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推薦状
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「ここの教職の方たちなのかしら。お願いがあるのだけど。」
コクリは希望の光が見えた気がした。生徒の下校後夜遅くに名門アスター学園から出て来る、コートに身を包んだ男性2人。内部の人間なのは確定で、もしかしたら教職の方かもしれない。年が近い様にも見える2人だが、まずこの機会を逃すわけにはいかないと思い、走って声をかけに行ったのだ。
「あたしの推薦状を書いてくれないかしら。」
黒髪の男性はボーっとしたまま無反応。
茶髪の男性が口を開いた。
「すいせんじょう?」
茶髪の男性は疑問系で返したが、自分より少し背の低い隣りの男性の肩に肘を乗せ、体重を預けながら軽快に言った。
「おっとお嬢さん。それならこの自称天才センベツ様にお願いするんだ。」
茶髪の男性に指を刺され『センベツ』と呼ばれた黒髪の男性は、急に現実に引き戻されたかの様に反応した。
「はぁ?」
「オレはこの後予定があるんだ。」
「ねーだろ!」
「センベツっていうのね!あたしはコクリ。よろし」
「ムリ。」
「え。」
コクリは秒殺で断られた。
センベツが顔色を変え、その場から逃げ去ろうとしたので、
コクリは思わずセンベツのコートの裾を両手で力いっぱい引っ張った。
「まってまって!まって~!話だけでも聞いてぇえー!」
茶髪の男性はいつの間にか居なくなっていた。
しかしセンベツが足を止めてくれたため、コクリは満を持して言った。
「あたしプリンセスになりたいの。」
「帰っていい?」
「ダメ。」
センベツは足を止めていたが、ずっと立ち去りたい気持ちだった。しかしコクリがスッポンの様に食い付いて本気で離れなさそうなのだ。少し諦めの境地に入ったセンベツは、コクリの気が済むまで話を聞くことにした。
「だから」
コクリはセンベツが足を止めてくれているが、本気な思いが伝わっていない気がして、再び満を持して言った。
「あたしプリンセスになりたいの。」
「それ、さっき聞いたなぁ。」
センベツに本気が伝わっていなくても、コクリは話を続ける事にした。
「それでね本を読んだの。プリンセスになるには、とても高い教養を身につけるらしいの。この国で一番格式の高いアスター学園へ入学したいの。でも門番の方に推薦状が無ければ試験が受けられないって。お父様が書いた推薦状を持って学園に届けたら、貴族様の推薦状でなければ受けつけてくれなかったの。でも、あたし貴族様の知り合いなんていないから、ここの学園の教職の方に推薦状をお願いしようと思って。」
「そこで僕たちにお願いか。」
センベツは状況がわかり、事実を伝える。
「君の事情はわかった。悪いけど、僕は教員ではないし、学園の厨房スタッフの下っ端さ。僕が推薦状を書いたところで門前払いだよ。」
「それでも書いてくれたらとってもうれしいわ。」
コクリは笑顔でその事実を受け止め、自分の気持ちを伝える。センベツが思案する様子のため、念押しで目を輝かせお祈りしながら見つめた。
「ごめん…」
センベツはその眼差しに耐えられなくなり、目を逸らす様に言った。
♦︎♢♦︎♢♦︎
次の日。学園内厨房。
「で、どーだった?昨日のデートは何かあった。」
茶髪の先輩は、昨日厄介毎をセンベツに押し付け足早に帰って行ったが、今日のセンベツの様子を見てその後どうなったのか興味津々になって聞いてみた。
「デートも何も、何もないです。」
センベツはいつもの皿洗いをしながら、淡々と答えた。
先輩は摩訶不思議なものを見ている心境に戻り、慌てて言った。
「いや…何かあったろ。皿洗い一番やってるし。今日はシェフに対して何も言わないし。」
センベツはそんな先輩を他所に、食器を片付け終えた。
「休憩入りまーす。」
「あ…!オレもー。」
学園の廊下には大きな窓がいくつもあり、冬でも柔らかい陽が入る。先輩はセンベツの後を追いながら、窓の外を覗くとある人を見つけた。
「あれ?昨日の子じゃん。」
センベツが反応し、立ち止まった。
先輩はこれはチャンスとばかりに話題を改めて振った。
「推薦状もらいに必死だな。」
センベツも窓からコクリを見付けて、窓枠に肘を乗せながら、コクリが門番に推薦状を持って話している光景を眺める。センベツは先輩に聞いた。
「もし仮に推薦状をもらったとして合格できるかな?」
「無理でしょ。公にはなってないけどここほぼ、貴族様専用の学園だし。一般の子は裏でハジかれちゃうんだ。」
「そう…だよな…それが現実だよな。」
センベツは更に体重を預け、外のコクリを見つめる。
先輩はセンベツに付き合い窓枠に身を預けるも、目を閉じて言った。
「人ってさー生まれた時から階級ってあるよな。顔の良さ。生まれ場所。両親の財力・権力。才能の有無。どんなに努力したってさ抗えないよ。」
最後は吐き捨てるように、虚空を見つめながら先輩は言った。
それを聞いたセンベツは苛立ちを覚えた先輩を睨んだが、次の一言で我に帰った。
「あの子魔女だよ。」
「え。」
「どっかで見たことあるなーって思ってたけど、あの子の親って有名な魔女だぜ。」
先輩は、今も外で門番と話しているコクリを眺めながら左腕を右手で掴み言った。
「あの子はあのまま魔女として生きていく方がいいかもね。」
そして先輩はセンベツに顔を向け、挑発する様に問いかけた。
「自称天才センベツくん…お前はどうする?」
センベツは視線をコクリに戻し言った。
「癪ですね。」
♦︎♢♦︎♢♦︎
センベツは青くなった頬の痛みに顔を引き攣らせながら、苛立ちを隠さず学園の外を歩いて居た。
「センベツ。」
コクリが気付いて声をかけた。
「コクリ。」
センベツも気付き、コクリを見ると、
「びしょぬれじゃないか。」
コクリの状態に驚きが勝った。
「あ、ちょっと水をかけられて。」
当の本人はケロッとした表情で、サラッと言う。
センベツは怒りで頭が沸騰し、声を荒げてコクリに聞く。
「はあ?どこのどいつだよ。」
「そんな事より、顔のアザどうしたの?」
怒りを顕にするセンベツを他所に、コクリは顔を青ざめさせながら声を荒げて聞く。
『そんな事。』センベツはショックが上回り、怒りが一気に鎮火した。むしろセンベツの方が顔を青ざめさせている。
「これを塗ったら治るわ。お母様直伝のお薬だわ。」
コクリは瓶に入った飲み薬をセンベツに見せた。
センベツは物珍しいモノを見る様に言った。
「魔女の?」
コクリは先程までの勢いを無くし、センベツに聞いた。
「…知ってたの?」
「あ…」
「びっくりした?あたし魔女なの。まだ、半人前だけど。」
コクリは笑顔でいつもの明るさを振る舞い言った。
センベツは目を見張った。そしてコクリの目を見ず謝った。
「ごめん。」
「 ? 」
コクリは何を謝られているのか分からず、センベツの様子を不思議そうに見つめる。
「推薦状、僕より偉い人に頼んだんだけど全部、断られて。悪態ついたら殴られた。」
センベツは顔のアザが出来た理由を、コクリに教えた。
コクリは眉を顰め、口を尖らせて、呆れながら言った。
「暴力はダメよね。」
センベツは再びコクリの目を見ず謝った。
「何もできなくてごめん…」
コクリはセンベツが自分のために動いてくれた事、自分のために落ち込んでいる事を理解した。こそばゆい気持ちが湧き上がり、コクリの中にある欲が出た。コクリはもじもじと手遊びしながら聞いた。
「センベツって、あたしとお友達に…なれる…?」
いざ口にすると不安が勝り俯くコクリだが、センベツから思いがけない返答をもらった。
「え?うん。」
コクリはパッと顔を上げ、センベツの目を見つめ、更に聞いた。
「ほんと?本当に本当?あたし魔女よ?恐くない?」
センベツは一瞬目を見張ったが、コクリの目を見て表情を緩めて言った。
「全然、まったく。」
ーコクリは思い出していた。昔の悲しい記憶を。
「今日からみんな、コクリちゃんと遊べないの。」
「 ? どうして?」
突然の事だった。
「ママがね魔女と一緒に居ると、殺されるかもしれないからって。」
困った様に見つめる子、泣いている子、気まずそうに見る子、気にしない子、4人のコクリの友達は、コクリから距離をとって話を続ける。
「コクリ殺さないよ。」
「それでも危ないからって。」
困った様に見つめる子が、食い気味に言った。
コクリは目の前が真っ暗になった。
そんなコクリの様子に気付かず、泣いている子が言った。
「ごめんね、コクリちゃん。ずっと友達だよって約束したのに。」
コクリにとって、追い討ちの言葉だった。もうどんなに言葉をかけても友達で居てくれる事はないのだと悟った。コクリは光の差さない目で、笑顔を絶やさずに最後言った。
「コクリは一人遊びも得意よ!だから大丈夫!」
それからずっとあたしは一人だったけど、いつの間にかテレビで見るプリンセスに夢中で、いつかあたしもそんな人になりたいと思ったー
コクリは希望の光が見えた気がした。生徒の下校後夜遅くに名門アスター学園から出て来る、コートに身を包んだ男性2人。内部の人間なのは確定で、もしかしたら教職の方かもしれない。年が近い様にも見える2人だが、まずこの機会を逃すわけにはいかないと思い、走って声をかけに行ったのだ。
「あたしの推薦状を書いてくれないかしら。」
黒髪の男性はボーっとしたまま無反応。
茶髪の男性が口を開いた。
「すいせんじょう?」
茶髪の男性は疑問系で返したが、自分より少し背の低い隣りの男性の肩に肘を乗せ、体重を預けながら軽快に言った。
「おっとお嬢さん。それならこの自称天才センベツ様にお願いするんだ。」
茶髪の男性に指を刺され『センベツ』と呼ばれた黒髪の男性は、急に現実に引き戻されたかの様に反応した。
「はぁ?」
「オレはこの後予定があるんだ。」
「ねーだろ!」
「センベツっていうのね!あたしはコクリ。よろし」
「ムリ。」
「え。」
コクリは秒殺で断られた。
センベツが顔色を変え、その場から逃げ去ろうとしたので、
コクリは思わずセンベツのコートの裾を両手で力いっぱい引っ張った。
「まってまって!まって~!話だけでも聞いてぇえー!」
茶髪の男性はいつの間にか居なくなっていた。
しかしセンベツが足を止めてくれたため、コクリは満を持して言った。
「あたしプリンセスになりたいの。」
「帰っていい?」
「ダメ。」
センベツは足を止めていたが、ずっと立ち去りたい気持ちだった。しかしコクリがスッポンの様に食い付いて本気で離れなさそうなのだ。少し諦めの境地に入ったセンベツは、コクリの気が済むまで話を聞くことにした。
「だから」
コクリはセンベツが足を止めてくれているが、本気な思いが伝わっていない気がして、再び満を持して言った。
「あたしプリンセスになりたいの。」
「それ、さっき聞いたなぁ。」
センベツに本気が伝わっていなくても、コクリは話を続ける事にした。
「それでね本を読んだの。プリンセスになるには、とても高い教養を身につけるらしいの。この国で一番格式の高いアスター学園へ入学したいの。でも門番の方に推薦状が無ければ試験が受けられないって。お父様が書いた推薦状を持って学園に届けたら、貴族様の推薦状でなければ受けつけてくれなかったの。でも、あたし貴族様の知り合いなんていないから、ここの学園の教職の方に推薦状をお願いしようと思って。」
「そこで僕たちにお願いか。」
センベツは状況がわかり、事実を伝える。
「君の事情はわかった。悪いけど、僕は教員ではないし、学園の厨房スタッフの下っ端さ。僕が推薦状を書いたところで門前払いだよ。」
「それでも書いてくれたらとってもうれしいわ。」
コクリは笑顔でその事実を受け止め、自分の気持ちを伝える。センベツが思案する様子のため、念押しで目を輝かせお祈りしながら見つめた。
「ごめん…」
センベツはその眼差しに耐えられなくなり、目を逸らす様に言った。
♦︎♢♦︎♢♦︎
次の日。学園内厨房。
「で、どーだった?昨日のデートは何かあった。」
茶髪の先輩は、昨日厄介毎をセンベツに押し付け足早に帰って行ったが、今日のセンベツの様子を見てその後どうなったのか興味津々になって聞いてみた。
「デートも何も、何もないです。」
センベツはいつもの皿洗いをしながら、淡々と答えた。
先輩は摩訶不思議なものを見ている心境に戻り、慌てて言った。
「いや…何かあったろ。皿洗い一番やってるし。今日はシェフに対して何も言わないし。」
センベツはそんな先輩を他所に、食器を片付け終えた。
「休憩入りまーす。」
「あ…!オレもー。」
学園の廊下には大きな窓がいくつもあり、冬でも柔らかい陽が入る。先輩はセンベツの後を追いながら、窓の外を覗くとある人を見つけた。
「あれ?昨日の子じゃん。」
センベツが反応し、立ち止まった。
先輩はこれはチャンスとばかりに話題を改めて振った。
「推薦状もらいに必死だな。」
センベツも窓からコクリを見付けて、窓枠に肘を乗せながら、コクリが門番に推薦状を持って話している光景を眺める。センベツは先輩に聞いた。
「もし仮に推薦状をもらったとして合格できるかな?」
「無理でしょ。公にはなってないけどここほぼ、貴族様専用の学園だし。一般の子は裏でハジかれちゃうんだ。」
「そう…だよな…それが現実だよな。」
センベツは更に体重を預け、外のコクリを見つめる。
先輩はセンベツに付き合い窓枠に身を預けるも、目を閉じて言った。
「人ってさー生まれた時から階級ってあるよな。顔の良さ。生まれ場所。両親の財力・権力。才能の有無。どんなに努力したってさ抗えないよ。」
最後は吐き捨てるように、虚空を見つめながら先輩は言った。
それを聞いたセンベツは苛立ちを覚えた先輩を睨んだが、次の一言で我に帰った。
「あの子魔女だよ。」
「え。」
「どっかで見たことあるなーって思ってたけど、あの子の親って有名な魔女だぜ。」
先輩は、今も外で門番と話しているコクリを眺めながら左腕を右手で掴み言った。
「あの子はあのまま魔女として生きていく方がいいかもね。」
そして先輩はセンベツに顔を向け、挑発する様に問いかけた。
「自称天才センベツくん…お前はどうする?」
センベツは視線をコクリに戻し言った。
「癪ですね。」
♦︎♢♦︎♢♦︎
センベツは青くなった頬の痛みに顔を引き攣らせながら、苛立ちを隠さず学園の外を歩いて居た。
「センベツ。」
コクリが気付いて声をかけた。
「コクリ。」
センベツも気付き、コクリを見ると、
「びしょぬれじゃないか。」
コクリの状態に驚きが勝った。
「あ、ちょっと水をかけられて。」
当の本人はケロッとした表情で、サラッと言う。
センベツは怒りで頭が沸騰し、声を荒げてコクリに聞く。
「はあ?どこのどいつだよ。」
「そんな事より、顔のアザどうしたの?」
怒りを顕にするセンベツを他所に、コクリは顔を青ざめさせながら声を荒げて聞く。
『そんな事。』センベツはショックが上回り、怒りが一気に鎮火した。むしろセンベツの方が顔を青ざめさせている。
「これを塗ったら治るわ。お母様直伝のお薬だわ。」
コクリは瓶に入った飲み薬をセンベツに見せた。
センベツは物珍しいモノを見る様に言った。
「魔女の?」
コクリは先程までの勢いを無くし、センベツに聞いた。
「…知ってたの?」
「あ…」
「びっくりした?あたし魔女なの。まだ、半人前だけど。」
コクリは笑顔でいつもの明るさを振る舞い言った。
センベツは目を見張った。そしてコクリの目を見ず謝った。
「ごめん。」
「 ? 」
コクリは何を謝られているのか分からず、センベツの様子を不思議そうに見つめる。
「推薦状、僕より偉い人に頼んだんだけど全部、断られて。悪態ついたら殴られた。」
センベツは顔のアザが出来た理由を、コクリに教えた。
コクリは眉を顰め、口を尖らせて、呆れながら言った。
「暴力はダメよね。」
センベツは再びコクリの目を見ず謝った。
「何もできなくてごめん…」
コクリはセンベツが自分のために動いてくれた事、自分のために落ち込んでいる事を理解した。こそばゆい気持ちが湧き上がり、コクリの中にある欲が出た。コクリはもじもじと手遊びしながら聞いた。
「センベツって、あたしとお友達に…なれる…?」
いざ口にすると不安が勝り俯くコクリだが、センベツから思いがけない返答をもらった。
「え?うん。」
コクリはパッと顔を上げ、センベツの目を見つめ、更に聞いた。
「ほんと?本当に本当?あたし魔女よ?恐くない?」
センベツは一瞬目を見張ったが、コクリの目を見て表情を緩めて言った。
「全然、まったく。」
ーコクリは思い出していた。昔の悲しい記憶を。
「今日からみんな、コクリちゃんと遊べないの。」
「 ? どうして?」
突然の事だった。
「ママがね魔女と一緒に居ると、殺されるかもしれないからって。」
困った様に見つめる子、泣いている子、気まずそうに見る子、気にしない子、4人のコクリの友達は、コクリから距離をとって話を続ける。
「コクリ殺さないよ。」
「それでも危ないからって。」
困った様に見つめる子が、食い気味に言った。
コクリは目の前が真っ暗になった。
そんなコクリの様子に気付かず、泣いている子が言った。
「ごめんね、コクリちゃん。ずっと友達だよって約束したのに。」
コクリにとって、追い討ちの言葉だった。もうどんなに言葉をかけても友達で居てくれる事はないのだと悟った。コクリは光の差さない目で、笑顔を絶やさずに最後言った。
「コクリは一人遊びも得意よ!だから大丈夫!」
それからずっとあたしは一人だったけど、いつの間にかテレビで見るプリンセスに夢中で、いつかあたしもそんな人になりたいと思ったー
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