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運送業を始めます

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 さて翌日のこと。

 いつものように三人で朝からパンプキンシェイクを販売していると、商人組合メガネっ娘アシスタントのフリーレが彼らのワゴンにやってきた。

 フリーレは列の横から、申し訳なさそうにナイへと声をかけてくる。
「おはよう、ナイちゃん、アージュ、クラウス」
「おはようございます。フリーレさん」
 ナイも心得たもので、目の前のお客さんに丁寧にカップを渡した後、顔だけ向きを変えてフリーレに挨拶を返した。

「おはようフリーレおねーちゃん。今日はどしたの?」
 代金の収受を行っているクラウスもフリーレに目を向けた。
 ちなみにアージュは背を向けたまま必死になってハンドミキサーのハンドルを回している。

「忙しいところごめんね。昨日の話がまとまったから、今日は早めに組合に来てほしいの」

 申し訳なさそうなフリーレの依頼にどう回答しようかと、ナイとクラウスは一瞬アージュの方に振り返る。
 すると、ちょうどシェイクの撹拌が終わったらしく、アージュも振り返った。
 
「わかったよフリーレねえちゃん。お弁当を持っていくから、キュールさん達にそう伝えてくれよ」
 明るく答えたアージュの表情に安心したかのように、フリーレはぺこりと頭を下げてからワゴンを後にした。
 
 さすがガキども。
 お客さんの前ではネコをかぶりっぱなしである。

 アージュは最後の仕込みを終えると、ナイとクラウスに後を任せ、昼食の食材を買うためにぐるりと市場を回る。
 ついでに風俗街方面も駈け足で通り過ぎてみる。
 
 ふん。

 アージュは路地裏からの目線に向けて睨み返すと、昼食の弁当を仕込むべく、そのままアパートメントまで戻っていった。

 アージュが弁当をこしらえ終わるのとほぼ同時に、ナイとクラウスが片付けたワゴンとともに部屋に帰ってきた。
「それじゃあすぐに行くか。ナイねーちゃん、これ頼むよ」
 アージュはナイにいつもよりも一回り大きいバスケットを持たせると、三人でキュルビス商人組合に向かって行った。
 
「お呼び立てして申し訳ございませんでした」
 三人がいつもよりも早く商人組合に顔を出すと、支配人のキュールが丁寧に頭を下げる。
 その態度は三人が一人前であり、対等な取引の相手として認識しているということを示している。

 こういう抜け目のなさが、アージュとクラウスにとっては警戒すべき点であり、このおっさんが信頼できる点でもある。

 ここでは三人を代表してナイが返礼を行う。
「こちらこそお招きありがとうございます。アージュがお弁当をこしらえましたから、ご一緒にいかがですか」
 ナイはバスケットから大きな包みを取り出すと、それをテーブルの上に広げていく。

 今日のランチはカナッペサイズの様々なサンドイッチ。
 色とりどりの具材が挟まれた一口サイズのサンドイッチに、包みを開いた当のナイが見とれてしまう。
 が、アージュからの無言の蹴りによって、すぐに我に返ると、ナイは顔をしかめながら残りの包みも籠から出していく。
 
「実はベースキャンプの件について話がまとまりまして、正式に物資運送の依頼をさせていただきたいのです」
 シェイクをカップに取り分けているナイに向けて、キュールが形式的に申し入れた後、彼はアージュに目を向けた。
 多分この三人で真のあるじであろう彼に向けてだ。

 なのでアージュもキュールに対し、真摯しんしな態度で向き合う。
「わかりました。それでは計画をお教えください」

 ヴァント、フリーレ、ハーグの商人組合三人と、ナイ、クラウスの合計五人がサンドイッチとシェイクの取り合わせに夢中になっている間、キュールとアージュは話の詳細を詰めていく。
 
「風俗組合のことは聞いていますね?」
「ある程度は」

 キュールからの確認にアージュは頷く。

「我々商人組合と風俗組合は、表と裏、光と影の関係なのです」
 キュールは改めて商人組合と風俗組合の関係について、丁寧に説明をはじめた。
 それがアージュ達にとって必須の知識だと言うばかりに。
 
 それはどこにでもよくある話。
 商人組合はキュルビスの対外的な顔であり、領主からの指示伝達や報告陳情、納税などを取り仕切るとともに、他都市との貿易などの「法」に基づく町の運営を担っている。

 一方の風俗組合は、法で縛ることにより絞り出される「人の闇」が表面に出てこないように町の人々を取り仕切る、いわば「必要悪」を担っている。

「今回の探索は風俗組合に所属する連中が行います。釘は刺してありますが、粗暴な連中の集まりですから、くれぐれも奴らを刺激せぬようにご注意ください」
「万一その人たちとトラブルになったら?」
「申し訳ないですが商人組合も風俗組合も双方に対し何ら責は負いません」

 ふーん。
 
 キュールはそう冷たく宣言しながらも、心配そうな目線でアージュを見つめているが、アージュにとってはこれは絶好の条件だ。
 要するに、気にいらない連中はぶっ殺しても、とやかく言われないということなのだから。
 
「わかりました。注意します。ありがとうキュールさん。ところで、これも美味しいですよ」
 アージュは改めてキュールに頭を下げると、続けて自信作のサンドイッチを彼にお勧めした。
 
 食事の終了後、三人は商人組合の前でマジカルホースを起動し、ヴァント達にベースキャンプへの荷物を積んでもらう。
「それではこちらの受領書に受取のサインをもらってきてください。運賃は受領書と引き換えとします」
 フリーレの説明に三人は頷くと、それぞれのマジカルホースにまたがった。
 
「それでは行ってきます!」

 こうして三人は午前のシェイク販売に加え、午後の運送業務も開始したのである。
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