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朝のパンプキンシェイク販売が無事終了した三人は、いつものようにキュルビス商人組合に出かけていった。
掲示板の前には相変わらずヴァントのおっさんが立っているが、今日はそれ以外に人影は見えない。
「こんにちは、ヴァントさま」
「おうナイちゃん。おっと、もうそんな時間か」
ヴァントを始めとする商人組合の面々には、」お昼休みという概念がなかったらしく、いつの間にかアージュ達三人の訪問が、彼らのお昼休みとなっているらしい。
「ヴァントのおっさん、元気ないな」
アージュがそう声をかけると、ヴァントはそんなことはないと作り笑いを浮かべた。
商人組合に上手くなじんだアージュとクラウスは、既にヴァントと支配人のキュールに対しておっさん呼ばわりである。
が、ヴァントもキュールも本命はナイなので、ここでガキどもに「俺はおっさんじゃねえ」などとつまらない文句を言ってナイの心証を悪くしたくはない。
それにガキから見れば二十代も十分おっさんなのは確かなので、二人ともアージュとクラウスからのおっさん呼ばわりは聞き流している。
ところが、クラウスの一言が再びヴァントの表情を曇らせた。
「掲示板、表示が変わらないね」
なのでついヴァントも本音をポロリと漏らしてしまった。
「ああ、ハイエナハウンドの件が全く進んでいなくてな」
そこで淀んだ空気をナイが掻き消す。
「今日もシェイクをお持ちしましたから、皆で楽しみましょう」
ということで、四人はいつものように商人組合のロビーに入ると、支配人のキュールや彼のアシスタントであるフリーレ、売店のハーグおばさん達と午後のデザートタイムを開始するのだ。
まずはクラウス。
「ハイエナハウンドの件、上手くいってないの?」
すると、キュールとヴァントのおっさんは顔をしかめ、代わりにアシスタントのフリーレが、そうなのよといった様子で答えた。
「目撃情報が全く集まらないの」
するとハーグさんも参ったねと言う表情で続ける。
「ボーデンから来たシュルト様一行が魔族に襲われて身ぐるみ剥がされたという情報が、いつの間にか街に流れちまってね。最初は探しに行く気満々だった若い連中も、尻込みしちまったってわけさ」
ヴァントがバツの悪そうな表情をしているところを見ると、商人組合は情報が漏れた元はヴァントだと思っているらしい。
確かにアージュたちに小遣い銭を握らせてシュルトの様子を探らせたのはヴァントなのだ。
但し実際にシュルト一行が魔族に追剥を食らった事件の噂を広めたのはアージュ達の仕業であるのだが。
「それじゃあ探索に出ているおっさんたちはどうなの?」
情報漏れなぞ知ったこっちゃないとばかりに話題を切り替えたアージュの疑問には、ヴァントが答える。
「さすがに魔族からの襲撃に備えた人数の上での探索というのは無理があってな。正直難航している」
ふーんという表情を見せるガキ二人と、今日はカラメルを絡めたかぼちゃの種を美味しそうにカリカリしている娘一人。
「なら、荒野にベースキャンプを張ったらどうだろ?」
アージュのそれとないアイデアに、キュールとヴァントは一瞬表情を変えると、二人でごそごそと打ち合わせを始めた。
「ベースキャンプか」
「確かにそれなら昼夜での連続探索が可能だ」
キュールの呟きにヴァントが探索効率について言及する。
「だが、我らのメンバーと風俗組合の連中が昼夜一緒というのは無理がないか?」
「安全を取るならば、風俗組合にベースキャンプからの探索を丸投げすべきだろうよ」
「丸投げか」
キュールは考える。
確かに当初は美味しい仕事だと考えていた探索だが、魔族が絡むとなると話は別だ。
ここは荒事を得意とする猛者どもを抱える風俗組合に丸投げして、商人組合はメンツを確保できれば上出来だろう。
「そうなると問題は、兵站支援のコストをどうやって抑えるかというところか」
「風俗組合に丸投げとなると、利幅は少なくなるからな。余りコストはかけられん」
するとキュールとヴァントのやり取りに、おずおずとナイが手をあげた。
「あの……」
途端におっさん二人はデレ顔となる。
「なにかな、ナイさん」
「どうしたんだい、ナイちゃん?」
ヴァントのちゃん呼ばわりに一瞬むかついたキュールだが、表情を押し殺す。
そんなおっさん二人の内面での攻防を無視しながら、ナイは続けた。
「ベースキャンプへの荷物のお届けですが、毎日の午後でよければ私達がお手伝いしましょうか?」
突然の申し入れに驚くおっさんども。
そこにアージュとクラウスが言葉を重ねていく。
「オレたち、マジカルホースを持っているから移動は早いよ」
「午後からなら、後は寝るだけだから、精神力を消耗しても問題ないものね」
さらにナイの笑顔が重なる。
「無料では商道徳の問題があるのでしたら、一回三千リルの運賃をいただくということでいかがでしょうか?」
これは商人組合にとって願ってもない申し出だ。
実は今回商人組合は、シュルトから予算三百万リルと聞いている、
現在屋内の掲示板に貼りだした「子犬買い取り価格」は二百万リル。
ならば風俗組合に二百五十万リルで子犬捕獲を丸投げし、残り五十万リルでなんとか諸経費を捻出できれば、少なくとも商人組合は赤字にはならない。
一方でベースキャンプを支援する場合、荒野まで馬車を仕立てての支援物資運送には、通常ならば往復一万リル以上の支払いは必要。
ところが、この娘たちは三千リルでマジカルホース三頭分の運送を引き受けると言ってくれている。
通常ならば胡散臭い過剰値引きだが、キュールは娘から三人の素性と目的を内密に聞いており、それなりの所有財産も提示されている。
坊ちゃん達の見聞を広げるための一環と考えれば、ナイの提案は十分腑に落ちるのだ。
「そうですね。それではその方向で話を進めてみましょう」
キュールの決断に、三人はお任せ下さいと胸を張った後、商人組合のメンバーに気付かれないように互いに目配せし合う。
ちなみに今回の目配せからはナイも加わった。
クソガキ二人コンビが クソガキ二人と天然娘のトリオとなった瞬間である。
掲示板の前には相変わらずヴァントのおっさんが立っているが、今日はそれ以外に人影は見えない。
「こんにちは、ヴァントさま」
「おうナイちゃん。おっと、もうそんな時間か」
ヴァントを始めとする商人組合の面々には、」お昼休みという概念がなかったらしく、いつの間にかアージュ達三人の訪問が、彼らのお昼休みとなっているらしい。
「ヴァントのおっさん、元気ないな」
アージュがそう声をかけると、ヴァントはそんなことはないと作り笑いを浮かべた。
商人組合に上手くなじんだアージュとクラウスは、既にヴァントと支配人のキュールに対しておっさん呼ばわりである。
が、ヴァントもキュールも本命はナイなので、ここでガキどもに「俺はおっさんじゃねえ」などとつまらない文句を言ってナイの心証を悪くしたくはない。
それにガキから見れば二十代も十分おっさんなのは確かなので、二人ともアージュとクラウスからのおっさん呼ばわりは聞き流している。
ところが、クラウスの一言が再びヴァントの表情を曇らせた。
「掲示板、表示が変わらないね」
なのでついヴァントも本音をポロリと漏らしてしまった。
「ああ、ハイエナハウンドの件が全く進んでいなくてな」
そこで淀んだ空気をナイが掻き消す。
「今日もシェイクをお持ちしましたから、皆で楽しみましょう」
ということで、四人はいつものように商人組合のロビーに入ると、支配人のキュールや彼のアシスタントであるフリーレ、売店のハーグおばさん達と午後のデザートタイムを開始するのだ。
まずはクラウス。
「ハイエナハウンドの件、上手くいってないの?」
すると、キュールとヴァントのおっさんは顔をしかめ、代わりにアシスタントのフリーレが、そうなのよといった様子で答えた。
「目撃情報が全く集まらないの」
するとハーグさんも参ったねと言う表情で続ける。
「ボーデンから来たシュルト様一行が魔族に襲われて身ぐるみ剥がされたという情報が、いつの間にか街に流れちまってね。最初は探しに行く気満々だった若い連中も、尻込みしちまったってわけさ」
ヴァントがバツの悪そうな表情をしているところを見ると、商人組合は情報が漏れた元はヴァントだと思っているらしい。
確かにアージュたちに小遣い銭を握らせてシュルトの様子を探らせたのはヴァントなのだ。
但し実際にシュルト一行が魔族に追剥を食らった事件の噂を広めたのはアージュ達の仕業であるのだが。
「それじゃあ探索に出ているおっさんたちはどうなの?」
情報漏れなぞ知ったこっちゃないとばかりに話題を切り替えたアージュの疑問には、ヴァントが答える。
「さすがに魔族からの襲撃に備えた人数の上での探索というのは無理があってな。正直難航している」
ふーんという表情を見せるガキ二人と、今日はカラメルを絡めたかぼちゃの種を美味しそうにカリカリしている娘一人。
「なら、荒野にベースキャンプを張ったらどうだろ?」
アージュのそれとないアイデアに、キュールとヴァントは一瞬表情を変えると、二人でごそごそと打ち合わせを始めた。
「ベースキャンプか」
「確かにそれなら昼夜での連続探索が可能だ」
キュールの呟きにヴァントが探索効率について言及する。
「だが、我らのメンバーと風俗組合の連中が昼夜一緒というのは無理がないか?」
「安全を取るならば、風俗組合にベースキャンプからの探索を丸投げすべきだろうよ」
「丸投げか」
キュールは考える。
確かに当初は美味しい仕事だと考えていた探索だが、魔族が絡むとなると話は別だ。
ここは荒事を得意とする猛者どもを抱える風俗組合に丸投げして、商人組合はメンツを確保できれば上出来だろう。
「そうなると問題は、兵站支援のコストをどうやって抑えるかというところか」
「風俗組合に丸投げとなると、利幅は少なくなるからな。余りコストはかけられん」
するとキュールとヴァントのやり取りに、おずおずとナイが手をあげた。
「あの……」
途端におっさん二人はデレ顔となる。
「なにかな、ナイさん」
「どうしたんだい、ナイちゃん?」
ヴァントのちゃん呼ばわりに一瞬むかついたキュールだが、表情を押し殺す。
そんなおっさん二人の内面での攻防を無視しながら、ナイは続けた。
「ベースキャンプへの荷物のお届けですが、毎日の午後でよければ私達がお手伝いしましょうか?」
突然の申し入れに驚くおっさんども。
そこにアージュとクラウスが言葉を重ねていく。
「オレたち、マジカルホースを持っているから移動は早いよ」
「午後からなら、後は寝るだけだから、精神力を消耗しても問題ないものね」
さらにナイの笑顔が重なる。
「無料では商道徳の問題があるのでしたら、一回三千リルの運賃をいただくということでいかがでしょうか?」
これは商人組合にとって願ってもない申し出だ。
実は今回商人組合は、シュルトから予算三百万リルと聞いている、
現在屋内の掲示板に貼りだした「子犬買い取り価格」は二百万リル。
ならば風俗組合に二百五十万リルで子犬捕獲を丸投げし、残り五十万リルでなんとか諸経費を捻出できれば、少なくとも商人組合は赤字にはならない。
一方でベースキャンプを支援する場合、荒野まで馬車を仕立てての支援物資運送には、通常ならば往復一万リル以上の支払いは必要。
ところが、この娘たちは三千リルでマジカルホース三頭分の運送を引き受けると言ってくれている。
通常ならば胡散臭い過剰値引きだが、キュールは娘から三人の素性と目的を内密に聞いており、それなりの所有財産も提示されている。
坊ちゃん達の見聞を広げるための一環と考えれば、ナイの提案は十分腑に落ちるのだ。
「そうですね。それではその方向で話を進めてみましょう」
キュールの決断に、三人はお任せ下さいと胸を張った後、商人組合のメンバーに気付かれないように互いに目配せし合う。
ちなみに今回の目配せからはナイも加わった。
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