない。それでもその一歩を踏み出し、恐る恐るその暗い空間へと身を投じた。
「ここはアトラス城から外に抜けるための秘密の通路です。城内にはいくつかの出入口がございますが、一部の人間だけしか知りません。また、迷うように作られていますのでお一人では決して入らないようにお願いします。なお……」
アランの長い説明が続くが、全く頭に入ってこない。それくらい、この通路は怖くて早く帰りたくて仕方がなかった。
吹き抜ける風の音。
どこからか聞こえる水滴が落ちる音。
自分たちの歩く足音が通路に響く。
先の見えない闇に伸びる影。
夏だというのにここは肌寒い。
エリー王女の手は震えていた。しかし、そのことに気がつかれてはダメだと思ったエリー王女は、両手を胸の前でしっかりと握りしめる。
「エリー様。はい」
後ろを歩いていたレイが、隣にきて手を差し出した。
「足元暗いし、危ないからどーぞ」
エリー王女は、差し出された手を見た後、顔を上げた。目が合うと、レイはにこっと笑みを浮かべ、「ん?」首を傾ける。
その笑顔を見た瞬間、暗かったこの場所が明るくなったように感じた。
そうだった。エリー王女は、レイが今、女性になっていたことを思い出した。相手が女性であれば、アランの時のように緊張しないかもしれない。このまま一人で歩くよりはずっといいと思ったエリー王女は、レイの手を見つめながら小さく頭を傾けた。
「……あ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」
エリー王女がそっと手を置くと、レイがきゅっと握りしめてきた。ドキっとしてレイを見ると、そこには優しい笑顔があった。その温かい手とレイの笑顔で、先ほどまでの怖さがすっと消えた。暗かったはずの通路が、違う場所に感じるくらいの変化だった。
心に余裕ができたエリー王女は、レイのことが気になり、歩きながら横目でレイの方を盗み見る。しかしレイに気付かれ、目が合うとまたにこっと微笑まれた。それにつられてエリー王女も微笑む。
「あの……本当はちょっと怖かったのです。でも、レイのおかげでとても落ち着きました」
自分の気持ちを隠していたことが、なんだか悪いことのような気がしてそう伝えた。エリー王女のその話を聞いたレイは、笑顔で「うん」と言っただけで、それ以上のことは何も言わない。
エリー王女には、それがレイの優しさなのだと感じた。彼女(レイ)となら一緒にやっていけるかもしれない。レイの手のぬくもりを感じながら、前を向いて歩いた。
0
人物紹介
大きいサイズで見る
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる