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採用稟議
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これまでは一人だった家から村役場までの道を、今日は二人で歩いていく。
俺は白の開襟シャツに生成りの麻パンツという、いわゆるクールビズ姿。
一方のアリスちゃんは、長袖のブラウスに膝上十センチくらいな紺のタイトミニ。
足元はちょっとヒールがある、同じく紺のパンプス。
とっても彼女に似合っているけれど、この日差しに長袖はちょっと厳しいかな。
「アリスちゃん、暑くない?」
「暑いですわご主人様。これからもっと暑くなりそうですけれど」
そうだよなあ。
朝でこの日差しじゃあ、昼ごろはたまんねえだろうなあ。
かといってこの村にはブティックどころか衣料品店すらないし。
ちなみに衣装は、俺がアリスちゃんを生み出したときに身につけていたレディーススーツの上着を脱いだ姿。
今日の日中は役場のエアコンでしのいでもらうとして、衣類は今晩にでも何とかするとしよう。
それじゃあアリスちゃんに色々と聞いてみるかな。
「ところで、アリスちゃんは何ができるの?」
「殿方との夜のご同伴ですわ」
即答です。
それは俺専用にしてほしい。
「そうじゃなくてお昼のお仕事なんだけどさ」
するとアリスちゃんはちょっと考えるような表情になると、すぐに笑顔へと戻った。
「ご主人様が記憶されている事がら、例えば事務のお仕事などでしたら、何とかなりますわ」
「そうなの?」
「はい、私たち付喪は、ご主人様と共にありますから。具体的には記憶の共有ですね」
記憶の共有だと?
エッチな記憶も共有するのはちょっと恥ずかしいかも。
するとアリスちゃんは笑顔のまま答えた。
「お恥ずかしいことなどありませんわ、私はご主人様の眷属なのですもの」
そっか。
いや、それが恥ずかしいのだけれどな。
あれ、ここで素朴な疑問が浮かんだぞ。
「じゃあなんでアリスちゃんは俺が作れる料理ができないの?」
「得手不得手というものがございますでしょう? それともご主人様は私よりも上手に殿方のお相手をお務めなさる自信がおありですか?」
なんか妙に説得力があるな、とっても嫌な比較だけれど。
「もしご主人様が、特別な能力を持つ付喪を眷属にお望みなのでしたら、能力に関わる道具を胞子力エネルギーで満たされればよいのです」
いきなり核心をついたことを言うねアリスちゃんは。
そうか、付喪ちゃんは増やせるのか。
もしかしてこれってハーレムもできちゃうってことかな?
するとアリスちゃんは、にやけていたらしい俺の表情を見透かすようにこう付け加えた。
「念のため申しあげておきますが、ハーレムはそれ自体を養う財力や権力が必要ですからね、ご主人様」
笑顔で俺を現実に引き戻したよアリスちゃんは。
まあいい、まずは今日をどうするかだよな。
村役場に到着した俺は、役場入口の鍵を開け、事務所内の清掃を始める。
役場と言っても、一階は村民課と多目的ホールに会議室、二階に村議会と村長室があるだけの、二階建てのこじんまりとした建物なんだけれどな。
「ご主人様、お手伝いいたしますわ」
お手伝いはありがたいけれど、ご主人様っていうのはなあ。
ここは一応村民が自由に出入りできる役場だから、誰かに聞かれておかしな誤解をされても困る。
まあ出入りする村民がそうそういるわけではないけれどさ。
「ご主人様はちょっとまずいかな、アリスちゃん」
「それでは何とお呼びすればよろしいのでしょうか」
俺の名前は「木野虚 玄墨」
どうだ、苗字も名前もキラキラしているだろう。
するとアリスちゃんはニコニコしながらこう答えた。
「それでは名字のキノコ様でよろしいでしょうか?」
うーん。そう呼ばれるの、昔から嫌なんだよね。
当然のことながら、キノコという響きで、子供のころは色々とあったからさ。
「ならばゲンボク様では?」
「様というのもなあ、一応ここは役所だから、もっとフレンドリーにならないかな」
「それではゲンボクさんでいかがでしょう」
「それならいいかな、それじゃあ掃除を済ませてしまおうか」
掃除といってもそんなに大変なわけではない。
なんせこの村は世帯数が百をとっくに割っている上、学校すらないので、年寄りばかりで超限界集落もいいところなのだ。
当然、役場職員のなり手もなくて、現在職員は俺一人で、常時職員募集中というありさま。
あ、いいこと思いついた。
「なあアリスちゃん、アリスちゃんもこの役場で働いてみないか?」
「よろしいのですかゲンボクちゃん!」
思った以上に喜んでくれたよ。
だから思わず俺のことをゲンボクちゃん呼ばわりしたことは許すとしよう。
となれば書類作成に取り掛からねば。
まずはアリスちゃんの住民票を作成するとしよう。
これは公文書偽造に当たるのだが、そもそもアリスちゃんには戸籍すらないのだから仕方がない。
「なあアリスちゃん、これからアリスちゃんの住民票を作成するけれど、苗字はどうする?」
「苗字が何かわからないので、ゲンボクちゃんと同じのでいいです」
あっそう、予想はしていたけれど、あっさりしているのね。
でも、確かに俺と苗字を一緒にしておけば、今後アリスちゃんの身元をごまかすことは簡単になる。
遠縁の親族とかにしておけば、採用時の連帯保証人枠は俺自身が埋めればいいし、保証人は村長をそそのかせばいいだろう。
それじゃ今日からアリスちゃんは「木野虚アリス」だ。
よし、住民票に加えて、採用誓約書と採用稟議書も完成したぞ。
後は採用面接と、面接者それぞれの押印だけだな。
「それじゃアリスちゃん、ちょっと出かけようか?」
「役場の窓口はどうなさるのですか?」
「『外出中』の表示にしておくから問題ないよアリスちゃん」
って、俺がアリスちゃんって呼ぶのもまずいかな。
「なあ、アリスって呼んでもいいかな」
「嬉しい! ぞくぞくしますわゲンボクちゃん」
「そりゃよかった」
ぞくぞくしたという、アリスの表情がやばい。
どうやらアリスにとっても俺は「ゲンボクさん」から「ゲンボクちゃん」に再固定されたみたいだけれど、親族ということにするなら、この方がいいか。
ということで、俺とアリスは採用誓約書と採用稟議書に住民票を添付して、村長のお宅と村議会議員のお宅を回っていく。
この村の村議会議員は三名。
三人とも、既に二十年以上議員無投票当選の爺さんたちだ。
村長はこの村の生き字引。まだ生きているのが不思議なくらいの婆さんなのだ。
まずは行政の長である、村長の家に足を運ぶ。
「婆さま、面接するからここにハンコちょうだい。あと、この娘の採用誓約書の保証人欄にもハンコちょうだい」
「ゲンボクや、いい加減わしから村長を継いでくれぬか?」
「考えとくからハンコちょうだい」
すると婆さまはアリスに向き直った。
「お前がアリスちゃんかい、ゲンボクをよろしく頼むぞい」
アリスも婆さまに向かって丁寧に頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いいたしますわ、村長様」
「よしよし、面接も終了じゃ」
婆さまは上機嫌で採用誓約書の保証人欄と稟議書の村長欄にハンコを押してくれた。
次は立法責任者である村会議員の爺さまたち。
「爺さま、稟議書のここにハンコ頂戴」
「どれどれ、これでいいかの」
ハンコを押してくれた爺さまにぺこりと頭を下げるアリス。
これを三軒で繰り返す。
ちなみに爺さまたちは三人とも「ゲンボクの好きなようにせえ」と、稟議書の内容は斜め読みしかしない。
まあこれはいつものことだけれどな。
アリスに対しても「それじゃあ役場を頼むぞい」と一声かけるだけで終了。
さすが人生を達観している年配者は違うぜ。
はい、これで採用手続きは終了。
これで晴れて、木野虚アリスは村役場村民課職員として採用されました。
「ゲンボクちゃん、うれしいわ」
よし、役場に戻って今日から仕事を始めるぞ。
とはいっても、役場を訪れる村民なんて、ほとんどいないのだけれどね。
だからまずは掃除の続きだ。
掃除がひと段落し、書類をアリスに引き継ぎながら整理していると、すぐに時間が過ぎて行く。
「ゲンボクちゃん、そろそろお昼ご飯ではないですか?」
「そうだなアリス」
って、しまった。
朝のどさくさに気を取られて、弁当をこしらえるのを忘れちまった。
俺は白の開襟シャツに生成りの麻パンツという、いわゆるクールビズ姿。
一方のアリスちゃんは、長袖のブラウスに膝上十センチくらいな紺のタイトミニ。
足元はちょっとヒールがある、同じく紺のパンプス。
とっても彼女に似合っているけれど、この日差しに長袖はちょっと厳しいかな。
「アリスちゃん、暑くない?」
「暑いですわご主人様。これからもっと暑くなりそうですけれど」
そうだよなあ。
朝でこの日差しじゃあ、昼ごろはたまんねえだろうなあ。
かといってこの村にはブティックどころか衣料品店すらないし。
ちなみに衣装は、俺がアリスちゃんを生み出したときに身につけていたレディーススーツの上着を脱いだ姿。
今日の日中は役場のエアコンでしのいでもらうとして、衣類は今晩にでも何とかするとしよう。
それじゃあアリスちゃんに色々と聞いてみるかな。
「ところで、アリスちゃんは何ができるの?」
「殿方との夜のご同伴ですわ」
即答です。
それは俺専用にしてほしい。
「そうじゃなくてお昼のお仕事なんだけどさ」
するとアリスちゃんはちょっと考えるような表情になると、すぐに笑顔へと戻った。
「ご主人様が記憶されている事がら、例えば事務のお仕事などでしたら、何とかなりますわ」
「そうなの?」
「はい、私たち付喪は、ご主人様と共にありますから。具体的には記憶の共有ですね」
記憶の共有だと?
エッチな記憶も共有するのはちょっと恥ずかしいかも。
するとアリスちゃんは笑顔のまま答えた。
「お恥ずかしいことなどありませんわ、私はご主人様の眷属なのですもの」
そっか。
いや、それが恥ずかしいのだけれどな。
あれ、ここで素朴な疑問が浮かんだぞ。
「じゃあなんでアリスちゃんは俺が作れる料理ができないの?」
「得手不得手というものがございますでしょう? それともご主人様は私よりも上手に殿方のお相手をお務めなさる自信がおありですか?」
なんか妙に説得力があるな、とっても嫌な比較だけれど。
「もしご主人様が、特別な能力を持つ付喪を眷属にお望みなのでしたら、能力に関わる道具を胞子力エネルギーで満たされればよいのです」
いきなり核心をついたことを言うねアリスちゃんは。
そうか、付喪ちゃんは増やせるのか。
もしかしてこれってハーレムもできちゃうってことかな?
するとアリスちゃんは、にやけていたらしい俺の表情を見透かすようにこう付け加えた。
「念のため申しあげておきますが、ハーレムはそれ自体を養う財力や権力が必要ですからね、ご主人様」
笑顔で俺を現実に引き戻したよアリスちゃんは。
まあいい、まずは今日をどうするかだよな。
村役場に到着した俺は、役場入口の鍵を開け、事務所内の清掃を始める。
役場と言っても、一階は村民課と多目的ホールに会議室、二階に村議会と村長室があるだけの、二階建てのこじんまりとした建物なんだけれどな。
「ご主人様、お手伝いいたしますわ」
お手伝いはありがたいけれど、ご主人様っていうのはなあ。
ここは一応村民が自由に出入りできる役場だから、誰かに聞かれておかしな誤解をされても困る。
まあ出入りする村民がそうそういるわけではないけれどさ。
「ご主人様はちょっとまずいかな、アリスちゃん」
「それでは何とお呼びすればよろしいのでしょうか」
俺の名前は「木野虚 玄墨」
どうだ、苗字も名前もキラキラしているだろう。
するとアリスちゃんはニコニコしながらこう答えた。
「それでは名字のキノコ様でよろしいでしょうか?」
うーん。そう呼ばれるの、昔から嫌なんだよね。
当然のことながら、キノコという響きで、子供のころは色々とあったからさ。
「ならばゲンボク様では?」
「様というのもなあ、一応ここは役所だから、もっとフレンドリーにならないかな」
「それではゲンボクさんでいかがでしょう」
「それならいいかな、それじゃあ掃除を済ませてしまおうか」
掃除といってもそんなに大変なわけではない。
なんせこの村は世帯数が百をとっくに割っている上、学校すらないので、年寄りばかりで超限界集落もいいところなのだ。
当然、役場職員のなり手もなくて、現在職員は俺一人で、常時職員募集中というありさま。
あ、いいこと思いついた。
「なあアリスちゃん、アリスちゃんもこの役場で働いてみないか?」
「よろしいのですかゲンボクちゃん!」
思った以上に喜んでくれたよ。
だから思わず俺のことをゲンボクちゃん呼ばわりしたことは許すとしよう。
となれば書類作成に取り掛からねば。
まずはアリスちゃんの住民票を作成するとしよう。
これは公文書偽造に当たるのだが、そもそもアリスちゃんには戸籍すらないのだから仕方がない。
「なあアリスちゃん、これからアリスちゃんの住民票を作成するけれど、苗字はどうする?」
「苗字が何かわからないので、ゲンボクちゃんと同じのでいいです」
あっそう、予想はしていたけれど、あっさりしているのね。
でも、確かに俺と苗字を一緒にしておけば、今後アリスちゃんの身元をごまかすことは簡単になる。
遠縁の親族とかにしておけば、採用時の連帯保証人枠は俺自身が埋めればいいし、保証人は村長をそそのかせばいいだろう。
それじゃ今日からアリスちゃんは「木野虚アリス」だ。
よし、住民票に加えて、採用誓約書と採用稟議書も完成したぞ。
後は採用面接と、面接者それぞれの押印だけだな。
「それじゃアリスちゃん、ちょっと出かけようか?」
「役場の窓口はどうなさるのですか?」
「『外出中』の表示にしておくから問題ないよアリスちゃん」
って、俺がアリスちゃんって呼ぶのもまずいかな。
「なあ、アリスって呼んでもいいかな」
「嬉しい! ぞくぞくしますわゲンボクちゃん」
「そりゃよかった」
ぞくぞくしたという、アリスの表情がやばい。
どうやらアリスにとっても俺は「ゲンボクさん」から「ゲンボクちゃん」に再固定されたみたいだけれど、親族ということにするなら、この方がいいか。
ということで、俺とアリスは採用誓約書と採用稟議書に住民票を添付して、村長のお宅と村議会議員のお宅を回っていく。
この村の村議会議員は三名。
三人とも、既に二十年以上議員無投票当選の爺さんたちだ。
村長はこの村の生き字引。まだ生きているのが不思議なくらいの婆さんなのだ。
まずは行政の長である、村長の家に足を運ぶ。
「婆さま、面接するからここにハンコちょうだい。あと、この娘の採用誓約書の保証人欄にもハンコちょうだい」
「ゲンボクや、いい加減わしから村長を継いでくれぬか?」
「考えとくからハンコちょうだい」
すると婆さまはアリスに向き直った。
「お前がアリスちゃんかい、ゲンボクをよろしく頼むぞい」
アリスも婆さまに向かって丁寧に頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いいたしますわ、村長様」
「よしよし、面接も終了じゃ」
婆さまは上機嫌で採用誓約書の保証人欄と稟議書の村長欄にハンコを押してくれた。
次は立法責任者である村会議員の爺さまたち。
「爺さま、稟議書のここにハンコ頂戴」
「どれどれ、これでいいかの」
ハンコを押してくれた爺さまにぺこりと頭を下げるアリス。
これを三軒で繰り返す。
ちなみに爺さまたちは三人とも「ゲンボクの好きなようにせえ」と、稟議書の内容は斜め読みしかしない。
まあこれはいつものことだけれどな。
アリスに対しても「それじゃあ役場を頼むぞい」と一声かけるだけで終了。
さすが人生を達観している年配者は違うぜ。
はい、これで採用手続きは終了。
これで晴れて、木野虚アリスは村役場村民課職員として採用されました。
「ゲンボクちゃん、うれしいわ」
よし、役場に戻って今日から仕事を始めるぞ。
とはいっても、役場を訪れる村民なんて、ほとんどいないのだけれどね。
だからまずは掃除の続きだ。
掃除がひと段落し、書類をアリスに引き継ぎながら整理していると、すぐに時間が過ぎて行く。
「ゲンボクちゃん、そろそろお昼ご飯ではないですか?」
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朝のどさくさに気を取られて、弁当をこしらえるのを忘れちまった。
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