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正しい性教育の時間

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「はあ?」

 ガキども二人からの唐突な質問に、おもわずツァーグは面食らってしまう。
 
「だからよう、おっさんは既にたんぽぽなんだろ?」
「たんぽぽは定期的に穴でせいよくしょりだよね!」

 何を言ってんだこいつらは?
 
「パドっておっさんはど変態だったらしいじゃねえか!」
「イーゼルでど変態ってなにするの?」

 そこにナイも興味深そうな表情で参加してくる。
「その潤滑剤ローションというのはどうやって使うのですか?」

 こいつら。
 ツァーグは考える。
 
 こいつら、本気で聞いてきているのか?
 それとも俺をからかうためにわざと馬鹿なことを言っているのか?
 先ほどあれだけパドと自身の関係やイーゼルの処理について的確に推測してきたガキどもだ。
 やりとりのどこに落とし穴を用意しているか知れたもんじゃない。
 
 はあ。
 
 ツァーグはあきらめた。
 そんなガキどもに策を弄してもこちらが溺れるだけ。
 ならばこちらも正面から行くしかない。
 ツァーグは素の自分でガキどもと対峙することにした。

 おっさんの口調が変わる。 
「お前達は、性欲処理に興味があるのですか?」

「おう!」
「うん!」
「ええ!」

 なんて素直な好奇心だよこいつら。
 ガキどもはともかく、立派なおっぱいを抱えた娘もこれかよ。
 
 ツァーグは一旦咳ばらいをし、心を落ち着ける。
「そもそもお前達は、性欲とはどのようなものなのかわかっているのですか?」

「わからん!」
「わかんない!」
「わかりません!」

 そこからかよ。
 
「それではお前達は、子供はどうしたらできるのか知っていますか?」

「知ってるぞ!」
「知ってる!」
「知っているわ!」

 ほう。
 
「ではどうするのか言ってみなさい」

 まずはアージュ。
錆臭さびくさいまたぐらにちんちんを入れるんだ!」

 おおむね合っているが、なんでチーズじゃなくてラストなんだよ。
 
 次にクラウス。
「ややこをはらむまで飲まず食わずなんだよ!」

 何だよその絶倫は。
 しっかし、ややことは古風な表現を使うなこいつら。
 やはり名門貴族のお忍びか?
 
 最後にナイ。
「ややこを孕んだら滋養のためにオスを頭から美味しくぽりぽりいただくの」

 虫かよお前ら。
 なんでそうなるんだ?
 
 ツァーグは混乱しながらも話を整理していく。
 たどり着く結論は一つ。
 ガキどもは、まともな性教育を一切受けていないだろうということだ。
 試しにそれも確認してみる。
 
「お前達はその知識を誰から教わったのですか?」

「ナイねーちゃん」
「ナイおねーちゃん」
「母さま」

 この娘が元凶か。
 
「わかりました。詳しく教えてあげますから、一旦ベースキャンプに戻りましょう」

 ツァーグの提案に三人は目を輝かせる。
 
「そうだよなおっさん、こういうのは体系的に学ばなきゃな!」
「久しぶりの座学だねアージュ! 楽しみだなあ!」
「私もいっしょに教わってもいい?」

 などと口走りつつ、ガキどもは嬉々としながら目の前に積み上げられた首をパドが残した戦車に積み直していった。

 さて、ここはベースキャンプ。
 
 テントの中では、アージュ、クラウス、ナイ、それになぜかイーゼルがそれぞれ楽な姿勢で座っている。
 その前では、地面を黒板代わりにしたツァーグが、リスペルに絵を描かせている。
 
「さてお前達、まずは性欲からです」
 ツァーグの宣言に、三人は目をきらきらさせ、なぜかイーゼルはアージュの背後にそっと姿を隠した。

 その数分後には、ツァーグによってもたらされた知識によって三人の目から鱗が落ちる。
 
「たんぽぽってのは、そういうことだったのか」
「タネをまき散らすってことだったんだね」

 アージュとクラウスはひたすら感心している。
 二人は二年前のとある会話を思い出していた。
 アージュが発見したドリルちんちんに、掘削エクスカバイトの魔法をかけてもらおうと麦わら帽子のおっさんのところに押しかけたときのことを。

 あのとき、おっさんはこう言っていた。
「ん? ちんちんに魔法をかけるのは年寄りのすることだぞ。第一お前らじゃ、穴を開けても、出すもんがまだ出ねえだろうが」

 二人の中で二年越しの疑問が解決された。
 そう、出すものとは、子種ちんこじるのことだったのだ。

「そうか、まずはちんこじるが出るようにならなきゃならねえのか」
「ってことは、ちんこじるが出ないボクたちは、まだ性欲処理はしなくていいってことだよね!」
 クラウスの余りに素朴な質問にツァーグもつい返事をしてしまう。
「まあそういうことすね」

 ところが一方で、ナイはマジ顔となっている。
 「もしかしたら私は、ちんこじるが出る雄のちんちんをおしっこの穴に入れられたら、相手のことを認めていなくても孕んでしまうということ?」
「おしっこの穴というのはちょっと違いますが、まあそんなもんです。身体は大事にしなさいね」

 ツァーグの回答にナイの哀しそうな疑問は続く。
「ということは、私は好きでもない雄を、頭からぽりぽりとしなければならないの?」
「ちょっと待ちなさい」

 さっきからツァーグの疑問なのはこれ。
 ガキどもが混乱していたのはわかる。
 精通もまだのガキに性教育など無駄なのだから。

 しかしこの娘は違う。
 黒髪のガキが言う、錆臭いというのは生理のことだろう。
 ということはこの娘は女性としては一人前のはずだ。
 なのになぜ最後に「ぽりぽり」が来るのだ?
 
 あきれたツァーグはナイを諭すことにした。
「交尾後に雄をぽりぽりとするのは虫の一部くらいです」
 ところが予想外の返事が返ってきたのだ。

「だって私、カマキリだもの」

 はあ?
 
 その直後に若草色の娘は頭を蹴り飛ばされ、テントの端まで吹っ飛んだ。
 
「何ぺらぺらとしゃべってんだこのクソアマ!」
 蹴ったのはアージュ。

「あーあ、ばれちゃった。これでツァーグさんたちには死んでもらわなきゃならなくなっちゃった。ごめんね」
 こうつぶやいたのはクラウス。

「そういえば人間は魔族を恐れるのだったわ。ごめんなさい」
 側頭部をさすりながら、大事なことを思い出したとばかりにナイも呟いている。
 
「そういうことだ。すまんがおっさんとそこのにーちゃん、ナイねーちゃんの秘密おっぱいを守るためだ。死んでくれ」
 申し訳なさそうな表情で二人に迫る三人の前でツァーグとリスペルは固まってしまう。

 さあどうする、おっさん!
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