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ショタガキ危機一髪
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早々と昼食を済ませたアージュは、アパートメントの玄関先から、まだ昼食を食べている二人に向かって「ちょっと周りを探検してくる!」と、可愛らしい声で伝えると、玄関から街路に出ようとする。
ところがそこでアージュは何者かに後ろから拘束され、同時に彼の意識を奪おうとする魔法を感じた。
アージュは睡眠霧に囚われ、そのまま悲鳴を上げることもなく意識を失ってしまう。
「よし、まずは一匹」
アージュを抱えた痩せぎすの醜い男がそう呟くと、もう一人のほっそりとした長髪男も楽しそうに返事をする。
「もう一匹も拉致できれば、あの小娘も出て来ざるを得ないだろう」
という場面で、夏の虫が飛んで火に入ってきた。
「ボクも行ってくるね!」
はい、二匹目ゲット。
クラウスも同様に、長髪男に魔法で眠らされてしまう。
男どもは街はずれに停めた幌付き馬車に、眠り込んでいるアージュとクラウスを放り込むと、そのまま中心街とは反対の方向に進んでいった。
そのしばらく後。
クラウスに教わった洗濯の復習をアパートメントで行っていたナイのところに、一人の見知らぬ男が訪ねてきた。
ナイは腰にシャムシールを備えたベルトアーマーを巻くと、用心深く玄関先に出ていく。
「はい、何か御用でしょうか?」
「突然申し訳ないが、お姉さん、あなたこれに見覚えはあるかい?」
不健康に痩せた醜い男がナイの前におもむろに差し出した右手には、金髪と黒髪が一房ずつ乗せられている。
「これは……」
「わかったようだねお姉さん。この子供たちの身柄は俺たちが預かっている。とりあえずこいつらと交換できそうなシロモノを持って俺と一緒に来てくれるかな?」
ナイに選択肢はなかった。
ここは街はずれからさらに西にしばらく進んだところにある農場小屋。
周りには人影はおろか獣の気配もない。
そこにアージュとクラウスは後ろ手に縛られて転がされていた。
「兄貴、こいつらのランドセルとメッセンジャーバッグには何も入っていませんや」
アージュとクラウスのかばんを開け、中を確認した小男が、兄貴と呼ばれた屈強そうな大男につまらなそうに報告する。
「まあ、金目のモノは長女が抱えているんだろ。ガキのカバンなんてのは空かゴミかどちらかしか入っていないもんさ」
兄貴と呼ばれた大男がそう答えると、入り口の脇で用心深く外を窺っている長髪男も可笑しそうに笑った。
「違いありませんね」
「小娘とガキ二人にも関わらず、商人組合に筋を通して商売を始めようってんだ。それなりの軍資金は持っているだろう」
「キュールやヴァントが動いてないですからね。身元がはっきりした要人ってわけでもないでしょうし、時間をかけて身代金の請求先を探るより、さっさと奪って楽しんで殺して埋めちまいましょう」
「あの女だけはしばらく生かしておきたいところだけどな」
豪快に笑う大男にやれやれとあきれつつも、長髪男も目の前で眠りこける可愛らしい少年たちを、姉が集団で犯されている絶望の中で、どう味わってやろうかとひそかに楽しみにしていたのである。
まもなく痩せぎすの男が、ガキどもの姉を連れだって戻ってきた。
アージュとクラウスが縛られ転がされているのに気づいたナイは、怒りを押し殺すかのように、男どもに向けて小声で呟いた。
「弟たちをどうするおつもりですか?」
「さてね」
大男の返事に、ナイはシャムシールの柄に右手を添える。
しかしそれは無駄な抵抗という男たちを喜ばせるだけの余興に過ぎない。
「気の強いお姉さんだ。それとも弟たちのために必死になっちゃったかな?」
同時にアージュの後ろにはナイを案内してきた痩せぎすの男、クラウスの後ろには魔法を使う長髪男が回り込み、二人を後ろから無理やり抱き起こした。
その衝撃で、アージュとクラウスは目を覚ました。
続けて二人は周りを見渡すと、後ろ手で動かない両腕に驚き、目の前でシャムシールの柄に手をかけているナイに気付いた。
「ねーちゃん!」
「ナイおねーちゃん!」
しかしアージュとクラウスは言葉を続けられない。
なぜならアージュの前にはナイフ、クラウスの前には煌々と燃える魔法の火球を突き付けられたから。
「騒いだらざっくり行っちゃうよ」
「魔法って知っているかな?」
二人の脅しに大男が続く。
「ガキどもはおとなしくしてな。それじゃナイとかいったな、まずは剣と財布ごとベルトアーマーを外してもらおうか」
ナイは一瞬だけ躊躇するも、可愛い弟たちが目の前で震えている状況では、賊共の言うことを聞くしかない。
ナイは仕方なくベルトアーマーをシャムシールと巾着袋ごと外すと、大男の前に無言で放り投げた。
「いい心がけだ。おい、お前らも入ってきていいぞ」
大男が叫ぶと、入口で見張りをしていた小男二人も中に入ってくる。
これで総勢五名となる。
「その娘を後ろから押さえとけ」
大男の指示に小男二人は役得とばかりにナイの右腕と左腕を、それぞれ手の甲から肘のところまで掴み、後ろ手にさせる。
同時に盛り上がるナイの胸に、大男たちはヒューと歓声をあげた。
「お前ら、女の肘より上には触れるなよ、最初は俺だからな」
大男はそう小男どもに命令すると、ナイが放ってきたベルトアーマーを手に取り、結わえ付けられている巾着を開いた。
「ほう、思った以上に持っているな」
袋の中身に大男は驚きの声をあげる。
ところがそれは別の声にさえぎられた。
「そんな額で満足なのかよおっさん達は」
突然の挑発に、男たちは声の主に顔を向ける。
それは、ガキとは思えない歪んだ笑みを浮かべた少年から発せられていた。
「なんだこのガキは!」
アージュの後ろに回った痩せぎすがナイフで脅そうとした瞬間に、アージュは叫んだ。
「ナイねーちゃん、もういいぞ!」
アージュがそう叫ぶと同時に、ナイの両腕を抱えていた二人の小男は、抱えていた小娘の腕によって、両腕の肘から先を失った。
彼らの両腕はぽとりと床に落ちたのだ。
そこからは文字通りの虐殺だった。
「指向爆発!」
クラウスの魔法が背後の魔術師らしき長髪男の頭を、額から後頭部に抜けるように撃ち飛ばす。
両腕を鎌に戻したナイは、背後でわめく小男どもに視線を向けることもなく、その首を一瞬のうちに切り落とす。
「さて、おっさん。話を聞かせてもらおうか」
大男の前では、痩せぎすの男を顎から脳天まで一撃で砕いた金髪の少年が、彼を拘束していた縄を大男の前でぶらぶらさせていた。
ところがそこでアージュは何者かに後ろから拘束され、同時に彼の意識を奪おうとする魔法を感じた。
アージュは睡眠霧に囚われ、そのまま悲鳴を上げることもなく意識を失ってしまう。
「よし、まずは一匹」
アージュを抱えた痩せぎすの醜い男がそう呟くと、もう一人のほっそりとした長髪男も楽しそうに返事をする。
「もう一匹も拉致できれば、あの小娘も出て来ざるを得ないだろう」
という場面で、夏の虫が飛んで火に入ってきた。
「ボクも行ってくるね!」
はい、二匹目ゲット。
クラウスも同様に、長髪男に魔法で眠らされてしまう。
男どもは街はずれに停めた幌付き馬車に、眠り込んでいるアージュとクラウスを放り込むと、そのまま中心街とは反対の方向に進んでいった。
そのしばらく後。
クラウスに教わった洗濯の復習をアパートメントで行っていたナイのところに、一人の見知らぬ男が訪ねてきた。
ナイは腰にシャムシールを備えたベルトアーマーを巻くと、用心深く玄関先に出ていく。
「はい、何か御用でしょうか?」
「突然申し訳ないが、お姉さん、あなたこれに見覚えはあるかい?」
不健康に痩せた醜い男がナイの前におもむろに差し出した右手には、金髪と黒髪が一房ずつ乗せられている。
「これは……」
「わかったようだねお姉さん。この子供たちの身柄は俺たちが預かっている。とりあえずこいつらと交換できそうなシロモノを持って俺と一緒に来てくれるかな?」
ナイに選択肢はなかった。
ここは街はずれからさらに西にしばらく進んだところにある農場小屋。
周りには人影はおろか獣の気配もない。
そこにアージュとクラウスは後ろ手に縛られて転がされていた。
「兄貴、こいつらのランドセルとメッセンジャーバッグには何も入っていませんや」
アージュとクラウスのかばんを開け、中を確認した小男が、兄貴と呼ばれた屈強そうな大男につまらなそうに報告する。
「まあ、金目のモノは長女が抱えているんだろ。ガキのカバンなんてのは空かゴミかどちらかしか入っていないもんさ」
兄貴と呼ばれた大男がそう答えると、入り口の脇で用心深く外を窺っている長髪男も可笑しそうに笑った。
「違いありませんね」
「小娘とガキ二人にも関わらず、商人組合に筋を通して商売を始めようってんだ。それなりの軍資金は持っているだろう」
「キュールやヴァントが動いてないですからね。身元がはっきりした要人ってわけでもないでしょうし、時間をかけて身代金の請求先を探るより、さっさと奪って楽しんで殺して埋めちまいましょう」
「あの女だけはしばらく生かしておきたいところだけどな」
豪快に笑う大男にやれやれとあきれつつも、長髪男も目の前で眠りこける可愛らしい少年たちを、姉が集団で犯されている絶望の中で、どう味わってやろうかとひそかに楽しみにしていたのである。
まもなく痩せぎすの男が、ガキどもの姉を連れだって戻ってきた。
アージュとクラウスが縛られ転がされているのに気づいたナイは、怒りを押し殺すかのように、男どもに向けて小声で呟いた。
「弟たちをどうするおつもりですか?」
「さてね」
大男の返事に、ナイはシャムシールの柄に右手を添える。
しかしそれは無駄な抵抗という男たちを喜ばせるだけの余興に過ぎない。
「気の強いお姉さんだ。それとも弟たちのために必死になっちゃったかな?」
同時にアージュの後ろにはナイを案内してきた痩せぎすの男、クラウスの後ろには魔法を使う長髪男が回り込み、二人を後ろから無理やり抱き起こした。
その衝撃で、アージュとクラウスは目を覚ました。
続けて二人は周りを見渡すと、後ろ手で動かない両腕に驚き、目の前でシャムシールの柄に手をかけているナイに気付いた。
「ねーちゃん!」
「ナイおねーちゃん!」
しかしアージュとクラウスは言葉を続けられない。
なぜならアージュの前にはナイフ、クラウスの前には煌々と燃える魔法の火球を突き付けられたから。
「騒いだらざっくり行っちゃうよ」
「魔法って知っているかな?」
二人の脅しに大男が続く。
「ガキどもはおとなしくしてな。それじゃナイとかいったな、まずは剣と財布ごとベルトアーマーを外してもらおうか」
ナイは一瞬だけ躊躇するも、可愛い弟たちが目の前で震えている状況では、賊共の言うことを聞くしかない。
ナイは仕方なくベルトアーマーをシャムシールと巾着袋ごと外すと、大男の前に無言で放り投げた。
「いい心がけだ。おい、お前らも入ってきていいぞ」
大男が叫ぶと、入口で見張りをしていた小男二人も中に入ってくる。
これで総勢五名となる。
「その娘を後ろから押さえとけ」
大男の指示に小男二人は役得とばかりにナイの右腕と左腕を、それぞれ手の甲から肘のところまで掴み、後ろ手にさせる。
同時に盛り上がるナイの胸に、大男たちはヒューと歓声をあげた。
「お前ら、女の肘より上には触れるなよ、最初は俺だからな」
大男はそう小男どもに命令すると、ナイが放ってきたベルトアーマーを手に取り、結わえ付けられている巾着を開いた。
「ほう、思った以上に持っているな」
袋の中身に大男は驚きの声をあげる。
ところがそれは別の声にさえぎられた。
「そんな額で満足なのかよおっさん達は」
突然の挑発に、男たちは声の主に顔を向ける。
それは、ガキとは思えない歪んだ笑みを浮かべた少年から発せられていた。
「なんだこのガキは!」
アージュの後ろに回った痩せぎすがナイフで脅そうとした瞬間に、アージュは叫んだ。
「ナイねーちゃん、もういいぞ!」
アージュがそう叫ぶと同時に、ナイの両腕を抱えていた二人の小男は、抱えていた小娘の腕によって、両腕の肘から先を失った。
彼らの両腕はぽとりと床に落ちたのだ。
そこからは文字通りの虐殺だった。
「指向爆発!」
クラウスの魔法が背後の魔術師らしき長髪男の頭を、額から後頭部に抜けるように撃ち飛ばす。
両腕を鎌に戻したナイは、背後でわめく小男どもに視線を向けることもなく、その首を一瞬のうちに切り落とす。
「さて、おっさん。話を聞かせてもらおうか」
大男の前では、痩せぎすの男を顎から脳天まで一撃で砕いた金髪の少年が、彼を拘束していた縄を大男の前でぶらぶらさせていた。
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