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初めてのお使いに出向く皆さん

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「このアビリティが怪しいかな」

 カッツェはマニュアルを検索しながら、なぜミトとスマッシュが武器・防具店や衣料店で半額で商品が購入できたり、食事代が半額になったのかを考えてみる。

 彼女が目を付けたのは「ビシャスネス 悪辣さ」のアビリティ。
 この効果は「身分の低い者たちに強く作用するカリスマ値。覚えることのできるスキルの種類に影響を与える」というもの。

 もしかしたら、ミト姉さまとスマッシュさんはビシャスネスの値が高いのかもしれないとカッツェは推測してみた。

「ミト姉さま、スマッシュさん、よかったらビシャスネスの数値を教えてほしいんだけど」
 カッツェの質問に、ミトとスマッシュはちょっと考える。
 この娘に事実を教えるべきかと。

 ミトは比較した。
 この娘が運営にチクるリスクと、このバグの効果をこの娘が調べ上げるメリットを。

 スマッシュは思った。
 別にこの猫娘の尻に興味がある訳ではないし、教えてやっても差支えないだろうと。

「ああ、多分バグだろうけど、私のビシャスネスは999でカンストだよ」
「偶然だな、俺のビシャスネスも999だ。これが最高値なのは初めて知ったが」

 カッツェは驚いた。
 まずは自分以外にも999の値を持っているプレイヤーがいたことに。
 さらにカッツェは確信した。
「きっとそれですよ。ビシャスネスのカリスマで、お店の人たちがびびったんですよ。すごい効果ですよね!」

 すると、ミトが興味深げにカッツェに尋ねてきた。
「そうかい。じゃ、「ノーブルネス 気高さ」も、同じようなもんなのかねえ」
 これにはカッツェが再び驚いた。
 まさか自分のバグデータがミトにお見通しだとは思っていなかったから。

「え? 何で私のノーブルネスが999だってわかったんですか?」
 すると、ミトは不思議そうな表情を浮かべた。
「おや、お前もそうなのかい。あたしのノーブルネスも999なんだよ」
「すごいなミトは、2つも999があるのか」

 スマッシュの他人事のような評価を聞きながら、カッツェは再び考えてみる。
「ビシャスネス」が庶民へのカリスマ効果なら、「ノーブルネス」は多分貴族階級へのカリスマではないかと。

「ミト姉さま、もしかしたらノーブルネスは偉い人たちに効果のあるカリスマ値かもしれませんね」
「そりゃ楽しみだね。さて、それじゃ、カッツェの推測が正しいかどうか、道具店に行ってみるかい?」

 3人は連れだって道具店に出向くと、カッツェの推測を試してみる。
 そして彼女の推測が正しいことをそこで証明したのであった。
 道具店のオヤジはミトに土下座し、スマッシュの前で震えながら、傷薬と精神薬を1つ五百ゼルづつで差し出したのである。
 
 3人は念のためにと傷薬と精神薬を2個づつ購入し、次に「お仕事紹介所」に向かった。
 ちなみにカッツェの傷薬と精神薬はスマッシュの奢りとなっている。

「あーあ、もっと早く姉さまたちと会っていたら、このブーツも半額で買えたのになあ」
「まあそう言うな。お前のノーブルネスも、そのうち役に立つことがあるだろう」
「先立つものがないのに買い物の話なんか不毛だよ。お前たち、まずはゼルと経験値稼ぎだよ」
「うっす」
「はーい」
 完全に馴染んだ3人だが、夢魔に食人鬼に猫娘がともに歩いているというのは、明らかに他のプレイヤーたちから浮いている。
 しかし3人に気にしている様子はない。
 彼らは他のプレイヤーからの好奇の目にさらされながら「お仕事紹介所」に足を踏み入れた。

「ふーん、色々あるもんだねえ」
 ミトたちはお仕事紹介所内の掲示板の前で、あれやこれやと「ミッション」の内容を確認している。
 「ミッション」は「受諾レベルの上限と下限」「ミッションの内容」「報酬ゼル」「報酬経験値」が記載されている。
 大方のミッションは個人でもパーティでも受けられるものだが、中には個人限定、パーティ限定というミッションもある。

「えっと」
 カッツェがここでもオンラインマニュアルをフル回転させていく。
「通常ミッションはゼル、経験値ともにパーティの頭割あたまわりですが、百未満は切り上げになるので、パーティでやった方が少しだけお得です。それからミッションによっては、事前に道具を用意しなければならないものもありますね」
「とりあえず、慣れるために何かやってみるべきだろうな」
「そうだねスマッシュ、それじゃカッツェ、よさそうなのを選んでおくれ」
「なら、この「お届けミッション」を試しにやってみましょうよ。これなら街中の移動だけで済みますから」

◇ミッションLV1 限定なし「武器・防具店から荷物を受けとり貴族街の館に届けよ」 報酬 千ゼル 経験値600◇

「あ、その前にパーティ登録をしますね。姉さま、スマッシュさん、パーティ名はどうしましょうか?」
「そんなの適当でいいよ」
「任せる」
「なら、人外じんがいズで」

「そりゃまたセンスがないねえ」
「そのままだがそれでよし」
 二人ともパーティ名に満足したわけではなさそうだが、カッツェに任せた手前、それで納得した。

 カッツェは適当にパーティ名を作成すると、ミト・スマッシュ・カッツェの3名を登録する。
 続けて「ミッション受諾書」を紹介所から受け取り、2人のところに戻ってきた。

「それじゃ、ミト姉さま、スマッシュさん、ミッション開始だよ!」
 楽しそうに歩を進めていくカッツェを後を、まるで保護者のようにミトとスマッシュの2人がついていく。
 街の様子も、他のプレイヤーたちがぽつぽつと初心者の服から、思い思いの衣装を纏い始め、種族もバラエティに富み始めてきている。

「まずはここからです」
 カッツェが「武器・防具店」に受諾書を提示すると、店の主人が無愛想に箱を1つ持ってきた。
 その態度にミトはちょっとむかついた。

「おい、こっちが労働者だからって、その態度は無いだろ」
 店の主人はミトを一目見ると、真っ青な顔をして店の奥に引っ込み、同じ箱をもう1つ持ってきた。

「どうか、こちらもお願いいたします」
 続けてスマッシュが主人を脅かしてみると、同じように店の主人が箱をスマッシュにも持ってきた。

「もしかしたら、1回で3倍のミッションができちゃうのかな?」
 カッツェは結果を楽しみにしながら、2人の前をスキップし、既にこのミッションに飽き始めたミトとスマッシュは、あくびをしながら彼女について行った。

 そうこうするうちに三人は指定された屋敷に到着した。
 カッツェはノッカーを鳴らし、屋敷の人間を呼び出した。
 すると、屋敷から上品そうな老紳士が出てきて彼らを迎てくれた。

 カッツェはミッション受諾書を提示し、老紳士に荷物を渡す。
「これはこれは、このようなお上品な娘さんからおことづけをいただけるとは。これは報酬も頑張らなければなりませんね」

 次にスマッシュが荷物を渡す。
 ところが老紳士はスマッシュに対しては無言で応じた。
 スマッシュは老紳士の反応などどうでもいいので、そのまま箱を押しつけた。

 最後にミトが荷物を渡そうとすると、老紳士は再びにこやかな笑顔になった。
「おお、これはお美しいレディよ。このようなわずらわしいことに巻き込んでしまったこと、お詫びさせていただく」
 何だかよくわからないミトとスマッシュに、カッツェが楽しそうに説明をしてくれる。
「あの反応はもしかしたらノーブルネスの効果かもしれないです。「お仕事紹介所」での清算が楽しみだね」

 結局「お仕事紹介所」では、本来の報酬が千ゼル経験値600のはずが、なぜか報酬五千ゼル経験値3000になっていた。
「多分ミト姉さまと私の報酬が2倍になったんだよ!」
 これを3人で頭割。
 報酬は1人千七百ゼル。
 経験値も1人1000を獲得した。
 
「あら?」
 まずはミト。
 
◇レベル2となりました◇
 コモンスキル獲得
 レジストマジック 魔法抵抗 消費MP 1

 ユニークスキル獲得
 チャーム 魅了 消費MP 2

 タフネス 強靭さ 15+0
 デフトネス 器用さ 15+2
 クイックネス 機敏さ 30+3
 クレバーネス 賢さ 40+5
 ノーブルネス 気高さ 999
 ビシャスネス 悪辣さ 999
 ライフポイント 生命力 10+0
 メンタルポイント 精神力 10+20

「ほう」
 次はスマッシュの番。
 
◇レベル2となりました◇
 コモンスキル獲得
  ハードボディ 肉体硬化 消費MP 1

 タフネス 強靭さ 70+5
 デフトネス 器用さ 15+5
 クイックネス 機敏さ 40
 クレバーネス 賢さ 0
 ノーブルネス 気高さ 0
 ビシャスネス 悪辣さ 999
 ライフポイント 生命力 10+15
 メンタルポイント 精神力 10+5

「レベルアップってこういう風なんですね」
 最後はカッツェ。

◇レベル2となりました◇
 コモンスキル獲得
 プロテクトアロウズ 弓矢防御 消費MP 1

 タフネス 強靭さ 20+2
 デフトネス 器用さ 50+3
 クイックネス 機敏さ 50+3
 クレバーネス 賢さ 10+2
 ノーブルネス 気高さ 999
 ビシャスネス 悪辣さ 0
 ライフポイント 生命力 10+10
 メンタルポイント 精神力 10+10

「いい感じで増えたねえ」
「このまま順調にレベル5までは行きたいところだな」
「次の経験値は2000かあ。このまま散歩を繰り返してもいいですし、報酬が高い戦闘ミッションを試してみてもいいかも」
 3人は自らの成長を実感すると、だんだんゲームが楽しくなってきた。
 するとそれぞれのコマンドページから声をそろえるようにメッセージが響く。

◇現実世界で2時間が経過しました。休憩をお勧めします◇

「まだ向こうは21時くらいかね。なら、一旦解散してまたここに集合でどうだい?」
「そうだな、向こうの時間で22時でどうだ?」
「そうですね、今日中にレベル5にしておきたいですよね」

「それじゃそうするとしようか。解散!」
 ミトの号令を合図に、3人は一旦ログアウトを行った。
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