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第01章 出逢い
第004話 気持ち
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シトラル国王の私室を出た三人は、アランの案内で他の部屋に来ていた。その部屋は、見た目はとても可愛らしく桃色を基調としていた。大きなソファーがあるゆったりとしたリビングの奥には、気品を漂わせるベッドルームがあり、バスルーム、トイレやキッチンまでも備え付けてあった。
「こちらにお部屋をご用意いたしました。後宮は城内奥にあり安全ではありますが、これからは城内を頻繁に出入り致しますので、こちらのお部屋が今後エリー様のお部屋となります」
アランが答えると、エリー王女は目を見開き瞳を揺らした。てっきり毎日後宮に戻れると思っていた。ずっとここに一人で? そうは思ってもエリー王女は何も言えずただ茫然と立ち尽くしてしまった。
「大丈夫だよ、エリー様。マーサさんがここでもお世話してくれるから」
そんなエリー王女の気持ちを察したのか、レイが落ち着かせようと屈託のない笑顔で話しかけた。しかし、エリー王女はその声で身体が跳ね、少し後ろに反らした。レイを見ようともせず、両手を胸の前で握り合わせている。その手は僅かに震えていた。
「レイ、エリー様に対しその言葉遣いは失礼だぞ」
アランはレイを叱るが、レイはそれを気にする様子もない。とにかく何とか心を開いて欲しかった。レイはひざまづき、エリー王女の手を取った。
「エリー様、今まで過ごしてきた環境とは違って戸惑うことも多いと思うけど、俺達はエリー様を守りたいと思っているし、信頼してほしいとも思っています」
「……」
エリー王女はすっかり固まってしまった。レイとの距離、ましてや手を握ってきている。どう反応してよいのか分からず、頭が真っ白になっていた。その気持ちは嬉しい。だけど、それに応えられない自分がいる。
分からなすぎて俯いたまま横を向き、片手で顔を覆った。こんな自分を見られたくない。
それを見たアランとレイは顔を見合わせ慌てた。
「エリー様? どうしたの?」
「お前が馴れ馴れしく近づくからだろうが!」
二人はオロオロとエリー王女の周りで心配した。そんな心配をしている二人の様子に、エリー王女は申し訳ないという気持ちが生まれた。自分が不甲斐ないばっかりに……。
「違うんです! レイが悪いのではないのです。色々お気遣い頂いて感謝しております。ですが、上手く応えることができなくて……ただ自分に戸惑っているのです……」
二人は黙り、静かに耳を傾ける。エリー王女は俯いたまま自分の思っていることを伝え始めた。
「ずっと後宮で女性に囲まれて過ごしており、父以外の男性と会うのは今日が初めてなのです。恐らく慣れていないことが原因なんだと思いますが、こんな密室で、しかも二人もいて、私、どうして良いのか分からず、頭の中が真っ白になってしまい……。それで……仲良くはなりたいとは思ってはいるのですが、どうしてもいつものように出来なくて……戸惑っておりました……」
アランは少し考えてから応えた。
「エリー様、まだ先ほどお会いしたばかりですので、そう思われても不思議なことではありません。そこまで思いつめなくても大丈夫です」
アランがエリー王女をなだめるが、顔を上げてはくれない。二人はただエリー王女を見つめるしかなかった。しかし、その沈黙を破ったのはレイだった。
「あ! 俺、良いこと考えちゃった! ちょっと出てくるから外出する準備だけしておいて? それまでには俺も戻ってくるから!」
「え? お、おいっ!」
慌てたアランを余所に、レイは走って部屋から出ていった。静かになった部屋。エリー王女は未だに俯いている。
「……で、ではとりあえずこちらでお召し物を替えていただけますか? 今、侍女を呼んでまいります」
そんな中、何と声をかけてよいか分からなくなったアランはとりあえずそう告げた。それを聞いたエリー王女はコクンと頷く。一応通じたことに胸を撫で下ろしたアランは、部屋を静かに出て行った。
「こちらにお部屋をご用意いたしました。後宮は城内奥にあり安全ではありますが、これからは城内を頻繁に出入り致しますので、こちらのお部屋が今後エリー様のお部屋となります」
アランが答えると、エリー王女は目を見開き瞳を揺らした。てっきり毎日後宮に戻れると思っていた。ずっとここに一人で? そうは思ってもエリー王女は何も言えずただ茫然と立ち尽くしてしまった。
「大丈夫だよ、エリー様。マーサさんがここでもお世話してくれるから」
そんなエリー王女の気持ちを察したのか、レイが落ち着かせようと屈託のない笑顔で話しかけた。しかし、エリー王女はその声で身体が跳ね、少し後ろに反らした。レイを見ようともせず、両手を胸の前で握り合わせている。その手は僅かに震えていた。
「レイ、エリー様に対しその言葉遣いは失礼だぞ」
アランはレイを叱るが、レイはそれを気にする様子もない。とにかく何とか心を開いて欲しかった。レイはひざまづき、エリー王女の手を取った。
「エリー様、今まで過ごしてきた環境とは違って戸惑うことも多いと思うけど、俺達はエリー様を守りたいと思っているし、信頼してほしいとも思っています」
「……」
エリー王女はすっかり固まってしまった。レイとの距離、ましてや手を握ってきている。どう反応してよいのか分からず、頭が真っ白になっていた。その気持ちは嬉しい。だけど、それに応えられない自分がいる。
分からなすぎて俯いたまま横を向き、片手で顔を覆った。こんな自分を見られたくない。
それを見たアランとレイは顔を見合わせ慌てた。
「エリー様? どうしたの?」
「お前が馴れ馴れしく近づくからだろうが!」
二人はオロオロとエリー王女の周りで心配した。そんな心配をしている二人の様子に、エリー王女は申し訳ないという気持ちが生まれた。自分が不甲斐ないばっかりに……。
「違うんです! レイが悪いのではないのです。色々お気遣い頂いて感謝しております。ですが、上手く応えることができなくて……ただ自分に戸惑っているのです……」
二人は黙り、静かに耳を傾ける。エリー王女は俯いたまま自分の思っていることを伝え始めた。
「ずっと後宮で女性に囲まれて過ごしており、父以外の男性と会うのは今日が初めてなのです。恐らく慣れていないことが原因なんだと思いますが、こんな密室で、しかも二人もいて、私、どうして良いのか分からず、頭の中が真っ白になってしまい……。それで……仲良くはなりたいとは思ってはいるのですが、どうしてもいつものように出来なくて……戸惑っておりました……」
アランは少し考えてから応えた。
「エリー様、まだ先ほどお会いしたばかりですので、そう思われても不思議なことではありません。そこまで思いつめなくても大丈夫です」
アランがエリー王女をなだめるが、顔を上げてはくれない。二人はただエリー王女を見つめるしかなかった。しかし、その沈黙を破ったのはレイだった。
「あ! 俺、良いこと考えちゃった! ちょっと出てくるから外出する準備だけしておいて? それまでには俺も戻ってくるから!」
「え? お、おいっ!」
慌てたアランを余所に、レイは走って部屋から出ていった。静かになった部屋。エリー王女は未だに俯いている。
「……で、ではとりあえずこちらでお召し物を替えていただけますか? 今、侍女を呼んでまいります」
そんな中、何と声をかけてよいか分からなくなったアランはとりあえずそう告げた。それを聞いたエリー王女はコクンと頷く。一応通じたことに胸を撫で下ろしたアランは、部屋を静かに出て行った。
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